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海苔を売っているのに聞かれた「おいしい海苔ってどこに売ってるんですか?」
森田さんは元海苔漁師だそうですが、漁師を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
森田さん:祖父の代から家業が海苔漁師だったので、小学2年生から土日は海に行って手伝っていたんです。
森田さん:そのまま土日は漁師、平日は就職して会社員として働いていたんですが、家業を継ぐために会社員を辞めて専業の漁師になりました。
その後、漁師から海苔の加工業へとシフトされたのはなぜですか?
森田さん:海苔漁師の売上がびっくりするほど下がってたんですよ。祖父の代から使っていた機械も老朽化して、買い換えるお金もないだろうと。
それなら、海苔の加工をしてみようと加工用の機械を買って、天神で売ってみたんです。
そこでお客さんに「おいしい海苔ってどこに売ってるんですか?」って、私が海苔を売っているのに聞かれたんですよ。それって、おいしい海苔を売っているところがないからですよね。ないなら自分で作ろうと思い、本腰を入れて加工業をスタートしました。
会社員と漁師を辞めて、新しい挑戦を成功させるのは大変ですよね。モチベーションはどのように維持したんですか?
森田さん:正直、やる気満々だったわけではないんです(笑)。ただ、田舎に住んでいて新しいことを始めるというのは、周りとの価値観の違いから笑われることがあるんですよ。だから、笑われないように、ただ一生懸命に頑張った結果ですね。
海藻から海苔ができるまで
私たちが食べている海苔ができるまでに、漁師さんや森田さんはどのような作業をされているんですか?
森田さん:漁師は海苔を養殖しているんですけど、10月に「種付け」という作業をします。種付けから、だいたい30日で海苔が摘めるようになります。昔は10月1日にしていた作業ですが、だんだん時期が遅れていますね。
種付けの時期が遅くなっているのはなぜですか?
森田さん:温暖化が原因です。水温が22度以下にならないと種付けができないんですけど、今年は10月10日まで水温が26度あったんです。ちょうど北風が吹いて、いきなり冷え込んだので種付けはできたんですが、気温が18度にならないと種から芽が出てこないんです。今年は18度になったのが10月の中旬でしたね。去年は真夏日が何日かあっておいしい海苔ができなかったので、今年も心配しましたよ。
今の時期(11月上旬)は種付けからだいたい2週間ぐらい。海苔の養殖は二期作で行うので、芽が3cmぐらいになったら、一度網を引き上げて冷凍倉庫に保存します。
一方で、引き上げて保存しない網もあって、その網から最初にとれるのが「秋芽一番摘み」です。ちょっと硬い海苔ですけど、それはそれでまた味がいいという方もいらっしゃいます。この網から5〜6回摘んで、クリスマスごろに保存しておいた冷凍網に変えます。
冷凍網から最初にとれるのが、私が使っている「冷凍網一番摘み」という一番おいしい海苔です。全体で2%しかとれない希少価値の高いものです。
海苔がそんなふうに養殖されているなんて、全然知りませんでした。
森田さん:たぶん、誰も知らないですよね。農家さんは陸続きで作業が見えやすいですけど、海苔は見えないところで育ってますから。
確かにそうですね。摘んだ海苔はどのようにして私たちが食べている形になるんですか?
森田さん:まず、海苔には海のごみが混ざっているので、円盤のようなものに乗せて遠心力でごみを浮かせて海苔だけを取ります。
きれいな状態になった海苔はミンチの機械に入れて、5mmほどの長さにして真水で洗います。
それを今度は19cm×21cmの四角い枠の中に、紙すきのように流し入れていきます。枠に入れた海苔の水分はスポンジで吸収します。
それを乾燥窯の中に入れると、2時間半後には板状の見慣れた状態になります。ここまでが漁師の仕事で、100枚束にしたものが組合に出荷されます。
ここから私の仕事になります。仕入れた100枚束の海苔をバラバラにして伸ばすんですけど、それでも湿度は12%ぐらいあります。それを4%になるまで水分を飛ばしていきます。目安は爪を入れた瞬間にパリッということ。この乾燥し切った海苔を焼くと、焼き海苔になります。
いくつもの行程を経て、おいしい海苔ができるんですね。
道の駅で430円だったものが、630円で売れる
森田さんと梶原さんの出会いについて教えていただけますか?
