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沖縄の景色をつくりたい。観光客が激減する中、EC売上を4倍にした創業300年やちむんの窯元「育陶園」の風習にとらわれない経営とは

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
沖縄県那覇市の「壺屋やちむん通り」にある創業300年の窯元。やちむんとは沖縄の言葉で焼き物のこと。4ブランドの店舗を経営し、焼き物の製造と販売を行うほか、陶芸体験教室や週末の喫茶店など、さまざまな事業を手掛けています。ご家族で経営されている中、今回は2020年に代表取締役に就任された新垣若菜さんにお話を伺いました。

那覇市のど真ん中で300年続く窯元

個人的なイメージで恐縮ですが、窯元さんは山奥のほうにあるとばかり思っていました。

そうですよね。先祖が代々焼き物を作っていたこの「壺屋」という場所が、本当に那覇市のど真ん中の市街地にあるんです。焼き物の産地が市街地にあるのは、結構珍しいかなと思います。

代表取締役の新垣若菜さん

「育陶園」「Kamany」「guma guwa」「Etha」とブランドが4つあるんですね。

私が入社した約20年前は育陶園しかブランドがなかったんですが、当時の私たちのような若いメンバーが使うには重厚すぎるので「カジュアルなやちむん(※)が欲しいね」という話をしていました。そのときにたまたま近くの場所が空いたのでお店を構え、「私たちが作りたいもの」を色分けして作ったというのが始まりです。

沖縄の気質なのか「いろんなことをやりたい」じゃないですけど、バリエーション豊かなのが好きなので、それをブランドでうまく表現できたのかなと感じています。

(※)「やちむん」とは 沖縄の言葉で焼き物のこと

主に販路はどういったところがあるのですか?

コロナになる前は卸販売が3割、実店舗での販売が7割という感じでした。ECもやっていたんですが、本当に微々たるもので。でもコロナ禍になり、実店舗で売上が落ちた分、ECが1店舗分ぐらいの売上になりました。

卸先は、例えばどのようなところがありますか?

実はそれこそ、「わざわざ」さんや「うなぎの寝床」さんにも卸しているんです。話が飛んでしまうんですが、わざわざさんがカラーミーショップさんを使っていたので、私もそうしたという経緯もあるんですよ。

そういうつながりがあったんですね!後ほどそのお話も伺わせてください。

観光客が激減するもネットショップの売上は4倍に

販路のお話にもありましたが、コロナの影響はどのようなものがありましたか?

緊急事態宣言の間はお店を閉めていたので、2020年の4月・5月は実店舗の売上が8割減くらいで、1年間のトータルでいうと3割減という感じでした。

お客さまの8割くらいが観光の方だったので、実店舗がすごい大打撃を受けてしまって。陶芸体験も結構メインでやっていたのですが、半減してしまいました。

観光客が多い分、やはり影響は大きかったんですね。

はい。あと、私たちは主にはシーサーと器を作っていたんですが、シーサーの需要は7~8割ぐらいがお土産用なので、コロナになってほとんど売れなくなってしまいました。

その結果、シーサーを作っていた職人さんたちが技術を持て余してしまったので、実は今シーサーに代わるオブジェをイラストレーターの方と一緒に開発しているんです。予定では6月に鳥のオブジェを販売する予定です。

シーサーの代わりとして制作中の鳥のオブジェ

鳥のオブジェ、楽しみです!逆にコロナでネットショップの売上はどうでしたか?

平均で3~4倍伸びていて、本当に多いときは8倍くらいになった月もあります。

成功の理由は訪問者を増やすためSNSなどで発信し続けたこと

コロナ禍でネットショップの売上がアップした理由を教えてください。

やはりネットショップに注力したのが理由だと思います。SNSも積極的に活用しました。同じ商品でも季節やシーンごとにアプローチを変えてみたり、イベント企画をやったりしました。

店舗は何もしなくても来てもらえる環境だったのですが、ネットショップは私たちが何かを発信しないと来ていただけないので、来店を促す仕組みや仕掛けを考えて実行したことが、反映されたのかなと。

たしかに写真もすごくきれいですよね。社内で撮影されているんですか?

写真はほぼ義理の妹が撮っています。自分たちのブランドが4種類あるので、「白っぽく」とか「黒っぽく」とか、そのブランドごとに合ったテイストの写真になるように、他のお店の写真を見ながら日々研究しています。

ネットショップって、実際よりも商品の魅力を伝えやすい場合もあるんです。もちろん実際の器が美しいことが前提なんですが、写真1枚で器たちの魅力を最大限に引き出すことができると感じています。しかも売上を見ればよかったのかどうかわかりやすいので、写真を撮るなどの作業は大変なんですが、同時に楽しくもあります。

SNSもブランドごとに運営されているんですね。

私と義理の妹の2人ですべてやっています。2020年、コロナ禍になったときにSNSに力を入れたら、そこでフォロワーさんが一気に増えたんですよ。

すごいですね。具体的にどんなことをされたんですか?

まず更新の頻度を上げて、YouTubeなどもちょっとやりました。でもInstagram広告の活用をしたことが一番大きいかなと思います。

県から助成金が出たので、いつもよりも3~4倍くらいの広告料をかけました。1年間でフォロワーさんが、2800人から7000人くらいになったので、一定の効果がありました。

ネットショップのきっかけはリピーターさんのため

ネットショップを始めたきっかけは何ですか?

