
ビジョンを全力で発信する。「セレクトショップLisa」が売上V字回復と急成長を遂げた秘訣
目次
“コンプレックスが自信に変わった” 実体験を活かした接客
まずは、ショップを立ち上げられた経緯を教えてください。
実は私、一般企業に勤めたことがないんです。こういうパターンはショップをやっている人では珍しいかなと思うんですけれども(笑)。
19歳のとき、生活雑貨店を始めることになったんですね。当時の私はイギリス留学をしていたのですが、家族から「店をやってみないか」という話があって。
それまでイギリスにいらっしゃったのに、帰国を?
そうなんです。1年間留学するつもりだったんですけど、滞在2か月目で急に電話がかかってきて「帰ってこないか」と(笑)。そこから5年ぐらいは試行錯誤しながら雑貨店を営んでいたんですけど、雑貨ってうまく儲からないな……という感覚があったんですよね、正直。
そこからアパレルに転身されたのには、どういった経緯があったのでしょうか。
開店からしばらくの間は大阪市郊外の駅前でやっていましたが、5年目で奈良県の今の店舗に移転して。やっぱり大阪に比べればここは人口も少ないし、駅前でもないから人通りもそれほど多くはないので、単価を上げなければと思ったのが理由の一つです。

一番の理由は、私自身すごくファッションが好きで、ファッションに救われてきたからです。それまでの5年間はそんなことすっかり忘れてガムシャラに働いてたんですけど。
もともとファッションがお好きだったんですね。
幼い頃から痩せ型だったので、どこへ行っても「ガリガリ」って指さされたりして、ずっといじめられてきたんですよ。それがとにかくコンプレックスでした。
姉の影響で中学生の頃からおしゃれに興味を持ち始めて、ちょっと年上向けの服とかも着るようになって。私服OKの高校に通い出してからは、周囲の目が少しずつ変わっていくのを肌で感じました。長年のコンプレックスを、おしゃれで自信に変えることができたんです。
ファッションが自信をもたらしてくれたんですね。素敵な原体験です。
奈良に移転した頃、ふとそのことを思い出したので少しずつアパレルを扱ってみたら、お客さまがすごく笑顔になってくれて。私自身、着こなしのアドバイスやカラーコーディネートが得意だったこともあり、笑顔で自信を持ってキラキラしてくるお客さまがだんだん増えてきました。
それで「こっちやな」と確信を得られたのを契機にアパレルに鞍替えすることに決めました。

ECサイト開設後、「月30万円の壁」を超えられた理由
実店舗がある中で、なぜオンラインでの販売も始めることにしたのでしょうか。
実店舗周辺は人通りの少ないエリアなので、このままでは長くやっていけないなと思ったのが一番の理由です。あとは顧客層の変化ですね。
アパレルを扱い始めた当初、今と違ってうちのボリュームゾーンは団塊の世代でした。お客さまの多くは50代前後だったので、当時はたくさんの方がお店に来てくださっていたのですが、その世代が65歳を過ぎたあたりからガクッと客足が減ってきてしまって。
退職や年金生活など、ライフスタイルが変化する時期とちょうど重なりますね。
そこで、ターゲットを私たち団塊ジュニア世代まで一気に引き下げたんですよ。団塊ジュニアもボリュームとしては大きい世代なので、次はここやと(笑)。
でも、私たちの世代が住宅街の路面店で買い物をするかというと、それもなかなかハードルが高いんです。ここは大阪からも遠くないベッドタウンなので、私たちの世代は仕事も買い物もほとんど大阪で済ませちゃいますからね。それならECサイトを立ち上げてみようと思って。
カラーミーショップの利用開始は2014年ですが、その前からEC販売はされていましたか。
少しだけです。ホームページビルダーで作ったサイトを無料のカートシステムと連携させ、購入ボタンを貼りつけたような自作のECサイトを運営していました。
自作のECサイトからカラーミーショップに切り替えたきっかけは?
やっぱり自作のまま続けるのはしんどいなと思って(笑)。
私自身サイト制作のプロではないですし、当時はまだ売上も全然なかったので、とにかく安くて高機能で、素人でも扱いやすいサービスを探していました。いろいろ比べてみて使いやすそうだなと思ったのがカラーミーショップだったんですよね。
ECサイトを始めてみて、商品はすぐに売れましたか。
いや、もう全然です。昔カラーミーショップのユーザー交流会に行ったとき、他のショップオーナーさんとも話していたのですが、「月30万の壁がなかなか超えられない」と。
もちろん最初は月10万に上げるのも大変やったし、毎日毎日努力していても3万しか売れへんって時期もありましたが、私も月30万を達成するのにすごく時間がかかったのを覚えています。
超えられないからやめるのではなく、ここまで続けてこられたのがすごいですね。
ゼロイチで作ったものに反応をもらえるとすごく嬉しいんです。もともとモノを作るのが好きなほうだし、誰かに喜んでもらうことに生き甲斐を感じられるタイプだから。好きだからしぶとく続けてこれたって感じなんでしょうね。

