改良を重ね、商品とコンテンツを長い目で育てる。「かわしま屋」が地道に歩んだ試行錯誤の11年間
2023年の「カラーミーショップ大賞」では、2017年以来5度目の受賞にして、ついに大賞の座へと登りつめました。今回は、大賞受賞の決め手となった独自コンテンツの制作にかける思いや、ショップ運営に欠かせない機能などについてお話を伺います。
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目次
創業当初から変わらない、商品ページへのこだわり
2023年の「カラーミーショップ大賞」では、ついに50,000店の頂点に輝きましたね。
今回の大賞を決定づけた要因の一つが、商品ページをはじめとしたサイト設計の秀逸さでした。商品ページを細かく作り込んでいるのは、2012年の創業当時からでしょうか?
僕一人だけでやっていた時期は、自分で写真を撮ってアップして……今思えばみすぼらしいようなページを量産していましたね。
でも、他にやることがなかったぶん時間だけはあったので、当時からページ内のコンテンツ量は多かったと思います。当時は商品ページだけでSEOを狙っていたので、素人なりにいろいろ書いていた記憶があります。
たとえば、商品の魅力や使い方などでしょうか?
そうですね。各地の生産者さんのお話とか、商品の素晴らしいポイントとか……。でも、文章だけではどうしても伝えきれない話も多いじゃないですか。
たとえば、うちには納豆菌という非常にマニアックな商品があって。やわらかく煮た大豆に納豆菌をかけて保温しておくと、納豆って意外と簡単に作れるんですけど、そういうのってテキストだとなかなか説明できないので、創業当初は動画も自分で作ってましたね。
へえ! 納豆ではなく“納豆菌”を販売するに至ったのはなぜですか。
もともと味噌や醤油といった発酵系の調味料から始まったお店ですから、その発展形として、自分一人で戦っても太刀打ちできそうな分野を探していました。
「オーガニック原料から自分で作れる納豆」という、すごくニッチなんだけどちょっとした市場がありそうなものなら、競合も多くないから差別化できそうな気がして。少しでも先を見誤れば一瞬で沈んでしまう船だったので、生きるために必死に考えた結果ですよね。
私なら、単純に納豆そのものをオリジナルパッケージで売ろうと考えてしまいそう……! でも河島さんは、さらに深く掘り下げたところに確かなニーズを見出したんですね。
ちっちゃなニーズではありますけどね。自分でも戦えそうな市場がそこしかなかった(笑)。
訴求の「切り口」次第で売れ行きは大きく変わる
そんな創業初期を経て11年が経った今、商品数は大幅に増えていながら、どのページも一貫して非常に作り込まれていますよね。商品ページの更新は何名体制で行っていますか。
およそ10名ほどです。マーケティング的な機能をもつ「コンテンツチーム」が社内にあり、彼らが商品ページの構成・制作やコラム記事の執筆などを担当しています。
商品ページ内にマストで入れている要素はありますか。
長期的に育てていきたい自社オリジナル商品は、訴求ポイントを3~4つに整理し、段落分けすることを意識しています。
ただ、僕らが推したいポイントは意外とお客さまにとって優先度が低かったり、逆に僕らにとって優先度の低い情報がよく刺さることもあるんですよね。なのでこまめにヒートマップを見たり、商品によってはユーザーアンケートをとりながら、ページの内容を改良していくことが多いです。
新しく情報を追加したら売上がぐんと伸びた、といった事例はありますか。
いくつかありますね。代表的な例でいうと「リンゴ酢」でしょうか。
当初は調理用のお酢として使っていただく想定で販売していたのですが、近年は炭酸水とかで割って飲む方が非常に多いんです。そこで、少し訴求の切り口を変えて「飲む」ほうのイメージを強調してみたところ、CVRがかなり上がったのを覚えています。
飲用にも使えること自体はリリース当初から謳っていましたが、調理用と比べてどちらの需要のほうが大きいのかわからず、並列的に提案してたんです。そこをあえて飲み物として打ち出してみたら圧倒的に人気だったし、需要も感じられましたね。
あと、うちではバルサミコ酢も取り扱ってるのですが、あれって飲んだことありますか?
