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ECサイト開設・運営のヒントが見つかるWebメディア

「ひらめき」だけに頼らない! ECサイトの「いい企画」の出し方をまむしさんに聞いてみた。

ECサイトのコンテンツ制作において、企画立案は非常に重要。企画の質がコンテンツの成果に直接影響を及ぼし、その成功を大きく左右するからです。

では「いい企画」を立てるには、どんな準備をしたらいいのでしょう。

今回は、企業の編集責任者として通常業務をこなしながら、講演や執筆などでマルチに活躍されているまむしさんに、「いい企画」の条件や企画立案の方法について伺いました。企画出しが得意な人も苦手な人も、ぜひ参考にしてくださいね。

編集者 まむしさん
慶應義塾大学法学部卒業後、ネットニュースにて記者を務め、2013年には国内大手のメガベンチャーへ転職。編集部門をゼロから立ち上げ、編集部門の責任者として10以上のウェブメディアの立ち上げに携わる。2020年には経営学修士(MBA)を取得し、ビジネス領域での理論を応用した編集現場の知見を各地で講演・執筆している。
著書『誰も教えてくれない編集力の鍛え方』(イージーゴー)
X(旧Twitter):@mams428
note:https://note.com/mamushimamu

まむしさんの自己紹介

まむしさんの自己紹介をおねがいします

都内のWebメディアを運営する企業で、複数媒体の編集責任者をしています。

今は編集業を主としていますが、キャリアの始まりはネットニュースの記者でした。記事を書く仕事から徐々にコンテンツマーケティングやWeb編集の仕事にシフトして、現在はコンテンツに関わることなら何でも引き受けるスタンスで編集に向き合っています。

5年くらい前まではオウンドメディアの運用にも携わっていたので、そこで得た知識や経験を今回のインタビューでお話できればと思います。

「いい企画」とは?把握しておきたい3つの要素

ありがとうございます。よろしくおねがいします。コンテンツにおいて、企画はとても重要だと思いますが、「いい企画」とはどういうものなのでしょうか

「いい企画」を立てるには、「読者の興味関心」「業界内でのトレンド」「事業上伝えるべき情報」の3つを把握しておくことが重要です。

それを踏まえて、3つの要素をベン図で表したときに、それぞれの円が重なり合う部分に合致する企画がオーソドックスな「いい企画」となります。

掘り下げると、読者の関心が高い分野であり、業界のトレンドにマッチしていて、かつ自社の売上にもつながる情報は、読者と事業者の双方にメリットがある「手堅い企画」ともいえます。

とはいえ、円の共通部分に当てはまる企画だけが正解かというと、必ずしもそうではありません。業界のトレンドから外れる話題でも読者の興味を引けるものは、先取り情報として発信してもいいですし、読者の関心外でも新しい発見をもたらすネタなら、それにフォーカスした記事があってもいいでしょう。

コンテンツ制作はあくまで事業活動の一貫なので、ホームページにAbout usを設けるように、時には我々が何者かを知ってもらうことも必要です。

とくに事業と密接に関わる情報は、ショップの信頼性を高めるとともに購入を迷っている人に「買おう」と決断させる押しの一手にもなります。ベン図でいうと、「業界のトレンド」と「事業上伝えるべき情報」、「読者の興味関心」と「事業上伝えるべき情報」の共通部分にあたる企画ですね。

そういった企画は、社内での理解も得やすいでしょうしコンバージョンに近いことが多いため、企業にとっては優先的に発信すべき情報だと判断されやすいのではないかなと思います。

ここで提示したベン図は、一般的な媒体を想定して作ったものですが、読者をお客さんに置き換えれば、ECでも活用できると思います。3つの円の関係性を意識して、目的を達成できるいい企画を考えてみてください。

企画出しが得意な人は「ひらめき」に頼らない

企画を出すのが得意な人、不得意な人がいると思いますが、その人たちに違いはありますか?


