今回は創造的な産地づくりやSAVA!STOREの運営について、ネットショップご担当の谷垣 奈穂さんとデザイナーの室谷 かおりさんに伺いました。
「創造的な産地をつくる」というビジョン
まず、SAVA!STOREを運営する合同会社TSUGIについて教えていただけますか?
室谷さん(以下/ 室):弊社は福井県鯖江市の河和田地区にあります。事務所の半径10km圏内に眼鏡、漆器、和紙、打刃物、箪笥、越前焼、繊維といった、ものづくりと工芸が密集している全国でも珍しい地域です。なかでも、越前漆器は日本の業務用漆器の80%を、眼鏡は日本産の眼鏡の96%を作っている一大産地となっています。
TSUGIでは「創造的な産地をつくる」というビジョンを掲げています。半径10km圏内にあるものづくりの会社は下請けがメインです。メーカーやブランドからの発注がなくなると、技術力が高いにも関わらず売上はぐんと下がってしまいます。ですので、下請けの仕事に左右されることなく、自分たちで作って売ることができる産地にしたいという思いで活動しています。
クリエイティブディレクター/デザイナーとして代表の新山がおりまして、他に3名のデザイナーと2名のショップスタッフ、経理とアクセサリーのデザインを担当しているものが1名おります。
創造的な産地をつくるためにしていることは「支える・作る・売る・醸す」という4つにわけて考えています。
まずは、職人さんや福井の会社さんのデザインを作って「支える」ということで、ロゴやWEB、ブランド全体のディレクションなどをしています。
次に、流通網を「作る」こと。自社ブランドを通して流通を作る技術を自分たちで学び、そのノウハウを地域に還元したいと思っています。
谷垣さん(以下/谷):自社ブランドは眼鏡フレームの素材や、眼鏡作りの技術を使ったアクセサリーブランドの「Sur」を主力として、他に3つほどあります。
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室:「売る」ことは、福井のデザイン性が高いプロダクトを集めたお店「SAVA!STORE」を立ち上げて全国に行商したり、ネットショップで売ったりすることです。
谷:2019年4月に実店舗を構える前までは、こちらから売りに行くというスタンスでしたが、売りに行って産地に来て買ってもらうという両輪で「売る」ことを考えて、実店舗を構えました。
室:「醸す」は、RENEWという工場開きのイベントを開催して産地の熱量づくりをすることです。
RENEWは年に1回、延べ3万人が鯖江市に来るイベントなんです。
3万人も!
室:工芸品というのは産業観光を通して「お椀ってこうやって作られているんだ」とか「眼鏡ってここまで職人さんが一つ一つ作っているんだ」と知ってもらうことで一番魅力が伝わるものだと思うので、このイベントには力を入れています。
現在は鯖江市を中心として福井県内に25店舗の工房兼ショップがオープンしています。それぞれのお店でものづくりが見れて、その場で買えるという状況が生まれています。
こういった産業観光の要として、2019年4月にTSUGIの事務所を改装してTOURISTOREという施設をオープンしました。
少しずつですが、これからは自社ブランドを強めて産地企業に製造依頼をすることで、産地に仕事を作り、それを自分たちで売れるようになりたいと考えています。
人の出入りに抵抗のない地域
TSUGIの結成は2013年、そのとき代表の新山さんは市役所にお勤めだったそうですね。
谷:2013年は室谷も私もまだいなかったのですが、代表がサークル活動的に始めたのがはじまりで、そこから法人化しました。
サークルの立ち上げ時は、何名くらいメンバーがいたんですか?
谷:7名ほどです。デザイナーだけでなく、木工職人や左官職人、眼鏡職人がメンバーでした。
それは市役所のお仕事から知り合った方たちなんですか?
谷:ではなくて、もとからの知り合いです。代表の新山が京都精華大学在籍時に参加した「河和田アートキャンプ」のメンバーです。
現在のTSUGIのメンバーも、みなさん県外から移住されたんですよね。
谷:SAVA!STOREの店長は福井県の人で、それ以外のメンバーは県外からですね。鯖江、河和田というエリアは移住に力を入れているんです。
河和田の地域性でいうと、かつては漆を木から採集する「漆掻き」という人たちが全国を周ったり、逆に河和田にもいろいろ人が来たりと、人の出入りにあまり抵抗のない地域だったと言われています。昔から職人になりたくて移住してくる人も多かったそうですし、それこそ室谷はここでデザイナーがしたくて移住しました。
何も考えずにふらっと来ても、人手があったら助かる場所なので「これ手伝って」と言ってくれる人がいて、そのままシェアハウスにいつく人もいますね。
地方は閉鎖的になりやすいと思いきや違うんですね。
谷:実際に福井の方は県民性として内向的、排他的だという表現をされるんですけど、移住者からするとあまりそういった印象は受けないです。特に河和田のある鯖江市は非常に寛容だと感じます。
デザイン事務所というと最先端なイメージもありますが、地域の職人さんたちはすんなり受け入れてくれたのでしょうか?
