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自分が今できることを。ねぶた師 北村麻子さんに聞くwithコロナ時代のネットショップ運営

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
ねぶた師北村 麻子さんのネットショップ。自宅でねぶた作りが体験できる制作キットを販売。
《北村 麻子さんプロフィール》
ねぶた師史上初の女性ねぶた師。父親である六代目ねぶた名人の北村隆氏に師事。2012年、デビュー作「琢鹿の戦い」で優秀制作者賞を受賞、注目を集める。

2020年、300年以上の歴史をもつ青森ねぶた祭は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて戦後初の中止となりました。今回はねぶた師の北村麻子さんに、かつてない事態のなか、ねぶた師としてネットショップを開設した理由や現状についてお伺いしました。

前代未聞のねぶた祭中止

今年はコロナウイルスの影響でねぶた祭が中止になってしまいました。北村さんに連絡が来たのはいつごろでしたか?

3月の下旬か4月の頭くらいだったと思います。

お聞きになったときは、どう思われましたか?

最初聞いたときはもう、ショックという一言では済まされないような衝撃を受けましたね。その後、1ヶ月くらいは何も手につかないような感じでした。

今年もねぶた制作がすでに始まっていたんですよね。

去年のお祭が終わってすぐの9月から構想は考え始めるので、ほとんどできていました。あとは組み立てるだけっていう状態でまさかの中止でしたね。

お祭りを楽しむ側の私でさえ驚きました。実際に作られている方からするとものすごい衝撃だったと思います。

そうですね。制作する人の1年は、ねぶたを中心に回ってるんです。ねぶたが終わるとすぐ翌年の祭の準備を始めて、っていう。私自身は9年目ですけども父もねぶた師なので、生まれてからずっとこのサイクルのなかで生きてきたんです。そのねぶたがなくなるということは、ちょっと考えられないというか……。今年はどういうふうに生活していけばいいんだろうと、途方に暮れましたね。

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すでに耳に入っている方も方もいらっしゃると思いますが、今年の青森ねぶた祭は中止となりました。 ねぶたを愛してくださるみなさまにとって、残念の一言では済まされない程のショックな出来事ですが、今は人命を守ることが最優先だという事もまた、誰もが理解している事かと思います。 私もとても大きな喪失感やこれからどうなっていくのだろうという不安に襲われておりますが、ねぶた師として、小さな子供を持つ母親として、落ち込んでばかりはいられません。 自分の大切な人を守る為、そして来年は確実にねぶた祭を開催出来るよう、今出来る事、今しか出来ない事を前向きに、やっていきたいと思っています。 みなさん、気持ちを強く持っていきましょうね!! コロナに負けるな!! ラッセーラー!!!! #ねぶた祭中止 #青森ねぶた祭 #コロナに負けるな #ラッセーラー

ねぶた師 北村麻子(@nebuta_asako.kitamura)がシェアした投稿 –

自分が今できること

5月にネットショップをオープンされましたが、ねぶた祭の中止を受けてのことですか?

はい。ちょうど4月、5月の辺りは緊急事態宣言の真っ只中で、ねぶた祭が中止になって、私たちもですけど、青森市民の方たちもすごく大きなショックを受けたと思うんです。外に出られないけど、家にいてもねぶたを感じられるもの、ねぶたに触れられるものを作りたいなと思いました。自分が今できることってそういうことぐらいしかないなと。それで制作キットを作って販売することにしました。

ねぶた制作キットを販売されて反響はありましたか?

おかげさまで、当初の想定よりもすごく反響が大きくて何回も追加販売をしました。Instagramに作った完成品を載せてくださる方もいらっしゃいましたね。

北村さんはYouTubeに作り方の動画も投稿されていますが、そちらも初めての試みですか?

初めてですね。今までは定期的に「ねぶた面制作講習会」という、ねぶた面を作るワークショップを行っていたんです。だけど、今回そういったこともできなくなったので、動画を見れば自宅でもワークショップのように制作できるキットにしました。

動画を拝見して、ねぶたは蝋を塗った部分が光を通すというのを初めて知りました。

ねぶたの一番の特徴は「ロウ書き」だと思うんですよね。他の絵画なりなんなりで同じく墨やポスターカラー、染料などを使うものはありますが、そこに蝋も使うっていうのは、ねぶた独自の技法かなと思います。
蝋ってすごく熱くなっちゃうので、お子さんにはどうかな?という心配もあったんです。
でも、やっぱり本格的なねぶたの工程を体験していただきたくて、今回はお付けしました。

ロウ書きの後に色をつける工程で、ねぶたの表情がすごく変わっていくのが動画を観ていてとても楽しかったです。
キットを購入される方は、どういった層が多いですか?

