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より多くの人に高品質なコーヒーを届けたい。たった一杯で幸せになる「猿田彦珈琲」のEC戦略

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
「たった一杯で幸せになるコーヒー屋」をコンセプトに掲げる、東京・恵比寿発のスペシャルティコーヒー専門店。買いやすさへのこだわりを感じさせるショップ作りに注目が集まり、「カラーミーショップ大賞2022」では優秀賞を受賞しました。今回はEC企画・運営を担当する堀 智美さん、スタッフ育成やメルマガ執筆を担当する村澤 智之さんのお二人に、日頃のネットショップ運営について伺いました。

村澤さん(写真左)、堀さん(写真右)

初心者からマニアまで幅広く楽しめる商品展開

はじめに、現在のネットショップ運営体制について教えてください。

堀さん
企画運営は私ともう1名で行っていまして、コーヒー豆の挽きなどを行うスタッフ2名と合わせて計4名体制ですね。掲載用写真の加工やバナー作成は、別部署のメンバーが対応しています。以前は村澤もネットショップを担当していましたが、この春からスタッフ育成業務に移ったので、現在はメルマガ執筆をお願いしています。
出荷作業については、受注数が最近かなり増えてきたので2021年末ごろから外部に委託させてもらっています。

猿田彦珈琲さんでは2013年ごろからカラーミーショップをお使いいただいていますが、モール出店ではなく自社でネットショップを立ち上げたのはなぜでしょうか。

堀さん
デザインにしても商品構成にしても、モールでは自分たちの色が出しにくかったからだと思います。今でもたまにお声がけはいただくのですが、ブランディングのコントロールが難しく、どうしても価格競争に巻き込まれやすいといった面もあるので、自社だけでショップ運営をやっていこうという判断ですね。

なるほど。ネットショップではどういったお客さまが多いですか。

堀さん
年齢層はかなり幅広く、若い方からご年配の方までいらっしゃいます。地域でいうと北海道や九州など、実店舗がまだ進出していないエリアからのご注文も多くいただきます。

村澤さん
男女比は6:4くらいで、若干男性のほうが多いですね。

堀さん
私自身、もともと実店舗でも接客をしていたのですが、男性のほうが豆やツールを集めたりと、コーヒーにとことんハマりやすい傾向を感じる機会が多かったです。

村澤さん
僕自身もその一人です(笑)。

取材前、村澤さん自らコーヒーを入れてくださいました

初心者の方と、中上級者の方ではどちらのお客さまが多いでしょうか。

堀さん
お電話などで直接お客さまとお話しする際は、「初めてなんだけど……」と言いながら購入される方が多いですね。口コミでおいしいって聞いたとか、缶コーヒーのCMで知ったとか、そういったきっかけから入ってこられる方もたくさんいるので、必ずしもコーヒーに詳しい方ばかりではないなと感じます。

村澤さん
弊社では希少性の高いコーヒー豆を多く取り扱っていますが、ドリップバッグやカフェオレベースなど、手軽に本格的なコーヒーを楽しめる商品もご用意しているので、割と間口は広いほうかなと。「ちょっと飲んでみたい」という入り口から、「豆を挽いてみる」や「ハンドドリップをしてみる」といった次のご提案も可能な商品展開になっているので。

どんどんハマっていく方も多そうですね。コーヒーという商材ならではの訴求の工夫や、苦労するポイントはありますか。

村澤さん
……超難しいんですよ(笑)。実店舗なら試飲でもしていただきながら詳しくお話できますが、ネットショップではそうはいかないですよね。なので、いかにイメージしやすい言葉で香りと風味を説明し、コーヒーという飲み物の魅力を伝えられるかが重要だと思っています。特に定番商品のブレンドは、弊社のブランディングも含めて商品イメージをお伝えするのも大事ですし。

おいしいコーヒーって結局は畑が出発点。その畑でどんな仕事をされてきたかが味にそのまま影響してくるんですよね。なので「こういう畑で、こういう人が、こういう作り方をしているから、こういう味がします」と、一連の流れでなんとなくイメージしていただけるような言葉選びを重視しています。

