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これからは、本当に必要な人にこそ届けたい。“新しいふんどし”のお店「sharefun®」リニューアルの裏側

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
カラダと心をゆるめる、ふんどしの新しいスタイルを提案。2019年からはブランドイメージを転換し、それまでの明るくポップなラインナップから 大人の女性向けに洗練されたデザインへと大胆なリブランディングを果たしました。今回は「日本ふんどし協会」の会長も務めるオーナー・中川ケイジさんにリニューアルの背景と進めかた、そして「週1回だけ東京に来る」という独自の運営スタイルについてお話を伺いました。

オーナーの中川ケイジさんと、商品デザインを手がけた細川優実さん

誰でも作れるものを作るのは、僕じゃなくてもいい

前回のインタビューからちょうど3年が経ちましたが、ネットショップの雰囲気が大きく変わりましたね。以前はポップでカラフルなイメージだったので驚きました。

中川さん
そうですね。これまでの「しゃれふん」はポップでユニセックス、かわいくておしゃれな感じでしたから。“お祭り”の印象が強すぎるふんどしのイメージを大きく覆すっていう意味では、すごく活躍したんですけど。

リニューアル前のネットショップ

これまでのブランドイメージを転換するに至った理由を教えていただけますか。

中川さん
大きく2つあります。ひとつは、世の中に似たような商品が出回りだしたこと。

テレビに紹介されてバーンと売れ始めたことで、誰かが「儲かってる」と勘違いしたらしく、同じようなものがどんどん増えてきて。
決定的なきっかけが2017年の秋ごろです。生地から縫製、紐の長さまでまったく同じデッドコピー品が出ていることがわかって……しかもそれをやっていたのが、ちょっとした知り合いだったんですよ。

それはショックですね…。

中川さん
うーん。でも一番大きかったのは「僕は誰にでもできる仕事、誰にでも作れるものを世の中に出していたのか?」という自分自身に対するショックと反省でした。このままでいいのかなって強く思ったのが、大きなきっかけでした。

もうひとつは、第二子が生まれたことによる僕自身の育休期間です。夜中に何度も何度も起きてミルク当番をやっていると、睡眠時間が本当にコマ切れ状態。これではどうしてもイライラしてしまうし、世の中のママはこれをみんなやってるの?っていうことが初めて身にしみたんですよね。

土日も関係なく、体力的にしんどい時間がずっと続く。自分をいたわれる時間も少ない。その課題をどうにかふんどしで解決できないかな?って。

そこで、大人の女性を意識したリブランディングに踏み切ったというわけですね。

中川さん
はい。それまでの「しゃれふん」もけっこう目立ってたし、メディアにも取り上げられやすいからここまで来れたけど…誰でも仕入れられる生地で誰でも作れるものを作るのは、もう僕じゃなくてもいいって思ったんですよね。

 

毎日食べる「主食」のような存在にはしたくなかった

細川さんは商品デザインに携わられたそうですが、中川さんからは今回どういった経緯でふんどしのデザインを任されたのでしょうか。

細川さん
はい。中川先生とわたしは……。

「先生」…?

中川さん
僕たち、同じ美術専門学校の非常勤講師なんですよ。
細川さん
なので「先生」と呼んでいるんですけど(笑)たまたま同じ授業を担当していたところ、ブランドをリニューアルするというタイミングで中川先生からご相談いただいて。

中川さん
それまではレディースのふんどしも僕がすべて設計していましたが、内心(これでいいのかな?)っていう葛藤がずっとあって。どこかのタイミングできちんと女性に入ってもらわないと、自信を持って僕が発信できないなと思ってたんですよね。
細川さん
さらに、ちょうどわたしは30代で、ふんどしをまだ使ったことがない立場。中川先生の考えていた新しいターゲット層にぴったり合っていました。素材や縫製などの知識にターゲットの意見を反映して商品開発ができそうだということで、ご一緒しませんか?と声をかけていただきました。

ふむふむ。商品デザインをするにあたり、細川さんが特に気をつかったのはどんな部分ですか。

細川さん
今回のリニューアルでは、ふんどしをはいた人の心の動きを最重視しました。

はき心地のすばらしさはリニューアル前に自分で試して実感していたので、わたしが行ったのは主に「気持ち」の部分を左右する微調整です。機能的で快適に着けられて、その上で自分らしくいられたり、自分を好きになれたり… いろいろな意味での気持ちよさを作りたいな、と。

“着けるには恥ずかしい”というイメージが付きまとうふんどしだからこそ、いっそう重要なポイントになりそうですね。

細川さん
はい。自分だけでなく身近な人にも試着してもらって「大人の女性が着てみて気分が上がるか? 変な気持ちになってしまわないか?」といった心の動きを細かく調査しました。それを中川先生にも伝えながら、数ミリ単位でデザインにも反映させていって。

大人の女性に納得してもらうためには、ただ暖かくて気持ちよければそれでいいってことはないので…毎日食べる主食みたいな存在じゃなくて、どこか気分が上がるようなアイテムを目指してつくりました。

ちょっとした特別感や、身に着ける人のテンションを上げることにこだわったんですね。


 

作り手・送り手の顔が見えるネットショップにした理由

商品デザインと並行して、Webやロゴなどのデザインはどのように進められましたか。

中川さん
リニューアル前と大きく変わったのは本格的なデザインチームに入ってもらったことです。僕が以前からいつかお仕事でご一緒したいと思っていたTRUNKさんというデザイン事務所にお願いしました。

TRUNKさんのサイトを拝見しましたが、素敵なブランドを数多く手がけていますね。

中川さん
僕がいいなと思った茨城のサイト、ほとんどTRUNKさんが関わってたんですよ! いろいろ相談してみたらすごく親身に聞いてくださって。キャッチコピーもそれまで僕が男性目線で考えていたのを「それじゃだめだよ」って、新しく女性のコピーライターさんを連れてきてくれましたし。

