よむよむカラーミー
ECサイト開設・運営のヒントが見つかるWebメディア

“マイナーな食材”だからこそ、出会いの感動を演出したい。じゅんさい農家『安藤食品』が振り返るEC運営の軌跡

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
淡水の沼に生息し、古くから食用とされてきた水草の一種「じゅんさい」を販売するネットショップ。独自性の高いコンテンツ発信と、順調な売上の伸びが高評価につながり、「カラーミーショップ大賞2022」では地域賞を受賞しました。今回は、ネットショップやSNSの運営を担当する近藤 大樹さんに、これまでの歩みと今後の展開について伺います。

秋田県三種町が生産の9割を占める「じゅんさい」

じゅんさいは秋田県が主な産地だそうですね。

そうなんです。秋田の中でも、僕たちの会社がある三種町が国産じゅんさい生産の8~9割を占めていて、「じゅんさいといえば三種町」って感じになっています。
といっても、実際ほとんどの人にとってはなじみのない食材ですよね。和食のお店でたまに出てくるとか、お吸い物にちょこんと浮いてるとか、それくらいなので。

じゅんさいの新芽は透明なゼリー状のぬめりに覆われているのが特徴

恥ずかしながら、私もあまり食べたことがありませんでした……! 三種町のじゅんさい農家さんは何軒くらいあるのでしょうか。

今は全盛期の半分以下まで減ってしまって200軒くらいですね。加工業者は7~8軒かな。どこの農業も同じでしょうけど、高齢化が進んで収穫量もかなり減ってきてますね。

理由としてはやはり後継者不足などでしょうか?

そうですね。昔は田植えを終えたおじいちゃんおばあちゃんが稲刈りまでの時期に収穫してたんですけど、跡継ぎがいなくて人がだんだん減ってきてるし、パートの方に入ってもらいたくても介護業界などに人材がとられてしまっていたりとか。じゅんさいの収穫作業は手摘みが基本なので、どうしても人手が必要なんですけどね。

となると、じゅんさいをネット販売されている農家さんも少ないのでしょうか。

あんまり聞かないですね。うち以外でホームページ持ってる農家さんは1軒。あとは農協さんや産直ECのサイトにちょこっと載せてる人がいるくらいかな。

ショップ作りも撮影技術もすべて独学

そんな中で、安藤食品さんがネットショップを始めたのはどういった理由だったのでしょうか。

忙しい収穫時期が終わって手が空いたとき、次期社長であり僕の同級生でもある弊社の安藤が「インターネットでじゅんさいを売りたい」と言い出したんです。年間を通して売上を出したいというのはもちろん、冬の農閑期でもパートさんに何か仕事をさせてあげたいという思いもあったみたいです。

僕は県外から秋田に戻ってきて、安藤に拾われて今の職場に入るまで3年くらい働かずにぶらぶらしてるニート時代があって。今では“失われた3年”と呼んでるんですけど(笑)、何かやりたいのに何をすればいいのかわからず悶々としながらWeb制作やPhotoshopについて少し勉強したことがあったので、「わかった、俺が作ってみる」と。

ネットショップ、近藤さんがご自分で作ったんですね!

“失われた3年”で積もりに積もっていた鬱憤をすべてぶつけた、僕の執念のかたまりです(笑)。10年間少しずつ手を加えて、今の形になりました。

ネットショップでは安藤さんと2人で「じゅんさいブラザーズ」としてアピールしているのが印象的です。

毎日SNSを更新したくてもネタがない日もあって、そんなときに安藤の写真を撮って載せたのがきっかけでした。やっぱり作り手の顔が映ってればお客さんも安心しますし、せっかくだから2人でブログも始めることにして、そのときにつけた名前が「じゅんさい太郎(安藤)」と「じゅんさい次郎(僕)」。それなら「じゅんさいブラザーズ」でいいんじゃねーか?みたいな感じでしたね。

写真左が次期社長の安藤さん、右が近藤さん

そんな成り立ちがあったとは! 安藤さんと近藤さんの役割分担について教えてください。

安藤の仕事は主に農場管理ですね。他に何してるのかよくわかんないですけど、次期社長ということもあっていろいろ頑張ってるみたいです。僕はネットショップやSNSをやったり、写真撮影をしたり、じゅんさいの発送準備もしています。収穫作業は忙しい時期にちょっと手伝うくらいですね。
Twitterではじゅんさい太郎・次郎の2人で軽妙なやりとりをしようと思ってたんですけど、太郎のほうはいつの間にか全然つぶやかなくなっちゃったな(笑)。

(笑)。ネットショップで販売を始めてみて、特に印象的だったことはありますか。

正直めっちゃマイナーな食材だし、始めたばかりの頃は売れるわけねえだろうなって思ってました。それでもどうにか魅力を伝えようといろいろ考えながらネットショップを作ってましたけど、初年度から何件か注文がきて驚いたし、「じゅんさい太郎と次郎が楽しそうにやってるから」と注文してくれた人もいて嬉しかったですね。

それは嬉しいですね!

