シロップの副産物で生まれたグラノーラ
フラクタスのはじまりについて、教えてください。
2010年春、東京・千駄ヶ谷のフレッシュジューススタンドとしてはじめました。
飲食店経営の経験は?
全くありません。そのころ消費の傾向がモノからコトへと変わりはじめていて、食に対する意識も健康重視の流れに変わってきていたんですよ。それでジュースをやってみようかと。
ほうほう。
でもいざはじめてみると、フレッシュジュースをつくるのはむずかしい。というのも日本には四季があるから、カリフォルニアみたいに年中安定して材料が手に入らない。スタート早々いきづまって知り合いに助言をもらい、夏の手前でメニューにフルーツシロップを加えたんです。
フレッシュからシロップへ。
そう。その直後たまたま、「ジンジャーシロップのつくりかた」っていう小冊子を手にすることがあって「これも何かのお告げだろう」と夏の間ずっとジンジャーシロップをつくることにしました。研究に研究を重ねて、その成果が今販売している「ジンジャーコーディアル」なんです。
コーディアル…?
からだによい作用のある食品を意味する言葉です。しょうがのあったまり作用を強調するにはこのネーミングがぴったりでした。
成田さんがご自身で商品開発されたんですか。
はい。今提供している4種類のコーディアルのうちの1種類は僕が開発しました。これが今もお店のルーツになってます。
で、そのあと秋にりんごのシロップをつくったんですけど、そのときの出がらしのりんごを乾燥させて、スタッフがグラノーラをつくってくれたんです。それが僕の初めて食べたグラノーラで。
ここでグラノーラが登場するんですね。
そう。グラノーラなんて名前も知らなかった。鳥の餌だと思ったもん。(笑)
(笑)
でも食べてみたら、メチャクチャおいしい。2010年の冬「グラノーラを本格的にやってるお店はまだないしやってみよう!」ということで、ジュースのかたわら量り売りをはじめました。
そのときはまだパッケージもなく、量り売りだったんですね。
2011年にはいって、おしゃれなライフスタイルショップがだんだんと食品を取り扱うようになってきたんですよ。その変化を見て「卸しができたら可能性が無限に広がるぞ」ということで、同じ千駄ヶ谷にあった PAPIER LABO.(パピエラボ)さんに相談して、おしゃれなお店に置けるパッケージをデザインしてもらったんです。
こうして今のフラクタスのグラノーラが生まれたんですね。
モノより人を重視する街・福岡へ
2011年までは、東京で活動されていたんですか。
はい。2012年に僕はこっちへ拠点を移して。福岡に引っ越してきた直後はふつうのアパートの一室を改造してオーブンでグラノーラを焼いてつくっていたんですけど、2014年に、ここ(加工所)をつくりました。
なぜ福岡へ移転を決めたんですか?
きっかけのひとつは東日本大震災だったんですけど、福岡はビジネス的に東京よりも魅力的な街だと感じていました。
どんな魅力がありますか。
まず家賃が安いから起業しやすくて個人店が多い。それから福岡はメジャーブランドのお店が流行しづらい。それは「何を売る店」じゃなくて「誰のいる店」かが重視されるからなんですよね。狭いエリアに個性的なお店が密集しているからそういう文化が育ってるんですけど。それからファッションとかストリートアートの分野では世界でも先端をいってる街だと思います。そういう意味では感度も高い。
たくさん魅力がありますね。
ただ、最近は福岡も東京感が出てきちゃった。この数年で東京からビジネスをたちあげようと人が押し寄せているし、こっちでの成功例を見てマネをはじめるお店が今年来年あたりで激増する予感がする。
なるほど…。
だから今が福岡の旬だと思うんですよ。僕はお祭りも一番楽しいときに踊っていられないタイプだから、次の拠点を気にしはじめています。(笑)
そのほかに福岡のいいところ、何かありますか?
影響力の強い女の子たちがたくさんいるところですかね。最近でいうと、福岡はとにかくインスタグラマーが多い。
インスタグラマーですか。
福岡の女の子たちは、東京に比べてみんな気取ってない。きれいな服を着ておしゃれなカフェにいる写真をInstagramにあげてもたたかれるだけってちゃんとわかってる。(笑) 彼女たちは大衆居酒屋でビール片手に写真を撮る。もちろんおしゃれなところへも出かけているんだろうけど、そういうところはあげない。自然に共感されるのが上手い。(笑)
共感度の高い発信を感覚的にできているの、すごいですね…!
