いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“人”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
イスラエル発の革靴・NAOT(ナオト)を輸入・販売している「
NAOT JAPAN」さん。スタッフの方々による愛あるコンテンツマーケティングと、購入者との丁寧なコミュニケーションが高く評価され「カラーミーショップ大賞2018」地域賞を受賞されました。今回はリアルとWebをまたいだ独自の接客や、ちょっぴり変わった業務スタイルなどについてお話を伺いました。
普通の靴屋さんでは見つからない「NAOT」の靴
奈良の旧市街地・ならまちエリアに構える実店舗「NAOT NARA」
代表の宮川 敦さん、スタッフの神谷 侑希さんにお話を伺います
お店の名前にもなっている「NAOT(ナオト)」ってどんな意味ですか?
日本だと「男性の名前?」ってよく聞かれるんですけど、ヘブライ語で「オアシス」という意味があります。“オアシスみたいな履き心地”という意味がこめられたブランド名です。
へえ! ここではいつからNAOTの靴を販売しはじめたんですか。
じつはスタートはこの店じゃなくて、義母(奥様のお母さん)の営む「
風の栖(すみか)」という姉妹店で、16~7年ほど前からいち代理店として扱っていました。
NAOT NARAから徒歩3分のところにある姉妹店「風の栖」
でも、輸入されていた商社さんの事業転換によって、あるときから日本国内にNAOTの靴がまったく流通しなくなってしまって。お客様から「復活させて!」という声を非常に多くいただいて、僕たちが復活させたのが2009年ごろになります。
直接、現地へ交渉に行ったんですか?
はい。交渉の末、たった1色の
サボシューズをほんの少しだけ仕入れることができまして、そこから少しずつ少しずつラインナップを増やして、今に至ります。
今は何種類ぐらいまで増えましたか。
最近は「わざわざ」さんなど他のお店にも靴を卸しているそうですが、卸先を決めるのに何か基準やこだわりはあるんでしょうか。
うちでは基本的にご縁を大切にしているんですけど… NAOTの靴って靴屋さんには置いてないんですよ、ひとつも。
靴屋さんでは売ってない靴。変わってる…!
NAOTって、ただ店頭に置いてもらうだけではなかなか売れない靴なんです。お店の方も一人のユーザーさんとして履き心地を本当に気に入ってくださっているような、そういうお店じゃないとけっこう難しくて。
わざわざさんなんてパン屋さんなのに、置いてもらえるのはすごくうれしいですよね。
他にもお花屋さんや本屋さん、カフェ、セレクトショップ… 店主の方がいいなと思ったものだけを扱っているお店にNAOTは置かれていることが多いです。
何度もくりかえし履くうちに、足に心地よくなじんでいく
世界中を旅して気付いた、誰かのためになれる喜び
宮川さんは最初からNAOTの販売に携わっていたんですか。
いえ、以前は東京の商社でまったく別の仕事をしていました。30才になるとき一度仕事をやめて、妻と3年7カ月かけて世界をぐるっと旅をしてきたんです。
かなりの長期間ですね。その間お仕事は一切しなかったんですか。
ああ、一回だけね、パキスタンで現地のおじさんに声かけられて家に連れて行かれたことはありましたけど。
僕も最初は怪しんだけど、日本車の部品を扱うビジネスマンだったらしくて。そのおじさんのもとで日本語の書類を英語に訳す仕事を少しだけ…それが唯一のアルバイト経験でした。ほぼウルルン滞在記みたいな生活ですよ、カメラが回ってないだけで(笑)
宮川さんが旅をしていた当時の一枚。
(笑)それから日本に戻ってみて、何か変化はありましたか?
帰ってきたらもちろん無職ですよ。やることないしお金もない。もう34才なのに。
仕事どうしようかなあ、めんどくさいなあ、コンビニでバイトでもしてみよかな…って感じで生きてたんですけど、義母に「(風の栖を)手伝わせてください」ってお願いして。
なるほど。久しぶりのお仕事は風の栖から始まったんですね!
