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お寺の「ある」と社会の「ない」をつなげる。おそなえもので子どもの貧困問題の解決を目指す「おてらおやつクラブ」

お寺のおそなえものをさまざまな事情で困りごとを抱える子どもたちに届ける「おてらおやつクラブ」という活動があります。一人のお坊さんから始まったこの活動は、今や全国1,732ヵ寺に広がりました。(2021年12月現在)おてらおやつクラブは、なぜこれほどまでに広がったのでしょうか? その成り立ちや「助けて」の声にとことん寄り添う仕組みについて、林昌寺(愛知県春日井市)副住職、認定NPO法人おてらおやつクラブ理事の野田 芳樹さんにお話を伺いました。

お寺のおそなえものを仏さまからのおさがりとして、経済的に困難な状況にあるひとり親家庭におすそわけをしている認定NPO法人。お寺の「ある」と社会の「ない」をつなげる仕組みは、2018年にグッドデザイン大賞を受賞しました。

物を通して心を届ける

おてらおやつクラブの活動について教えてください。

おてらおやつクラブは子どもの貧困問題の解決を目指す認定NPO法人です。
お寺では日ごろの法事やお盆・お彼岸のときなどに、檀家さまや地域の方からおそなえをお預かりすることがよくあります。おそなえは、お寺の住職がいただいたり、お客さんにお出ししたりしますが、時に無駄にしてしまうという課題を抱えるお寺もあります。一方で、社会では子どもの7人に1人が貧困状態にあると言われています。(厚生労働省 2019年国民生活基礎調査より)特にひとり親家庭は、生活に困窮するリスクが高いのです。

お寺におそなえものがたくさん「ある」という状況と、その日一日食べる物も「ない」という社会の状況。双方の課題を繋ぐことで、両方を解決できるアイデアとして始まったのが、おてらおやつクラブという活動です。お寺のおそなえものをおさがりとして困っているひとり親家庭へとおすそわけしていく。「おそなえ」「おさがり」「おすそわけ」がキーワードとなっています。

活動が始まったきっかけはどういったものですか?

始めたのは松島靖朗というお坊さんです。おてらおやつクラブの代表であり、奈良県田原本町にある安養寺という浄土宗のお寺の住職でもあります。

安養寺でも先ほど申し上げたような課題を抱えていて、どうにかしたいと思っていたそうです。そんな矢先、2013年に大阪で起きたのが母子餓死事件です。飽食の時代と呼ばれるこの日本で、シングルマザーのお母さんとお子さんが餓死をした事件は大きな波紋を呼びました。二人の遺体の側には、お母さんからお子さんに宛てて書かれた一枚のメモがあったそうです。「最後におなかいっぱい食べさせてあげたかった、ごめんね」と書いてあったそうで、お母さんの無念が伝わってくるようなやるせない言葉ですよね。この事件がきっかけとなり、おてらおやつクラブの活動へと繋がっていきました。

認定NPO法人おてらおやつクラブ理事 野田芳樹さん

最初は松島一人の個人的な活動として、ひとり親家庭の支援団体におすそわけをしていました。お寺のおそなえは無駄にならないし、困っている人たちにも喜んでもらえている。いいことをしていると自負していたある日、団体の方から「まだまだ足りてないんです」と言われて衝撃を受けたそうです。蓋を開けてみたら、思っていたよりも子どもの貧困問題は深刻だったんです。

現状を知ったからには、もっともっと活動を広げる必要がある。そうは言っても、一人でできることには限りがあります。そのとき、「お寺は全国にあるじゃないか!」と考えついたそうです。お寺は全国に7万ヵ寺以上あると言われています。協力を要請していけば、うちと同じような課題を抱えているお寺がきっとあるはずだから、この仕組みは拡大する余地があると。最初のうちは知り合いのお坊さん、修行時代の同期などに声を声を掛けて、少しずつ賛同してくれる人を増やしていきました。

母子餓死事件は初めて知りましたが、今の時代に起きたこととは信じられない事件ですね。

貧困には二種類あると言われていて、一つが「絶対的貧困」、もう一つは「相対的貧困」です。絶対的貧困は着る物も住む家もなくてガリガリに痩せ細っている、「貧困」と聞いて多くの方がイメージする状態です。

日本の貧困の多くは、相対的貧困です。平たく言えば、三食満足に食べられないとか、誕生日やクリスマスなどのお祝いができないとか、世間一般に「当たり前」と思われている生活が当たり前にできない状態をイメージしていただけると分かりやすいかなと思います。