企画を出すのが苦手な人は、とっさの「ひらめき」に依存しがちです。企画会議の日になって初めて「どんな企画にしよう」と頭を巡らせ、その場で思いついたことを脈絡なく並べるケースをよく見かけます。

一方、企画出しが得意な人は、とっさのひらめきに頼ることはありません。日頃からネタ集めをしているため、企画書を作る際にはそれまで考えてきたことを総動員して、確度の高い企画をいくつも立てることができます。日常的にアンテナを張れているか否かで、大きな差が出るんですね。

EC事業者さんは日々の業務のなかで、「商品はどのくらい売れているのか」「お客さんが求めているものは何か」と鮮度の高いさまざまな情報を仕入れていますよね。であれば、企画出しに向けた情報収集のステップはクリアできていることになるので、現状を踏まえた精度の高い企画を立てられると思います。

私がオウンドメディアを運営していたころの話です。最初は書籍などからインプットした情報を基に、自分の頭の中だけで一生懸命企画を考えていたのですが、どうもしっくりこなかったんですね。

あるとき最前線の情報は社内で得られることが多いと気づいて、社内で情報収集し始めたところ、前よりも格段にいい企画が思い浮かぶようになりました。

回りくどい方法をとるより、社内の人脈を伝って「今はどんなものがトレンドですか」「最近はどんなお客さんが多いですか」と直接聞いた話のほうがずっと実用的です。EC事業者さんにも通じる話だと思うので、ぜひ社内にも目を向けてください。

「いい企画」を出すために、事前準備で重要なポイント

なるほど。ひらめきに頼らないためにも、企画を考えるにあたって事前にしておくべきことはありますか?

読者となるお客さんと自社で扱う商品の関係性を現状分析して、課題を明確にしておくべきですね。

「こうあってほしい」という理想と現実を比較してみると、そもそも商品の存在を知られていないとか、認知をとれていても誤解されている部分があるといったギャップが見えてきます。そうしたギャップを埋めるために存在するのが、Webメディア(自社サイト)でありコンテンツです。

課題を踏まえた企画を作り、スモールステップで一つひとつ解消していくと、いいサイトに仕上がっていきます。

もうひとつ日常的に取り組んでほしいのは、前述したとおり社内での情報収集です。とはいえ、コンテンツマーケティングの担当者のなかには、仕入れや営業、カスタマーサポートなど他部署の人と交流する機会がほとんどなくて、自社のトレンドを追えていないという人もいるかもしれません。

マーケッターは意外と自社の営業やCSの実態を知らない人が多い印象ですが、企画のネタは身近にあるのに、それを活用しないのはもったいないですよね。

組織として持っている情報を日頃から収集していれば、安易な企画に流れずにラクに企画を立てられるようになります。「寒くなってきたから暖かいものを特集しよう」というようなひねりのない企画の立て方を続けていたのでは、いずれ行き詰まってしまうのは明白なので、企画出しが苦手な人ほど社内での情報収集に力を入れてみてください。

どうしても難しいときは、外部の人が「インタビューさせてください」とお願いしたほうがスムーズな場合もあるので、委託するのもひとつの手です。

まむしさん直伝!ECサイトの企画出し手順

ここからはぜひ、まむしさんに具体的な企画出しの手順を教えていただきたいのですが、例えばまむしさんがアパレルのセレクトショップの運営者で、ECサイトのコンテンツを作っていくとしたら、どんな手順で企画を考えていきますか?

