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意外と謎多き国民食「梅干し」の言語化できない魅力
まずは創業の経緯から教えてください。梅干しをメインで扱うようになったのはどんなきっかけがあったのでしょうか?
竹内さん:
創業は2014年です。もともと切替と僕は大学の同級生で、僕は糸井重里さんの「ほぼ日」でアルバイトしていたんですけど、当時CM制作会社で働いてた切替に「なんかやらない?」と突然誘われて。
切替さん:
そうそう、突然ね(笑)。
竹内さん:
「なんかやらない?」って言われても……と最初は戸惑いましたけど(笑)、ほぼ日のような、誰かに喜んでもらえる企画の仕事にはずっと携わり続けたいと思っていたので、イベントの企画会社として何か始めてみることにしました。
切替さん:
最初は会社というより、個人事業主2人のユニットみたいな感じでね。
まだ24歳で、独立したての僕らに仕事をくれる方なんて最初から現れるはずもないので、「まずは自分たちが表現したいことを一生懸命やってみようか」と。いろんな企画を練った中で、一番やってみたかったのが「梅干し」だったんです。
どうして梅干しだったんですか?
竹内さん:
たまたま僕が居酒屋で梅茶漬けを食べていたとき、ふと「梅干しって、日本の国民食だよな」と思ったことがきっかけです。
僕が「これって国民食ですよね?」と聞けば、きっとその店にいる人たちも全員頷いてくれるはずだけど、どうしてみんながそう認識できてるのかは意外と全然知らないなって。
学校で細かく教わったこともないし、「梅の実を採ってきて何か加工したら梅干しになる」くらいの知識しかない。なのに、どうして国民食でいられるんだろう? いったいこの食材は何物なんだろう?って気になったのが最初の一歩でした。
言われてみれば、不思議な存在です。
竹内さん:
まずは片っ端から梅干しの本を読みましたが、それでもよくわからなくて。だったら本場へ行くしかないと思って、切替と一緒に紀州を訪ねてみたんです。
切替さん:
いろんな生産者さんとお会いできる機会もいただいて、だいたい4~5日くらい滞在しました。
竹内さん:
でも、現地で得られた情報は「うまいぞ」と「健康にいいぞ」の2つしかなかったんです。
僕が梅干しに感じた魅力は全然その2つどころじゃなかったのに、ちっとも言語化できなくて。梅干しにつまった魅力って一体なんなんだろう?というのを表現するために、『にっぽんの梅干し展』というイベントを企画しました。
それはどんなイベントだったのでしょうか?
切替さん:
感覚的な取り組みばっかりで、実際の梅干しをほとんど食べさせない展示会だったんですよ(笑)。
竹内さん:
漫画家の和田ラヂヲ先生をはじめ、いろいろなアーティストさんに梅干しをテーマにした作品をつくってもらいました。人はなぜか赤くて丸いものを見ると梅干しを思い出すので、写真家の浅田政志さんには、赤くて丸いものを街のあちこちで撮ってきてもらったりとか。
あと、意外と知られていませんが、藤子・F・不二雄先生は『ドラえもん』より前に『ウメ星デンカ』という作品をつくっていたんです。複製原画をお借りして展示しながら、なぜ藤子先生は梅干しを主役にしたんだろう?とか考察したり。
すごいですね。いろんな梅干しを食べ比べるようなイベントを想像していました。
竹内さん:
おいしく食べてもらうことをコンセプトにはしなかったのですが、結果としてみんなにおもしろがってもらえたことが、その後につながりましたね。
梅干し以外のことは、他にも企画しなかったんですか?