子ども食堂の利用であったり、最近はコロナの影響で医療を受けられない方がいるとニュースで見ました。

確かに、医療が受けられないこともそうですね。相対的貧困には厄介な特徴があって、絶対的貧困のように見れば分かる状態と違って、非常に気づかれにくいんです。逆に言うと、当事者の方は「助けて」と声を上げづらく、誰にも相談できず孤立してしまうことが増えています。

先ほどの​​母子餓死事件、一部報道によると、亡くなったお母さんはDVを受けていたといいます。夫から身を隠して孤立を深めていった結果、お金がなくて食べる物がないという状態になっても、誰にも相談できずに亡くなっていかざるをえなかった。
「貧困」は貧しくて困ると書きます。貧というのは経済的な貧しさのこと。では、どうして困る状況になるかというと、誰にもヘルプが出せない「孤立」という問題が大きく関係していると考えます。

そういったわけで僕たちは、食べ物の支援を通して「誰かがあなたのことを気にかけていますよ、困ったときは助けてと声を上げていいんですよ」というメッセージを届ける、「物を通して心を届ける」活動をしています。

おてらおやつクラブの仕組み

現在、おてらおやつクラブに賛同されている寺院の数を教えてください。

宗派関係なく全国1,732ヵ寺が関わってくれています。

宗派を超えて一つの活動をすることは難しくないのですか?

「子どもの貧困問題を解決する」という課題が真っ先にあるので、宗派が違うことはまったく気にしていません。問題を解決したいと願って集まった人たちが、たまたまいろいろな教えをいただいていたというふうに思っています。

だからこそ、活動がより広がるのでしょうね。おそなえはどのようにして各家庭へ届けられているんですか?

まずは全国のお寺さんと、子どもをサポートする支援団体さんに、おてらおやつクラブに登録してもらいます。参加寺院と支援団体をマッチングし、各お寺のペースで「おすそわけ」をお送りいただきます。支援団体に配達されたおそなえは、団体を通じて各ご家庭に届けられます。

このように、お寺は「後方支援」の立ち位置にあります。

各ご家庭が抱える困りごとは千差万別。専門性をもった支援団体と繋がることで、それぞれの家庭の課題が解決されやすくなりますし、お寺側も安心して活動を続けられます。

ただ、近ごろは活動の周知にともなって、ひとり親のご家庭から「私たちも支援してほしい」という声が事務局に多く寄せられています。現在、私たちが支援させていただいているご家庭は3,708世帯(2021年11月現在)。支援世帯が増えれば、抱える困りごとの内容も多様になり、時に適切な支援団体や制度をご紹介できないことも。そこで現在は「直接支援」も行っています。直接支援というのは、何らかの理由で支援団体や行政の支援制度に繋がれないご家庭にお寺から直接食品や日用品を届けて、自立まで伴走させていただくという支援の形です。

かなりの世帯数ですね。やはりコロナの影響もありましたか?

昨年の2月に学校の一斉休校が宣言された直後から、問い合わせがどっときました。コロナ禍で支援世帯数は一気に増えて、2020年3月時点の直接支援の数は351世帯でしたが、現在は3,708世帯と10倍以上になっています。

10倍以上の支援要請に応えるのは大変かと思いますが、支援する際に基準のようなものはありますか?

条件は3つあります。一つはひとり親家庭であること。もう一つは18歳未満のお子さんと同居されていること。もう一つは経済的に困っていること。厳密な線引きを設けてはおらず、「助けて」と声が上がればできる限り迅速に「おすそわけ」をお送りしています。

具体的な線引きを設けないのはなぜですか?

寄せられた声で多いのは、行政の支援制度に頼ろうとしたけれど、条件が合わなくて断られたとか、給付金の支給が数週間後になってしまうというお話です。また、そもそも窓口に行きたくても、知り合いが市役所で働いているので行けないという声もありました。
これまで支援したなかには、もしかしたら本当には困っていない方がいたかもしれません。しかし、実際に困りごとを抱えていて、その日食べるものもないという方が圧倒的に多いんです。ですので、支援要請から3日以内にはおすそわけをお送りするようにしています。困りごとを抱えたときに「助けて」と言っていい場所があるんだと、まずは安心していただくためです。

おてらおやつクラブのウェブサイトでは、ひとり親家庭から寄せられた「声」を毎月掲載していますので、そちらを見ていたければ、どういった困りごとを抱えた方がおられるのかがわかるかなと思います。

家庭からのお礼のお手紙

長引くコロナ禍への不安を抱える方が多いのですね…。困りごとを抱えたときは、どこから申し込みをすればいいですか?

