EC事業者さんにとって、情報発信は集客や売上につながる重要な施策のひとつです。その大切さを十分理解していても、継続するのはなかなか難しいもの。
そこで今回は、メルマガ「毎日堂」を10年以上配信し続けている運営堂の森野さんに、情報収集のコツや、情報発信を継続する秘訣、メルマガ配信の心構えなどについて詳しく伺いました。
運営堂公式サイト
X(旧Twitter)
目次
森野さんについて教えてください
自己紹介をおねがいします。また運営堂さんについても教えていただけますか?
運営堂代表の森野です。アクセス解析に基づくコンサルティング業を中心に、Web事業者さん向けの社員教育や、セミナー・社内研修講師、有料のメールマガジン「毎日堂」の発行などを行なっています。
運営堂を立ち上げたのは2006年。それまでは、複数の企業で総務やWeb制作の営業などさまざまな仕事に従事していましたが、独立して名古屋を拠点に地方のWeb運用の支援サービスをスタートさせました。
私がアクセス解析を始めたのは、Googleアナリティクスが登場したてのころです。当時のホームページは作りっぱなしが多くて、「ホームページにアクセス解析ツールを入れて分析したらいいのではないか」と、思い立ったのがきっかけで使うようになりました。
それ以来、アクセス解析ツールを使った分析と改善提案を17~18年ほど続けてきました。今は、GA4(Googleアナリティクス4)のほか、GTM(Googleタグマネージャー)なども活用していますが、Googleアナリティクスと共に生きてきたと言っても過言ではありません。
とは言うものの、中小企業のホームページをアクセス解析しても、お客さん側のメリットはあまりないんですね。地方は中小企業が多いことから、ほかにも売上に直結する手段を用意する必要性を感じて、SEOや広告などもサポートするようになりました。
その後、SNSやメルマガでの情報発信を始め、さらに一段上がって、企業の若手社員の育成や小さい会社さんのマーケティング戦略にも携わるようになり、今に至ります。
メルマガ「毎日堂」を始めるきっかけは、自分の勉強のため
ありがとうございます。メルマガ「毎日堂」はどのようにスタートしたのですか?
メルマガ配信は、読者からの要望に応える形でスタートしました。
もともと自分の勉強のためにRSSで情報収集していたのですが、読み切れなくてどんどん未読が貯まっていくばかりだったんですね。あるとき「読むぞ」と決めて読み始めたら、記事に対して意見を言いたくなってきて、当時のTwitterで好き勝手につぶやくようになりました。
しばらくするとフォロワーさんから、「Twitterを追うのが面倒だからブログにしてくれ」とリクエストをもらい、ブログにしたら今度は、「読みに行くのが面倒だからメルマガにしてくれ」と要望があって(笑)。
それでメルマガを始めた、というのがかんたんな経緯です。それから約10年以上、平日(月~金)限定で毎日発信し続けています。数年間は無料で配信していましたが、サーバー代などに費用がかかるため、2019年に有料配信に切り替えました。
毎日堂は、売上を追う媒体ではないのでPRはしていません。無理矢理読ませるものではなく、読みたい人だけに読んでほしいなと思っています。
ちなみに、読者の方に毎日堂を知ったきっかけを聞くと、セミナーの登壇者が紹介してくれたとか、同僚から聞いたとかいう声が多いので、口コミで広がっている印象を持っています。
情報発信を続ける秘訣は「続けるしかない状態」を作ること
森野さんは10年以上、平日毎日メルマガを配信していらっしゃいますが、継続するというのはそう簡単にまねできることではありません。継続のコツをぜひ教えていただけますか?