私がセレクトショップの運営を任されたら、最初に自社サイトの位置づけを確認します。それから、目的は売上を上げることなのか、会員登録者数を増やすことなのか、認知獲得なのか、企業として譲れないものは何かと突き詰めていきます。

ショップのスタイルは千差万別で、流行は追わずに自分たちが売りたいものを売るお店もあれば、お客様ニーズを優先したラインナップで、売れる数量に合わせて出荷量を調整するお店もあります。

コンテンツマーケティングが担う役割もバラバラで、マーケッターから「こういうコンテンツを出すからこんな商品を仕入れてください」とバイヤーに提案できる場合もあれば、あらかじめ売る商品が決まっていて、それを売るためのコンテンツ作成を求められることもあります。

バリューチェーンのなかの位置づけや社内の力関係によって、企画の立て方や切り口が大きく変わってくるので、早めに確認するのが得策です。

次に、お客さんと接点のある人たちから話を聞きます。一般的に、お客さんの入口と出口の動向は営業や実店舗がある場合は店頭にいるショップスタッフやカスタマーサポート(CS)を押さえればわかりますよね。とくに後者は実務的にコンバージョンに近いため、現状を把握するのにうってつけです。

CSに問い合わせが多いものは、混乱や誤解を招きやすいウイークポイントであり、早めの対処が必要です。私だったら、記事を作るか、よくある質問に項目を追加して、お客さんが買い物しやすい環境を先に整えるだろうなと思います。

サービスに関する情報は、1年程度で陳腐化するものではないので、ムダな労力にはなりません。

一般的な媒体では読者目線が重視されますが、ECでは事業者目線も大切です。「事業上伝えるべき情報」を最初に作りきってしまって、それからトレンドを追いかけるという順番で企画を立てれば、アクションが途切れづらくなります。

CSに寄せられるお悩みをおおむね解消できたところで、賞味期限の短い情報を扱い始めます。この段階の事前準備として必要なのは、営業やバイヤー、店舗スタッフからトレンドを聞くとか、CSから「このシーズンはこんな商品を求めるお客さんが増える」といった情報を聞き出すことです。集めた情報をもとに、向こう数カ月分、可能であれば1年分くらいの企画を作り、スケジュールに合わせて実行していく。

私ならこのような流れでコンテンツ作りに取り組むかなと想像します。参考までに、私の場合は各担当者へのヒアリング時間は約1時間に設定しています。あらかじめ作っておいた仮の年間計画表を見ながら、実態と相違がないか確認していきます。もう少し詳しく確認したいことがある場合は、別日に改めて30分~1時間くらい時間を作ってもらうこともあります。

もうひとつ、余談ですが、私がオウンドメディアを運用していたときは、お客さんに近い人たちが集うイベントに足を運んでリアルな声を聞いたり、Facebookの投稿を見たりして、顧客層の実態をつかむこともしていました。

ほかにも、Zoom画面を通じて買い物行動をモニターするユーザビリティー調査を実施して、コンテンツを見たお客さんが商品をどう選んでいるかを注視しながら企画のヒントを得ることもありました。社内の情報収集と合わせて、自分なりの情報収集の仕方を考えてみてください。

企画出しでの失敗例や、やってはいけないこと

現場の声はかなり重要ですよね。まむしさんのご経験の中で、企画出しでしっぱいしたことはありますか?またこれだけはやってはいけないということがありましたら是非教えてください

ありがちなのは、日々のToDoに忙殺されて企画出しのことに頭が回らず、慌てて企画を立てなければならない状況に陥ることです。そんな状況が続けば、戦略的なコンテンツ制作ができなくなります。

それから、現場感覚を持っていない人は消費者とあまり知識レベルが変わらないので、企画が独りよがりになりがちなのも注意したい点です。前述のとおり、自分の頭の中にある知識だけで考えた企画の多くは、実態と乖離しています。

解決策としておすすめしたいのが、営業やCSの担当者と一緒に、年間のエディトリアルカレンダーのようなものを作ってしまうことです。

年間計画を立ててみると、季節商材や衣替えシーズンなどでキャンペーンを打ちやすい時期がある一方で、イベントが何もなくて企画を立てづらい時期があることに気づかされます。そういう時期こそ企画力が試されますし、十分な準備期間も必要です。企画のデコボコが出ないように、前もって計画したうえで走り出せば余裕も生まれますよ。