森田さん:『九州ちくご元気計画』という行政がやっていたプロジェクトの一環で、久留米地域でデザイナーと事業者を結びつける取り組みがあったんです。そこで、プロデューサーの江副 直樹さんとお話ししたときに「お宅には梶原さんがいいかな」と紹介していただいたのがきっかけです。
梶原さん:江副さんをはじめとする推進委員の方が事業者さんの抱える課題を聞いて、解決できるクリエイターとマッチングしてくれるんです。僕は月に1回、推進委員の方と江の浦海苔本舗さんを訪問して、森田さんと対話しながらやりたいことを伺うというのを1年ほどやりました。
なるほど。ネットショップの立ち上げもご一緒にされた感じですか?
梶原さん:そうですね。ホームページを作ったときにECも入れたと思います。
その際に、カラーミーショップをお選びいただいたのはなぜですか?
森田さん:当時はそれほど選択肢がなかったんです。そのなかで、安くて一番使い勝手がよかったんじゃないですかね。
梶原さん:カラーミーショップは販売者の味方というイメージもありました。他のカートシステムは自分たちが儲けようとする印象を受けたので。
ありがとうございます。私たち、販売者の方の味方です(笑)。
お申し込みいただいたのが2012年ですので、お二人はかなり長いお付き合いということですね。
森田さん:もうすぐ10年になりますね。
梶原さん:何かしら新商品ができると、パッケージデザインを発注していただいています。発注先が変わると違う表現になったりしますけど、うちが一貫性をもってやらせていただいているので、統一されたデザインで続いていますね。
スーパーに並んでいる海苔とはかなり差別化された、おしゃれなパッケージですよね。デザインのコンセプトはどういったものですか?
梶原さん:最初に江の浦さんの海苔を食べたら、すごくおいしかったんですね。スーパーに並んでいる市販の海苔とは全然違ったので、売るためのパッケージにするよりも都会のマンションのテーブルに愛着をもって置かれるような常備品にしたいと思ったんです。
そこで、まずは焼き海苔、味海苔、塩海苔という代表的な三種類の商品パッケージを、記号として中身がわかるデザインにしました。
そういったコンセプトからどちらかというと雑貨のような扱いで、販売場所のポジショニングもスーパーや百貨店ではなく、雑貨を取り扱うセレクトショップになっていきました。
食べておいしいだけでなく、置いておくだけでもかわいい商品ですよね。パッケージをリニューアルして、売上に変化はありましたか?
森田さん:ありましたね。
梶原さん:道の駅で430円だったものが、630円で売れるようになりました。見た目が変わって200円の付加価値がついたことが一番大きいです。
ただ、これまでの値段より200円高くなると、道の駅ではなかなか買ってもらえません(笑)。ですので、地元では以前のパッケージで販売して、新しいパッケージと値段で買ってくれるところに販路を広げていきました。
森田さん:昔のパッケージだと営業活動をしても相手にしてもらえなかったのが、中身は同じなんですけどパッケージが変わったら話を聞いてもらえるようになりました。
味はもちろんのこと、パッケージもかなり重要ということですか?
森田さん:8割から9割はパッケージだと思います。最初は味が一番だと思っていて、ダサダサなパッケージでやってたんですよ。それで、誰からも評価されなかったということは、表現になっていなかったということでしょうね。
梶原さん:まずは品質のよさが重要ですが、それが地元では過小評価されている状況なんです。パッケージのせいで1のものが0.5になってしまう。僕のなかではデザインを通して1のものを1の状態にしているだけだと思っています。
九州でデザインをやっていると、そういったものがすごく多いと感じますね。中身のよさを外から見えるように表現するだけで、売れるものがたくさんあります。それを地元でやっても評価されないので、都会に持っていくだけでいいんじゃないかと思っています。
販路ごとに適したパッケージがあるということですね。
コロナ禍でECに販路を広げたい事業者さんのなかには、打ち出し方や見せ方に悩んでいる方もいらっしゃると思いますが、そういった方に向けてアドバイスはありますか?
