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そこにあるのは映画のような暮らし。新潟「MACHITOKI」の白玉とデザインと郵便局の話

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
新潟県加茂市を拠点にモノの企画・デザイン・販売をしている「MACHITOKI(マチトキ)」さん。今回は旧郵便局を再利用したショールーム&カフェの看板メニュー「白玉あんみつ」の話にはじまり、デザイン活動や建物との出会いについて伺いました。

加茂市にあるお店へやってきました

こちらがMACHITOKIさんの拠点である旧七谷郵便局。

現在はショールーム&カフェとして使われています。

建物のもつ雰囲気を生かした心地よいカフェ空間。

オーナー兼デザイナー・渡辺 幸治さんにお話を伺います。

白玉あんみつをいただきます

まずはうちの白玉あんみつを、ぜひ食べてみてください!

「白玉あんみつ」を出してくださいました。

ありがとうございます! うつわのまわりが、ほかほかしています。

注文を受けてから白玉を茹でているんです。
お出しするまでにちょっと時間がかかっちゃうんですけど、できたてがいちばんおいしいので。

白玉のほかにも、いろいろのっていますね。

スイートポテトとコーンフレーク、白玉のうえに、みつ豆・アイスクリーム・季節の果物…アクセントにおせんべいをのっけています。

温かさと冷たさ、甘さとしょっぱさのバランスが絶妙。

白玉あんみつは1種類だけなんですか?

はい。ベストな状態で白玉のおいしさを味わってもらいたいので、この組み合わせのみです。

なぜ「白玉」にこだわりを…?

そうですよねー。
そもそも、ぼくはデザインをメインに仕事をしておりまして。(笑)

そのあたり、ぜひ詳しく聞かせてください。

デザインの力で白玉のピンチを救う

なぜ白玉あんみつをカフェのメインメニューに?

何を隠そうぼくの実家が白玉粉の工場でして。

なんと。ご実家はこのあたりなんですか?

はい。加茂駅のすぐそばにあります。

こちらが渡辺さんのご実家でつくられている白玉粉。

白玉あんみつを提供しはじめたのは、もともとはデザイン雑貨の販売がメインだったんですけどこの建物に訪れた人たちが「もっとゆっくりしていきたい」と言ってくれたのがきっかけなんです。

なるほど。

実は、この白玉粉のリデザインもしまして。
それがこの「しらたまおやつ」です。

「しらたまおやつ」?

左が白玉粉のセット「しらたまおやつ」

白玉粉・つくりかたの説明書・砂糖蜜がはいった白玉粉のセットです。パッケージは、小麦粉やお砂糖みたいに台所にいつでも置いてあるようなイメージでつくっています。

なぜこのようなセットをつくられたんですか?

おやつに白玉が出てくる風景を次の世代にも伝えていきたいという想いで実家に提案したんです。

そもそも白玉粉って、どこのおうちの戸棚にもあるような身近な存在だったんですけど…

たしかに。小さいころわたしの家にもありました!

そうそう。それが最近はつくりかたを知らない人のほうが多くなってしまったんですよ。ぼくはやっぱり白玉が大好きなので「どうにかもう一度、白玉を身近な存在にできないか?」と考えて、おうちにストックしたくなる白玉粉をデザインするにいたったんです。

渡辺さんは、白玉のどんなところが好きですか?

味はもちろんつくるところに楽しさがつまっている点です。小さい子どもさんでも、粘土あそびのような感覚でかんたんにつくれます。ジュースで色づけしても楽しいです。Webサイトではそういった魅力を発信しています。

お客さんからの反響は、どうですか?

ここで白玉あんみつを食べた方が気に入って「しらたまおやつ」を買ってくれることが多いです。とってもうれしいことです!

渡辺さんがデザインしたほかのプロダクトについても教えてください。

使う人の生活時間をデザインする

ここらへんが僕のデザインしたものです。今日は、ふたつ紹介しますね。まずひとつめ「ジョンソンさんのお皿」というシリーズです。

かわいいイラストですね! どんなコンセプトでつくられたんですか。

いくつになっても旅をしましょう」という遊びごころある提案を、ジョンソンさんというキャラクターで表現してみました。絵柄は10種類以上あるんですけど、1点1点てづくりなので、出すたびに売れてしまってなかなか全部そろうことがないんですよ。

渡辺さんのイラストはとても魅力的ですが、もともと学校で勉強されていたんですか?

いやぁ、それがぜんぜん関係ない畑の出身で…
ぼく、大学は化学専攻なんです。

わ!意外な。理系なんですね。

そうなんです。もともとデザインは大好きだったんですが、自分の好きなことで生きていくのっていつか辛くなるんじゃないかって、どこかで思ったんですよね。だからあえて好きなことを選ばず生きていこう!と化学の道を進んだんですよ。

でも結局、気づいたらデザインの道に入っていたんですよね。(笑) こっちの道が宿命だったのかなと思います。それで…今日ご紹介するふたつめのプロダクトに繋がるんですが、こんなものをつくったんです。

これは「DEGREE(ディグリー)シリーズ」といいまして、東京の小泉硝子製作所さんの協力のもとデザインした理化学ガラスです。自分のルーツである化学とデザインをむすびつけて、使う人に長く寄り添えるものを提案できないかな?という視点でつくりました。

デザインのこだわったポイントはありますか?

