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コロナ禍でもネットショップは売上が倍に! 100年以上続く南部鉄器の老舗「及源鋳造」のコンテンツ作りへの想い

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
1852年創業、南部鉄器の老舗「及源鋳造」のネットショップ。現代のライフスタイルにも調和するデザインのよい南部鉄器と「鉄器のある暮らし」の愉しさを提案するコンテンツが評価され、カラーミーショップ大賞2020では地域賞を受賞。
今回はネットショップご担当の大瀬 悠太郎さんに、商品開発やショップ運営について伺いました。

100年以上続く南部鉄器の老舗企業

及源鋳造について教えてください。

1852年創業、現社長で5代目の会社です。創業当初から鉄を溶かして生活道具を作っています。

大瀬 悠太郎さん

100年以上続く老舗企業なんですね。現在、販売している商品は何種類ありますか?

ネットショップで扱っている商品は170前後です。
商品が廃盤になっても「型」を残しているものも多数あります。そのため、企画や需要にあわせて「復刻版」として昔の商品を製造・販売することもあります。

主な販路はどこになりますか?

もともとは卸販売がメインで、直売は微々たるものでした。
今も卸販売の割合は大きいですが、自社ブランドを立ち上げて自分たちで商品の魅力を発信するなど、直営店やネットショップでの直接販売に力を入れています。

直営店について教えてください。

直営店「OIGEN FACTORY SHOP」は岩手の工場に併設しています。「OIGEN鉄器の愉しさをface to faceで伝える。お客さまのお話をface to faceで伺う」がコンセプトで、前日までに電話予約いただければ、無料で工場のご案内もしています。

東京の幡ヶ谷には営業所とギャラリーがあります。販売はしていませんが、今後、事前予約制で実際に商品を見ていただくことも検討していければと思っています。

直営店やギャラリーは、どういった方をターゲットにされていますか?

まず、南部鉄器をご利用されていて、お手入れや使い方などに不安のある方、愛着をもって道具を使いたい方。南部鉄器にご興味のある方や、岩手を旅行したい方、アウトドア好きの方にもお楽しみいただけると思います。

ファクトリーショップでは、鉄瓶で沸かしたお湯で淹れたコーヒーやお茶の試飲(※)もしています。鉄瓶でほっと一息つく時間をもちたい方にも、ぜひお越しいただきたいです。
※ 現在はコロナウイルスの感染症拡大防止のため試飲は休止しています。

試飲の他にも、直営店にコロナの影響はありましたか?

緊急事態宣言が出た後、岩手県知事からの要請を受けて閉店したり、県外からのお客さまの来店をお断りしなければなりませんでした。来店数はコロナ前に比べて半分ほどになりました。
一方で、ネットショップはアクセス・売り上げともに2倍以上伸びました。売上は昨年の5月から右肩上がりで伸びています。

コロナ禍においてマイナスの影響を受けないのは、ネットショップの強みですよね。

コロナ禍でネットショップの売上が2倍に

ネットショップを立ち上げた経緯は、どういったものだったのでしょうか。

30年前、世の中の動きに合わせて自社のホームページを作ったときにネットショップも立ち上げたそうです。
ブランディングに力を入れるという会社の方針で2018年の秋ごろにデザインを一新して、現在の形になりました。

ネットショップのコンセプトを教えてください。

弊社のコンセプトは「愉しむをたのしむ」です。南部鉄器という強いブランドの傘の下で安心しているのではなく、そこを飛び出して自分たちの言葉で自分たちの商品をしっかり語り、しっかり届ける。

ネットショップでは自社のことに留まらず地域の風土や食に携わる生産者の方々、シェフの鉄器の使い方、レシピ紹介等、さまざまな角度から道具とともに生活を愉しむ情報を発信しています。
このようにして、お客さまとOIGENの懸け橋を担っているのがネットショップです。

どういったカテゴリーの商品が人気ですか?

おうち時間が増えたので、ゆっくりお湯を沸かす時間を愉しめる鉄瓶や、食卓にドンと置けるすき焼鍋や煮込み鍋が人気ですね。
キャンプへの関心も増えたことから、ホットサンドクッカーやハンドルの取れるフライパンなど、キャンプシーンでも愉しく使える鉄器の人気も伸びています。

かなり重たい商品もあると思うのですが、発送で気を付けている点はありますか?

