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【SDGs】不買運動じゃない、付加価値を買うことで環境保全活動を。「旭山動物園」坂東園長の想い

北海道旭川市にある「旭山動物園」はユニークな展示方法で話題を集め、今や国内では有数の知名度を持つ動物園です。その評判は国内に留まらず、アジアを代表する動物園として世界でも知られる存在となりました。

その躍進の立役者となったのが坂東(ばんどう)園長。個性的な動物園の運営だけでなく、10年以上前からボルネオの環境保全に関わるなど、グローバルな視点で活動をされています。

SDGs特集の第2回となる今回は、坂東園長に「旭山動物園の取り組む環境保全活動」と「私たちにできること」について伺いました。

関われば「つまらない」はなくなる。旭山動物園が行動展示を始めた理由

世界的に有名な旭山動物園ですが、改めて坂東園長からご紹介いただけますか?

もともとは典型的な地方の動物園だったんです。今は「行動展示」と呼ばれていますが、24年前に世界的に見ても珍しい展示方法を行ったことがきっかけで有名になりました。

ゾウやゴリラといった目玉の展示動物がいない動物園だったので、それがかえって「ペンギンの散歩」や「アザラシの回遊」など、行動を見てもらうアイデアに結びついたんだと思います。

口コミが徐々に広まって、国内では2004年(平成16年)にできた「あざらし館」がブームになり、2006年(平成18年)、2007年(平成19年)のピーク時には来園者数が300万人という私たちも驚くような数になりました。それが少しおさまって、今度は海外の来園者がじわじわと増えてきたというのがコロナ禍前までの動きです。

行動展示をすることになった経緯を教えてください。

動物の姿を見ているだけだと、人は飽きてしまいます。ライオンでもアザラシでも、1年、2年と時間が経過するにつれて「これしかいないの?」という意見が出てくるんですね。

だから動物園は珍しい動物を展示します。それも徐々に飽きられてしまうので、今度は珍しい動物の赤ちゃんで興味をひくようになります。それが生き物を愛して大切にする気持ちにつながるのかというと、私は少し違うと思いました。動物園側が、生き物の価値に差があるように見せてしまうことに抵抗があったんです。

私たち飼育員は動物との関わりが深いので、どんな動物でもすばらしい生き物だと気付くことができます。関わりがあれば飽きることはありません。例えば、犬や猫を飼っていて1年で飽きることはないですよね。

そこで、動物と来園者の関わりが増えるように、ほんのちょっと見せ方を変えることにしました。寝てばかりでは興味を持ってもらえませんが、同じ寝るのでもヒョウが来園者の頭の上で休めるようにしたら「わぁ、すごい!」と言ってもらえたんです。それが行動展示を行うきっかけになりました。

動物と来園者の関わりを増やすことが最初の目的だったんですね。

来園者に「動物の一生とどう向き合ってもらうか」が、行動展示のベースにある考え方なんです。私たち飼育員がすばらしいと感じていることを、一つでも共感してもらえればつまらないと感じることはなくなるはずだという思いがあります。

動物園はどこまでいっても人間のエゴで動物を閉じ込めている場所です。だから命を預かっている責任の果たし方は常に考えていますね。「生き物を見てもらうための動物園が、生き物をつまらなくしてしまう」そんなことがあっていいはずはないんです。
動物の魅力を引き出すことで「すばらしい、愛おしい」という気持ちを持って接してもらえれば、預かった命に対して少しでも恩返しができるのではと思っています。それが旭山動物園としての考え方です。

行動展示が話題になり来園者の反応に手応えを感じられたと思いますが、飼育している動物たちにも変化はありましたか?

行動展示を成功させるには、まず動物たちの変化が必要でした。人以外の生き物は、自分が住みやすいように環境を作り替えないんです。箱の中でかわいそうというのは人間の考え方で、安全が保障されていて、食べ物も湧いて出てくるのであれば動物は何もしません。感性が眠ってしまうんですね。その潜在的な本能をどう目覚めさせるかが私たちの仕事だったんです。

動物園は誕生以来、人の視点で作られています。旭山動物園では「この限られた面積の中で、どう暮らすか」という動物の視点を施設作りに取り入れました。そうやって動物たちが本来持っている感性を呼び覚ましています。

オランウータンの故郷を救え!世界に拡がる旭山動物園の環境保全活動

旭山動物園が園内で行っている、環境保全活動についてお伺いできますか?

