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家具職人の家系から、日本でも数少ない桐箱専門メーカーへ
まずは、美術木箱うらたさんの事業について教えてください。
私たちは、美術品や工芸品、贈答品などを収納する「桐箱」をOEM・ODMメインに生産しながら、自社ブランド「KIRIFT」を展開し、国産の桐材で作ったキッチン雑貨などを販売しています。
もともとは木材を扱う職人の家系で、江戸時代後期から指物(さしもの)を家業としてきました。その技術は親族間で代々受け継がれてきましたが、指物師から枝分かれして箪笥職人になった親族もいれば、私たちのように桐箱屋を営む親族もいます。
高齢化で家業をたたむ職人も多い中、桐箱専門のメーカーは全国的にも珍しく、今や全国的にも数軒しか存在しません。
浦田さんはいつから事業に入られたのでしょうか?
夫が事業承継で代表に就任した2020年に、営業担当として私も加わりました。
桐箱職人の家に嫁いだとはいえ、それまでは全く異なる業種に勤めていたので、商品のことはほとんどわからないままでした。家業に入ったのをきっかけに桐製品の魅力に触れ、今では割と物怖じせずに営業活動ができるようになりました(笑)。
桐製品の魅力とはどんなところでしょうか? 古くからタンスなどに使われているような漠然としたイメージはあるのですが。
桐は日本の風土に最適な木材で、昔から家具の材料として重宝されてきました。
桐材には優れた調湿効果があり、ジメジメした季節には湿気を吸って吐き出し、乾燥した季節には周囲の空気から水分を取り込んで湿度を保つ特性があります。さらに防腐・防虫効果や抗菌作用などもあって、かんたんに洗濯できない着物などの保管にも最適です。
桐材を使って職人が気密性高く作った桐製品の内部は、年間を通して一定の湿度が保たれるので、衣類や美術品だけでなく、パンやお米など食品の保存にも適しているんですよ。
高品質な国産桐を使った自社ブランド「KIRIFT(キリフト)」
自社ブランド「KIRIFT」立ち上げのきっかけを教えてください。
私はカメラが趣味なのですが、カメラレンズ専用の防湿庫を探していた際に、夫が桐箱を作ってくれたんです。桐の調湿効果はレンズの保管にも最適で、それを機に、桐の優れた特性を活かして何か新しい商品を作れないか?と考えるようになりました。
その後、「KIRIFT」の立ち上げに至ったのは2020年の夏ごろです。当時はコロナ禍の影響が甚大で、OEMの受注も工場稼働も完全にストップしてしまったことで、逆にじっくり考える余裕ができました。
どういったアイデアから「KIRIFT」にたどり着いたのでしょうか?
従来の桐箱は、工芸品やお茶碗、着物、美術品などの高価なものを入れるために使われてきました。言ってしまえば、桐箱って“中身”を持っていない人からは必要とされにくいものなんですよね。なので昔に比べると桐箱の需要はすごく減ってきていて……だったら、「桐箱が主役のブランド」を立ち上げてみてはどうだろう?という発想に至りました。
私たちが拠点を置く富山県はものづくりへの事業支援が活発な地域で、性能や品質、デザイン面で優れた工業製品を「富山プロダクツ認定商品」として認定し、国内外への売り出し支援などに取り組んでいます。先ほどのアイデアをもとに、「富山プロダクツ」選定のデザインコンペに向けた商品開発を始めました。
その過程でプロダクトデザイナーの橋田 望生さんと出会い、ともに試行錯誤の末、5kgのお米を収納できる桐製の米びつを完成させました。おかげで富山プロダクツとして認定され、県のお墨付きを得ることができました。
最初の商品として米びつを選んだのはなぜですか?
生活に密着するアイテムで、親しみやすく、桐の効果を最大限に発揮できるものは何だろう?と考えたとき、ライスストッカー(米びつ)が真っ先に思いついたんです。さっそく「桐 米びつ」でキーワード検索してみましたが、桐製の商品は数あれど、私自身が欲しいと思えるものは見つかりませんでした。桐箱屋の視点で見ると、品質に疑問符がつくものばかりだったんです。
そこで、調湿効果抜群の国産桐材を使って安全性の高いものを私たちで作れれば、他社商品と差別化できるかもしれない…とひらめきました。
国産の桐材は手に入りにくいのですか?
北は青森から南は沖縄まで、桐は日本全国に生育していますが、桐材としては柔らかくて傷がつきやすく、扱いが難しいため桐箱にはほとんど使われていません。日本で流通している桐材のうち、9割以上がは中国やアメリカなどからの輸入木材とされています。
とはいえ、日本で育った桐が日本の風土に最も適していることは間違いないので、「オリジナル商品を作るなら国産の桐材で」という考えは揺るぎませんでした。特に寒い地域の桐は木目が美しく、調湿効果に優れています。可能な限り上質な桐材を仕入れるために、当社では職人である夫が東北各地を巡り、直接木目を見ながら原木を購入しています。
ブランドに込めた想いが伝わるサイトを構築
ECサイトを開設したのは、ブランド立ち上げ後のどのタイミングでしたか?