「おみやげ」に価値がある時代の売り方
Instagramに関連した話だと、このイートインスペース。量り売りのほかグラノーラの食べ放題もやってるんですけど…
食べ放題ですか。
そう。最近の消費活動ってすごくシビアで、ふつうに売ってもみんなモノを買ってくれないんですよ。じゃあ何に価値を感じてくれるか、わかりますか?
なんでしょう…?
「おみやげ」なんですよ。つまり、この場所に来た証拠。だからショップのロゴつきのアイテムが売れる。 食べ放題にきたお客さんも、木の器じゃなくてフラクタスのロゴが入ってる器を選んでInstagramにあげています。(笑)
おもしろいな〜〜!
でしょ? モノじゃないんです。ここに来た証拠を手にいれるためにお金を払ってくれるんです。これってうちにとってもいいところがあって、グラノーラだけ撮ってInstagramにあげてもらってもうちの商品か判断できないけどロゴ入りグッズも一緒にあげてもらえれば宣伝になる。
なるほど〜。Instagram時代ならではのPRですね。
どんなにおいしくても、最後は人で決まる
話が前後しますが、2012年に福岡へ拠点を移したあと、2014年の春に松屋銀座へ出店されましたね。
はい。福岡に引っ越してから出店のお話がきて。東京にいたらお断りするんですけど、福岡に移転して時間も経っていたので引き受けたんですね。ですが…この出店で、ものすごい大挫折を味わいました。
大挫折ですか。
最初からライフスタイルショップへ来る人たちを狙っておしゃれなデザインを追求していたので、百貨店の幅広いお客さんに向けた売り方がわからなかったんですよ。
マス向けの販売方法がわからなかった…!
それから結局最後は人だなって気がつきましたね。どんなにおいしいものをつくっても、こっちはディフェンス。最後に得点を決めるのは百貨店の販売員です。でも僕はストライカーを育てられなかった。他のお店で働いていた女の子に1カ月だけ店頭に立ってもらったことがあったんですけど、そのときの売り上げはすごかったです。その子が何を売ってるかはあまり関係ない。その子にファンがついてるんですよ。
なるほど。ここでもモノじゃなくてヒト。
そう。カリスマ店員っていうけど、まさにそれですよね。うちについては、いいディフェンスしてるし、いいパスもだしてる。あとは得点力を強化するのが課題です。
白ごはんのような存在でありたい
最近感じている課題、他にもありますか。
最初からおしゃれな人たちを狙っていったから、グラノーラが普段使いから離れてしまったのを課題に感じています。高級なギフトになっちゃったんですよね。でももっと街のパン屋さんみたいな存在になりたいから、会社の再ブランディングをしているんです。うちのグラノーラの存在自体をまったく変えてしまおうかと。
グラノーラの存在を変える?
今までの高級なイメージで手にとってくれてるお客さんもいるから、そのラインはそのままに、全く別のお手頃な価格帯のラインをつくろうと思って。それでつくったのが白ごはんみたいなグラノーラ。
ごはん。
中身はアーモンドスライス・オートミール・ココナッツだけ。これにふりかけをかけるんです。
ふりかけ…!
わかりやすくしたくて、女性が何を求めてるかな〜ってところで…「きれい」。
男性が何を求めてるかな〜ってところで…「つよく」。
2種類のセットをつくったんです。
女性と男性向けのセット。内容もわかりやすいです。
このラインをつくるメリットはいろいろあって、まずスーパーフードをとりいれることで、これまでとはちょっと違った層の人たちがSNS上で注目してくれる。それからシンプルな素材で構成すれば、うちの製造コストがメチャクチャ下がる。何よりお客さんにとって、自分好みのグラノーラを毎朝自由につくれて、しかもお手頃な値段で手に入る。とてもうれしいことじゃないですか。少し上げすぎたブランドのイメージを、これでぐっと日常的なところに下げられたらいいなと思ってます。
最後に成田さんの今後について教えてください。
僕はフラクタスというチームのなかで監督をやってますけど、ほとんど解任状態なんですよ。監督失格です。(笑) でもプレイヤーとしては動ける。ジンジャーシロップもグラノーラも、全部つくれる。だからここで、プレイヤーに戻ろうかなって考えています。
プレイヤー。
そう。フラクタスはチームとして続けていくんですけど、僕はチームに対して新しい関わり方をしていきたい。ブランディングもかえるし、お客さんの方向を向いて現場で活動してみたいなと。それこそインターネットなんか使って、どんどん試していけたらいいんですけどね。
フラクタスさんがこれからどう変わっていくのか、とても楽しみです! 今日はありがとうございました。