切替さん:
もちろん、当時は梅干し一つでずっと続けようなんて全然思っていませんでした。たまたま不思議なご縁が重なって今に至ったというか。
竹内さん:
自分たちでプロダクトを売ったり、ましてや飲食店をやるなんて想像もしていませんでしたね。在庫を抱えるような仕事もしたいと思っていなかったし。お客さんにさんざんヨダレ出させておいて何も買えないのは申し訳ないので、展示会では一応販売もしていましたけど。
次に災害が起こったとき、自分が役に立てる何かを
そこから一転、梅干しの販売を本格化させたのはなぜでしょうか。
竹内さん:
きっかけは2016年、熊本で震災が起こったことでした。
東日本大震災のとき大学生だった僕は、テレビを呆然と眺めるばかりで、「被災地に行かなきゃ」「なにか支援しなきゃ」なんて立派な志は全然持てなかった。でも、「ほぼ日」で糸井さんが震災復興に携わり、気仙沼に立ち上げた事務所に通うメンバーに僕も入れてもらったとき、初めて自分が被災地の力になれたような気がしたんです。でもそれは、ほぼ日のおかげでした。
そして熊本地震が起きたとき、自分はすでに社長みたいな立場だったので、今度こそ被災地のために何かしたいと思ったんですけど……まあ見事に何もできることがなくて。
直接役に立てることは限られるので、とても難しいですよね。
竹内さん:
こんな無力感は二度と味わいたくなかったので、縁起でもない話ですけど、次に災害が起こったとき自分が役に立てるものを先に作っておくことにしたんです。
そこでいろいろ調べるうちに、熊本の避難所での事例を聞く機会がありました。
満足に食事がとれず、歯も磨けない環境に置かれると、特に子どもたちは唾液量が減ってしまい、そのせいで免疫力が低下して感染症にかかってしまう事例がいくつかあったそうです。
今でこそオシャレな防災グッズは少しずつ増えてきましたけど、みんな一生懸命稼いだお金は“日々の楽しみ”のために使いたいじゃないですか。わざわざ “万が一に備えて” “ガッカリするもの” を買っておくなんて、防災意識の高い人じゃないと難しいですよね。
だったら、もっとワクワクしながら手に取れて、いざというときでも食べるのが楽しみになる、お守りのようなものを入れておこう。そこで企画したのが「備え梅」という商品でした。
備え梅。
切替さん:
お守りのように備えることをテーマにした、僕らにとって初のオリジナル商品です。
竹内さん:
商品化が決まったとき、初めて食品表示について勉強しました。まだ当時は会社化していなかったので販売業者名は「竹内 順平」となるわけですが、そんな信用できない防災グッズはないよな……と。そこで急いで会社を立ち上げました。商品を作ったからにはもちろん在庫を抱えることになるし、一生懸命売らなきゃいけないから、ECサイトもこのときオープンしました。
そんな経緯があったんですね。ちなみに、バンブーカットという社名の由来は……?
切替さん:
彼が「竹内」、僕が「切替」だからです(笑)。学生のとき適当に決めたユニット名なので、まさかここまで使い続けるなんて思いもしていませんでした。
自分たちらしさを表現するために、カラーミーショップを選択
ECサイトを開設された当初について教えてください。
竹内さん:
最初は無料カートサービスを利用していました。まだ商品が「備え梅」だけだったので、とりあえず無料で出せればいいやって感覚でしたけど、やがて商品の幅が少しずつ広がってきて。当時使っていたサービスには「販売できるのは5商品まで」という縛りがあったので、そこで引っ越しの必要性を感じました。
きちんとデザインにこだわれて、自分たちの雰囲気が出せるサービスはどこなのかと、ほぼ日時代の先輩やWeb制作が得意な人たちに相談した結果、カラーミーショップに決めました。
ありがとうございます。皆さんが思う「自分たちの雰囲気」とはどういったものでしょうか。
竹内さん:
最近まで言語化できていなかったのですが、「かわいいこと」「おいしいこと」、そして「縁起がいいこと」。知らず知らずのうちに、この3つを意識してやってきていたことに気がつきました。
かわいいものをつくっている人はたくさんいる。僕らよりもおいしいものを提供している人もたくさんいる。でも、その2つを縁起よく表現している人はあまり多くないから、そこが僕ららしさだなって。
切替さん:
昔から彼は「縁起のよさ」に敏感なんですよ。招き猫が好きだったり、5円玉を集めていたり。
竹内さん:
そうそう。招き猫とかたぬきの信楽焼とか、日本の古典的なかわいらしさが好きなんですよ。
なのでECサイトもあまりスッキリさせすぎず、人の温かみを感じさせるデザインを目指しました。今はシンプルな白背景でスタイリッシュなECサイトが主流ですが、僕らの思う「縁起のよさ」からは外れている気がして。流行りに乗っても温度感や雰囲気が他社と似てしまうので、そこにはあえて抗いたい気持ちがありましたね。
実店舗でのコミュニケーションをECへも注ぎ込みたい
バンブーカットさんは実店舗も運営されていますが、ECサイトとの相乗効果は感じますか?