ほとんどが女性ですね。ただ、ねぶた面に関しては男女半々か、男性の方が多いかなっていう割合です。

県内と県外ではどちらの方が多いですか?

半々ですね。県外の方もかなりいらっしゃいます。

県外の方にも、ねぶたを身近に感じてもらえるきっかけになってるんですね。

そういうふうになってくれれば嬉しいですね。

効率的なネットショップ運営

ネットショップの開設がとても速やかでしたが、カラーミーショップをお選びいただいた理由は何ですか?

実は、ネットショップは私が運営しているわけではないんです。もともとカラーミーショップを使ってネットショップをしていた方に相談して、同じサービスで作っていただきました。

運営管理に会社さまのお名前が書かれていたのはそういうことなんですね。では、注文を受けてからの作業もその方がされてるんですか?

カラーミーショップから受注メールが2人に同時に来て、その方が送り状をプリントアウトして私のところに持ってきてくれるので、私が梱包して発送する流れです。

まさかご本人が発送されているとは思いませんでした…! 確かに、カラーミーショップの操作の方を慣れている方にお任せすることで、ショップ運営に手間取ることなく効率的に商品をお届けできますよね。
今後は、ねぶた制作キット以外にも販売を考えていますか?

そうですね。今まですごく忙しくて、自分のオリジナルグッズを作れていなかったんですけども、ねぶたファンのみなさんから「作って欲しい」という声をたくさんいただいているので、このタイミングでいろいろ制作して、ネットショップでも販売できたらいいなと思っています。

ねぶたができるまで

本来であれば8月の頭、今の時期はちょうどねぶた祭が終わったお休み期間ですか?

そうですね、お休みしている時期です。

その後、9月から来年に向けて活動が始まるんですね。

はい、そうです。

基本的な質問で恐縮なんですが、下絵を描く時間ってどのくらいですか?

絵は描くよりも構想を練る方に時間がかかるんですよ。なので、構想を練るのに2、3ヶ月、実際に描くのは1ヶ月ちょっとです。

2017年「紅葉狩」下絵

平面の下絵からあれだけの大きさの立体に、どうやって頭の中で組み立てるんですか?

下絵の何倍になると実物の大きさになるかっていうのを比例式で割り出して計算するんです。建築物と違ってねぶたは正面からの図面しかないので、側面や後ろの部分は自分の感覚で作ります。

感覚なのですね!? 平面を立体にする大変さ、素人の私には計り知れないものがあります。

2017年「紅葉狩」

ねぶた師と呼ばれる方は現在、何名くらいいらっしゃるんですか?

今、たしか14名だったと思います。

ねぶた師さんと一緒に紙張りをする方は何名くらいですか?

私たちの紙貼りスタッフさんは15人くらいです。

その人数であの大きなものを作ってるんですね。

そうですね。でも紙貼りさんは15名いらっしゃいますけど、色を付けたりとか骨組みをしたりっていうスタッフは常時だと3名ぐらいしかいないんです。3名で骨組み10日間、色つけ2週間ほどであの大きさを全部塗らないといけないので、スピード勝負です。

短い期間なんですね!

そうなんですよ。ねぶたの制作小屋っていうのは仮設テントになるんですけど、4月の下旬に建つんです。7月の中旬には「台上げ」と言って、完成したねぶたを台に上げる準備をするので、2ヶ月ちょっとの間で仕上げます。私たちの場合は父が3台、私が1台持っているので、2ヶ月半で4台を仕上げないとだめなので本当にスピード勝負です。

すごいですね。もっとじっくり作業する時間があると思っていました。
まだ未確定な部分がすごく多いとは思うんですが、来年に向けての準備は9月から始めるんですか?

今回は年が明けてからにしようかなと思っています。

その際は依頼主さまと相談して、どういったものを作るか決めていくんですか?

基本的にねぶたっていうのは、一度依頼を受けたらその人がずっと制作をしていく形なんです。
その団体と制作者さんにもよりますが、私たちの場合、題材は私に一任されます。なので、相談はせず私の考え1つで制作していきます。

子どもたちに青森ねぶた祭という文化を残してあげたい

そういったシステムなんですね。
北村さんは史上初の女性ねぶた師ということでも注目されていらっしゃいますが、ねぶた制作において、こだわりはありますか?