谷:最初は苦戦したと聞いています。代表が鯖江市に来たときは、職人さんのもっているデザイナーのイメージがあまりよくなかったんです。デザイナーにお願いして商品の見てくれはよくなったけど売れなかったということがあったらしく、「デザイナー」という言葉にみなさん拒否反応があったそうです。先ほどご紹介したRENEWという工房開きのイベントも、開催に必要なのは工房を開放してくれる職人さんなのですが、「忙しいのになんでやらないといけないんだ」というところで最初は賛同が得られなかったと聞いています。
TSUGIが考える「デザイン」はただ見てくれをよくすることではなく、物の本質や魅力をどう伝えるか、そして思い描くビジョンにどう近づけるか?という仕組みを作ることです。RENEWでは職人さん自身で商品の魅力を伝えて、どんな人の手に渡るのかを見てもらったことで、だんだんとみなさんの熱量が高まっていきました。
接客の体験が職人さんにとって大きな刺激になったんですね。
谷:そうですね。目の前の人に商品を届ける経験をしていただいたことで「出てよかった」と言ってくれる方が少しずつ増えました。
最初にお話した「創造的な産地をつくる」には、自分たちで考えられる、生み出せる人をつくるという意味もあるのですが、「次はこういうことをしたらどうだろう?」と自発的にワークショップをしたり、個人的に工房見学のイベントを開催する方も出てきました。
室:本当に町が変わりそうなタイミングです。
谷:ポップアップストアに来て自分で設営と販売をする方もいますし、手が足りない職人さんがふらっと来た人間をつかまえて「ちょっとショップ店員しない?」と誘ったり、Instagramの運営をお願いしたりするという循環が生まれています。
ネットショップには作り手の顔が見えるストーリーを
ネットショップの「SAVA!STORE」を始めた経緯を教えてください。
谷:もともと、アクセサリーブランド「Sur」のネットショップを運営していたこともありましたし、実店舗が片田舎にあるので、最初の来客はそれほど見込めないだろうということで実店舗と同時にネットショップを始めることは必須でした。
その際、カラーミーショップをお選びいただいたのはなぜですか?
室:デザイン事務所が運営しているネットショップということで見た目をこだわりたくて、デザインの自由度が高いものを探していました。デザインと構成はTSUGIで、コーディングは外部のコーダーさんにお願いしているのですが、そのコーダーさんにおすすめされたのも大きいです。
あとは、お客さまに不自由なくお買い物していただきたいので、Amazon Payなど幅広い決済方法が使えるという点も魅力でした。
ありがとうございます。現在、ネットショップの運営に関わられている方は何名ですか?
谷:デザインに関する部分は室谷、コンテンツの制作は私が担当しています。発送作業はまた別のものがいるんですけど、基本は2、3人で回していますね。
商品の見せ方やコンテンツ制作のこだわりを教えてください。
室:事務所が職人さんに会いに行ける場所にあるので、商品説明には作り手の顔が見えるストーリーを織り交ぜるようにしています。
また、商品写真は物のよさが伝わるように撮ることを心がけています。
実店舗とネットショップで、それぞれにメリット、デメリットはありますか?
谷:実店舗はTSUGIのことをもともと知っていたり、比較的感度の高いお客さましか来ないというのがオープン当初のデメリットだったかなと思います。メリットは商品に直接触れていただけること、作り手や産地、素材などについてスタッフがしつこいくらいに説明できることです。そういったことが物への愛着や産地への興味に繋がると思っているので、伝えられる情報が確実にネットショップより多いのはメリットですね。
ネットショップはその逆で、全国に届けられるのがいいところだと発送作業をしていて日々思います。逆に言うと、文章や写真にどれだけこだわっても工房の香りまでは伝えられないので、そこはデメリットと言いますか、限界はあると感じています。
現地の空気や温度を伝えるのは難しいですよね。
谷:そうなんです。実際の工房の音や湿度、匂いは来てみてようやくわかるものなので。産地に興味をもっていただけるきっかけになるのがネットショップやそのコンテンツ、SNSなんだと思います。両方を上手に使えてこそうまくいくのかなと。
ネットショップの運営で参考にしているショップはありますか?