究極は、情報発信しないと売上につながらない状態を作ることです。
運営堂はメルマガで認知を獲得していますが、配信をやめれば認知度は下がる一方なので続けるしかありません。どの事業者でも同じで、情報発信→認知拡大→ファン獲得の流れをつくり、最終的にアクションを起こさせるサイクルができれば、中途半端にやめられなくなります。
EC事業者さんは過去に買ってくれた顧客リストを持っているはずなので、その人たちに忘れられないように情報発信を続けてリピートにつなげることもできます。一度サイクルにのってしまえば、否が応でも続けられると思います。
たしかに、売上に直結する場合はやめられないですね。
それから、発信する情報を絞ることも無理なく継続するためのポイントです。始めのうちは情報発信のために収集した全ての情報がイイモノに見えて「全部紹介しなきゃ」と思いますが、手を広げすぎるとキャパオーバーになって挫折しがちです。
話題にするジャンルは3~5つくらいあれば十分。興味を持ってくれる人は必ずいるので、ブレることなく発信し続ければ、それが自社の色となり、個性として認知されるようになります。
情報収集・ネタ集めのコツは「狭く・浅く・長く」を意識する
なるほど。情報発信をするために情報やネタを集めようとおもってもSNSやコンテンツなど、情報が溢れる現代で、どのように情報をキャッチアップしていいかわからない方も多くいらっしゃいます。森野さんはメルマガを配信する中で日々多くの情報をキャッチアップしていると思いますが、ぜひ森野さん流、情報収集のコツを教えてください。
まずお伝えしたいのは「がんばりすぎない」ことです。
「情報収集」と言うと良質な情報を集めて難しく勉強しなきゃいけないイメージがありますが、論文を書くわけではないのでもっとラクに考えて構いません。記事は気軽に読めるものでいいので、「狭く・浅く・長く」を意識して、毎日決まったジャンルで読み続けることが大事です。
EC事業者さんならEC関連の記事を毎日5記事読むなど、とにかく継続することを意識しましょう。余裕が出てきたら、ちょっと違うジャンルも覗いてみて少しずつ情報量を増やすようにすれば、パンクせずに続けられると思います。
それを聞いて、一気にハードルが下がりました(笑)。
毎日の情報収集には、RSSやGoogleアラートのような情報収集用ツールが役立ちます。あらかじめURLを登録しておくことで、読みたいWebサイトの更新情報を忘れずに取得できておすすめです。
登録する情報源は、EC業界に特化したメディアでもいいですし、慣れてきたら「この人の書くnoteの記事がおもしろいからRSSに登録しよう」でもOKです。
情報収集を続けていると固定の情報源だけでは刺激が足りなくなってくるので、私の場合はX(旧Twitter)などSNSもチェックしています。Xでの情報収集にもコツがあり、自分が情報源にしたい人だけをリスト化して、それ意外は見ないのが鉄則です。
「おすすめ」や「ホーム」は見ちゃダメ。目的なく見ていたのでは時間をムダに消費してしまいます。
ネット上の情報以外にも、目にするものすべてが情報源と考えて、常にアンテナを張っておくことも大切です。テレビ番組や広告、看板などを意識的にチェックしていると、新しい気づきを得られますよ。
得た情報を記事やメルマガなどにする際は、ニッチなものより世の中にあふれている話題を選んだほうが反応を得やすいと思います。自分なりに咀嚼して、オリジナルの切り口で発信するのがおすすめです。
情報発信するなかで、心が折れそうになったときの対処法・モチベーションの保ち方
「情報発信しなきゃ」という意識が逆に自分のハードルをあげてしまうこともあると思うのですが、10年以上、平日毎日配信するなかで、あぁ今日は無理だなとか、しんどいなと心が折れそうになってしまったことはなかったですか?
先ほどの「がんばりすぎない」とは矛盾してしまいますが、私の場合は根性でメルマガ配信を続けています(笑)。
有料サービスですし、毎朝たのしみに待っていてくれる方がいるので絶対にやめられません。時折「ほかの人に任せないの?」と聞かれることもありますが、自分の勉強のために始めたことなので人に任せる理由はないです。明らかに読者が減って、「つまらない」と思われるようになれば配信停止するかもしれませんが、今のところその気配はないので根性で続けていきたいと思っています。
とはいえ、誰からも評価されず一人で黙々と続けるのは至難の業です。
これは情報発信者の周りの人たちへのお願いですが、「今朝の記事読んだよ」「あの話題よかったね」などと、ぜひ積極的にポジティブな反応をしてあげてください。情報発信者にとって、プラスの反応をもらうことはとても励みになります。
私自身も、読んでくれた人の反応があったからこそ今まで続けてこられました。
近しい人の反応は励みになりますね。確かに同じショップの仲間や同僚が配信しているメルマガやSNSの投稿に対して「見てるよ」「よかったよ」と声をかけることで配信者のモチベーションがぐっとあがると思います。
そうなんですよね。その一言で大分ちがいます。なかには「メルマガの開封率はどう?」とか「こんなこと書いて売り上げにつながるの?」と聞いてしまう方もいますが、ファンづくりには時間がかかるもの。
下手に数値管理せずに、「ユーザーからよい反応が返ってきた」「好印象を持ってもらえた」とわかればそれでよしとして、長い目で見てあげてほしいです。
ECサイトのメールマガジンで提供すべき内容は?
