桜島の観光を通じてまちづくりに貢献
まずは、NPO法人桜島ミュージアムの活動について教えてください。
私たちは、桜島全体を博物館として捉え、ヒト・コト・モノをつなぐ、つくる、育むことを目的とした団体です。
当団体の理事長で、火山学の博士号をもつ福島 大輔が、自らの知識を活かして、世界有数の活火山である桜島の魅力を多くの人に伝えたいという思いから設立しました。
桜島の体験型観光を掲げたガイド業からスタートし、県内外の個人・団体向けに桜島の特色を活かした体験プログラムを提供するようになりました。2009年以降は鹿児島県からの委託を受け、指定管理者として桜島ビジターセンターの管理・運営も担っています。
体験型観光を盛り上げるために、さまざまな協業をしているそうですね。
島内の企業をはじめ、桜島・錦江湾ジオパーク推進協議会との連携、地域おこし協力隊の受け入れなど、桜島に関することには何でも取り組んでいます。
そんな中で、椿油の製造・販売を始めたきっかけは何でしたか?
そもそものきっかけは、理事長が地元の方から一升瓶入りの椿油を譲り受けたことでした。使い方がわからずそのまま保管されていたものを前任のスタッフが見つけて、「これ美容にいいんですよ」「じゃあ商品化しましょう」と、そんな話の流れから椿油事業がスタートしたと聞いています。
椿油は古くから桜島の人々にとって身近なものだったのでしょうか。
桜島には昔からヤブツバキという種類の椿が自生していて、その種子から得られる油が、料理やスキンケアなどに使われてきました。島民たちは拾い集めた椿の種を製油所に持ち込み、採油したての椿油を一升瓶に詰めてもらって自家消費していたそうで、市場にはあまり出回っていなかったようです。
現在、桜島で椿油が特産品として定着してきたのには、火山活動が大きく影響しています。
桜島では1972年ごろから噴火活動が活発化し、降灰などにより農作物が多大な被害を受けました。そんな厳しい環境下でも美しい花を咲かせて実をつけたのが椿だったんです。これに目をつけた自治体が、1980~2000年代にかけて約6万本の椿の苗を無料配布し、農家さんたちは畑の作物を椿に植え替えたり、防風林のように畑の周囲に苗を植えたりしました。
そんな経緯があったんですね。
当時植えた椿の苗が成長し、たくさんの種を収穫できるようになったこともあって、年にもよりますが現在の鹿児島県は、長崎県や東京都に次ぐ全国3位の椿油の生産地となっています。
私たちが椿油に着目したもうひとつのきっかけは、桜島に根づく椿油の文化を支え、伝えるためでもあったんです。
桜島が椿油の産地であることは、全国的にはもちろん、鹿児島県内でもあまり知られていませんでした。また島内でも、当たり前に暮らしの中にある椿油の使い方や魅力を知らない方が多くいらっしゃったんです。そこで、まずは化粧用や食用など用途に合わせた容器やサイズを検討し、販売先を県内外問わず探すことにしました。
椿油は世代や用途を問わずマルチに使えるオイルですが、年配の方向けというイメージをされる方が多いかと思います。そのイメージを刷新し、より多くの方、若い世代にもお使いいただけるよう「SAKURAJIMA TSUBAKI」のブランド開発に取り組み始めました。
研究結果を活かしてニーズに合った商品を展開
商品に使われている椿の種はどのように仕入れをしていますか。
島民の方々から買い取ります。生産者自身では消費しきれない椿の種を有効活用できるよう、私たちがその一部を買い取って製油所へ依頼し、搾油したオイルや自社で搾油したオイルを商品化しています。ここ数年は、人口減少や高齢化の影響もあって収穫量が安定しないため、自分たちでも畑の管理に取り組み、収穫量を安定させることを目標としています。
鹿児島大学との共同研究もされているそうですね。研究に至った経緯を教えてください。
現在「SAKURAJIMA TSUBAKI」では、加熱圧搾法で採油した昔ながらの椿油と、コールドプレス製法(非加熱圧搾法)で採油した椿油の2種類を取り扱っています。当初は昔ながらの椿油だけを販売していて、それなりに好評だったものの、発売からしばらくすると「特有の香りが少し苦手」「テクスチャーがこってりしていて重い」などのご意見も時折いただくようになりました。
こうした課題をなんとか解消できないかと模索する中でたどり着いたのがコールドプレス製法、いわば「生搾り」の椿油だったんです。鹿児島大学さんと一緒に生搾りの椿油について研究した結果、従来の椿油と比べて保湿時間も約2倍長持ちすることがわかりました。さらに従来のような香りもほとんどなく、さらりとしたテクスチャーで使いやすいのが魅力です。
生搾りの椿油は希少価値も高そうですね。
そうですね。作るのに手間も時間もかかるので、生搾りの椿油は全国的に見てもあまり流通量が多くありません。
従来の椿油と比べても採油量が少ないですし、原料の良し悪しが品質に影響するので、天日干しした種を一つひとつ手作業で選別する必要もあったりして。手間暇かけて作られた生搾りの椿油を扱っていること自体が他社との差別化につながっているかもしれません。
地元鹿児島で活躍するクリエイターとの協働
ブランド立ち上げ当初から、椿油をECサイトで販売されていましたか?
