よむよむカラーミー
ECサイト開設・運営のヒントが見つかるWebメディア

日本一の生産量と情報量!「石膏像ドットコム」を営む小さな工房・堀石膏制作の話【前編】

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
日本で唯一の石膏像専門店「石膏像ドットコム」。このお店を運営するのは65年以上の歴史ある工房・堀石膏制作さん。2017年1月には人気テレビ番組『タモリ倶楽部』でも紹介されて話題になりました。今回は、いったいどんな経緯でネットショップを開店されたのか迫るべく、工房へおじゃましました。

東京・雑司が谷にある堀石膏制作さんの工房へやってきました!

住宅地の真ん中、古い木造家屋の一角に工房はあります。

工房の中は、石膏で真っ白!

いや〜。今日は曇っていてよかったです。冷房がないので真夏は本当に暑いので…。

ここに置いてあるのは型と石膏像ですか?

原形・そこからとった型・石膏像の3つがありますね。あとで作り方もお見せしますが、基本は受注を受けてから製造しています。

堀石膏制作・代表の脇本壮二さん。

あ、洋服が白くなっちゃうから気をつけて…!
腰掛けがねー、これしかないんですよ。テキトーにお座りになってください。

お風呂椅子…!

4年以上売れなかった石膏像が、テレビ放映後5分で売れた話

今年の冬『タモリ倶楽部』さんに出演されていましたね!

そうなんです。放送作家さんが僕のブログを読んで提案してくれたみたいで。まさかタモリさんがここに来てくれるなんて夢にも思わなかったです! 当日は、マイクロバス2台くらいで30人くらいのスタッフさんがやってきて、町内中が大騒ぎですよ。

テレビ朝日系列『タモリ倶楽部』 2017年1月20日放送回に登場(※画像はこちらの記事より拝借)

テレビ取材は、どうでしたか?

緊張するだろうな〜と思っていたんですけど、いざカメラがまわると意外と平気で。タモリさんのアドリブにもけっこう付いていけるし…あ〜僕も年とって図々しくなっちゃったんだなーって思いました。(笑)

放送後、石膏像は売れましたか?

番組内で「売れると思ったのに売れない石膏像ベスト3」を紹介したんですけど、放送のあと10分以内に2体も売れましたね。

売れちゃったんですか!(笑)

放送したのは、夜中の1時でしょ? 「いったいどんな人がこんな時間に買うんだ!」ってビックリしました。

たしかに、深夜に石膏像が売れるとは。テレビのパワーはすごいですね…!

ジリリリリリリリリリ!!!!!!!!!

突然の電話。

この黒電話、現役なんですか!

現役ですよ。

あっちのラジオも古そうですが…

あれも現役です。音楽聴くのが好きなんですよねー、大学時代にバンドやっていて。

そういえば、フランク・ザッパ聴きながら作ってるって昔のブログ記事で読みました。(笑)

ありがとうございます。(笑)

古い機械がお好きなんですか?

いや、電子機器だと粉が入ってすぐに壊れちゃうんですよ。

そうなんですか!

はい。FAXとかもダメですね。iPhone5はカメラの中に粉がはいっちゃったし。人間よりも機械のほうが先にまいっちゃうんですよ。ちなみに石膏像制作に関わってる人は、いっぱい粉を吸い込んでるはずなのにみんな長生きです。(笑)

そもそも「石膏像」ってどんなもの?

石膏像の歴史について、教えてください。

えーっと、起源をたどると18世紀ころまで遡ります。
古代文明発掘ブームが巻き起こり、フランス・ドイツ・イギリスを中心に美術品を自国に持ち帰ってその複製を石膏で型取りして保存するようになったんですね。

19世紀には世界的に古代遺跡への関心が最高潮をむかえ、これと比例して国家権力の象徴・文明理解の誇示として、石膏像もたくさん作られるようになりました。19世紀末以降は美術品に対する本物志向が強くなり、石膏像の盛り上がりは急速に冷めて、その後は教育の分野で生き延びて現在に至るかんじです。

なるほど。実はわたし、美術高校・大学の出身でして。

ああ! じゃあなんだ。
石膏像には、なじみがありますね?

はい。学生時代、たくさんデッサンしました。

美大教育で石膏像がモチーフとして一般化されていなければ、石膏像制作なんて今の日本じゃ仕事として成り立っていないくらいです。

ちなみに脇本さんは絵を描かれたり?

全く描きません。(笑)
子どものころから父の石膏像制作を見たり手伝っていたはずなんですけどねー。さっき大学時代にバンドをやっていたと言いましたが、どちらかというと音楽のほうが好きですね…。

よく見たら、Tシャツはデッカ・レコード。

小さな木造家屋で作られる石膏像、なんと国内販売シェアの7割

脇本さんのお父さんも、石膏像の制作をされていたんですか?