梶原さん:パッケージデザインやロゴデザインを自分でやろうとする方とか、クラウドソーシングで頼む方がいらっしゃるんですが、安いロゴをたくさん買っても選べないし、商品のよさを表現しきれていないと感じます。人に頼む勇気がない方や、あまりデザインを信じていないデザイン不審の方は多いですね。
却って「自分ではできないからどうにかしてくれ」という方のほうが、対話のなかから「こういうものが欲しかった」というデザインが生まれやすいと感じます。
困ったときは、プロに相談するのが一番ということですね。
梶原さん:そうですね。クライアントに寄り添って、対話から一緒に作ってくれるデザイナーさんにうまく出会えればいけると思います。でも、そういったデザイナーさんは少ないかもしれません。
失敗しないデザイナーさんの見つけ方はありますか?
梶原さん:やっぱり、売れているものを作っている実績のあるデザイナーさんに頼むべきかなと思います。自分が気に入った商品があったら、誰がデザインしたのか調べてみるのがおすすめですね。
なるほど! 身の回りのプロダクトも誰かがデザインしたものですもんね。
競合も海苔業界も意識しない商品開発
板状だけでなく、オイル漬けにした『のりフレーク』など、さまざまなバリエーションの海苔を販売されていますが、新商品のアイデアはどこからやってくるんですか?
森田さん:のりフレークはうちの嫁さんが風呂の中でパッと思いついたらしいです。ヒントになったのはシーチキンなんですよ。私はシーチキンの中に海苔を入れて食べるのが好きなんですが、やったことはありますか?
ないですが、とてもおいしそうです。
森田さん:板海苔を揉んでシーチキンの缶に突っ込むんですよ。その中にマヨネーズをかけて食べるんですが、オイルに漬かっても海苔はパリパリしているんです。おそらく、そこから思いついた商品です。
この食べ方は一番簡単で、一番食べやすくて、一番おいしくて、時短のシーチキン巻きなんです。海苔巻きにするのが面倒くさくて、そのままシーチキンの中に海苔を突っ込んでご飯の上に乗っけて食べたのがスタートで、私にとっては昔からやっていた普通の食べ方だったんですよ。
口に入れば同じというやつですね(笑)。
森田さん:はい(笑)。あとは、オイルってそのまま舐めてもおいしいとは感じないですよね。でも、みなさん好きなのはなぜだろう? と思って。それは、昔から人間に足りてないものだからという理由ですよね。砂糖もそうです。油と砂糖は鉄板なんですよ。そんなふうに、なんでだろうと考えながら食べてみたり。
日常のなかから、どんどん新しい発想が生まれるんですね。
森田さん:そうですね。人が食べている様子をじっと見ることもありますよ。定食屋さんやレストランで人が食べているのを見ると、自己流のアレンジで変な食べ方をしている人がいるじゃないですか。訳がわからないことをしている人を見ると、関心が湧くんです。何かの皮を使った料理があれば、海苔で代用できないかなとか思ったり。
梶原さん:森田さんはあまり競合も見ていないし、海苔業界も見ていないんですよね。海苔自体に力があるので、日常のなかからいろいろな形で海苔のおいしさを探求することができている。それを市場に出したときに、目新しく見えるんでしょうね。
本当においしい海苔の見分け方
おいしい海苔の違いがわかる、おすすめの食べ方ってありますか?