専用のLINEがありますので、友だち追加をしていただくと、申し込みフォームに繋がるようになっています。

LINEならメールより声を上げるハードルも下がりそうです。
ちなみに、これまで行っていなかった直接支援を始めたことで、先ほどおっしゃっていた訪問や電話など、お寺で抱えきれなくなるようなことは起きていないのでしょうか?

当初は事務局がある安養寺だけで行っていましたが、1ヵ寺では賄えない量になってきたので、現在は手をあげてくれた各地のお寺に分散して担ってもらっています。

おてらおやつクラブはヤマト運輸さんと連携しており、匿名配送のシステムを一緒につくりました。おてらおやつクラブに参加しているご寺院には「マイページ」が発行されるのですが、そこから集荷をかけてもらうことでヤマト運輸さんが取りに来てくださいます。お互いの個人情報を明かさない形で「おすそわけ」することで、トラブルを回避する仕組みを整えているので、お寺さんにもご家庭にも安心していただいています。

どこから発送されたかはわからないけれど、おてらおやつクラブから届いたのはわかるということですね。

そうです。ひとり親のお母さん・お父さんのなかには、人に支援を求めることにうしろめたさを感じていたり、恥ずかしさを感じる方もいます。そのため直接支援では、そうした心情に配慮し、顔が見えないからこそ「助けて」と声があげやすくなるよさを大切にしています。

お寺に負担がかかりすぎることもなく、自分の居場所を知られたくない方にも温かい、素晴らしい仕組みですね。

ありがとうございます。家庭の情報が分からないとなると、お子さんが何人いるかもわからないし、男の子なのか女の子なのかもわからない。想像力を働かせて箱詰めするしかないので、せめて何歳ぐらいの子が何人いるかだけは教えて欲しいという声もあります。それをどう解決していくか、今いろいろ話し合っているところです。

こういった仕組みは、みなさんで話し合ってつくるのですか?

そうですね。月に2回リーダーミーティングがあり、各部門のリーダーが今抱えている課題や考えていることを共有しています。それ以外にも、ちょっとした困りごとがあればZoomを使ったり、Slackのハドルを使って解決しています。

かなりIT化されていますね! ヤマト運輸さんとの連携など、表からは見えないシステムのお話にも驚くことがたくさんありました。

おてらおやつクラブはNPOということもあり、いろいろな方からの支えをいただいて成り立っています。ヤマト運輸さんは何度も集荷に来ていただくなかで活動を知ってくださったようで「何か協力できることはないですか?」とお声がけをいただきました。

他にも、さまざまな企業さんがお菓子や日用品、レトルト食品などの寄贈やご寄付、ボランティア、寄付つき商品の販売など各企業の特色を活かしてご協力いただいています。

この話をすると、一般の方がひるんでしまうこともあるのですが、僕は量の多い少ないは関係ないと思っています。多ければ多いほど支援できる規模は広がりはしますが、個人の方からのチョコレート1個でも、心を寄せてくださるということがありがたいです。社会の課題を知ったときに、まずは「自分には何ができるだろう?」と考えることが大切だと思います。その上で、それぞれができることをできるだけ継続的に実行していくことが、課題解決の大きな力になります。

たよってうれしい、たよられてうれしい

ここで、それにまつわる僕のエピソードを1つご紹介できたらと思います。
うちのお寺でもボランティアさんを募って月1で配送作業をしています。近所のお母さんが子どもさんと一緒に来てくれることが多いのですが、お母さんたちが作業をしているあいだ、子どもさんたちは本堂で鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたりして遊んでいるんです。折に触れて「おてらおやつクラブという活動があって、困っている人たちにおすそわけしているんだよ」という話はしていたのですが、相変わらず子どもたちは遊んでいる、でもそれはそれでいいと思っていたんですね。リアリティをもって考えるのは難しいだろうと。