嗜好品なので人によって好みがかなり分かれますよね。

堀さん
そうですね。産地ごとの味の特徴とか、ここ数年で少しずつ一般的にも知られつつあるとは思いますが、さらにその奥を知りたい方もたくさんいらっしゃって。その点、村澤はマニアと呼べるくらい詳しい人間なので、その知識を活かしてメルマガで情報発信してもらっています。「初めて知る情報」はコーヒーが大好きなユーザーにすごく刺さるので、ぜひそういう内容を書いてほしいと。

村澤さん、社内で一番コーヒーに詳しいんですか?

村澤さん
1位か2位くらいです(笑)。

もともとは焙煎士(ロースター)だったそうです

数撃ちゃ当たる施策より、自社のファンを大切にする施策を

メルマガは週にどれくらい配信していますか。

村澤さん
基本的には週1回です。新商品発売のタイミングで送ったり、連休に合わせて送ったりもするので月平均6回くらいになるかな。メインは商品紹介ですが、何かちょっと心にひっかかるようなおもしろい話とか、コーヒーが好きになれる話を加えて配信しています。

最近はSNSや動画での販促施策がポピュラーになってきている中、猿田彦珈琲さんがメルマガを大切にされているのはなぜでしょうか。

村澤さん
ネットショップの売上を分析してみたとき、メルマガ経由でのコンバージョン(商品購入)が非常に多いことに気付いたのがきっかけです。それって僕らのコーヒーをを好きな人たちがメルマガを読んでくれているからかなって。変に「数撃ちゃ当たる」キャンペーンをお金かけてやっていくよりも、まずは僕らのことを好きな人、僕らのことを好きになってくれるお客さまを大切に増やせたらと思いました。
2020年に行った「メルマガ登録キャンペーン」も、そんなシンプルな発想から生まれた企画です。メルマガを購読してもらえたら商品購入時にちょっとしたプレゼントをお付けしますと謳ったところ、約1ヶ月間の実施で500人くらい購読者が増えました。

すごい伸びですね。

村澤さん
ちなみに、僕がECの企画・運営に加わった当初、ネットショップの売上比率は自宅用よりもギフト用のほうが若干重めでした。もちろんそれは悪いことじゃないんですけど、“ギフトが売れてる=ギフトをもっと増やす”という発想には違和感があって。「うちはギフト屋じゃなくてコーヒー屋なんだから、もっとコーヒーを売ろうよ」と言ったのが最初の仕事でした。

メルマガを読んで、自宅で飲みたいという方は増えましたか。

村澤さん
そうですね。新しい豆を発売したからといって皆さんすぐには気付かないので、メルマガを通じて「こんなの出ましたよ」とお知らせするだけでもだいぶ違います。100gで1,000円以上するようなコーヒーなんて、それこそ好きな人に飲んでもらってナンボですから、「見逃さないでね~」「もうすぐ無くなっちゃうよ~」と(笑)。

あとで買おうと思っても忘れがちですからね……! 村澤さんがメルマガを書く上でのこだわりポイントはありますか。

村澤さん
書こうと思えばいくらでも書けちゃうんで、あんまり余計なことはしゃべらないようにしてます。

堀さん
それでも、たまに文章が長すぎるんです……。

村澤さん
社内からも「長い!」ってクレームが入ります(笑)。でも、100gで何千円もする豆の説明を10行くらいで終わらせちゃったらアッサリしすぎでしょ。お客さまも「なんでこんなに高いんだよ」と思うじゃないですか。

(笑)たしかにそうですね。熱量が伝わったほうが価格に納得できそう。

堀さん
長いメルマガが届いたときは、村澤の好きな豆だと思ってください(笑)。

コロナ禍によるネットショップの変化

コロナ禍で売上に変化はありましたか。

村澤さん
実店舗は休業を余儀なくされた時期もありましたが、ネットショップは大きく伸びましたね。
自宅で過ごす時間が多くなり、家事やテレワークの合間にコーヒーを楽しむ方が増えてきている中、うちにはお手頃価格でたくさん入ってる商品がまだないことに気付きました。そこでコーヒー豆の製造部隊と相談し、「巣ごもりブレンド」っていう商品を新しく作ったんです。