飲んだことはないです。お肉にちょっとかかってるようなイメージかな……。
飲むと濃密なブドウの味がして、実はめちゃめちゃおいしいんですよ。
日本では小瓶に入ってちょっとお高くとまってる感がありますけど、本場イタリアでは飲んでる方もいらっしゃいますし、日本より価格もリーズナブルなんです。
うちで扱っているバルサミコ酢は濃厚なブドウの風味がとてもおいしくて、調理用にするより飲んでもらったほうがいいと思ったので、思いきって商品名を「飲むバルサミコ酢」に振り切ってみたところ、多くの方が興味をもって手に取ってくださるようになりました。雑誌でも珍しがって取り上げてもらえたりとか……訴求次第で世間への響き方は大きく変わるのを体感しましたね。
改善を重ね、長い目で育てるオウンドメディア
かわしま屋さんのオウンドメディア(読み物ページ)では、写真も情報もクオリティの高い記事がほぼ毎日更新されていますよね。中でもレシピ記事は、家族の人数に合わせて分量表示を変えられたりと、利便性も高い印象です。
よく気付きましたね(笑)ありがとうございます。
かわしま屋さんがコンテンツの発信に力を入れているのはなぜですか。
広告をたくさん打てるだけの体力がなかったから、集客の術が限られていたんです。できることといえば、とにかく記事を書いてオーガニック検索に頼るためのSEO施策しかなくて。
あと、Web広告って、止めた瞬間から集客がピタッと止まってしまうものじゃないですか。
かわしま屋が主に扱っている食品なら、記事やレシピを書いたほうが社会に何かしらの有益なインパクトは残せるんじゃないかと考えてて。うちの場合、同じお金を使うなら広告よりコンテンツを増やしたほうがいいなと僕は思ってます。
なるほど。増やしたコンテンツは自社の財産として積み上がっていきますもんね。かわしま屋さんのコンテンツも、最初は河島さんが一人で作り始めたのでしょうか。
そうです。お金はないけど時間だけはあったので、一人でいろいろブログを書いてました。
コンテンツ作りを続ける中で、初めて手応えを感じたのはどんなときでしたか。
最初のころは訳もわからず、Google サーチコンソールの使い方もよく知らないまま記事やレシピを書いてましたね。うちでは豆腐の手作りキットも販売しているので、それに関連して「豆腐の作り方」という記事や動画を作ったところ、徐々にアクセス数が伸びてきたんです。
やがて自分の書いた記事が検索結果の一番上に出てくるようになったとき、「お金がないなりのやりようがあるかも」と、手応えや自信につながった覚えがありますね。
ああ、この動画のナレーション、すごい鼻声で何を言ってるのかわからないんですけど、これ僕の声なんですよ(笑)。倉庫の隅っこで一人で録ってたやつなんですけど、なんか久しぶりに見ましたねえ。
たった一人で積み重ねた作業が今に繋がっていると思うと、なんだか感慨深いものがあります。現在は、管理栄養士さんによる監修も入ったコンテンツも多いですよね。
主要な記事コンテンツは管理栄養士さんに見ていただくようにしています。自分たちでも文献を探して正しい情報をお伝えするようにはしていますが、より権威性のある記事のほうが読み手は安心できると思うので。
なるほど、説得力が。
世の中、似た内容の記事はたくさん出てきますけど、ページ中あちこち広告バナーだらけで「大丈夫なのかな?」と不安になるサイトも多いじゃないですか。そういった点での信頼性があるのとないのとでは成果が大きく変わるだろうな、という感覚がありました。
一人で始めたブログが源流となってWebメディア化していった中で、継続のために工夫されてきたことはありますか。
記事のネタや企画、SEOで狙いたいキーワードはできるだけ明確にしています。
僕らはメディアとしての力が強いというより、オーガニックでの流入のほうが圧倒的に多いので、きちんと検索上位に上がれるレベルの良質な記事にできるか、上位に入ったらどれくらいの流入が見込めるかはしっかりと予想立てて動くようにしてるかな。
コンテンツを出してもすぐにサービス認知や購買にはつながるわけではないのがメディア運用の難しさですよね。思いどおりの結果が出ないまま途中で諦めてしまう事業者の方も多いようですが、かわしま屋さんではどのように目標を設定していますか。
うちはPV数や商品ページへの遷移率を目標に置いてます。
1記事ごとの基準はそれほど明確に設けていませんが、オウンドメディア全体で「これくらいは出せないとやってけない」「これくらいは増えたらいいよね」という食べていくための切実なボーダーラインがあるので、常にそこを見ながらコンテンツを改善してますね。
他のショップオーナーさまにお話を伺ってみると、オウンドメディアやSNSなどの運用は「継続」こそが大変なのだそうです。モチベーション維持のポイントはありますか。
予算がかけられないと、役に立ってるかわからない施策は止めちゃう人が多いですよね、きっと。
僕らは長い目で数字を増やすための改善に注力してきたことで、少しずつそれなりのPV数を作れてきていて、そのおかげで挫けずにやれてると思うんです。特に商品ページへの遷移率を計測するようになってからは、売上にもある程度貢献できているという自信が得られたので、それがモチベーションにつながっていると思います。
販促・商品改良の両面を支える「購入者レビュー」