保全活動というのは、対象とするものに「すばらしい」「大切にしたい」という価値を感じてはじめて動き出します。環境を代表する動物にしても、個人の興味の対象や、愛玩動物の延長線上としてではなく、存在そのものに興味を持ってもらうことから初めなければなりません。
そのために動物園としても、動物たちのすばらしさや、彼らがおかれている状況を手書きの看板類でしっかり伝えていこうというのが活動のベースですね。

そのほかにも、ポスターや封筒の一部にはFSC森林認証紙(持続可能な森林管理に基づく国際基準を満たして伐採、加工された用紙)を採用したり、パンフレットに道内産の間伐材紙を採用するといった取り組みを行なっています。

また、プラスチック製レジ袋の全廃を目指し、園内各売店と協力して共通紙袋を製作しました。袋には人の手によって絶滅したエゾオオカミのモチーフに「For our only planet For all its life(すべての生命とたったひとつの地球のために)」というメッセージを添えています。

園のホームページに掲載されている「ボルネオへの恩返しプロジェクト」はどのようなものですか?

旭山動物園にはボルネオオランウータンがいるんですが、ある時、知人から「ボルネオで何が起こっているか、知っているのか?」と尋ねられたんですね。海外からの来園者が増え、アジアを代表する動物園という位置付けになった頃でした。

「旭山動物園は人がたくさん来るようになったけど、動物を使って人を集めるだけでいいのか。ボルネオのオランウータンはあと30年でいなくなるかもしれない。一度見に来てくれ」と言うんです。ボルネオのことは私も知識としては知っていたものの、実際の状況を確認したことはなかったので、2009年(平成21年)に現地へ行くことに決めました。

実際に行ってどこまでも続くアブラヤシのプランテーションを見ると、民家の台所のすぐ裏が森というように自然との距離が近いんです。アブラヤシから採れるパーム油は、日本で暮らす私たちにもなくてはならない油。関わりという点では、「日本で暮らしていても、台所の窓を開けるとそこはボルネオ」という位に近い場所です。ボルネオの環境は人間の生活と直結しているんですね。
特別なことが起きているわけではなく、私たち人間の日常生活が動物の未来を見えなくしているんだと気づきました。

旭山動物園には30年、40年経ってもオランウータンはいると思います。でもその頃、故郷のボルネオでは野生のオランウータンがいなくなってしまう、それでいいわけがないんです。
命に対する責任という意味でも、ボルネオオランウータンを飼育したのであれば、故郷の仲間の未来にもつなげたいと思いました。それが、旭山動物園でボルネオオランウータンを飼育している意味にもなりますから。そういう経緯でボルネオを支援する取り組みを始めました。

取り掛かりとしてオランウータンではなく、まずはボルネオゾウの保全活動を進めています。まだ生態もよく分かっていない希少なゾウなんですが、畑に対する害獣としての被害が大きいため駆除(違法)の対象になりやすいんですね。救助施設もなかったため、救助センターの設立支援を旭山動物園で行っています。

救助センターとはどのようなものですか?

ボルネオゾウが一時避難する場所です。

欧米ではゾウを殺すことで成立しているパーム油に対する不買運動が起こるなど、消費者からの監視が強いので、マレーシア政府やボルネオにあるサバ州でも意識していないわけではありません。
プランテーション(大型農園)に出てきてしまったゾウは殺さずに捕獲して、ジャングルに放すという活動を十数年前からやってはいます。ただ、ゾウの暮らすジャングルを増やしているわけではないので、放しても同じことの繰り返しというのが現状です。

そこで、うちがゾウの一時避難先の救助センターを作っているというわけですね。民間企業の協力を得ながら日本国内でプラットフォームを作成し、第一期施設は完成しました。

第一期施設の落成式

第一期施設の完成で取り組みは軌道に乗りましたか?

第一期施設の完成を受けて、この施設をマレーシア政府が「ボルネオ・エレファント・サンクチュアリ」という総合的な施設として位置付けたんです。これは「マレーシア国内でもゾウの保全活動をやっていきます」という世界に対するアピールでもあったので、マレーシア国民も興味を持ちつつあります。そういった意味では徐々に成果が出ていますが、課題も山積みです。

パーム油のプランテーションは、ゾウがアブラヤシを倒してしまうことによって甚大な被害が出ます。ゾウを殺さない政策があってもゾウによる被害への補償はないので、結局毒殺などがあとを断ちません。そうやって親を亡くし残された子ゾウも含めて数十頭が保護されていますが、人がミルクで育てたゾウを野生には返せないんですね。

ゾウ1頭を1年飼育するために、マレーシアの3、4家族が1年暮らせるのと同等のお金がかかります。それをどうしていくのか、これから解決策を講じていかなければなりません。

旭山動物園の来園者が増えることはボルネオの支援につながりますか?

