4代続くわさび屋は、いつの間にか「お土産屋さん」になっていた
山本食品さんでは今何種類くらいの商品を取り扱っていますか?
今は50種類くらいですね。
まずはどんな切り口でもいいからわさびに興味を持っていただこうという思いで、わさびを使ったいろんな自社商品をラインナップしています。
「わさびを、もっと、おもしろく」という企業キャッチコピーがとても印象的です。この言葉にはどういった意味が込められているのでしょうか?
それを語るにはちょっと長くなっちゃいますよ!(笑)
手のひらサイズの本わさびって一本だいたい何円くらいだと思います? もし1,000円とか1,500円だと言われればきっと皆さん「そういうものだ」と納得するでしょうけど、同じわさびという名前でも、チューブに入ったわさびがもし1,000円だったら高くてびっくりしちゃいますよね。スーパーのお刺身盛り合わせに入ってるわさびに至っては単なるおまけで、わざわざお金を出すものだと思ってない。みんなわさびのことを知らないから、その相場がメチャクチャでも何の疑問も抱いてこなかったわけです。
確かに、身近な食材でありながらそこまで意識したことはありませんでした。
そうなんです。今は外国人の方からもお問い合わせをいただくけど、正直悲しいくらい、日本人よりも突っ込んだ質問をしてきますよ。世界的にはまだまだ珍しいスパイスですからね。
こんなことになっているのは、私のように今までわさびに携わってきた人たちの怠慢の結果です。本わさびと練りわさびと粉わさびの違いだとか、もっともっと皆さんに知っていただいて、わさびの魅力にぜひ触れてもらいたいんですよね。
会社は山本さんで4代目だそうですが、就任当時からこのキャッチコピーだったんですか?
社長就任から今年で23年目を迎えますが、今のキャッチコピーを掲げたのは5~6年前です。
うちの実店舗には昔から、大型観光バスのお客さまが多くいらっしゃるんですけど、一期一会のお客さまをおもてなしするにはまず元気と笑顔が大事だ!と。なので私が社長になってすぐに掲げたキャッチコピーは「元気に、もっと元気に、もっともっと元気に」だったんです。
わさびが入ってなかったんですね……!
(笑)最初はノリだけでよかったんだけど、新しいスタッフが増えてきたらそうもいかなくて、私が先頭で走り出しても後ろから誰も付いてきてないっていうことがよくありました。
会社としては今から10年くらい前が本当に苦しかったんです。新しい高速道路の開通に合わせて、莫大な借金をかかえて店舗移転した矢先に東日本大震災。そのうえ日本各地で起こった長距離バス事故の影響で国交省の規制がどんどん厳しくなって、日帰りバスツアーの運行も以前のようにはいかなくなっちゃった。
災難続きだったんですね。
そんな状況だったので、一時期は借金を返すためにまた借金をするような自転車操業状態でした。スタッフ削減や給与カットも忠告されたけどそうするわけにはいかない。「じゃあ社長、あんたがどうにかできるのか」と聞かれて、ついつい「俺が役員報酬受け取らなきゃいいだろ、いらねえよ」って言い返しちゃって。
えっ。
それから1年間は無給で働きました。すごく苦しかったけど、焦ってもしょうがないと開き直ってね。いろんなアドバイスにもきちんと耳を傾け、会社を改めて見直してみたんです。そしたら当時扱ってる商品の6割を仕入れ商品が占めていることに気付いちゃった。いつの間にかうちはわさび屋じゃなくて、ドライブインのお土産屋さんになってたんですよ。
商品ラインナップは仕入れるだけでいくらでも増やせるけど、当然ながら利益は自社商品よりもずっと少ない。そのうえ工夫もなければ知恵もなく、要はお店としての特色がなくなっていたんです。そこで恥ずかしながらやっと「俺は何やってるんだろう」と。もう一度原点に戻ってわさびを見つめ直すために考えたのが「わさびを、もっと、おもしろく」のキャッチコピーだったんですよね。
なるほど、そんな経緯があったんですね。
それ以来、私が先頭で走っていても後ろからみんなが付いてきてくれるんですよ。このキャッチコピーによって、山本食品がこれから進むべき正しい方向を示すことができたんじゃないかなって今は思います。
メディアが殺到する秘訣は、とにかくわさびからブレないこと
カラーミーショップは2016年からご利用いただいていますが、ネットショップ開設のきっかけを教えてください。
その前から独自システムで通販対応はしていましたが、それほど力も入れておらず全然売れない状態でした。うちに来る観光バスのお客さまは年齢層が高いうえ、電話・FAXでの注文がすごく多いんですよね。ネットショップに力を入れるのは「うちはまだいいかな」って思ってました。
ところがね、あるとき『マツコの知らない世界』でうちのわさびマヨネーズが紹介されて、それがものすごく売れたんですよ。特に知り合いの業者さんがいっぱい売ってくれてね。もちろん売れるのは嬉しかったけど、なんで自社の商品を自社で売れないんだろう?ってそのとき思ったんです。これからはネットショップもちゃんと整えていかなきゃなって。
そのほうが利益も高いですもんね。
そう。とにかくホームページもネットショップも全部リニューアルしようと。うちは明治38年から実店舗を持ってやってきた誇りがあるし、お客さまにも信頼してもらえる部分だと思ったんで、まずはそれをきちんと伝えられるようなサイトを作るところから始めました。
ネットショップも、最初は正直どこから手をつければいいのかわからなかった。モールと独自ショップの違いも知らなかったんで、自分でも勉強しながらプロの方にいろいろアドバイスを受けて作っていきました。
ちなみに、カラーミーショップを選んだきっかけは何でしたか?