顔出しへの恐怖を乗り越えて掴んだ先行者利益
ECサイトの売上が少しずつ伸びていく過程で、特に注力されていた施策はありますか。
やっぱりSNSですね。
リサさんは普段からよくインスタライブをされていますよね。
「私なんかが人前で話しても……」と顔出しすることを躊躇うショップオーナーさまも多い中、そういった活動を始められたのはなぜでしょうか。
これに関してはもともとの性格や特性も大きいですよね。
私も幼い頃からコンプレックスが強かったので、本来は引っ込み思案な性格なんです。一対一のシチュエーションなら社交的だしおしゃべり好きですが、人前で喋るのはどうしても萎縮しがちでした。でも昔から学校で自分の描いた絵が貼り出されたときは優越感もあってちょっと嬉しかったりする“プチ目立ちたがり”な性格ではあったかな。
それでも顔を出すのってどうしても怖さがありますよね。
もちろん怖いです。「恥ずかしい」っていうよりは「怖い」っていう感覚がやっぱり強いですよね。特に女性は、発信してるだけでも変な人が寄ってくるんじゃないかとか、想像しだしたら怖いことだらけですよね。
私が顔を出して発信するようになったきっかけは、小規模事業者向けに集客・PRを教えていた講師の方々に「あなたは顔を出したほうがいい」と口を揃えて言われたことでした。
専門家からのアドバイスだったんですね。
それまでも、ブログで自撮りのコーディネート写真を毎日載せてたんですよ。まだスマホもない時代だったのでデジカメ撮影でしたけど(笑)。首から上を隠して載せていたら、講師の先生方が「顔を出さないともったいない」「あなたらしさが伝わるから、顔を出したほうがいい」と。そこで強く勧められたのをきっかけに、SNSでも顔を出すようになりました。
当時はそういうショップが多くはなかったので、ポジティブに捉えてくれる方が多くて。先行者利益っていうんですかね。今思えばショップとして信用してもらいやすい状況だったと思います。
インスタライブ、お客さまの反響はいかがですか。
それまでは売上規模の小さいショップでしたが、コロナ禍が始まる前から一足先にインスタライブを始めたことで、好調に売上が伸びていきました。新規のお客さまもどんどん入ってきて、かなりの割合でリピーターになってくださったので、当時は非常に手応えを感じましたね。
「思いつき経営」から「ビジョン経営」への大転換
少しずつ成長を遂げていく中で、特に悩んだことがあれば教えてください。
コロナ禍明けに売上がガクッと落ちたことですね。
今振り返れば、それまではただ思いつきでやってみたことが運よく当たってただけで、きちんと戦略を練った上で動いてたわけじゃなかったんです。「やった、売上が伸びた。じゃあもっとやろう」と言ってPDCAの”D”をただ繰り返すばかりでした。
それでもずっとうまくいっていたし、売上が落ち込んだこともなかったのに、コロナ禍が明けた途端、ひどい月では売上が4割も減ってしまいました。2022年の冬ごろからなんとなく不穏な感覚はありましたが、2023年の1~8月までずっと落ち続けて。
8か月間も。それは大変でしたね。
たまたま古くからの友人に、経営戦略やマネジメントを得意とするプロフェッショナルがいたので、売上が落ちかけたタイミングで相談したところ、「(経営に)入りましょうか」と言ってくれて。
それは、以前から私が掲げていた「大人の女性を幸せにしたい」「もっと女性が生きやすい世の中にしていきたい」というビジネスに対する思いや、おしゃれを通じてコンプレックスから脱却してきた人生そのものに共感してくれたからだったんです。

なるほど。そのご友人と一緒に経営のあり方を根本から見直されたのでしょうか?
はい。私は何者なのか、何がしたいのか? と自分自身の根本から事業全体を見直し、100時間以上かけて「“私らしく今を生きる”を応援する」という新ビジョンを打ち立てました。一見簡単な言葉ですが、じっくり考えて話し合いながら作ったものです。
そして、今までずっと場当たり的だった経営を「ビジョン経営」に切り替えました。今後はすべての戦略をビジョンに基づいて立案・実行し、PDCAを高速で回していくことにしたんです。
経営方針をリニューアルしたんですね。
そうなんです。さらに、商品企画やバイヤー業務、広報、店舗管理といったメイン事業を私が担当し、戦略立案やマーケティング、経営管理を友人が担当することになったのも大きな変化でした。分業体制を整えたことで私も本業に集中でき、2023年9月からは売上が再び成長するようになりました。
急成長に至った高速PDCAの中で、これは効果があったという施策があれば教えていただけますか。
「どの施策に効果があった」というよりは、それまでバラバラに行っていた施策や情報発信のすべてをビジョンに紐付けていったことが少しずつ結果につながっていったのだと思います。
インスタライブで私が話す内容も、SNSの投稿文も、従来はただ“なんとなく”商品紹介をしていただけでした。口では「私たちは服を売ってるんじゃなくて、気持ちを売ってんねん」とか言いつつも、それが伝わるような発信は全然してこなかったんですよ。「これいいでしょ?」「こういうポイントが素敵でしょ?」とアイテムの説明ばかりして。
発信内容を意識的に変えていったということですね。
はい。2023年の冬にはオリジナルブランドを3つ立ち上げましたが、それぞれ異なるターゲットとメッセージを設定しつつも、ショップのビジョンには紐付く形をとっています。