旭山動物園は公立なので行政区分があり、入園料を海外支援に利用するのは難しいんです。例えば、世界遺産の知床には旭川からも多くの方が訪れますよね。だからと言って、旭山動物園の入園料の一部を知床の保全活動に当てよう、ということは簡単にはできないんです。市の収益を行政区分を超えて利用するには高いハードルがあります。

動物園で飼っている動物は、その地域に生息しているものに限らず世界中の動物です。本来であれば、飼育する動物たちの故郷の保全活動にも協力していかなければなりません。ところが、日本の動物園は地方の自治体が運営していることが多いので、現状では予算を海外の保全活動に使えないんですね。この垣根を壊していかないと、環境保全活動はなかなか前進しないと思っています。

私たちが活動の支援をしたい場合、どのような方法がありますか?

私が理事を務めている「ボルネオ保全トラスト・ジャパン」というNPO法人があります。そこで寄付を募ってボルネオ保全の資金にしているので、ご支援いただければと思います。グッズも販売しており、収益の一部がボルネオの環境保全に活用される仕組みです。

旭山動物園では、「ボルネオ保全トラスト・ジャパン」が進めている「ボルネオへの恩返しプロジェクト」に売上の一部を寄附する自動販売機を園内に設置し、身近なところからボルネオの自然を守るための貢献ができる仕組み作りを行っています。この「ボルネオ保全トラストジャパン支援自販機」は、旭山動物園内のほか日本全国に設置されていますので、こちらを通してご協力いただく方法もあります。

基本的に、マレーシア政府にはお金を渡していません。旭山動物園のノウハウがボルネオのゾウにきちんと還元される仕組みを設計し、寄付金の利用用途も開示しています。現在の主な用途は、飼育している4頭のゾウのエサ代と飼育員の人件費、第二期施設工事の予算ですね。

「ボルネオ保全トラスト・ジャパン」への寄付はこちら

日本全体の保全活動状況についてもお聞かせください。

現在は時代が変わってきて、環境保全への興味関心も高まってきました。世界的に見れば政府主体の保全活動や、アンブレラ種(※)を共存できる環境の中で守ろうという動きも活発になっています。一方で、日本は環境保全、特に生き物の保全に対してはアジアでもまだまだ後進国です。

とはいえ、環境省が絶滅危惧種、希少種の保全に力を入れてきています。トキやコウノトリ、ツシマヤマネコなどの保全は有名ですね。今進んでいるニホンライチョウの保全では、卵をかえして人工的に繁殖させたものを野生に復帰させるプロジェクトに動物園も協力しています。

そうした取り組みが徐々に成果を上げていますが、行政主体なので環境省からのお金が止まれば活動も止まってしまうという点は問題です。国民一人ひとりが保全活動をしていこうという意識は、まだできてないのかなと感じています。

(※アンブレラ種:環境を代表する動物たち。この種を保護することで傘の下の動物たちも守れるという環境保全の考え方。)

日本で野生動物と共存するうえでの課題を教えてください。

絶滅が危惧される動物がいる一方で、問題として圧倒的に注目されているのは野生動物と人との軋轢(あつれき)です。ニホンザル、イノシシ、シカ、クマなど、本来は自然の豊かさの象徴である生き物が人の営みとぶつかっています。その頻度がどんどん増えているので、駆除数も増加する一方です。

私が旭山動物園に入ったばかりの頃、親が駆除されたヒグマの子どもを保護したことがありました。親代わりをしたらなつくと思いましたが、最後まで触ることすら許さないんです。エサを食べなければ死んでしまうのに、人の目の前では決して食べません。
狭いオリに入っていても文句も言わず、淡々と生きて自分の運命を受け入れる。責任転嫁も恨む目もしない。命の閉じ方がきれいなんですね。そういう生き方があるんだと衝撃を受けました。

野生動物が人の保護を必要とせずに共存するためには、お互いが必要以上に干渉しないための豊かな自然が必要です。日本ではこちらの問題の方が大きいのかもしれません。

保全活動を通じて、旭山動物園が目指す未来とは?