富山プロダクツ認定後、ギフトショーに参加したり県指定のバイヤーさんを紹介していただく機会がありました。せっかくなら多くのバイヤーさんにブランドに込めた想いを知っていただきたいと思い、Webサイトを再構築することにしたんです。気に入った商品を購入できるよう、ECサイトも開設しました。
開設にあたり、カラーミーショップをお選びになった理由を教えてください。
先ほどの話にも登場したデザイナーの橋田さんから「群を抜いて使いやすい」とおすすめされたのがきっかけでした。
海外企業のサービスも紹介されましたが、日本企業が運営するカラーミーショップのほうが困ったときに相談しやすく、メンテナンスのしやすさも含めて操作性がよいと知り、圧倒的なメリットを感じましたね。
ショップを開店し、最初に商品が売れた日のことを覚えていますか?
鮮明に覚えています! 受注通知がきたときには家族みんなで喜びましたね。
しかも、初めてのお客さまはとても丁寧な方で、「一生大事にします」と後日お手紙を送ってくださったんです。直筆のお礼状をいただく機会はなかなかないので、忘れられない嬉しい思い出になりましたね。
逆に、ショップ運営で特に大変だったことは?
ありがたいことなのですが、注文が殺到したときの対応には苦労しましたね。
パンを保管するためのブレッドストッカーを新発売する際にクラウドファンディングサイトを利用したのですが、SNSでのPR効果もあってすぐに上限に達してしまったんです。追加してもすぐに売り切れてしまうため、自社ECサイトに誘導するリンクを貼ったら、今度はライスストッカーに注文が殺到してしまって。
当社の桐箱は受注生産なので、どうしてもお届けまでにお時間をいただいてしまうことをメールでご連絡しました。幸い、みなさまにご理解いただけてキャンセルは発生しませんでしたが、これ以来、受注生産であることとお届けまでに日数がかかることを必ず明記するようになりました。
作り置きではなく受注生産にしているのはなぜでしょうか?
誰も住んでいない空き家がすぐに劣化してしまうのと同じで、桐製品も長く使わなければ自然と傷んでしまいます。受注生産にしているのはそのためです。
桐製品は日常的に使ってこそ耐久性が高まり、経年変化によって色合いも美しくなっていきます。現在は、自社ECサイトからご購入いただいた場合は遅くとも4日以内に出荷できる体制になっているので、お客さまのお手元に届いたらぜひ長く使い込んでいただきたいですね。
桐製品の魅力を日本中、そして世界へ広めたい
「KIRIFT」の立ち上げ前はOEM・ODMが中心だったと伺いましたが、現在の売上比率はいかがですか。
それまでは完全にOEM一本でした。桐箱のオーダーメイドは企業の方も多いですが、ガラスや陶芸などの作家さんからご依頼をいただくこともあり、作品に合わせたサイズの桐箱を製造しています。「趣味で作った茶碗をプレゼントするために桐箱を作ってほしい」というご依頼が個人の方から入ることもありますね。
現在の売上比率は、OEMとKIRIFTで7:3くらいでしょうか。KIRIFTで一番の売れ筋商品であるライスストッカーは、新米の時期が特によく売れるので、時期によっては6:4くらいにもなります。
嬉しいことに、最近はKIRIFT経由で当社を知った企業からOEMのご依頼をいただく機会が格段に増えてきました。とある雑誌で「米びつ特集」が組まれたことがあって、そこで紹介されていた商品の半分が私たちの手がけた製品だったこともあります(笑)。
さらなる認知拡大・集客のために、今考えていることはありますか?
現状の商品ページには写真しか載せていないので、今後はYouTube動画を組み込みたいと考えています。
桐製品のお手入れ方法や商品の使い方は動画のほうが伝わりやすい場合もあるので、見せ方を充実させることでカゴ落ち(途中離脱)せずに購入につなげられるサイトを作っていきたいです。
また、近頃の伝統工芸界では「TikTokやYouTube Shortsのおかげで若い人にも工芸品が売れている」と話題になっています。なので私たちもショート動画に挑戦して、若い世代へのアピールを強化したいと思います。
それでは、「KIRIFT」としての長期的な目標を教えてください。
ブランドの開発ストーリーや桐箱の特性を、もっとたくさんの人に知ってもらいたいです。特に若い世代には桐箱の存在自体を知らない人が多いと思うので、SNSや動画を有効活用して、日本の伝統工芸の魅力を伝えていきたいと思っています。また、国内では順調にお取引が増えてきているので、今後は海外にも販路を広げていきたいです。
KIRIFTは、ジェトロ(日本貿易振興機構)が選出する「TAKUMI NEXT」に4年連続で選ばれており、ジェトロを通じて海外のバイヤーさんからお声掛けをいただくこともあります。また、カラーミーのサイトが自動翻訳されるようになり、海外の方から直接お問い合わせをいただくことも増えてきました。海外でも少しずつ注目されてきているのを感じるので、今後さらなるお取引につながることを期待しています。
桐の木は世界中で自生していますが、家具などに桐材を使う国って実は珍しいんだそうです。アジア圏では原産地の中国、台湾、そして日本だけなので、桐材の魅力はまだまだ世界的に知られていないのが実情です。これからは桐材の優れた特性や、伝統技術で作り上げる日本産桐製品の質の高さを広めて、国内外で着実に売れるブランドに育てていきたいと思います。
世界に誇れる桐製品が広まっていくのが楽しみです! 今日は素敵なお話をありがとうございました。
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