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500種類の石膏像の中で、1番好きな石膏像は…?
何種類くらいの石膏像を販売していますか。
常に全てあるわけではないんですけど、だいたい500種類あります。
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堀石膏制作の脇本 壮二さんにお話を伺いました。
1番売れている石膏像はどれですか?
円柱や三角錐などの幾何形体(きかけいたい)は、毎日1個くらいのペースで売れてますね。
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画面の右上にある三角錐などが「幾何形体」
そんなに売れるんですか!
美大とか予備校に需要があるんですよ。ミロのヴィーナスとかヘルメスとかもよく売れますね。
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よく売れるものは2階にストックされています。
ちなみに脇本さんの好きな石膏像は?
好きな石膏像か〜。
作るのがむずかしくて複雑なものは我ながら「職人ぽくてカッコいいな」と思います。(笑)
これとか好きです。
初めて見ました。
「解剖像」っていうんですけど、日本ではあまり描かれないですよね。写真がない時代に医学関連の勉強をするのに使われたりしていました。
作るにあたって、どこらへんがむずかしいですか?
足の細さですね。
足首のほうまで石膏を流し込むのがむずかしいんですよ。そのまま作ると折れちゃうので足首には針金が3本ずつはいってます。あとは指も1本ずつ針金がはいっています。
なるほど。繊細なんですね…!
これを完璧に作れるようになるには、かなりの年月がいりますね。
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ネットショップのトップページにも「解剖像」が使われていました。
事件現場の足型をとるのにも使われている 「石膏」ってどんなもの?
石膏像の作り方を見せていただけますか?
はい。まず石膏についてなんですけど、彫刻に使われる素材の中ではやわらかく扱いやすいほうに入ります。
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これが石膏像のもとになる「石膏」
ふむふむ。
樹脂は固まると1%くらい小さくなるんですけど、石膏は0.1%くらい膨らむ程度。再現率が高い素材なんですね。なので事件現場で鑑識さんが犯人の足型をとるのにも使われています。
石膏はどんな状態で販売されているんですか。
石膏は粉で販売されています。こんなかんじ。
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堀石膏制作では2種類の石膏を使い分けている。
石膏像を作るときは、この粉をボウルに入れて水で溶いていきます。これを型に流し込んでいくんです。
分量は目分なんですか。
そうですね。季節とかでも固まる速度は変わりますし、ここは職人の勘どころです。
シンプルな作業に求められる職人技!1体の石膏像ができるまで
じゃあさっそく、作っていきますね。
この型は何で作られているんですか。
石膏像を取り出す型は、シリコンで作ってます。昔はこの型も石膏で作っていたので、かなり扱いづらかったんですよ。
シリコンにそのまま流すと型から剥がすとき穴だらけになっちゃうので、離型剤を塗って型を固定してから石膏を流し入れていきます。
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「離型剤」の中身はトップシークレットとのこと。
やること自体はシンプルなんですよ。ぐるぐる型をまわして全体に石膏がまわるように流し入れていく。これをだいたい4回繰り返します。
ちょっと難しいのは、型の中が見えないので全体に石膏が行き渡っているかを想像しながらやらなくちゃいけないところ。サラサラした液状からモタっとするまで1〜2分くらい。固まらないうちに流し入れて硬化させていきます。
これは小さいものなので膝の上でまわし入れているんですが、大きいものだと大変なんですよ。重量があるので、かなりの肉体労働です。
乾いたら型を外すんですけど、全ての石膏像に外す順番が決まっているんです。たとえばこれは下から外していかなくちゃいけないんですけど、逆にすると型が破れてしまうんですよ。
やっぱり誰にでもすぐできる…というわけではありませんね。
売れるところまでもっていくにはここからバリ(型のつなぎ目の部分)をとったりいろんな作業があるんですけど、これでいったんできあがりです。
あっというまにできて、ビックリしました。
石膏像を描くことはあっても作られる様子を見ることはなかなかありませんよね。
ちなみに20年くらい前はこういった作業を見せることは職人としてタブーだったんですけど、今だとインターネットでいくらでも情報がみつかりますし、隠していてもしょうがないじゃないですか。だから僕は、どんどんオープンにしていこうというスタンスです。
石膏像は「コピーのコピーのコピー」だったりする
1日にどれくらいの石膏像を作れるんですか?
たとえばこのマルスだと、1日2体でも厳しいですね。
さっきの工程のほかに乾かす作業などがあって、完成には数週間かかります。
型のもとになる「原形」はどうやって手に入れているんですか。
本物の彫刻そのものを手に入れるというのはむずかしいので「本物を複製したものをヨーロッパの石膏屋さんがコピーしたもの」…つまり第三世代を取り寄せてシリコン型を作り、石膏像を作っているかんじです。
つまり本物の複製のコピーから石膏像を作ってるんですね。
そうなります。日本で作られている石膏像は、最低でもコピーのコピーのコピーになるんです。 そういうわけで石膏屋さんは、原形とシリコンの型を保管しておかなくちゃならないので、かなり広大なスペースが必要になります。本当はこんな小さな家屋で制作する必要ないんです。(笑)
もしかすると、日本で最後の石膏屋さんかも?
今後、環境やスタイルを変えていきたいとかありますか。
僕は石膏像制作というのは、決して拡大していく商売ではないと思っています。だからスペースを広げて人を雇って、とかは考えていません。基本的には、これからも全て自分の手でやっていくことを考えていますね。
脇本さんの後継者は?
いませんし、継いでもらうことも考えていません。自分の子どもが仮に「やりたい!」と言ったとしても、おすすめしないですね。やるとしたら苦労が多いです、これから先は特に。
なるほど…。
そういう意味で、僕は日本で最後の石膏屋さんかもしれません。日本から石膏屋さんが消滅しても海外からは輸入できるので、問題はないと思います。
うーん。少し寂しさがありますね。
いえいえ。競争相手が少ない今だからこそ商売が上手くいっているんですよね。ネットショップも軌道にのって順調ですし。しばらくは上手くいっているところをもっと効率よくやれるように工夫していきたいですね。
最後に、これもプレゼントします。
僕の大学の後輩が書いた、僕をモデルにした小説で…。
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新潮文庫 平山瑞穂さん著『遠すぎた輝き、今ここを照らす光』
おおお。石膏像の職人さんが登場するんですか。
そうです。 付箋はったところに石膏像を作る工程が詳しく描写されてるので、よかったら記事作りの参考にしてみてください。(笑)
ありがとうございます! 今日はネットショップの話から制作の様子までたくさん見せてくださってありがとうございました。