なので、もし年間計画を立てていないのであれば、年初や期初などキリのいいタイミングで、他部門の人たちと話し合いの場を設けることをおすすめします。お客さんとの接点を持つ部署との連携は、コンテンツ戦略を成功させるうえでも大事なことですし、何より初動が重要です。

計画を立てるうえでは、例えばカラーミーショップさんも出している販促カレンダーや、X(旧Twitter)のモーメントカレンダーが参考になります。ほかにも、Googleトレンドなどで年間の検索推移を確認したりして、計画を練ってみてください。

企画自体についても注意点を挙げると、まず当然のことですが、他媒体の企画をそのまま真似るのはNGです。複数媒体を参考にしつつ、独自の切り口を加えて企画に落とし込まないといけません。

それから、企画者が「今知らせるべきだ」と固執するのはよくないので、冷静になって考えるようにしてください。「コンテンツを作りやすそうだから」と目の前のものに飛びつくのも避けたほうがいいですね。

もちろん、ひらめきだけでも企画は出せますが、半年後に効果測定したらそれほど効果はなかったということはよくあります。読者のニーズやトレンド、自社の状況をきちんと把握したうえで企画を立てましょう。

今日からできる!企画力を鍛える方法

固執や思い込みは面白さや読み手の想像を半減させてしまいますよね。企画力を鍛える!といった内容の書籍も多数出版されていますが、ぜひECサイト運営者さん向けに、今日からできるまむしさん流、企画力を鍛える方法をお伺いしたいです!

一番推奨したいのは、社内の人と積極的にコミュニケーションをとることです。とはいえ、ヒアリングで情報収集するのが苦手な人もいれば、どちらかというと分析型で、統計的に考えて結論を導き出すのが好きな人もいますよね。

その場合は、本屋さんで担当分野に関する書籍や雑誌の並びを分析的に見て切り口のヒントをつかむなど、自分の得意分野を活かした方法でアプローチしてもいいと思いますよ。もちろん、手っ取り早く確実なのは現場の人に話を聞くことです。

コンテンツの活用方法についても一言付け加えておきます。コンテンツだけで人を動かすのは至難の業です。かくいう私も、かつてコンテンツだけで勝負したことがありました。

懸命にカスタマージャーニーを作り、「このタイミングでこのコンテンツを送れば読者は感動して行動に移すだろう」などと頭を巡らせて、本気で取り組んでいました。そうして3年ほど経ったころに、無謀な戦いに挑んでいたことに思い至りました。

結局は、1本の記事より、奥さんや職場の人など身近な人の一言のほうが影響力は大きいんですよね。コンテンツは意思決定の最終段階でAにするかBにするかの判断材料にはなっても、人の考えを大きく変えるような力は持っていません。

なので、EC事業者を含め事業会社さんの場合は、自社の営業や接客に説得力を持たせるコンテンツを作り、現場の担当者がコミュニケーションツールとして役立てる、というように合わせ技で活用したほうが、成果が出やすいのではないかなと思っています。

コンテンツ単体で企画を考えるのではなく、社内全体の戦略として企画を立てることを、意識してみてくださいね。

書籍『誰も教えてくれない編集力の鍛え方』について

最後に、先日発売された、まむしさんの著書についてご紹介いただけますか?


『誰も教えてくれない編集力の鍛え方』は、10年前の若き日の自分に読ませたかった事柄をまとめた本です。10年前というと、ちょうど私がオウンドメディアの編集部をゼロから作ろうとしていた時期に当たります。

企画はどう立てたらいいのか、大量のコンテンツをどう裁いたらいいのか、いくらで外部に発注して、いくらで媒体運営したらいいのかと、一人孤独に取り組んでいたあのころ。そんなか弱き自分にアドバイスを送ることを想定して書き上げました。

同じような悩みを抱えている方には、ぜひぜひ手に取って読んでいただければと思います。購入特典として約8時間分のセミナー動画もつけているので、活用していただけたら嬉しいです。

『誰も教えてくれない編集力の鍛え方』はこちら