横から見るとわかるんですが、理化学ガラスって機能上、丸みを帯びているものが多いんですね。このシリーズは、ガラス自体の素材のよさや強さといった機能を日常にとりいれてもらいたくて、あえて直線と角だけでデザインしています。

横から見た図面。直線で構成されています。

先ほどの白玉やお皿のテイストとは全くちがう、かっこいいデザインですね。

やっていることとしてはちょっと違いますけど、全てのデザインに共通してることもあります。

たとえば、どんなところでしょう?

そうですね。使う人の日常にずっと寄り添うようなものをつくりたい。それは全部に共通しています。ものをつくっている、というよりも使う人の生活時間をデザインするようなつもりで全てにとりくんでいます。

デザインしたり、カフェで白玉あんみつを提供したり。今のご自身の生活を、どう感じていますか?

ものすごく気に入ってます。つくり手がのびのびと活動していれば、おのずといい影響がデザインにも現れるんじゃないかって考えています。

ちなみにここでの活動はいつから始めたんですか?

2012年まで神奈川で陶器の輸入販売をしてたんですが、今のようなデザイン活動をするにあたり拠点をここへ移しました。

では、この建物と出会った経緯について詳しく教えてください。

見た瞬間ピンときた郵便局との出会い

この建物はどんなふうにみつけたんですか。

デザインの仕事を中心にするなら、感度の高い人たちが訪れたくなるような建物を拠点にしたい」と思っていました。そんな観点で物件を探しているなか、出会ったのがこの旧七谷郵便局です。

これだ!」とピンときたものの、文化財だし借りるのはむずかしいだろうとアクションを起こさずに時間がすぎました。

しばらく全国を探してみたんですが、いい物件との出会いはなく。諦めかけたとき、ふとここを思い出したんです。ダメもとで市に問い合わせたところ大家さんを紹介してくださったので、思い切って相談してみました。

大家さんに話を聞くと、建物の維持費の問題もあって「売りに出そうか」と悩んでいるタイミングでした。そんなときぼくたちが声をかけたので、よろこんで貸していただけることになったんです。

タイミングがよかったんですね。建物を借りてから、けっこう手をいれましたか?

いえ。ほとんど手をつけていないです。きちんと手入れや掃除はしていますが、大家さんが長い間とても大切に守ってきた建物と知っていたので、むやみに手をいれたくなくて。

机や什器はどうされたんですか?

廃校になった学校からもらったり、自分たちでつくったり。こっちの机は郵便局長さんが使っていたものです。

郵便局長さんの机。

この奥は郵便局長さんの部屋なんですけど、ここも使われていた昭和56年当時のまま。今はギャラリーとして活用してます。新潟県内のアーティストさんの展示をすることが多いです。

アーティストさんは、渡辺さんからお声かけすることが多いんですか?

声をかけることもありますし、お客さんとして来てくれたことがきっかけのケースもあります。あとは、デザイナー繋がりでお話が生まれることも。

このスペースをきっかけに、ずいぶんたくさんのアーティストさんと繋がることができました。どんどん人と繋がっていく「あたたかさ」は、新潟ならではだなと思います。

新潟の町と人に、心をぐっと掴まれて

新潟ならではのあたたかさ、ですか。

はい。これは神奈川だったらなかなか難しかったんじゃないかなと思います。アーティストさんもそうですし大家さんもそう。とにかくあたたかいです。大家さんなんか、ぼくをごはんや旅行に誘ってくれたり。まるで家族のように接してくれます。

郵便局の隣に住んでいる大家さん。

渡辺さんは、この建物とそのまわりにいる人たちが大好きなんですね。

はい! ぼくはもともと都会が好きで、昔は「一生東京で暮らすぞ」と思ってました。それがここに拠点を移してみたら、すてきな出会いがありすぎて…。もう、ここを捨ててどこかへ行くなんて考えられなくなってしまいました。(笑)

この土地で暮らしてみて、ぐっと心をつかまれたんですね。

そうですね。人生ほんとうに何があるかわかんないです。化学の道を進むつもりがデザインの道を進んだり、都会好きな人が田舎を大好きになる。ほんとうに不思議です。(笑)

今後この場所でチャレンジしたいことはありますか。

やりたいことは山ほどあります。たとえば、もともと郵便局だったストーリーを生かしてこの場所を「手紙を出せるカフェ」にしたいんですよね。消印もここのオリジナルのものを押して。

ストーリーっていうと少し大げさなんですけど、昔からあるものの良さはそのまま大切に伝えて、変化して繋げていけるものはしっかりと未来に繋げていきたい。そういう想いで、これからもデザイン活動をしていきます。

白玉にはじまり、デザインや建物、そのまわりの人たちとのエピソードなど、たくさんお話いただきありがとうございました!