旭山動物園はこれまで、「園内で飼育している動物」と「来園者」をつなぐための活動をしてきました。これからはそれをベースに、飼育している動物と、そのふるさとの仲間の想いをつなぐ架け橋になりたいと考えています。動物園が主体となって活動し、来園者にもそれを発信してもらう、それによって何かが変わっていくというのが目指す未来ですね。

手に取ったモノが作られた背景を考える。その先にある人と動物の共存できる未来

SDGsに対する関心が高まっていますが、私たちができることへのアドバイスをいただけますか?

当初、SDGsは言葉遊びなのかなと思っていましたが、理想論だけではなく「人間がこれからも生きていくために地球の環境をどうしていくのがいいのか」という原始的なことも書かれていて、現実を見ているんですね。ボルネオのケースで例えれば、当然私もゾウが生き残って人間は死ねばいいとは思いません。現実的にどう折り合いをつけていくかというのが大切なんです。

SDGsはそんなに難しいことじゃなくて、「10年後もこの暮らしをするためにはどうしたらいいのかな」というものだと思います。気温上昇の問題など、誰かがなんとかすると思っていたことが「もしかしたら、どうにもならないのかもしれない」と自分ごとに変わるケースも増えてきました。そこで「自分の行動で問題に関わっていることはないかな」と想像することが大事なんですね。

電気の使い過ぎや食べ残し、プラスチックゴミなど、環境につながる身近な課題はたくさんあります。まず簡単なのは資源を大切に使うことです。次にリサイクルコットンや再生プラスチックなど、手に取ったモノの背景についても、ちょっと考えたり調べたりしてみてはどうでしょうか。

「これはやめられないけど、これはできる」「こっちのリサイクル品を選ぼう」など、無理して考えなくてもできることがあると思います。

最後に坂東園長から読者に向けて伝えたいことはありますか?

旭山動物園でも「旭山動物園くらぶ(動物園のネットショップを運営)」さんと一緒に保全グッズの開発をしていますが、モノを買うというのは「どこに価値を見出すか」なんですよね。ブランドのTシャツを1万円で買うか、ノンブランドのTシャツを1,000円で買うかは、付加価値に対する本人の満足感次第だと思います。

その付加価値の中に「モノができるまでの背景」が加わって、「オランウータンの未来に関わるかもしれないから、こちらを選ぼう」という考えが定着すればいいなと考えています。もちろん「100人が100人やらなければ」というのは気持ち悪いですが、これまでなかった付加価値が生まれて、それを一定数の人がやると未来は変わるんです。

そうは言っても、深刻に考えてモノを買うのがいいとは思いません。買い物はワクワク感が大事です。環境保全というと不買運動が多いんですが、使うことでも保全につなげられると思っています。

パーム油が入っているから「口紅の赤はオランウータンの血の赤だ」という人がいますが、それでは何も生まれません。そう言ったからといって、口紅がなくなることはないですよね。「じゃあ、何かできるかな」と考えるほうがいいと思うんです。

パーム油が安いと、たくさん収穫しなければ現地の労働者は生活ができないので、ジャングルは次々に切り開かれてしまいます。でも、パーム油の値段が上がってもみんなが買ってくれるなら、生産量を下げてプランテーションの拡大を防げるかもしれません。

「理由に共感して高いほうを買う」そういう付加価値の選び方で未来は変わるんです。否定して不買運動をするよりも、考えて買うものを選ぶほうが気持ちいいと思います。

旭山動物園の園内でも、「ホタルと一緒に作ったお米」というものを農薬を使わずに作っています。「おいしい、まずい」ではなく、「ホタルがちゃんと命をつないだ水、そこで収穫できたお米を食べよう」というコンセプトなんです。

農薬を使わないと手間もかかるし、収穫量も減るので値段が上がってしまいます。でも少し時代を遡(さかのぼ)れば、人の営みの中で収穫量や効率を追求するだけでなく、自然や虫たちに譲っている部分がありました。選んでくれる人がいれば持続していけるんです。

そのためにはモノづくりをする側の情報発信も欠かせません。地球の未来を見据えた「情報+商品」のブランド作りが、一般的な感覚として拡がっていくとうれしいですね。

旭山動物園の公式サイトはこちら