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おいしいだけじゃ気付いてもらえない、だから伝える。岩手「菊の司酒造」16代目が取り組むEC運営×メディア運営の話

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
岩手県盛岡市で約240年の歴史をもつ酒蔵。盛岡の清流・中津川の水を使った「菊の司」や「七福神」などが地元の人々に長く親しまれています。今回は専務取締役を務める平井 佑樹さんに、ネットショップ運営やコンテンツ作り、今後の展望についてお話を伺いました。

家飲み需要でネットショップの売上が2~3倍に

はじめに菊の司酒造さんの成り立ちを教えてください。

酒蔵としての創業は1772年、だいたい江戸中期くらいですね。盛岡の少し南にある紫波町で創業して、大正時代に盛岡へ移ってきました。日本酒の代表商品は「菊の司」と「七福神」、近年は「平井六右衛門」というブランドも立ち上げました。それ以外に、盛岡さんさ踊りのリズムから名付けた「だだすこだん」という米焼酎を造っています。

酒蔵は平井さんのお父様で15代目だそうですね。平井さんご自身も、最初から家業に入られたのでしょうか?

はい、東京の大学を卒業してそのまま地元に戻りました。僕は子どもの頃から蔵に入ることを決めていたので、大学時代も卸先の酒屋さんを回ったり、イベントを手伝ったりはしてましたね。

現在、メインの販路はどういったものがありますか?

出荷先でいうと地元と県外で 6:4 くらいのバランスです。コロナ前は 7:3 、僕が蔵に入った2014年頃は 8:2 くらいでした。地元消費はいわゆるBtoBがほとんどですね。卸問屋やスーパー、居酒屋、街の酒屋さんが出荷先の大半を占めています。そうした中で、ネットショップをはじめとした直接販売に注力し始めたのがここ4~5年くらいのことです。

コロナ禍ではどういった変化がありましたか?

日本酒業界はどこも同じですが、やはり飲食店で提供していただくぶんのボリュームが大きいんですよね。その営業にブレーキがかかったことで落ち込んでしまった売上の回復にはまだまだ遠い状況です。

逆にネットショップの売上は順調に伸びています。カラーミーショップを使い始めた2019年1月と比べると2~3倍のペースにはなっていますし、特にお酒の需要が伸びる12月は前年の3倍近くまで伸びました。やっぱりリアルでお買い物に行けなくなった方がかなりいらっしゃるんでしょうね。若い方が多いかと思いきや、40~50代のお客さまにもご利用いただいています。

ネットショップを通じて県外のお客さまが増え、コロナ禍でさらに勢いを増したという印象でしょうか。

そうですね。新規のお客さまも非常に増えてきています。

テーマ別のコラム記事でライト層の認知を広げる

菊の司酒造さんがネットショップを始めたきっかけを教えてください。

実はネット通販自体はかなり前からやってました。僕が蔵に入った当時は、全国の地方新聞社が主体のショッピングモールに登録していて、同時に自社ホームページでも注文を一応受け付けているような状態でした。
自社ホームページのテコ入れ施策としてコラム連載を始めたり、SEO対策に力を入れ始めたところ、少しずつアクセス数が軌道に乗り始めたので、そろそろモール出店からは卒業して自社でネットショップを運営していこうかと。モールと違って、独自ショップならお客さまの情報が手元に残せますからね。

自社でネットショップを立ち上げるにあたり、カラーミーショップを選んだ決め手は何でしたか。

いろいろ調べて比較してみましたが、一番の魅力はやはりコスト面でした。
それと、いきなりショップを作って運用を始めるのは正直ちょっと怖くて、まずは自分である程度触ってみようと思ったのですが、カラーミーショップはお試し期間があったので最初のハードルが低かったのを覚えています。

ありがとうございます。ネットショップはどういったコンセプトで制作しましたか?

うちは写真メインで構成することにこだわりました。日本酒のECサイトって、ちょっと小難しい説明が並んじゃってることが多いんですよね。甘辛目安や製法などの情報は載せていますが、個人の感じ方に直接関わるような味や香りの強さに関してはあまり書きすぎないようにしています。写真でお酒のイメージを伝えつつ、あとは簡単なキャッチコピーを添える形で、ヘビーな日本酒ファンというよりはライト層に興味を持っていただけるような構成にしました。

あえてヘビーなファン層を狙わなかったのはなぜですか?

日本酒ファンっていろんな方がいるんです。単に飲酒頻度の高い方もいれば、コレクター要素の強いマニアの方もいます。ネットで回遊して来られるのはどちらかといえば後者が多いですが、マニアの方は銘柄でお酒を選ぶ傾向にあり、うちのブランド力ではまだまだ太刀打ちできません。なのでストーリーで興味を持ってくださるライト層向けの発信が不可欠になってくるんですよね。

なるほど、そういう意図だったのですね。
ところで先ほど少し話題に上がったコラム、非常に楽しく読ませていただきました。これは社内だけで制作しているのでしょうか?