EC事業者さんはどんな内容のメルマガを配信するとよいですかね。
自社で起こったことを書くのがいちばんですね。多くの人が「社内のことなんて発信しなくてもいいでしょ」と言いますが、伝えないと会社のことはわかってもらえません。
「社員に元気な赤ちゃんが生まれました!」という記事を見たら、「社員も家族も大事にする会社なんだな」と感じますよね。なので、社内のエピソードはどんどん発信したほうがいいです。日報を書いているなら、ネタはそこにたくさん転がっているので振り返ってみてください。
もうひとつ、お客様からのお問い合わせにどう対応したかを伝えることも大切です。お客様に、「このお店はちゃんと対応してくれるんだな」と思われれば、どんどん声が入ってくるようになって、商品やサービスの改善に役立てられます。
この2つの発信を繰り返せば、お客様にとっても自社にとっても有用なメルマガになっていきます。
メルマガで商品をPRすることもできますが、それは認知度の高いショップで配信リストが数万人の場合に限って有効な手段です。数万人の顧客をのうちの数%の反応を得るのが目的であれば、商品のPRをする価値がありますが、中小企業さんや、個人事業主さんは、自社についてよく知ってもらうことをめざすほうが、ずっと効果的です。
人はよく知っている人から物を買うので、日常の何気ない話が書かれたほっこりするメルマガでファンをつくり、「この人が売っているから買ってみよう」と買いたい気持ちを醸成させたほうがいいです。
とくに、仕入商品を扱うショップさんは、商品紹介よりも売り手の色を出すことに注力すべきです。例えば「世間で売れているので、売れると思って仕入れました」と、仕入れ理由を素直に書けば、おもしろがってくれるお客さんもいると思います。
「自分がいいと思うこと」を発信し続ければ自然とファンはついてくる
確かにPR色が強いものは敬遠されがちですね。日常の出来事やお問い合わせ等、配信していくコンテンツの方向性が決まったら、次に気になるのが配信頻度です。どのくらいの間隔で配信するのが望ましいのでしょうか。
最初は2週間に1回の配信ペースが続けやすいと思います。増やしても週1回配信がベターで、毎日配信は手間もかかるのでおすすめしません。毎日配信している私が言うのですから信じてほしいですね(笑)。
とにかく、まずは継続することが大事なので、無理のないペースを意識しましょう。
2週間に1回ならできそう!という方も多そうですね。メルマガでターゲット設定はした方がよいですか?
ターゲットを設定したほうがいいと言われますが、とくに決める必要はないと考えています。大企業では開封率や登録者数など数字を求められるので、ペルソナやターゲットを設定したほうがいい場合もありますが、そうでないなら考えなくても大丈夫。
そもそも一般の会社員は書く専門家ではないので、ターゲットを決めても、ターゲットがほしいものをドンピシャで書けないと思います。また、決めたことによって「ターゲットが欲しい情報を発信しなきゃ!」と自分の発信の軸がブレてしまう可能性もあります。
だったら自分がいいと思うことを発信し続けたほうがいいと思うんですよね。
情報をブレずに配信していれば自然とファンがついてきてくれます。そのうち「あのお店のあの人」がブランドになって、商品購入につながっていきます。
発信する情報がブレないことは非常に重要ですね。参考までに、森野さんは毎日メルマガを配信されていますが、配信にかける時間はどのくらいですか?
集めた記事のなかから何本かピックアップして、記事を読み終えるまでに1時間から1時間半くらい。書く時間は15~20分程度なので、毎日だいたい2時間くらいですね。
家で仕事をする日は、朝起きてすぐにスマホを開き、ニュースなどをチェックして一通り記事を読みます。数時間後にもう一度たまった記事をチェックします。通勤日は、朝の電車の中でチェックして、読み切れなかった分は事務所などで確認します。どちらの場合も、朝10時ころにメルマガを書いて翌日の朝に発行するのがパターンですね。
メルマガの準備を朝一にするのは、もっとも邪魔が入りにくい時間帯だからです。ほかの業務に追われて配信できなくなるのを避けるため、必ず最初にやると決めて、それをやらなければ1日が始まらないように習慣づけています。
読者へエールをおねがいします
ルーティーン化することは、配信の継続にもつながりますね。最後にこの記事を読んでメルマガ配信を始めたいと思っているEC事業者さんにエールの言葉をいただけますか。
周りのことは気にせず、自分がいいと思うことを発信し続けていれば成果につながります。
情報発信者は、「どれだけの人が見てくれているのかな」「ちゃんと読んでもらえているのかな」と不安になるものですが、メルマガは送った人数分は届いていますし、開封した人は見てくれています。SNSであれば表示回数分は見てもらえているので、安心して続けてください。
それから、メルマガでもSNSでも、読者からなんらかの反応が返ってきたら、ちゃんと評価されていると認識してほしいですね。
「会社からなんとなく言われてやっているし、誰も見ていないよ」と考えるのではなく、「自分の書いた記事を喜んで見てくれている人がいる」と思えば、その人のためにがんばれますし、継続するモチベーションにもなります。
ネット社会では、炎上を心配する人もいますが、わざと尖ったことをやらない限り炎上することはありません。日常業務をそつなくこなしている人がメルマガ担当者なら心配不要なので、自信を持って取り組んでくださいね。
森野さん、ありがとうございました。