社内の専門チームが徹底した検品の後に梱包発送をしています。
使い方の冊子など商品によって同包物が違うので、入れ間違いのないように気をつけています。

購入者は県内県外など、どういった方が多いですか?

新規の方が多いです。地域別だと上から順に、関東圏、関西圏、東北圏が多いです。

海外からの問い合わせもあるのでしょうか?

はい。アメリカ、オーストラリア、ドイツなどからの問い合わせが多いです。
台湾への直接販売事業を立ち上げたときに、サイトも台湾語と英語に対応しました。

クオリティの高いコンテンツで南部鉄器に親近感を

カラーミーショップ大賞では、クオリティの高いコンテンツの数々も高く評価されました。コンテンツはどういった目的で運営されていますか?

サイトではOIGENの提案するライフスタイル「愉しむをたのしむ」を軸にいろいろなコンテンツを展開しています。
レシピのコンテンツは鉄器の多様性を愉しく伝えるためのものです。料理の専門家の方にご協力いただいた特別なレシピとスタッフが作る日常のレシピを取り混ぜています。

最も力を入れているのはお手入れのコンテンツです。お客さまにとって鉄器はまだまだ珍しいものですので、まずはサビに対する不安を取り除いていただけるように注力しています。

また、南部鉄器は風土に根差した道具ですので、土地の人や文化についても紹介しています。

コンテンツの更新頻度やこだわりポイントを教えてください。

愉しむコンテンツは1か月に3~4記事を更新しています。新規の方だけでなく、購入を迷っている方やリピーターの方を増やしたいので、お手入れのコンテンツにこだわっていますね。鉄器は一緒に育てていく道具ですので、その過程において大事にしていることや思いを発信し、より親近感をもっていただけるように心がけています。

南部鉄器は憧れの日用品でありながら、錆びてしまったらどうしようという不安もありますもんね。

錆びさせないように使うことをお伝えしていますが、実は鉄瓶ってきれいなお湯が沸かせれば、さびさびになっても大丈夫なんです。ちょうど錆に関する記事を公開したところなので、こんなに錆びていても大丈夫なんだということがわかりやすいかと思います。

こういったコンテンツのアイデアはどこから生まれるのですか?

お客さまからの問い合わせの声をひろいながら、webメンバーが主体となってリサーチをしています。

進化し続ける及源鋳造の目指すところ

及源鋳造さまの商品はデザインもお名前もかわいらしいですよね。
先日発売された「アップルパイクッカー」もすてきでした。このような新商品の開発や命名はどのようにされているのですか?

基本は社長のアイデアからです。元々デザインをしていた人ですので、現場経験も営業経験もあっていろいろ出てくるようです。商品名も制作経緯や商品のイメージから社長が名付けることが多いですね。
アップルパイクッカーは、もともと鉄器のユーザーだったシェフからの要望で生まれた商品です。

伝統工芸品でありながら、どんどん進化していますよね。

そうですね。IHにも使える小さめの鉄瓶は、東京の営業スタッフが本社に伝えた「お客さまの声」がきっかけで誕生しました。現代家庭に置いてもちょうどいいサイズ感で、デザインは販売部長のアイデアです。

2006年には独自の技法で製造特許を取得されていますよね。

南部鉄瓶に使われている「釜焼き」というさび止め技法を高品質に改善して南部鉄鍋に応用した「ネイキッドフィニッシュ」という技法です。鉄器は防錆のために、ヨーロッパの鉄器のようにほうろう加工をしたり、シリコンフッ素加工をしたり、塗料を焼き付けたりしますが、ネイキッドフィニッシュは化学的な塗装をせずに赤さびの発生を抑えます。ネイキッドフィニッシュの鍋たちは油なじみがとてもよく輻射熱も多いOIGENのプレミアムな商品群です。

最後にぜひ、及川久仁子社長にお伺いしたいのですが、今後の事業展開や目指すところについて教えてください。

「小さくても軸のある強い会社」を目指しています。
大企業がマーケットを作り、中小を束ねるという新しい形態がこれからは進んでいくかもしれません。ともすれば、トレンドに流されたり、きらびやかな方向にあこがれて背伸びをしてしまいがちな私たち中小企業は、より、自分たちが何に立脚しているのかを自覚して行かなければならないと思います。
鉄器を通して「愉しむをたのしむ」を伝えていくことを岩手から。そうですね、世界へむけて。

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