谷:SAVA!STOREを立ち上げる際に参考にさせていただいたのは「わざわざ」さんです。痒いところに手が届くような文章、写真も然りなんですけど、伝え方の温度感という部分で参考にさせていただきました。
室:あとは気になるショップで買い物をして、同梱物を見たりもしましたね。
谷:読み物の冊子が入っていたショップを参考にして、SAVA!STORE通信というものを入れるようにしました。他にも、届いたときの印象を気にかけて、オリジナルの箱やテープを使って少しでも覚えてもらったり思い出してもらえる工夫をしています。
コロナがきっかけでネットショップに注力
2020年はコロナの影響もありましたか?
谷:4月、5月の実店舗は酷かったですね。当然、休業していたので5月は売上が9割減、イベントやポップアップストアも根こそぎ中止になりました。オフラインの売上が見込めないぶん、より一層オンラインに注力しないといけないという危機感がありました。
ネットショップの方は、ちょうど5月に「SAVA! Tシャツ」の露出が高まる機会があって、たくさんの注文をいただけたのと、レジ袋の有料化で「PLECO」というエコバッグがInstagramでバズったこともあり、継続的に売れている商品と合わせてなんとか売上を保つことができました。
ネットショップの売上は前年比で何倍ほどになったのでしょうか?
谷:前年はネットショップに本腰を入れていなかったというのもあって、月によっては10倍〜20倍になりました。
それまでは、実店舗との在庫管理が難しくて手が回らないのを言い訳にして、売り切れた商品はそのまま放置という状態だったのですが、コロナをきっかけに重い腰を上げました。YouTubeチャンネルで商品紹介をしたり、一周年イベントをオンラインで開催して、ちょっとずつ流入が増えて購買に繋がったのかなという感じです。
SNS運用について
FacebookとInstagramを運用されていますが、相性がいいのはどのSNSですか?
谷:やっぱりInstagramの方が相性はいいかなと思います。特に、イベントや特集記事の告知よりも、商品へのリアクションが大きいですね。
最近、リアクションがよかったのは「Food Paper」という商品で、TSUGIが商品開発に関わった、和紙漉きの工程で廃棄野菜や果物の皮を混ぜた紙です。SDGsの取り組みに関連するところもあって注目されている商品です。
斬新でとてもきれいな和紙ですね。
谷:野菜のカラーが出ていてかわいいですよね。和紙漉き工房の息子さんが小学生のころに、自由研究として勝手にお父さんのピーナッツの殻や冷蔵庫の食べ物をくすねて紙にしたのがアイデアの源泉なんです。息子さんのアイデアで、お母さんが紙を漉いて商品にしています。
背景として、和紙の原料が採れなくなってきているということもあります。原料の代わりになるものを考えたときに、繊維質のものがあると紙に漉き込めるので野菜や果物の皮との相性がよかったんですね。
食品関係の会社とコラボしたりと、和紙漉き工房がオリジナルのブランドをもって自社の商品を売られています。
まさに「創造的な産地をつくる」ですね。
谷:そうですね。職人さん自ら積極的に展示会に行かれてます。
自分で売って、買ってくれる方の反応が見れる。購入者側も作っている方に会えるのは嬉しいですよね。
谷:作った人にしか伝えられない温度感の言葉というのが絶対にあるので、すごくいいですよね。
ノウハウを産地に還元したい
今後、ネットショップではどういった展開をしていきたいですか?
谷:今の売上をキープしつつ、産地を知るという意味で、まだ私たちが見つけられていない商品のリサーチも進めていきたいです。
将来的には、私たちがネットショップを運営してわかったことやノウハウを産地に還元したいなと思います。
最後に、ネットショップ運営にハードルを感じている事業者さまにアドバイスをお願いします。
室:コンセプトやテキスト、商品ラインナップなど、いろいろ大切なポイントはあるかと思いますが、一番注力した方がいいと思うのが写真です。
これを言うと逆にハードルを爆上げしちゃうかもしれないんですけど、写真は大事です。
というのも、人が集まってくる大手のオンラインモールと違って、ネットショップは立ち上げてもいきなり人が来てくれることはないですよね。お客さまとの接点になるのって、Instagramで投稿が偶然流れてきたとか、欲しいものを画像検索したときに偶然出てきたとか、そういうところだと思うんです。
同じ商品の写真がたくさん並んでいるなかでクリックしてもらって、たまたまご購入いただくことが少なくない、そのときに勝てる画像を作るというのが、地味ですが大切なのかなと思っています。
SAVA!STOREを立ち上げたときは、カメラマンの人に写真のワークショップを開いていただきました。物撮りの環境を整えたり、社内のデザイナーが写真のチェックをして最低限のクオリティは保つように気をつけています。
谷:スマホのカメラの性能も上がっているので、まずはそういったところから始めてみるのもいいと思います!
カラーミーショップには写真と相性のいいテンプレートもあるので、ぜひご利用いただきたいですね。貴重なアドバイスをありがとうございました!
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