もちろんそれだけでなく、「こういうビジョンに基づき、こういう思いを込めてブランドを作りました」としつこいくらい発信し続けたら、見ているお客さまもそれに共感してくれて。レビューやメッセージにも「リサさんの思いに共感しました」とか「私もそうやって生きたいと思いました」といった言葉が増え、効果が売上として表れるようになりました。
「推される店主」になるためのブランディング戦略
お客さまとの関係性作りにおいて、工夫されていることはありますか。
ブランディングの一環として、お客さまに“憧れの存在”として見ていただけるような発信を心がけています。うちは40~50代女性のお客さまが多いので、「年を重ねてもこんなふうに輝ける」というのを私自身が体現することで、お客さまにも希望を持っていただけたらと思っています。いわゆる「女神化」、これも先述の友人による戦略の一つです。
外出先で写真映えしそうなスポットを見つけたらそこで撮影したり、友人がちょっといい車に乗っていれば一緒に撮らせてもらったり。そういうキラキラした側面を見せるだけでなく、インスタライブでは関西弁で楽しくおしゃべりするような親しみやすさとか、ビジョンや思いを語ることも常に忘れないようにしています。手の届かないタイプの女神というよりは、親しみやすくて会いに行ける、だけどライフスタイルに憧れてもらえるような存在が理想ですね。
推し活でいうところの「推される側」になるということですね。
そうそう。この前も首都圏近辺のお客さまと東京でランチ会を開催したんです。「握手してください」とか「写真撮りましょう」ってすごく喜んでくださって。
実店舗でも、九州や関東から会いに来てくださるお客さまがよくいらっしゃるので、配信でコミュニケーションできる、行こうと思えば会いに行ける、そんな距離感を今後も大切にしたいです。
日頃のていねいな発信や関係性作りの積み重ねが、「カラーミーショップ大賞2025」の優秀賞受賞にもつながりましたが、受賞を経てのお気持ちはいかがですか。
正直、びっくりしました。どの受賞ショップもデザイン性に優れたサイトを作っていらっしゃるし、ショップとしてのクオリティが高くないと優秀賞には入れないと思っていましたから。
実はうちの店、私以外はみんなパートのスタッフなので、ECサイト専属担当がいないんです。もちろんバナーや商品ページは定期的に更新していますが、細かい専門知識が必要なデザインカスタマイズはほとんど後回しのまま運営してきて……SNS上での集客や商品紹介に力を入れてきたぶん商品ページは未完成だと思っていたので、受賞できたことに驚きと感謝しかありません。

それでは、今後の展開や目標についてお聞かせください。
最近は自社ブランドの売上比率が順調に伸びていて、多い月では売上の50%を超えるようにもなったので今後も引き続き注力していく予定です。今年の冬にはまた新しくブランドの立ち上げを予定しているので、ビジョンに基づいた発信も含め、ブランディングの強化を図っていきます。
それから、インスタライブにはいつもたくさんコメントをいただくので、ここにも力を入れていこうと思います。今は私がメインで出演していますが、今後は店舗スタッフにもファンがつくような工夫や取り組みを進めていきたいですね。
最後にリサさん、これだけは伝えておきたいという思いがあれば一言お願いします。
そうですね、アパレルってずっと前から斜陽産業だとか言われてますけど、そんな斜陽産業の中にも必ずニーズは存在すると思います。“自分たちが何者でありたいか”をまずは自覚し、それに共感してくれる人たちに向けて商品やメッセージをシャープに届け続ければ必ず顧客はついてきますし、勝ち筋はあると思うんですよ。私自身、「レッドオーシャンの中にもブルーオーシャンは必ずある」ということをここ数年で強く実感しています。
これからも私たちのショップや商品を通じて、世の中の女性へもっと笑顔を届けて、素敵な毎日を送って幸せになっていただけるショップでありたいですし、アパレル企業ではなくライフスタイルカンパニーとして、より素晴らしい価値を提供できるよう事業を伸ばしていきたいです。