「カラーミー」って「辛味」に語感が似てるなと思って(笑)。わさびといえば辛味だからね。
これまでいろんなショップさんにインタビューしてきましたが、そういう理由は初めてでした(笑)。今は山本食品さんのネットショップを多くの方が利用されていますが、成功の秘訣や、お店の名前が広まったきっかけで思い当たることはありますか。
最近はYouTubeの「わさびチャンネル」から来てくれる人が多いですね。
コロナ禍で本格的に始めてからまだ8カ月くらいですが、登録者数や総視聴時間も収益化のラインに乗るくらいまでは伸びてきました。別にYouTubeで稼ぎたいわけじゃないけどね。ようやく思い通りになってきたかなと感じます。
YouTubeを始められたきっかけは何だったんでしょう。
2019年10月の台風で、実店舗が130cmくらい水に浸かって壊滅状態になっちゃって。レジもPCも電話も、3日前に付け替えたばかりのウォシュレット30台も全部水浸し。でも水害保険には一応入ってたんで、全額とまではいかないけどお金が戻ってきたの。全部直すには到底足りない額だから、一度いろいろ断捨離して、本当に必要なものだけにお金を使うことにしたんです。
その流れでコンテナ倉庫も新調したんだけど、「ところで何入れるの?」って聞いたら、数年前に使ったきりで全然いらないものばっかりだったわけ(笑) そんなのもう全部捨てちゃいなって。でもせっかく買ったこのコンテナは俺にちょうだい!ってことで、YouTube用のスタジオにしちゃいました。
そんな事情があったんですね。今もコンスタントに動画を上げていますが、YouTubeを運営する中で何か気付きはありましたか?
チャンネル登録者数を増やすには、まぬけなチャレンジやおもしろい企画をやるべきなのかといろいろ考えました。でも、うちのチャンネルを見てくれてるのは山本食品やわさびを好きでいてくれてる人たちですからね。そこで私がわさび以外のことを始めたら最初の理念からズレていっちゃう。次のネタに困ることも多いんですが、「絶対にわさびからブレない」ことだけは意識しています。
動画の反響はいかがですか。
NHKさんやローカル局をはじめ、最近テレビ取材の申し込みはYouTubeをきっかけに知ってくれた方がほとんどですね。その方たちに聞くとね、「山本さんはとにかくブレてない」って言うんです。今時わさびに関する動画はたくさんあるけど、みんな登録者数を伸ばすために別の方向に走っちゃってるのかもしれない。
YouTubeを始める前もメディア取材が非常に多い印象ですが、山本さん自身がある種コンテンツ化されているのも影響として大きいのかなと思います。
実はそれにはコツが2つありまして。1つ目はやっぱり「元気にしてること」です。世の中が暗くなってくると元気な人が自然と求められるから。
もう1つは「裏方の人にも優しくすること」。だいたいのお店は、取材が来るとタレントさんやレポーターにだけお土産を渡すんですよ。うちの商品ぜひ食べてください!って。実はそれは間違い。特にローカルの場合はADさんやカメラマンさん、音声さんこそ大事にしなきゃいけない。
なぜならローカル局では撮影クルーの人数が少ないから、カメラマンがディレクターのぶんまで動くことが多いんです。それにADさんもすぐディレクターに昇格できる。後々ディレクターになった人が、「雑に扱われてた頃も山本さんだけはすごく優しかった」って言いますからね。
優しくしてくれた人のことは、ずっと頭に残りますもんね。
そう。とにかくみんなに平等に優しく接すれば、それが一番いいんですよ!
