Webサイトの改善に役立つABテスト。ABテストを実施すれば、より成果が上がりやすいUI・UXを選択できるため、効率的に収益アップをめざすことができます。
今回はABテストツール「Optimize Next」を開発したPROJECT GROUPの植松さんに、ABテストで売上をアップさせるコツについて詳しく伺いました。
X:@kazato1223
目次
植松さんについて教えてください。
植松さんの自己紹介をおねがいします!
PROJECT GROUP(プロジェクト グループ)株式会社でエバンジェリストを務めている植松と申します。当社はWebマーケティング戦略のコンサルティング専門会社で、グロースハックの分野では国内トップクラスの実績を誇ります。
私が現職に就くまでの経歴をかいつまんでお話しすると、子どものころから宇宙が大好きで、京都大学ではマーケティング関連ではなく宇宙工学を専攻していました。途中で休学して東京で宇宙ベンチャーを共同創業したのですが、その傍らでPROJECT GROUPに出会い、インターンとして1年ほど参加。それから別会社を立ち上げるなどの紆余曲折を経て、5年ぶりにPROJECT GROUPに戻ってきました。
ちょうどユニバーサルアナリティクス(UA)からGoogle アナリティクス4(GA4)に移行するタイミングだったので、入社直後から猛勉強して社内で一番GA4に詳しい人間になり、いままでに累計100社以上のGA4構築をお手伝いしてきました。
2023年9月にGoogleが無料で提供していたABテストツール「Google オプティマイズ」がサービスを終了するという衝撃的なニュースが飛び込んできて、この一大事を打開すべく代替ツールの開発に着手。そうして完成したのが、2023年8月にリリースした「Optimize Next(オプティマイズネクスト)」です。
「ABテストを、民主化する。」というミッションのもと、どなたでも無料で使えるツールとして提供しており、リリースから1年足らずで3,000以上のWebサイトに導入されています(2024年7月時点)。
ABテストとは?
宇宙工学を勉強されていたんですね!私も宇宙大好きです!さて、この記事ではじめてABテストという言葉に触れる方もいるかもしれませんので、ABテストがどういうものなのかを教えていただけますか。
ABテストは、Webサイトを訪問したユーザーをランダムに2つのグループに分け、一方のグループには既存のWebサイトそのまま(パターンA)を、もう一方には部分的に変更を加えたもの(パターンB)を表示させて、どちらのパフォーマンスがいいかを調べるテストです。
ECサイトの場合は、CVR(Conversion Rate)やカート追加率、平均購入単価などを比較します。パターンBの方がパフォーマンスが高いという結果が出れば、その通りにWebサイトを改修することで、売上アップに繋げることができます。
「わざわざランダムに分けたりしなくても、Webサイトを更新してその前後で比較したらいいのではないか」と思う方もいるかもしれませんが、そのやり方では正確な検証ができません。CVRをはじめとするWebサイトのパフォーマンスは、実にさまざまな外部要因により影響を受けます。
例えば季節やトレンド、実施中のキャンペーン、競合他社の施策、景気の動向など、例を挙げるとキリがありませんが、これらの時期要因を排除するために、同じ期間内に並行して比較することが重要になるのです。
また、「ABテスト」と言っても、必ずしも2パターンだけでテストをする訳ではなく、3つ以上のパターンをテストするケースもあります。私が知っている中でもっとも多いのは、Googleが過去に実施した41パターンのテストです。
Googleの検索結果に表示されるリンクの文字は青色ですが、このテストでは「最もクリックされやすいのは青の中でもどのような青色なのか?」という問いが検証されました。クリック率が広告収益に直結するGoogleにとって、かなり大きな関心事だったんですね。
カラーコードを微妙に変えた41種類の青色をテストして、最適なものを導き出したんだとか。結果的に、試算上では年間2億ドルもの収益増加に繋がったそうです。
このテストに対しては批判的な評価もありますが、データを最大限に活用してちょっとした工夫で成果を上げるという、まさに「グロースハック」の概念を体現した好事例だと思います。
ABテストは売上に直結するところから攻めるのが鉄則
EC事業者がABテストを実施する場合、なにから始めるのが良いでしょうか?
ABテストは、売上に大きな影響を与える箇所から実施すると良いでしょう。多くのECサイトの場合は、購入完了直前の入力フォームなど、最終ゴールの一歩手前から始めるのが鉄則です。
他には、カートに追加するボタンや、カート画面から入力フォームに遷移するボタンなど、購買意欲が高いユーザーのカゴ落ちを防ぐための改善を優先的に進めるべきです。おすすめ商品やランキングの表示場所、商品のサムネイルなども優先順位は高めになります。また、サンクスページでアップセル(上位商品への切替え)とクロスセル(合わせ買い)を訴求するのも有効です。
ただし、あくまでこれは一般論であり、サイトごとの特徴やユーザー層などによっても優先順位は変わってきますので、まずは自社サイトが現状で抱えている問題点を把握することが何よりも重要です。
小規模なECサイトでもABテストは効果的ですか?