堀さん
猿田彦珈琲ならではの、おいしい上にお求めやすく、たくさん入っていてお得なものを作りたかったんですよね。

村澤さん
これは自宅での需要があるんじゃないかと思って作ったものなので、かなり印象深い商品ですね。

最近は、社内でもネットショップを見る目が変わってきたのを感じます。コロナ禍をきっかけに売上を伸ばしたことで「こんなに売れてるんだ」と。それからは、たとえば数量限定の商品があるときも「ネットショップではどれくらい売れそう?」とお伺いが立つようになったんですよね。

堀さん
製造の段階で「これくらい売ります」と言えるようになったのはいい変化でしたね。数量を確保できるってことは、お客さまにアプローチもしやすくなるので。商品ページやメルマガでも少しずつ表現の幅が広がってきたと思います。

一人の猿田彦ファンとして、真摯にお客さまと向き合う

「たった一杯で幸せになるコーヒー屋」というコンセプトを掲げる中、猿田彦珈琲さんが日頃のネットショップ運営で心がけていることはありますか。

堀さん
一人一人のお客さまに向き合うことこそが私たちの猿田彦精神なので、どんなにお客さまの数が増えてもそこだけは曲げずにいたいですね。なので備考欄に何か一言でもご要望が書かれていれば極力お応えするようにしています。
たとえば「手提げ袋をつけてください」というコメントがあれば、どのサイズをご希望なのか返信で確認したり、運送会社を変えてほしいという場合はその対応とかも。うちのコーヒーを届けることで皆さんにハッピーになってもらうには、やはりお客さまへの細やかな対応は必須なので、日々の受注処理の中でも特に大切にしています。

堀さんは以前実店舗の店長だったと聞きましたが、店舗勤務での経験もEC業務に生きているのでしょうか。

堀さん
お店に勤めていたからというよりは、私自身もともと猿田彦珈琲のファンだったので、その経験が生きていますね。最初は、2~3回通っただけで顔を覚えてフランクに話しかけてくれる個性的な接客スタイルに衝撃を受けて。おもしろいお店だなと思って通い続けるうちに、他のスタッフさんもよく頼むメニューまで覚えてくれたから、今度は友達を連れて行きたくなったりして。

私たちが真摯に対応すれば相手にもそれが伝わることは、自分もお客さんだったからこそ知っていますし、届いたあとに「きれいな包装で嬉しかったです」とご連絡いただいたりすると本当に嬉しいです。注文が殺到したときは対応件数の多さに泣きそうになることもありますが(笑)、お客さまから温かい言葉をいただくたびに「やってよかった」と心から思えますね。

村澤さん
毎朝出勤したとき、注文が100件あろうが300件あろうが僕らは一件一件全部見てますよ。見ていないとわからないことってどうしても多いですからね。備考欄はもちろん、細部に表れるお客さまの気持ちをどこでどう拾い上げるかがショップ運営には重要なんじゃないかなと思います。

最後に、猿田彦珈琲さんのネットショップにおける今後の展開についてお聞かせください。

堀さん
ここ数年でネットショップのお客さまが増え、店舗のないエリアの方からも「おいしい」と嬉しい感想をいただくことも多くなってきたので、やはり「もっと届ける」というのが今後の課題であり目標かなと思います。

村澤さん
最近は地方の百貨店さんに呼んでいただくこともあって、そこからネットショップのお客さまになってくれる方もいます。九州エリアはそれでかなり定着してきましたね。

僕はこの春からECの部署を離れましたが、いい意味で変わらないことも大切にしたいです。高品質のコーヒーを今この運営規模でお届けできている会社って、実は国内ではそんなに多くありません。おいしいコーヒーをどれだけ多くのお客さまにお届けできるか、その中で自分がどれだけお役に立てるか。今の僕にできることを突き詰めたいです。

今日はすてきなお話をありがとうございました!