林昌寺の配送作業の様子

おてらおやつクラブでは、困窮度が高まりやすい夏休みや冬休みなどの長期休暇の前に、つながりのあるひとり親世帯へ連絡を取ります。給食が出ないからお昼ご飯代がかさんだり、家にいらっしゃるので光熱費がかさんだりしますので、希望を募って臨時でおすそわけをしているんです。その量が回を重ねるごとに増えていて、2021年の夏休み前には約1,000世帯から支援要請がありました。このおすそわけの中には、できる限り各箱に2kgほどのお米を入れるようにしているんですね。
今年の夏休みの前にも希望を募って、うちのお寺からは50箱を出すことになりました。50箱分のお米というと、2×50で100kgのお米が必要になります。残念ながらうちにはそんな量のお米がないので、ボランティアさんにも余裕があれば寄贈して欲しいとか、知り合いの農家さんを紹介して欲しいというお願いをしたんです。

そうしたところ、いつもボランティアに来てくれるお子さんの一人が、お母さんと一緒にお米を持ってお寺に来てくれたんです。「それどうしたの?」と聞くと、「お米がいるって言ってたじゃん」と。自分のお小遣いを使って買ってきてくれたそうなんです。「困っている人たちに渡してあげてね」という言葉とともにお米を預けてくれ、涙が出るほど嬉しかったですね。

1,000世帯ぶんというと、お米は2t必要です。2tのうちの2kgというのは、ごくごくわずかな量ですよね。でもそのお米は、僕にとってとても重たく感じられました。その子の思いやりが詰まっていることに加え、その気持ちをしっかりつないでいかねばならないという責任感の重みもあるから、そう感じたのでしょうね。量の多寡は関係ないと思ったのは、こういったことがあったからです。

後日、お母さんから「かねてから何か自分でもできることをしたいと思っていたようで、寄贈できたことが嬉しかったみたいです」と聞いて、日ごろ鬼ごっこばかりしていた子がそんなふうに思ってくれていたことを知りましたし、寄贈することがその子にとっての喜びに変わるというのはすごいことだと思いました。他の支援者の方からも「支援させていただいて、ありがとうございます」という声をいただくことがあります。

頼られると嬉しい人がいると知って、頼りやすくなる人もきっといますよね。

おっしゃる通りです。頼られる側も実は嬉しいんだと知ってもらうことで、声を上げやすくすることが大事です。「助けて」と「助けたい」の声が両方届くおてらおやつクラブが目指すのは、『たよってうれしい、たよられてうれしい』社会です。今まで孤立を抱え悩んでいたお母さん・お父さんや子どもが「助けて」と声をあげたことで誰かとのつながりが生まれ、安心感を得られる。他方、困っている人を助け頼られることが、その人にとっての喜びにつながる。僕だって今はたまたま支える側にいますが、何か起きれば支援される側にまわるかもしれません。どうなるかわからない未来を生きるなかで、困ったときに気兼ねなく「助けて」と声を上げられる社会をつくりたいと思っています。

私たちにできることは?

お寺に関係のない私でも、おやつクラブさんにご協力できることはありますか?

ウェブサイトに「支援する」というところがあります。こちらで、お寺以外の方の「関わりしろ」をご提示しています。

寄付する」というのが一番わかりやすく、こちらとしても非常にありがたいところです。また、お子さんにお菓子を食べさせてあげたいという方は「おやつ・食品送る」というところを選んで、事務局に現物で寄贈してくださることが多いです。
あとは、株式会社バリューブックスさんに協力していただいた「古本を送る」という仕組みがあります。古本をバリューブックさんが受け取って、査定額をおてらおやつクラブに振り込んでいただくというものです。

また、現在はガバメントクラウドファンディングという、ふるさと納税の仕組みを利用した寄附も募っています。おてらおやつクラブの本拠地である奈良県田原本町とその北側にある天理市と連携し、ふるさと納税の寄付金をおてらおやつクラブに預けていただく形になります。

▼奈良県田原本町
https://www.furusato-tax.jp/gcf/1466

▼奈良県天理市
https://www.furusato-tax.jp/gcf/1469

さまざまな関わり方から、それぞれができることを選べるのですね。
ぜひ、ご協力させていただきたいと思います。

あとがき

「子どもの7人に1人が貧困状態にある」
ニュースで深刻なデータを目にしても、身近な問題として想像するのが難しい方も多いのではないでしょうか。私もその一人でしたが、今回お話を伺い、身近で困っている子どもに自分が気づいていないだけのではないかと感じました。

困りごとを抱えている方、誰かの助けになりたい方は、おてらおやつクラブのサイトを訪れてみてください。

おてらおやつクラブの公式サイトはこちら