はい、規模が小さくても効果を期待できます。
もちろん、規模が大きいショップさんほど、1つのABテストが与えるインパクトも大きいというのは事実です。同じ1%の改善でも、売上が100万円なら増加分は1万円ですが、1億円なら100万円の価値を生みます。先ほど「2億ドルもの収益増加」とご紹介したGoogleの事例も、比率で言えば1%にも満たない改善でした。
一方で、小規模である方が将来的なレバレッジが効くという見方もできます。サイト改善は、改善内容にもよりますが基本的にはその効果が半永久的に積み上がっていくものです。なので、規模が拡大する前からABテストに取り組み、ある程度の改善を実現しておくことで、将来の売上を潜在的にアップさせておくことができるのです。
ただし、注意点として、サイトに来訪するユーザー数が少ないと、1つのABテストにかかる時間が長くなるというのはあります。テスト結果は統計的に判断する必要があるため、ある程度のサンプル数が求められます。
たとえば、パターンAのCVRが3%、パターンBが4%だったとしましょう。これだけ聞くと「パターンBが勝った」と言いたくなりますが、実はそうもいきません。
パターンAでは「100人のうち3人が購入」、パターンBでは「100人のうち4人が購入」のような結果だとすると、統計的にはどちらが勝ったのか判断できないからです。これが、パターンAでは「1万人のうち300人が購入」、パターンBでは「1万人のうち400人が購入」であれば、間違いなくBが勝ちパターンであると言えます。
長期間テストを回し続けることで、来訪ユーザー数が少ない中でもサンプル数を確保することは可能ですが、PDCAサイクルの回転は遅くなってしまうかもしれません。
ただ、Optimize Nextが採用している「ベイズ推定」という手法では、サンプル数が少ない中でも直観的にテスト結果を判断できるように工夫されているので、小規模なECサイトでもそこまで困ることはないかと思います。
ABテストのよくある失敗と回避方法
ABテストでよくある失敗とその回避方法を教えてください。
よくあるのが、「ABテストをやりっぱなしで放置して管理できていない」という失敗です。
以前、さまざまな事業会社のマーケティング担当者20名ほどにヒアリングをしたのですが、およそ8割がきちんと施策管理できていないという事実が判明しました。過去に実施したABテスト施策について尋ねてみたところ、みなさんチャットの履歴やご自身の記憶を辿りながら答えている様子で、まとまった管理シートのようなものが用意されていたのはレアケースでした。
実際に、施策管理ができていない実害として、「勝てると思ったABテストが負けてしまって、ログを辿ると実は前任の担当者も過去に全く同じテストを実施しており、全く同じように負けていた」とか「マーケティングチームに新しいメンバーが入ってきたけれど、これまでのサイト改善の変遷を共有できていない」といった、洒落にならない失敗事例もありました。
このような失敗を防ぐには、きちんと管理シートを用意してテストごとに記録するというような方法が解決策として挙げられますが、継続的に運用していくことを考えると、どうしてもハードルが高くなってしまうというのが現実だと思います。
そこで、Optimize Nextの出番です。ツール自体に施策管理機能がついているので、わざわざ別のシートへの記録などをせずとも、マーケティング施策の管理がツールの中だけで完結するような仕組みが整っています。
これはまさに当社の実績の賜物なんです。当社はこれまで、さまざまなクライアントさんのWebサイトにおいて、25,000回以上のABテストを通じて累計100億円以上の売上改善に貢献してきました。その過程で培われ磨かれてきた「効率的なABテスト運用フレームワーク」を、そのままツールに落とし込んでいます。
ABテストで成功した3つの事例
実際に行ったABテストの成功事例をご紹介いただけますか?