はじめはレジ打ったり、紙袋にハンコ押したりしてたんやけど……ものすっごい楽しくて!
意外です。
だってもう、丸々4~5年は働いてなかったわけですからねえ。
旅をしていると大量にインプットはするんやけど、アウトプットをほとんどしないから誰のためにも生きられないんですよ。ずっと自分のためにだけ生きてたから新鮮で。
久しぶりに働いたことで「自分が誰かのためになれる」っていう喜びをすごく感じて… これが今の仕事のベースになってますね。誰かのために、ありがとうって言ってもらえる仕事がしたいです。
実店舗と変わらない、オンライン接客の工夫
接客の上でこだわっているポイントはありますか?
僕たちとしては、ご自身に合ったサイズの靴を皆さんに履いていただきたくて。そのためにもフィッティングには慎重に時間をかけさせてもらってます。靴ってワンサイズ違うだけでも痛かったり歩けなかったりするし、それだとすごくもったいないから。
店頭では、足の長さや横幅、厚みなどを見させていただいてお客様の足の特徴を把握します。そこから「こういう靴がほしい」というニーズに合わせてデザインやサイズを提案していくので、お客さんが一人で悩んでサイズの合う靴を探し出す一般的な靴屋さんのスタイルとは全然違いますね。
ネットショップ上ではどんな接客を心がけていますか? 実店舗と比べて難しい部分もあると思うのですが。
感覚としては、意外とどちらも同じなんですよね。
ネットショップだとこちらからアプローチするのは難しいので、足の長さや幅周り、甲周りのサイズをお客様ご自身で測っていただいて、それらの情報をもとにご提案する感じです。なので、他のお店さんよりも購入前のやりとりは多いと思います。
サイズについて判断しきれないときは自分で何枚も靴下を重ね履きしてお客様の足の形に近づけて、これでいけるかな?って試した上でお答えしたりします。
顔が見えないお客様が相手だと非常に難しいと思いますが、すごく真摯なんですね…!
直接お会いできないぶん、どうしたら伝えられるか?というところは真剣に考えます。メールでいただいた質問にも、必要に応じて電話でお答えすることもあります。
ネットショップで靴を買うのって最初は皆さん不安になるはずなので、気軽にご相談いただけるようにサイト上でも積極的にアピールしています。
デザイン未経験からの一大リニューアル
ネットショップのリニューアルは神谷さんが指揮されたそうですね。
そうなんです。4年ぐらい前に大きく変えたときに初めて携わって、2018年9月のリニューアルにも携わりました。
もともとWebのお仕事をされていたんですか?
いやいや、全然! 出張中にいきなり宮川から電話がかかってきまして、何の用やろ?と思ったら「これからWebを大きくリニューアルしようと思うねんけど、神谷さんWeb担当な」とだけ言われて、ガチャン!と切られまして(笑)
(笑)まったくの未経験でWeb担当に…! 当時はどんな心境でしたか。
何から始めたらいいのか全然わからないので「なんでわたしに?」って感じではありましたけど… 新しいことをするのは好きなほうなので、ワクワクした気持ちはありましたね。
その状態で、まずは何からスタートしたんですか?
宮川からは最初に「デザインを10案持ってきてほしい」と言われました。わたしはデザインができるわけでもないし、イラレ(※)も扱えなかったので、とりあえず雑誌の写真を切り抜いて、それをパズルみたいに紙の上で組み合わせる作業をして(笑)
※ Adobeのデザインツール「Illustrator」の通称
ア、アナログすぎる…!
つい最近までそんな感じやったね。長い紙で一生懸命作ってるの見て泣きそうになったわ。
最近はようやく少しイラレを触れるようになりました(笑)それと当時は、世界中のあらゆるサイトを何百ページも見続けたりもしてましたね。
それは同業である靴屋さんに限らず、いろいろなジャンルをですか?