観光で来て購入してくれたお客さまから「もう一度購入したい」という、お電話やメールでの問い合わせが多かったんです。そのたびに写真を撮って送って……とその作業がすごく大変だったので、2018年くらいに一応ある程度の商品を網羅したネットショップをやろうとなったのがきっかけです。

カラーミーショップを選んでいただいた理由でもある、わざわざさんとのお話を伺えますか?

もともと知り合いだったうなぎの寝床さんの白水さんが、わざわざの平田さんとお知り合いだったことで、わざわざさんを知りました。それから、わざわざさんに興味を持ったので1回、実際の店舗にお買い物に行ったんです。

そこで義理の妹がピンクのもんぺを手に取って見ていたら、平田さんが接客してくださって……それをきっかけに沖縄旅行の際に店舗に遊びに来てくださったりプライベートで交流していた流れで、わざわざさんに卸すようになりました。

ピンクのもんぺがきっかけなんですね、素敵なお話です!
ネットショップを始められた実際の感想を教えてください。

まずは業務が楽になりました。リピーターさんからの問い合わせの対応で作業に集中できていなかったので、効率が良くなりましたね。

始めた当初は、実際の商品を手に取らないで購入するので「思っていたものと違います」といった返品が多いと覚悟していましたが、ほぼありません。たまにあっても、きちんと説明すれば納得してくださるので安心しました。

実は3年前くらいまでは「手に触れてないのに買うって……」と私もネットショップ否定派だったんですけど、今は自分もネットですごい買ってます、笑。
それぐらいネットの情報が信頼できるようになってきているし、見せ方や伝え方が良ければ、実店舗と同じぐらいの効果があるんだなと今は思っています。

家族や仲間と一緒に作ってきた育陶園

ちなみに、若菜さんもやちむんを作られるんですか?

いえ、今私は経営のほうだけです。もともと育陶園への入社も決まっていなかったのですが、あるとき父が手術をして1年ほど仕事を休むことになって。それで育陶園を経営していた母をサポートするために20年ほど前に入社しました。

その入社当時は少しだけ作っていたんですが、同じ時期に入った今の工房長の作品と比較して、自分はあまり作るのに向いてないと思ったので辞めました、笑。

私には弟が2人いますので、製造に関しては作るのが上手い長男が担当し、営業は次男に任せています。私は経営など、裏方で地味なことをやるほうが好きなんです。

3人でタッグを組まれている感じがすごくしますね。

代表取締役は私ですが、1人で背負うというよりかは、兄弟も同じくらい責任をもって会社にかかわっています。何かあったらすぐに頼れるような仕組みにしているので、心強いです。

また、経営者としての今の私があるのも入社時から一緒にやってきた同世代の仲間がいるからです。工房長はじめとする彼女たちがいろいろな意見をくれて、必死にそれに対応してきた結果、今、経営者としてやっていけているのだと思います。

ご家族や同僚の方と経営されることは素敵ですね!ゆくゆくは息子さんも継いでくれたらうれしいですね。

そうですね、家族で育陶園をやっているのは「楽しいから一緒にやっている」というのが理由なので、息子も一緒に楽しい仕事をできたらいいなとは思います。

今はまだ2歳なので、器を割られてばかりですが、笑。

「新しいことが好き」な沖縄の気質が目指す今後と守る伝統

ネットショップや喫茶店など、新しいことに挑戦され続けている育陶園さまが守るべき伝統とは何でしょうか。

やはり「壺屋」という先祖から受け継いだ自分たちの土地でやることにこだわっています。市街地ですごく大変な場所ではあるんですけど、この地でやり続けるというのが自分の中では育陶園の守る伝統の1つだと思います。

最近、他の産地と同様に沖縄での原材料の確保が難しくなってきているので、原材料沖縄100%を維持できるかは言い切れません。ですが新しいことをやりつつも、この「場所」で「受け継いできた技術を生かして」「人の手で作る」ということを守り続けていきたいです。

また、私たちの一番の想いが「沖縄の景色をつくりたい」ということです。もし今後、民泊や飲食などのお店を展開したとしても、「沖縄の景色」に通ずるような景観づくりをお店で体現して、変わりつつある沖縄の中でも、ここ壺屋で昔ながらの沖縄の景色を守りたいと思います。

今後ネットショップを通しての目標はありますか?

動画などネットショップ内のコンテンツを楽しいものにして、もっと魅力的なものにしていきながら、そこから見た人がリアルでも買い物ができるし、もちろんネットでもできるというように、リアルとネットをもっと融合できるような仕組みにしたいですね。

最後に、まだネットショップに算入されてない国内の窯元さんにアドバイスをいただけますか?

ネットショップを始めることは、自分たちの商品についてしっかり考えるきっかけになると思います。実店舗だと口頭で説明すればいいんですが、ネットショップは自分たちで情報を入力しなければなりません。

手間はかかりますが、カタログを作るような感じで整理整頓できるので、1つ1つの商品を見直す機会になります。それをどう伝えていくかも考えるので、同じ器でもいろんな見せ方や伝え方があるということに気づけます。そういった意味で自分たちにとっても、すごく学びの場になると私は感じているのでおすすめです。

今日はありがとうございました!

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