最初は僕一人で執筆していましたが、今は僕を含む社内のメンバー6名で運営してます。みんな普段はお酒造りをしているスタッフたちです。

オウンドメディアとしてコラム連載を始めたのは2016年頃ですが、当時は日本酒をよく知らない人、詳しく調べたい人が読んでわかるようなサイトが少なくて。たとえば精米歩合がどうだとか、細かな知識も含めて日本酒を学べるような情報発信をしたいと思ったのが最初のきっかけでした。ある程度ノウハウ記事が溜まってきた頃に今のメンバーが入ってきてくれたので、それぞれ興味があるテーマで連載を作って、月1本ずつ出してもらっています。

一人一人のテーマが最初から決まっているんですね。

はい。たとえば日本酒×コンビニスイーツの組み合わせ、おいしいおつまみの紹介、日本史と絡めたコラムなどですね。

昔からブログはありましたけど、うちの商品をもともと知っている人にしかホームページを見てもらえていなかったんです。もちろん会社の看板としては役に立ちますけど、新しい顧客層に知ってもらうのは難しい。そこで、直接商品のキーワードが入ってこない日本酒のノウハウ記事をたくさん作り溜めて、その裾野を広げるような形で各々好きなテーマのコラムを書いてもらっています。

最近アップされていた酒粕レシピの記事、とてもわかりやすかったです。家で試してみたくなりました。

ありがとうございます。おいしいお酒を作ろうと思うと酒粕ができる割合はどうしても増えてしまうんですよね。余ってそのまま処分されてしまうのはもったいないので、ぜひおいしく楽しく召し上がっていただきたくて。酒粕のレシピやコラム記事はけっこう充実させてます。

おいしさを作るだけでなく「伝える」ことの重要性

岩手大学の学生さんとのお酒作りや、地元の飲食店さんと提携してのテイクアウト販売など、菊の司酒造さんは新しい取り組みにも非常に積極的な印象を受けました。

たしかにここ1年で新しい取り組みはいろいろ始めましたが、どれも今やれる範囲でやっていることなので、お金をかけて大きく動いたり新しく人を採用したりはしていないんです。

地域のお店や学生さんと一緒に動いたり、オウンドメディアやSNSで発信することで、どこか革新的なイメージを持たれることもあります。一番大切にしているのは、変革することではなくみんなにとって幸せかどうか、ということをいつも考えています。それを必要としている人だけでなく、私たち自身にとってもよりよくなるような挑戦をこれからも続けていきたいと思っています。

何か変革を起こすというよりは今やれることを自然にやった上で、積極的に発信をしているのですね。

そうですね。ただやるだけではなかなか認知してもらえないので、常に発信することを心がけてます。

今後ネットショップをこうしていきたい、といった目標を教えてください。

現状ネットショップは売上全体の5%くらいなので、これからさらに伸ばしていきたいと思っています。売上を伸ばすことはもちろんですが、僕らのお酒のこと、造り手のことをより多くの人にお伝えできるようなネットショップでありたいなと。

では、まだネットショップを始めていない酒蔵の方に向けて、何かアドバイスやメッセージをお願いします。

今はどこの酒蔵も若い人が少ないので、PCの操作がわからないとかいろんな事情があるはずですが、あまり難しく考えないほうがいいんでしょうね。だって僕らは自動販売機を作ってるわけではないじゃないですか。電話やFAXでのコミュニケーションと同じで、結局は人と人とのやり取りなんです。だから「対面販売のちょっと今どきのヤツ」くらいのラフな感覚でチャレンジしてみるのも悪くないかなと僕は思います。

ありがとうございます。最後に、酒蔵としての今後の展望をお伺いしてもいいですか?

僕らはとにかくおいしいお酒を追い求めていくだけなので、これからもそこに全神経を集中させていきたいです。とはいえ全国に1,000以上ある酒蔵がたくさんの日本酒を出している中、ただおいしいだけじゃ気付いてもらえない。おいしさを「伝える」ことも非常に重要だと思うので、今後も継続してネットショップや直販の拡充を通じて、自分たちのお酒を発信し続けなければと考えています。

ちなみに、平井さんのお子さんはまだ幼いですが、いずれは親子で一緒にお仕事をしたいという気持ちもありますか?

もちろんありますよ。でも僕自身は親父に「帰ってこい」って一度も言われたことないんです。きっと僕も息子には言わないと思いますけど、彼がもし入ってきたときに苦労させたくないので頑張らなきゃなって……でも今は「新幹線の運転士さんになりたい」って言ってますけど(笑)。

(笑)菊の司さんの未来が楽しみです。今日はありがとうございました!