嬉しかったですねえ、自分が作ったコンテンツをきっかけに買ってくれる人がいるっていうのは。個人的な話ですが、それまでニートだった僕からすれば「社会の一員になれた!」みたいな喜びもありましたよ。俺が撮ったこの写真見て買ってくれたんだ、って。

Twitterも拝見していますが、撮影技術が本格的でいつも驚かされています。

時にはこんなふうに寝そべって撮影することも

ネットショップやるなら写真が必要だなと思ったのでバイト代でカメラを購入して、独学で撮って撮って撮りまくりました。そのうちなんか楽しくなってきたんで、仕事と関係ないものも撮るようになって。暇だった頃は東京の同級生のところに転がり込んで、神保町の古書店街で60~70年代の写真集とか見てるのが好きだったんで、今思えばそれが原点になってるかもしれません。

ドローンも使って撮影してますよね。じゅんさい沼の真ん中で。

三種町の写真コンテストで最優秀賞をとって10万円もらえたとき、せっかくなら何か普段買わないものに使おうと思って、PCで例えるとWindows98みたいなドローンを買ったのが最初です。操作にパニクってたら初日からいきなり隣の家の小屋にぶつけて、プロペラ折れちゃったんですけどね(笑)。

沼の真ん中でボートに寝転がって、試しに「イエーイ!」とかやってるうちにけっこう反響をいただくようになって、その写真をきっかけに取材依頼が来ることもありましたね。今のドローンは4代目くらいかな。

じゅんさいって、こんなきれいなところで育ってるんだ……!と感動しました。

ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいですね。

マイナーな食材だからこそ、最初の出会いを感動的に

少しずつ売上が伸び、ついに2022年、秋田県では初となる「カラーミーショップ大賞」地域賞に選ばれましたね。

自分たちには縁のない賞だと思ってたから、授賞式に呼んでもらえたのはめっちゃ嬉しかったです。……というのも僕、ペパボ(「カラーミーショップ」を運営する会社)が昔から好きだったんで。創業者の家入一真さんなんて、ニート時代の僕にとってのインターネットロックスターでしたから!

なんと、そうだったんですね! ありがとうございます。

今回受賞したことは地元紙にも取り上げてもらったので、それを見た知人から連絡が来たりして、周囲からの反響は大きかったですよ。写真見て「すげえ会場だな」って。一からネットショップを作る手間ってこれまで他の人にはイマイチ伝わってなかったんで、「おめえマジで頑張ってたんだな」って言ってもらえましたね。

「カラーミーショップ大賞2022」授賞式にて(一番右が近藤さん)

東京駅の前でトロフィーを掲げての一枚

今後改めてこんなショップにしていきたいという意気込みはありますか。

正直今のままでは優秀賞を取れるとは思ってないんで、ショップのリニューアルに向けて今めっちゃ勉強してます。初めて僕がショップを作ってから10年、技術的にはだいぶ浦島太郎状態なので(笑)。
これからはスマホでの表示にも力を入れていきたいので、新しいデザインテンプレートを使って自分でカスタムしていこうと思ってるところです。

リニューアル、楽しみにしています。これからネットで何か販売を始めてみたいと思っている方に向けて、何かアドバイスをいただけますか。

アドバイスか。うーん、なんだろう……。

やっぱり「好きこそものの上手なれ」って昔からよく言われてるとおり、自分が好きなものを売ること、楽しみながらやっていくことがすごく大切だと僕は思います。

ありがとうございます。最後に、近藤さんの目線から、じゅんさいという食文化について今後の展望などありましたら教えてください。

たくさんの人に知ってもらいたいという思いは、もちろんあります。名前を聞いても皆さんイメージが湧かないくらいまだまだマイナーな食材なので、それが逆にチャンスですよね。何かのきっかけで「じゅんさいって何だろう?」とネット検索したときに、僕らの写真や動画がたくさん並んでるのを見て「なんかいいな」と思ってもらえたら。じゅんさいと皆さんのファーストコンタクトを印象的に、感動的に演出していきたいなと思っています。

近藤さんの写真を見たら皆さんきっと感動すると思います。

そうですか、ありがとうございます。じゅんさいってどこに生えてて、どんなふうに収穫されてるかも知らない人が多いですし、皆さんの中にはまだ印象も何もないでしょうから、そこに僕たちが刷り込んでいければ(笑)。こんなふうに手間をかけてるんですよっていうのをもっと知ってもらいたいですね。

今日は素敵なお話をありがとうございました!