当初は桜島ビジターセンターのミュージアムショップのECサイトがあり、そこで椿油も販売していました。完全にお土産物としての位置づけでしたね。ただ、お店の中でも椿油は売れ筋商品でしたので、リブランディングを行うと同時に、椿油に特化したECサイトを開設することにしたんです。
カラーミーショップを選んだきっかけを教えてください。
GMOペパボが鹿児島オフィスを開設された2019年ごろ、カラーミーショップの活用セミナーに参加したんです。そこで登壇されていたすすむ屋茶店さんの活用事例を聞いて非常に親身なサービスだと感じたので、スタッフ全員一致で選ばせていただきました。
ありがとうございます! ちなみに、サイト制作は外注でしょうか。
鹿児島に拠点をおくNAWAGATEという制作会社さんに依頼しました。桜島ミュージアムでは「みんなの桜島」という桜島観光ポータルサイトも運営しているのですが、NAWAGATEさんにはそのサイトの立ち上げ時からお世話になっています。長いお付き合いで安心感があったので、椿油のECサイトもお任せしました。デザインは株式会社TSUZUKUの久保 雄太さんにお願いしています。
ECサイトのデザインや見せ方でこだわったポイントは?
徹底的にこだわったのは、お客さまが商品を探し、購入しやすい導線です。
それから、私たち桜島ミュージアムは学びを大切にしている団体なので、椿油について学べるサイト構成やコンテンツにこだわりました。ECサイトを訪れた方が椿油の知識を深められるように、できる限り多くの情報を盛り込んだので、私たちスタッフにとっても辞書的役割を果たすサイトとなっています。椿油のある生活をイメージできるよう、写真を丁寧に使ってビジュアルで魅せることを重視しています。
事業成長につながる、商談会での出会いと学び
ECサイトの顧客はどんな方が多いですか?
国産オイルや産地の見える自然素材のコスメをお求めの方、お肌のお悩みがある方が多いかと思います。
また桜島で購入したり、鹿児島のお土産でもらったりしたことをきっかけにリピートしてくださる方や、単純に桜島を応援したいという理由で購入してくださる方もいます。椿油の機能面はもちろんですが、桜島という地域の魅力や産地に対する想いも購入動機に関係しているかもしれません。
自社以外のショップへの卸は行っていますか。
全国のセレクトショップ、雑貨店、ホテルやサロンなどでお取り扱いいただいています。
以前は県内の卸先がほとんどだったのですが、自社ECサイトを運営し始めたのをきっかけに、ECサイト経由での卸のお問い合わせが増えました。さらに、2022年から商談会に出始めたことで、全国のさまざまなショップの方と知り合うきっかけをいただき、卸先の幅がさらに広がりましたね。すでに取引のある取扱店舗を見て、「うちにも置かせてください」と言っていただけることもあります。今後もどんどん卸先の輪が広がっていけば嬉しいです。
商談会に参加されることは多いのでしょうか?
販路が広がるので、機会があれば参加するようにしています。バイヤーさんとだけでなく出展者同士がつながれるのも魅力で、「店舗があるからうちでも取り扱うよ」と商談が進んだこともあります。商材ジャンルも地域も異なる他社のブランドパッケージやコピー、ラインナップ、価格帯などを見て商品開発の参考にしています。
ちなみに、卸先に基準は設けていますか。
私たちの椿油を購入されるお客さまは、いいものを長く愛用して、ていねいな暮らしを大切にされる方が多いです。
ECモールではショップごとに価格差が生まれ、意図せず価格競争にさらされる懸念があったので、自社ECサイトまたは実店舗・サロンでの販売に限定して、ECモールでは展開していない会社さんと取引をさせていただいています。また、椿油は、実際に手に取って試してみることでより魅力を感じてもらえるものなので、実店舗やサロンでの販売もお願いしています。
日本の椿油を世界へ発信したい
今後のEC展開の方向性について教えてください。
ミュージアムショップのECサイト時代からご愛用いただいているお客さまもたくさんいらっしゃるので、今後はいっそうリピーターの方を大切にしたいと考えています。つながりを強めるための施策として、どうすればもっといい商品を提供できるか、喜んでいただけるキャンペーンやイベントはできないかと模索しているところです。リアルな体験イベントも含め、さまざまな可能性を考えていきたいですね。
椿油を手に取る方を新たに増やすために掲げている目標はありますか。
販路をもっと増やしていくことが一つの目標です。スキンケア商品やコスメは、やはり手にしてみないとわからない部分も大きいですから、実際に商品に触れられる店舗は多ければ多いほどいいと考えています。
また、椿油は女性に特化したものというイメージがありますが、性別や年齢を問わず、多くの方に使っていただけるブランドにしていきたいですね。
今後、海外へ販路を広げていく予定も?
もちろんです。日本原産の植物からとれる伝統的なオイルを使ったスキンケアについて、海外の方にぜひもっと知っていただきたいし、世界中の方に注目していただけたら嬉しいですね。
ECサイトでも徐々に海外からのお問い合わせが増えてきたので、「Buyee Connect」というアプリを導入して海外販売に対応しました。それまでの海外発送はGoogle翻訳を駆使してなんとか対応してきましたが、導入後はこうした労力が格段に減って助かっています。
最後に、これから「椿油」をどんな存在にしていきたいですか。
「日本産のオイル=椿油」と、すぐに想起してもらえるような存在にしていきたいです。
たとえばオリーブオイルは、実際にスペインやイタリアなどの有名産地を訪れて、オリーブ畑を見学したり食を楽しんだりする旅行ツアーが存在します。それと同じように、椿を目的に桜島まで足を運んでくださる方がもっと増えてくれたら嬉しいですね。収穫体験などを通じて椿の生態をもっと知っていただけたら、椿油の魅力もさらに伝わるだろうなと思います。
日本の椿油、まだまだ伸びしろがありそうですね。今日は素敵なお話をありがとうございました!