一番こだわっているのは「前の年と同じような印象のものにしない」ということです。「北村麻子、今年はどうくるんだろう?」という観客のみなさんの期待を上回るものを作って、「こうきたか!」と驚いてもらいたいんです。ねぶたはサプライズ要素がすごく重要だと思います。なので、人が驚くような、思いもしないようなものを作り上げるっていうことには気をつけていますね。

個人的に2016年に作られた「陰陽師、妖怪退治」の猫と子どものねぶたが印象深いです。

2016年「陰陽師、妖怪退治」優秀制作者賞、商工会議所会頭賞

あの猫は「見送り」と言って、ねぶたの後ろの部分なんですけども、女性とお子さんからすごく反響がありましたね。女性は猫の周りにいる子どもたちを「かわいい!」と言ってくださって、お子さんたちはやっぱりあの大きい猫を見て「わあ!猫のねぶただ!」って追いかけてきてくれました。

正面は陰陽師がねぶた特有の勇ましい表情で妖怪を退治している様子が表現されていますよね。素朴な疑問ですが、ねぶたはあの表情で作らないといけないものなんですか?

みなさんがイメージする「ねぶたってこういうもの」っていうのがあると思うんですけど、少しずつ変わってきてますね。昔はやっぱり男性的なものがメインだったんですけれども、最近はだんだんねぶたの中に女性や子どもが取り入れられたりとか。男性のねぶた人形でも、その登場人物によって表情や年齢などにいろんな面が出てきているので。
これからねぶたを見るときに、そういうところも見ていただければおもしろいかなと思います。

なるほど、時代と共に変わってきているんですね。見送りの部分は、私のもっていたねぶたのイメージと違う優しい雰囲気で驚きました。
北村さんにもお子さんがいらっしゃいますが、お子さんの存在はねぶた制作に影響しましたか?

子どもが生まれると生活や考え方が180度変わってしまうのと同様に、ねぶたの制作においてもすごく大きな影響、変化がありました。子どもたちに青森ねぶた祭という文化を残してあげたいという気持ちが生まれましたね。子どもがいなければ、もしかしたら「陰陽師、妖怪退治」も誕生していなかったかもしれないです。

なるほど! 他にも、クリエイティブ面や発想で何か影響を受けているものはありますか?

ガーデニングが趣味なので、植物に触れていろんな花の中の色のグラデーションとか、微妙な色使いっていうのをねぶたの中で表現できないかなって参考にしたりしますね。

確かに、ねぶたも花びらもグラデーションがきれいですよね。お子さんはおいくつですか?

4歳と10ヶ月の2人です。なので、昨年のねぶたはお腹に赤ちゃんがいる状態で制作しました。

なんと! 産休、育休というのは…ないですよね?

そうなんです。私たちはフリーランスなので、子どもが生まれるから休ませてくださいって言ったらもう仕事がなくなっちゃうので。上の子もお腹にいるときにねぶた制作をしていました。

ええっ、けっこう高いところに登ったりしますよね?

そうですね。最初の年はみんな気を使って高いところに登ると「だめだよ」って手伝ってくれたりしたんですけど、2人目はみんな慣れちゃって、ぜんぜん手伝ってくれない(笑)。
バンバン高いところに登って仕事してました。

もともと男性だけで始まった文化というのもあって、女性が合わせていくのは体力的にも大変ですよね。

そうですね。重い材木を扱ったりインパクトドライバーを使ったり、制作の1/3くらいは大工仕事なんですよ。色塗りになっても高いところに足場を組んで上り下りしながらの作業になりますし、やっぱり女性には体力的に一番大変な仕事かなと思いますね。

では、産後もすぐに制作に戻られたんですか?

そうです。最初の子のときは生まれて3ヶ月くらいで翌年の下絵を書き始めなきゃだめだったので、実家に里帰りしていました。日中は母親に子どもの面倒を見てもらっていたので、初めて赤ちゃんが笑った瞬間に立ち会えなかったんです。

仕方ないこととはいっても悔しいですよね。でもそのぶん、北村さんの作ったねぶたでたくさん笑ってくれると思います。

そうなってくれると嬉しいですね。

ネットショップを始められたりスニーカーをデザインされたりと新しい取り組みにもチャンレンジされていますが、今後さらにやってみたいことはありますか?

ねぶたの形にとらわれずに、造形的な部分で、もっとアーティスティックな造形物を作ってみたいなっていう気持ちがあります。ねぶたの色使いだったりとかデザインを用いて、若い人にも受け入れられるような新しい形の何かを表現できるとおもしろいかなと思っていますね。

拝見できる日を楽しみにしています!

夏の一週間のために、人生を費やすねぶた師。ねぶた祭への思い入れがなければ務まらない職業です。そして、思い入れが強ければ強いほど、今回の中止で受けたショックも大きかったことと思います。
今回、お話を伺った北村さんも喪失感と不安のなか、それでもお祭りを楽しみにしていた方に向けて、また歴史ある文化の存続のために、前向きに行動されている笑顔が印象的でした。