そうです。ゼロベースなので、できることはそれしかなかったですね。
いろんなサイトを見ながら、自分たちの見せたい方向性を決めていったんですね。
はい。その結果、デザインがどうっていうよりわたしたちが大事にしていることをWebでも表現したいと思いました。変にカッコつけるんじゃなくて「こんなキャラのわたしたちがこの靴を届けます」って感じで、お店やスタッフの空気感がわかるサイトを作ろうと。
あまり肩肘を張らない感じですか。
そうですね。店頭で実際に接客するように、リアルな言葉づかいを選んだりとか。今は
座談会形式の読みものも連載しているんですが、スタッフがそのへんでお茶しているみたいな内容で…そんな雰囲気が伝えられたら少しでも安心してもらえるかなって。
顔と名前を出しているので、最近は実店舗に来たお客様からも「あなたが神谷さん?」ってよく声をかけていただけるようになりました。画面を通じてお客様とやり取りできているような感じがして、すごく楽しいです。
こういう読みものを見て、入社してきてくれたスタッフもいるんですよ。
いいですね! 独自のコンテンツが新しいご縁を連れてきてくれることもあるんだ…。
感謝の声が届かなくなったら、会社をやる意味がない
読みものは、スタッフさん全員で更新されているんですか。
はい。サイトの更新だけでなく、接客や検品、発送作業までなんでもみんなでやります。
これまでいろいろなお店を取材しましたが、NAOTさんのスタイルはとても珍しいです。
わたしたちにはこのやり方が合っているなと感じます。お客様と直接お話できれば その声をすぐサイトにも反映できるし、たとえば「接客担当」「Web担当」のような分担制にしてしまうとスタッフ間での認識差が生じやすいので。
なるほど。コンテンツを全員で動かすとなると記事や写真の雰囲気に統一感を出すのが大変かと思いますが、そのあたりにルールは設けていますか?
ルールか……。特にないですねえ。
NAOTの靴自体、男女・年齢関係なくどんな方にでも合うので、スタッフの服のテイストもバラバラです。何かひとつのジャンルに偏らず、いろんな人に楽しんでもらえたらなと。
僕たちは日頃 好きなこともムダなこともいっぱい喋ってるので、そういう感覚的な部分は自然と共有できている気がします。なーんもカッコつけてません。
お店もWebも、すべてにおいて自然体。じゃないと結局続かないんです。
奈良独特のまったりとした雰囲気にもすごく合っていて、いいですね。
それ、ときどき言われます。うちの店は大阪みたいな都会じゃやっていけないですね(笑)閉店時間も奈良は「Sunset(日没)」にしてるぐらいなので。
お店の入口にも「close sunset」の表記が!
えっ、日没と同時に閉店しているんですか?
そんな、ぴったり日没を待って閉めたりはしないですけど(笑)だいたい「今日はもう人歩いてへんなあ、閉めよっか~」みたいな感じです。
周りが住宅街なので夕方になると魚焼く匂いとかしてきて、おなかすいちゃうんです(笑)
いいなあ、がんばりすぎない感じ。個人の売上目標とかもないんですか?
ないです。もうねえ、僕たちそんなしんどいことはしません。買っていただいた靴をたくさん履いてもらうために、接客をきちんとやる。がんばるのはそこだけです。目先の売上にとらわれず、まじめにやってたら絶対に喜んでもらえる靴だと思うので。
サイト上にも喜びの声がたくさん掲載されてますよね。届いたメッセージの多さに驚きました。
ありがたいですよね。だって、モノを買ってわざわざお店にメールや手紙を書いたことあります?
そういうの、一度もしたことないです。
でしょう。ただモノをお渡しするだけじゃなくて僕たちの気持ちが伝わったんかなあと思うとすごくうれしいし、またがんばろうって思います。バックヤードにも手紙はたくさん貼ってありますし… これが一番のモチベーションですね。
そう。お客様の声が届かなくなったら僕たちは終わりです。どれだけ売れてても解散。会社として意味がないから。いつもそれは言ってます。
そこまで言い切るほど、接客に真剣なんですね。
それぐらい僕たちは本気で向き合いたいと思ってるので。そこだけは真剣です。
お店のまったりとした雰囲気と、真摯な接客姿勢。そのギャップがとっても素敵です。今日は貴重なお話をありがとうございました!