彼らはデザインの仕事だけにとどまらず、僕たちの作った商品を見て「これはターゲット層よりもガーリーすぎじゃない?」という意見も正直に伝えてくれました。本当はふんどしとセットでキャミソールも売り出す予定だったんですけど中止したんですよ。納得できるものが作れるまではやめようって。

遠慮なく意見が言い合える、良いチームワークが作れたんですね。

中川さん
そうですね。デザインもカメラワークもキャッチコピーも、僕がいろいろ口を挟む必要がないぐらい安心しておまかせできました。僕よりもセンスのある人たちが関わってくれているという自信があったから。
細川さん
中川先生の「こうしたい」という目標に向かって、他のメンバーはそれをどういう方針で進めていくか、しっかりと意識を合わせることができていたと思います。そのぶん責任もありましたが、すごくやりがいがありましたね。

リブランディング後のサイトを見ていると、デザイナーさんや縫製会社さんなどいろいろな方の顔が見えるのがすごく印象的です。

中川さん
「しゃれふん」に関わってくださっていることに自信を持っていただくために、きちんと写真を撮りに行くことにしたんです。

一度パクリが出た時点で、どれだけ新しくしても同じようなものはまた出てくるだろうなと思いました。それはもう防ぎようがない。だとしたら「どんな素材で作られていて、誰の手を経由して、どういう思いでお届けするのか」をきちんと発信しないと…そこだけは誰にも真似できないと思うので。

独自のストーリーを伝えて、商品の差別化をするということですね。
今回リニューアルした「しゃれふん」、これからどのように展開していきたいですか。他店への卸しを広げるとか、あるいは実店舗を構えるとか。

中川さん
基本的には自社のネットショップ限定でいきたいと思っています。
今までは百貨店や大手雑貨店さんに置いてもらうこともありましたが、そこには商品のよさをきちんと説明してくれる人がいませんでした。素材や縫製にこだわって作った商品だからこそ、これからは本当に必要な人たちが納得して買っていただけるようにしたいです。

ブランドにそぐわない販売方法を見直して、より必要な人に届けるということですね。

中川さん
はい。その一環として、最近はクリニック向けの発信活動を考えています。これまでもふんどしのよさに理解のある医師の方が患者さんに紹介してくれることがあったので。

ふんどしを本当に必要としている人は、それが必要だってことをまだ知らない人たちなんですよ。困っているのに自覚がないことも多い。だからWeb上にお医者さん向けのコンテンツを増やすことで、病院関係者の方を通じて新しく気付いてもらえるような取り組みをしていきたいです。
 

大切な家族との時間をとるための決断

先ほど「茨城に住んでいる」とおっしゃっていましたが、ご家族で移り住んだんですか。

中川さん
そうなんですよ。もともと横浜に住んでいたんですけど、第一子が保育園に入れなかったのがきっかけですね。家賃も高いし自然も少ないし、僕自身も無理して都心にいる必要はないなと気付いて、だったら妻の実家がある茨城へ行っちゃおうということで。

中川さんのnoteのプロフィールにも「週一で東京に通う働き方実践中」とありますが、まさに今も継続しているんですか。

中川さん
はい。美術学校で教えたり誰かと打ち合わせをする時間のために週1回と決めてます。朝から夕方までいろいろ予定を詰め込めば、あとはどこにいてもオンラインで仕事できるので。

カラーミーショップでの受注管理や発送周りについては、外部にテトテトさんというパートナーがいて、彼らが毎日すべてチェックしてくれています。生産量などを決めて福島県の工場に発注するのは僕の仕事ですが、できたものはテトテトさんに直接送られるようになっています。

外部のパートナーを巻き込んだ運営の仕組みが確立されているんですね。

中川さん
はい。縫製から発送作業まで、自信を持ってそれぞれのプロの方におまかせしています。
テトテトさんは、注文したときの喜びがそのまま再現されるような梱包の工夫とか、緩衝材やテープをできるだけ使わないとか、そういうのを僕ら以上にきちんと考えて作業してくれるんですよ。

先ほどのTRUNKさんといい、「しゃれふん」に関わる皆さんの信頼関係がとても素敵です…! でも、どうして作業の外部委託に踏み切ったんでしょうか。

中川さん
以前、僕自身が病気になって、いちばん大事なのは自分の健康と、家族で過ごす時間だとわかったんですよね。
なので、それを最優先したうえでどうやって働くかを考えた結果、やっぱりそれぞれの道のプロに頼んでしまうのがいいだろうと決断しました。「プロに頼んだから自分の時間がとれた」んじゃなくて「自分の時間をとろうと決めたからプロに頼んだ」というか。

自分が100才まで生きるとしたら、今の時期はできるだけ家族で過ごすことが大切だと思っています。なので僕は午後6時以降は一切仕事をしないと決めていて、携帯の電源も切ってしまうぐらいです。

やることとやらないことを上手に切り分けているんですね! 最後に、そんな中川さんが今後注力していきたい活動があれば教えてください。

中川さん
僕がこれからやらなきゃいけないのはブランドを知ってもらうための発信だと思ってます。今回のリニューアルでそのための舞台をしっかり整えていただいたので、これからはふんどしの魅力や睡眠への影響などについて、どんどん発信を進めていきたいです。

運営業務と情報発信でどうしても手一杯になってしまう店長さんも多くいらっしゃる中で、今回伺った中川さんのスタイルはまさに「新しい働きかた」の体現だと感じました。今日は貴重なお話をありがとうございました!