他店と比較すると、かわしま屋さんでは商品ページのかなり上部に「購入者レビュー」を表示させているのが特徴的です。これにはどんな意図があるのでしょうか。
レビュー欄って必ずみんなチェックするじゃないですか。
僕自身もAmazonとかでモノを買うときは、一通りスペックを見てからレビューを確認するっていう動きが多いので、もっと上に載せたほうがいいんじゃないかと思って。実際、これでCVRはけっこう変わったと思います。
特に初めて買う食品だと、なおさら購入者の声が気になりますよね。
そうですね。購入を後押しするという点でも重要ですし、商品を買って実際に召し上がった方の感想やご意見がたくさん集まってくるという意味で、僕らにとっても非常に役立つんですよ。
カラーミーショップの標準機能を使ってた頃から多くの方がレビューを書いてくださいましたが、アプリストアの「U-KOMI」という顧客レビュー獲得ツールを使ってみたところ、レビュー数と回答率が爆発的に伸びました。最近追加されたハイライト機能が便利で、特に素敵なレビューを先頭固定したり、レビュー文の注目ポイントにマーカーを引いたりできるんです。
いわゆる「ベストアンサー」みたいな感じですね。自分のレビューが選ばれれば嬉しいし、また買いたくなっちゃうかもしれません。
集まったレビューをもとに、サイトや商品の改善につなげていくこともできそうです。
具体的にどこがお客さまに受けていて、逆にどこがダメだったのかなど、一件一件に必ず目を通して施策に生かしています。たまにいただく厳しいご意見も、改善のチャンスとしてありがたく受け止めています。
U-KOMIの他には、どんなアプリを利用されていますか。
「アクションリンク」というメールマーケティング・CRMツールは、売上アップにかなり効果があったので継続利用しています。今の売上のおそらく2割くらいはアクションリンクが積み上げてくれてるんじゃないかな。機能の幅が非常に広いこともあって、貢献度は高いですね。それから、閲覧履歴ベースでおすすめ商品を表示してくれる「さぶみっと!レコメンド」も、客単価アップにかなり効果的でした。
僕らの場合、新しいアプリがリリースされたらすぐにチェックして、無料期間を活用しながらフレキシブルにお試ししてみることが多いです。実際に使ってみて、自分たちのやり方にフィットしていたら継続利用していくスタイルですね。
まずは一旦入れてみる、という感じですか。
そうそう、まさにそんな感じです。
たとえば今はちょうど中国本土向けの越境ECアプリ「CHINA CART」を実装しようとしてて。以前からスタッフたちとは、「うちの商品って中国からの需要もけっこうあるんじゃない?」とよく議論していたのですが、実際はどうなのかを検証する方法ってなかなかないじゃないですか。だからカラーミーのアプリでお試ししてみようよ、と。
ありがたいことに無料期間を多めに設けてくれているアプリが多いので、しっかり検証してから継続を判断できるのが嬉しいですね。
気軽に試していただけて私たちも嬉しいです。
マーケ視点に偏らず、プロダクトに磨きをかける
これから新たにECサイトを始めたい方や、今後さらに伸ばしていきたい多くの方が、かわしま屋さんの施策や戦略に注目していると思います。河島さんからぜひ一言アドバイスをお願いします。
うーん、何を言ってもおこがましい感じになってしまいますね……(笑)。
これは僕らが常々感じてることなのですが、頭のいい人たちが毎日寝る間も惜しんでWebマーケティングに注力している世界で、そんな人たちを敵に回して戦ったって勝てる気がしないじゃないですか。こんな辺鄙な場所で商売してると、「どうやって売っていくか」という思考につい走りがちだけど、そういう視点にばかり偏っていてはダメだなって思うんです。
「いかに優れた原料を調達し、いかに効率的に、いかに優れたプロダクトをお届けするか」。そんなプロダクト視点との両輪が揃うことで、ようやく初めて社会的に意義のあることができるはず……と常に自分に言い聞かせてますね。
マーケティングとプロダクトのバランスは、普段どのように意識していますか。
それがまだまだ全然……。僕も「どうすればいいんだろう?」っていつも悩んでばかりです。
オリジナル商品を販売する事業者さんにとっては、永遠のテーマなのかもしれませんね。
最後に、かわしま屋さんにとって少し先の目標と、長期的なビジョンをお伺いしたいです。
まず短期的な目標としては、現在リリースに向けて開発中のオリジナル商品がいくつかあるので、まずはそれを多くの人に知っていただき、届けていくことです。さっきの納豆菌よりは市場が大きいはずなので(笑)、そこで確かな存在感を示せるよう認知獲得を狙えればと思います。
長期的には、海外での売上をさらに伸ばしていきたいですね。
海外の小売店にも“日本的なパッケージ”の食品はたくさん並んでいますが、残念ながら日本製ではなく、品質の低いものも多く見られます。現地の方からも「もっと本当にいいものはないの?」という声をすごくよく耳にするんですよね。僕らとしても何かやれそうなことがきっとあると思うので、今後どんどん進出していきたいです。
今日はいろいろなお話が聞けて楽しかったです。ありがとうございました!
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