はい。1950年に始まった「堀石膏制作」を、祖父・父・わたしと3代に渡って継いできたんですね。この建物も、実はもともと住居で僕も小学1年生くらいまで住んでいたんです。

現在、在庫置き場になっている2階はかつて住居だった。

僕は大学を出てからエンジニアとしてコンピューターのシステムを作っていました。

エンジニアさんだったんですか。

はい。多忙だったこともあり3年くらいでやめて、そのあと石膏像制作の修行をはじめました。

そこから一人前になるまでどれくらいかかりましたか。

制作の流れをひとりでこなせるようになったのが5年後、全ての石膏像を自由に作れるようになって自信を持てるようになったのは10年すぎたころからですね。

当たり前ですが、すぐに作れるようになったわけではないんですね…! 国内に石膏像の制作をされている方は、どれくらいいるんでしょう。

僕と同じ世代で石膏像だけを作っている人はもういないんじゃないかな?

もともと国内に作り手は少なかったのですか?

20年くらい前は5つくらい工房があって競争も盛んだったんですけど、今は3つくらいで製造を盛んにしているのはうちだけですね。販売シェアでいうとうちが7〜8割占めているんじゃないかな。これだけ競争相手のいない市場も珍しいです。

今販売されている日本の石膏像のほとんどを脇本さんが作られているんですね!

既存のやり方にとらわれず、インターネットで情報発信・販売を革新

インターネットで「石膏像」と検索すると、まっさきに「石膏像ドットコム」さんが出てきますが。

そうなんです。インターネット上に競争相手がいないんですよ。そもそも僕がブログやネットショップをはじめるまで、国内のWebサイトには石膏像の情報がほとんどなかったんです。

どういうきっかけで情報発信をはじめたんですか?

少子化で美大の勢いがなくなってきて石膏像の販売量も減ってきて…限られた顧客を少ない製造者が奪い合うようになっている状況で今までどおりの売り方をしていたらダメだなと思ったんです。

2006年くらいかな。世の中的にもインターネットが盛り上がっていたし、石膏像の通販を始めようと考えました。

では思い立ってすぐネットショップを?

いやそれが…当時の僕はコピー&ペーストも右クリックもわからないレベルで。(笑) ハードルが高くて断念したんです。

あれ? でも先ほどエンジニアをされていたと…?

僕がエンジニアをやっていたころは、Windowsの登場前でMS-DOS(※マイクロソフトが開発・販売していたOS)を使っている時代でしたから。(笑) それで少し経って2009年、まずはブログからスタートしたんです。

2015年までほとんど毎日のように更新されていた脇本さんのブログ。

ブログではどんなことを発信されていたんですか。

やっぱり石膏像のことです。
美大受験でたくさんデッサンしても「この彫刻はいったい何なのか?」ってみんな深く考えないじゃないですか?

たしかに。この人たちが誰なのか詳しく知らないです。

受験勉強しているときは必死なので、そんなことかまってられないじゃないですか。それはいいとして、誰もネット上で石膏像について語っていない。だったら僕が!ということで、石膏像ひとつひとつの由来について書くことにしました。

石膏像の由来ですか。

元になった彫刻の所蔵場所とか歴史背景とか。自分が長年やってきて知ったことに加えてどんどん勉強も重ねて。
あの、良かったらこれをさしあげますよ。2年くらい前に、僕が作った本です。

いいんですか!ありがとうございます。

ブログに書いた石膏像の記事を1冊にまとめたんですよ。そんなに売れると思ってなかったんですけど120冊くらい売れました。本当にありがたいです。

脇本さんの作った書籍『石膏像図鑑

すごい!!

いったんブログに区切りをつけるため本にしたんですけど、本当はもっともっと知りたいことがあるので、勉強していきたいんですよねー。

こんなにたくさん作られている脇本さんでも分からないことがあるんですか?

あります、あります。
僕が分からないこともありますし、たとえば20年くらい前は、このアリアスの元になった彫刻がどこにあるのか誰も分かっていなかったんですよ。

美大生ならおなじみの「アリアス」 現在はイタリアにある。

受験時代にあんなにたくさん描いたのに知らなかった…! ちなみにネットショップはいつオープンされたんですか?

ブログをはじめてから1年後。2010年に開店しました。通販を始めたことで、直接お取引する学校やアーティストさんなど新しい出会いが増えましたね。

ネットショップ「石膏像ドットコム

ビジネスとしても、それまで卸しをしていたときよりも好調で、これからもどんどんネットショップに注力していきたいなと考えています。

 

後編では実際に作り方を見せてもらいました

後編では、石膏像を目の前で1体作っていただき、その様子を紹介します。