山下さん:
観光で東京へ来てくださった方が、実店舗でうちの梅干しに出会い、おうちへ帰ってからECサイトで注文してくれることがあるので、かなりメリットは大きいと思います。
切替さん:
通りがけに「以前もらった梅干しの店があったから」と立ち寄ってくださる人も多いです。
竹内さん:
店頭で梅干しを召し上がってすごく喜んでくださった方が、ECサイトで誰かへのギフトとして注文してくれて、今度はそれをもらった方がお店に来てくださる……というのが一番嬉しいパターンですね。理想中の理想です。
「新たな顧客層が広がる」という点は、ギフトの強みですよね。
竹内さん:
まさに今、そこを強化しようとしているところなんです。
実店舗にはテナント料があるけど、ECサイトの“家賃”ってそれほど高くないじゃないですか。資材や送料の高騰は正直苦しいですけど、利率の高さというECならではのメリットを生かして、ダンボールの質やデザインに力を入れたり、贈り物として喜ばれるようなものを作っていきたいです。
2023年には、「カラーミーショップ大賞」を初めて受賞されましたね。
切替さん:
最初にオファーの連絡が来たときは「まさか」と思いましたよ(笑)。これからはもっとECも頑張らなきゃね、と話していたタイミングだったので、何かの間違いじゃないかと。賞がいただけるだなんて思ってもいなかったですし。
竹内さん:
今回の授賞式で、他のショップオーナーさんと初めて顔を合わせてみて、皆さんこんなに真剣に取り組んでいるんだ、とすごく刺激を受けました。
なんといっても、大賞を受賞したかわしま屋さんが会場では僕らの隣に座ってて。
かわしま屋さんに「どちらでお店をやってるんですか?」と聞いて、「いえ、うちはECだけなんですよ」と言われたとき、僕らハッとしちゃって。実店舗とECを並行で運営してきた自分たちのスタイルが、ある種の固定観念になっていたことに気付かされました。
切替さん:
言い訳がましい話ですが、日頃の運営はどうしても実店舗優先になってしまっていたんです。
実店舗にはスタッフもいるし、目の前のお客さまから直接いただくご要望への対応もあるし。そんな僕らが言うような「EC頑張らなきゃね」なんて、命がけで運営してるかわしま屋さんにとっては、きっと何でもないことなんですよね。
僕らも、実店舗での接客ならどこにも負けないくらい頑張っていますが、他のショップさんはその熱量をECで体現しています。彼らの努力に比べれば、今の僕らのショップはまだまだ顧客とコミュニケーションが図れる状態になっていないので、そこを変化させていく必要性をリアルに感じました。
ちょうど先日、私たちもかわしま屋さんを取材しましたが、サイトの隅々まですごくこだわっていらっしゃいました。
竹内さん:
実店舗だったらそこらへんに落ちてるホコリにだってすぐ気が付きますけど、”ECサイト上のホコリ”には、僕らはまだまだ気付けていないのかもしれません。かわしま屋さんは毎日毎日サイトを磨いて、一生懸命お店を守ってるんでしょうね。
賞をもらうのってやっぱり照れるし、ちょっと恥ずかしいですけど、それでも本気で次は大賞を狙いに行きたいなって思いました。
また会場でお会いできるのが楽しみです!
バンブーカットさんは今後どのように成長していきたいですか? ECと実店舗、それぞれの目標を教えてください。
竹内さん:
ソラマチの実店舗は開店から4年目、ここ浅草の店舗はまだまだ1年半。たまたまの偶然とご縁が重なっていい場所に店を構えることができましたが、“たまたま”だけで今後10年続けていくことは簡単じゃないと思っています。東京に来た人の「必ず行きたいお店」となって、ずっと長く続けられるようにしていきたいです。
切替さん:
そのためには、今のままの梅干しで10年後もやっていけるのか?という課題もありますし、最新のデザインも時代とともにどんどん古くなっていくので、僕ら自身がきちんと感度を高めておかないと。現状にあぐらはかいていられないですからね。
ECサイトのほうはどうですか?
山下さん:
売上アップに向けた細かな改善は、まだまだ着手できていない状態なので、皆さんに喜んで使っていただけるECサイトを目指して一つずつクリアしていきます。リピートしてくださるお客さまを増やしたり、ギフトとしての需要をもっと高めていけたら嬉しいです。
バンブーカットさんの今後に私もワクワクしてきました。今日はすてきなお話をありがとうございました。
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