コロナ禍でも元気を保ちつづける理由
2020年、コロナ禍の影響はいかがでしたか。
正直言って最悪ですね。
伊豆では河津桜が見頃を迎える2~3月が一番忙しいシーズンなんです。さあ始まるぞ!というタイミングでコロナが流行りだして、ツアーもほとんどキャンセルになっちゃった。
まだコロナが来てない2019年の3~9月、うちのドライブインには約3,000台の観光バスが入りました。それで2020年3~9月は何台だったと思います?
まったく想像がつかないです。
2020年はね、40台足らず。
そんなに減ってしまったんですか。
今となっては取らぬ狸の皮算用ですけど、だいたい1.5億円近い打撃でした。
しかも外出自粛が始まった頃は、テレビでも「ネット通販が好調」だとか言われてましたけど、うちは思ってたほど売れなかった。え?どうなっちゃってんの?みたいな。
後になっていろいろ分析したんですが、3~5月は皆さん非常にパニックになってたのが原因じゃないかって。食品の中でも売れてたのはお米やお醤油のようなメジャーな存在。わさびはどちらかといえば嗜好品に近いものなので、消費者側にもそこまで考える余裕がなかったんでしょうね。5~7月くらいからは徐々に売上が回復してきました。
確かに、4月の緊急事態宣言の前後は皆さん保存食を多く買い求めていた印象です。今も大変な状況は続いていると思いますが、山本さんはとてもお元気ですよね。
今までにないくらいの落ち込みですけど、案外あっけらかんとしてますね。10年前に経営難に陥ったときは、他でもなく経営者の責任だからすごく焦りましたが、今回のコロナ禍は正直ちょっと気が楽なんです。はっきり言って業績は悪いですよ。でも俺が悪いんじゃないですもん。
心が落ち込んでないぶん、自分でも今は武者震いがするくらいワクワクしてます。逆境に陥ったときほどその反動で信じられないパワーが出ちゃうタイプだから(笑)!
その元気の源ってどこにあるんでしょう?
小学校のころの担任、瀬川先生っていうんですが、彼女の言葉に影響を受けました。
私やんちゃ坊主だったから、いつも周りの大人に叱られてばかりだったんですよ。怒られるたんびに瀬川先生に呼ばれて、「豊くんは本当はすごく優しい子。大人になってもずっと元気で優しい豊くんでいてね」って。当時の他の記憶なんかほぼないんですけど、未だに何をやるにしても、その言葉が自分のモチベーションになってます。
元気を保ちつづけるのってかなりパワーが必要かと思いますが、苦にはならないですか。
うーん、相手が僕に望むことを望む通りに動いてあげればいいんだなって最近思います。
私ね、最近まで1,000日ウォーキングっていう日課を毎日こなしてたんですが、ちょうど1,000日達成の直前にテレビの密着取材が入っちゃって。「1,000日終わったらどうしますか?」って目キラキラさせながら聞いてくるもんだから、「明日は1,001日目! もちろんまた新たな気持ちで続けるさ!」ってついこっちも目をキラキラさせて答えちゃった(笑)。
おかげでやめられなくなったけど、インスタやYouTubeのフォロワーも増えたし、それって元気にしてた報酬だからありがたいですよね。とにかくいかに喜んでもらえるか、毎日そんなことばっかり考えてますよ。寂しがり屋だから、みんなの楽しい顔を見ていたいんでしょうね。そうすれば自分も楽しくなれるから。
パワフルな山本さんの原動力がちょっとわかった気がします……! 最後に、今後の展開や目指していることについて教えていただけますか。
たとえコロナが収束しても、ある瞬間からお客さんがドッと戻ってくる、街を出歩くようになるってことはないだろうし、その前のような暮らしに戻るにはかなり時間がかかるはず。うちが今持っている中で一番確かな販路はネットショップなんですよ。なので、これからはネットショップにもっと力を入れたいな。
とはいえ通販は魅力的な商品ありきですから、2021年はとにかく新商品をたくさん作りたくて! うちのショップを覗くたびに新しい商品が見つかるっていうのが理想。自社商品を月に1つ、1年間で12商品は出していこうと計画しているところです。
楽しみですね!
今はなんか漠然と力がみなぎってますね。どうやって売っていこうかワクワクしちゃって。
そういえば、2020年は「カラーミーショップ大賞」で2度目の優秀賞をいただいたけど、大賞をもらうのはまだ先延ばしにしておきたい気持ちもあるんです(笑)。獲っちゃったらそれでおしまいな気がするし、楽しみはもう少し頑張った先にとっておきたいから。
ふふふ(笑)山本さん、今日は素敵なお話をありがとうございました!
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