はい。ECサイトで実施したABテストの中から、特に効果的なものを3つご紹介します。
<入力項目の削減でフォーム突破率が改善>
入力フォームの鉄則は、入力項目を最小限にすることです。入力項目が多いと、面倒に感じた方が離脱してしまうリスクが高まります。
不要な項目を削除するのはもちろん、物理的な入力欄の数を減らすことも重要です。過去の事例では、2つに分かれていた姓名の入力欄を1つにまとめただけで、フォーム突破率が改善したこともありました。
フォームの最適化は本当に奥が深いのですが、まずはこのようにシンプルな施策から実施してみることをおすすめします。
<グローバルメニューで回遊率が改善>
ほぼすべてのECサイトにおいて効果的だといえるのが、サイト内の重要コンテンツへのリンクを画面上部に固定することです。いわゆる「グローバルメニュー」と呼ばれるもので、ユーザーにサイト内の回遊を促す効果があり、CVR改善にも繋がります。
「おすすめ商品」や「ランキング」「キャンペーン情報」などのリンクを並べることが多いですが、どれを置くのが最適かはサイトによって異なるので、「そのページを閲覧した後に商品を購入した割合」を分析して、上位のものから配置して検証するのがおすすめです。
ちなみに、画面の右上に3本線のアイコン「≡」があって、クリックするとメニューが表示されるというUIもよく目にしますよね。「ハンバーガーメニュー」と呼ばれるもので、サイトの見た目をシンプルにできて便利なんですが、「CVRを最大化する」という観点では微妙な場合もあります。
理由は単純で、そもそもハンバーガーメニュー自体があまりクリックされないため。せっかくメニューの中身に重要コンテンツへのリンクが置かれていても、多くのユーザーはそれを見ることなく離脱してしまっているんです。
ただし、これもあくまで事例をもとにした一般論であり、サイトによって何が最適なのかは異なるため、ABテストで検証することを推奨いたします。
<CTAボタンの文言変更でクリック率が改善>
ユーザーに行動を喚起するCTA(Call To Action)ボタンは、その文言が非常に重要です。当社も数多くのCTAボタンを改善してきましたが、ある化粧品ECサイトでの事例をご紹介しますね。
細かくKPIを区切って分析したところ、「カートに追加した後、フォームに遷移する」という部分で大きく離脱が発生していることがわかりました。そこで、フォームに遷移する心理的ハードルを下げるにはどうすればいいか、ということで色々と施策を打ってみたのですが、最も効果が出たのがCTAボタンの文言変更でした。
もともとは「会員登録して購入」という文言でしたが、「会員登録」というワードが心理的ハードルを上げているのではないかという仮説をもとに、「購入者情報を入力」に変えてみたんです。要するに「会員登録してください」ではなく「商品の発送に必要なので情報を入力してください」というスタンスに切り替えてみた、というわけです。
結果、クリック率は1.3倍に改善し、CVRも1.2倍に増えるという、まさに「爆勝ち事例」となりました。
効果を聞くと、いっそう取り組んでみたくなりますね。
ABテストを実施する上での注意点
ABテストについてお話をお伺いしてきましたが、最後に、ABテストを実施する上での注意点を教えてください。
そうですね、「ABテストの結果に一喜一憂しない」というのは、心掛けておいていただきたいポイントです。
先に断言しておきたいのは、私たちマーケターがどれだけ鮮明にユーザーのことを想像したとしても、実際にユーザーが何を感じているのかは決して分からないということ。サイトを運営する側にいる時点で既に何かしらのバイアスがかかっているため、純粋なユーザーとしての目線は失われているんです。
なので、「自信満々で実施したABテスト施策が、ふたを開けてみるとしっかり負けていた」というような事態も日常的に発生します。データというのは正直な奴なので、現実をまざまざと見せつけてきます。
そんなときは、落ち込んでネガティブになるのではなく、改善に至らなかった要因を洗い出すために、データ分析して考察を書いてみてください。負けた施策から学んだ内容を活かし、新たな施策案に繋げていくことで、それはもはや「負け」ではなくなります。
Optimize Nextについて
確かに、顧客一人ひとりのニーズや状況は異なるため、仮説はあくまで仮説に過ぎないことを念頭に置く必要がありますね。最後に、お話の中でもでてきました「Optimize Next」についての詳細を教えていただけますか?
Optimize Nextは、どなたでも無料で使えるABテストツールです。例えばカラーミーショップでつくったサイトにコードを貼り付けて、お使いのGoogleアナリティクスと連携させるだけで利用できます。
テキストを変更する程度のABテストなら画面上からノーコードで編集できるので、早い人だと10〜20分ほどでテストを開始できると思います。また、テスト結果の数値レポートはツール上で簡単に確認することができます。「ベイズ推定」という統計的手法を採用することで、どのパターンが勝ったと言えるのかを直観的に把握することができるようになっています。より詳しくデータを見たい場合は、Googleアナリティクス上でレポートを作成することも可能です。
Optimize Nextはヘルプページが充実していて、サポート体制が整っているので、操作方法などで行き詰まっても、基本的にはヘルプをみれば解決できます。公式のDiscordコミュニティもあって、500人以上のユーザーが参加しています。
ユーザーのみなさんどうしで質問を共有して助け合うチャンネルもあるので、なにか困った時はそこに投稿することができます。私も定期的に回答するようにしています。
今年の6月には、Webマーケティング上級者向けに便利な機能を搭載した有料プランを正式にリリースしました。先ほどお話しした「ABテストのよくある失敗」を防ぐための施策管理機能や個別のカスタマーサポートなど、さまざまな機能にアクセスできるようになります。月額3,300円(税込)と気軽にお試しいただけるプランもご用意しているので、ぜひご検討いただけたらと思います。
植松さん、本日はありがとうございました。