森田さん:豚骨ラーメンに入れるのが一番早いんですけど、スープの中で海苔がさっと溶けていくさまを見て欲しいです。30秒くらいで引き上げると半分ほど溶けているので、それを海苔しゃぶみたいに食べると旨いですよ。
梶原さん:ハウス食品の『うまかっちゃん』と相性がいいですよね。
いい海苔はすぐに溶けると。ちなみに、歯切れのいい海苔と噛み切れない海苔の違いは何ですか?
森田さん:摘み取り回数の違いです。海苔は一番摘みから十番まであって、私は一番摘みしか使いません。これが柔らかいんですよ。セブンイレブンの金のおむすびも一番摘みですね。
二番摘みは芽が一番摘みに比べて倍の大きさになり、三番目はさらに大きくなっていきますので、どんどん硬くなっていきます。
なるほど、硬さの違いなんですね。
森田さん:硬くなるのに伴って、栄養の方もなくなります。私どもの海苔がおいしい理由は、一番摘みの海苔だけを使っていて栄養がぎゅっと詰まっているという表現の通りなんです。
うちの子は江の浦さんの海苔がおいしすぎて、他の海苔を食べなくなりました。子どもの舌は正直ですよね。
森田さん:ありがとうございます。子どものころにおいしいものを食べておくことは大切だと思います。おいしくないものを食べていたら、将来的にもおいしいものを食べようとしないですよね。
私は子どもたちに海苔をどんどん食べてもらって、海苔はおいしいんだよという物語を作っていきたいんです。それには親御さんたちに協力してもらわないといけないんですけど、スーパーの海苔と比べると高いと思われてしまって。
でも、有名メーカーの高級海苔と比べると決して高くはないんですよ。どちらも一番摘みの海苔を使っていて、有名メーカーで5,500円のものが、私の海苔だと1,800円。ブランドを気にする方は有名メーカーの海苔を買いますが、私は知名度が低いぶん、これでも安く出しているんです。
それはぜひ、親世代に知っていただいて、お子さまに食べさせてあげて欲しいですね。
森田さん:そうなんですよね。ネットには100枚でいくらという安い黄緑色の海苔が売っているんですけど、それは十番目の海苔なんです。そういった色も味も悪くて栄養もない海苔が安く売られているために、海苔は最低価格と最高価格が違いすぎるんです。何番摘みの海苔でも焼く作業は一緒ですから、手間賃が多くを占めるような安い海苔を買う方がお客さんは損をするんですよ。でも、なかなか理解してもらえないのが悩みです。
違いを知らないと、安い方を選んでしまいがちですよね。
森田さん:それを説明できる人がいないんですよね。私は何番摘みの海苔かだいたい当てることができます。
先ほど、セブンイレブンの金のおむすびは一番摘みが使われていると伺いましたが、コンビニの普通のおにぎりとか海苔の佃煮に使われているものは何番摘みなんですか?
森田さん:セブンイレブンだと、たぶん焼き海苔を使ったものが四番摘みぐらいです。それに穴を少しだけ開けてあるんです。
それで、歯切れがよくなるんですね。
森田さん:そうです。味付け海苔を使ったおにぎりは七番摘みぐらいだと思います。
十番摘みは激安スーパーとかドラッグストアで販売されている安い海苔に使われています。もしくは、佃煮の方に回りますね。
おもしろいですね。これからの海苔選びの参考にします!
今後の展望について
ネットショップや海苔の販売に関して、今後の展開や目標を教えてください。
森田さん:自分ではどうにもできない心配ごとが多いんですよね。環境問題もその一つで、気温が暖かいと種付けの時期がいつになるのかとか、おいしい海苔が穫れるのかとか。
長く有明海を見てきて、体感的に環境の変化を感じることはありますか?
森田さん:ありますね。昔は11月の上旬に暖かいことはなかったです。種付けした網を海から持ってきて冷凍倉庫に入れる時期は、夕方になると寒かったのが、今は夕方も暖かいんですよ。全然、昔と違いますね。
自然相手だと気が休まらないことも多いですよね。梶原さんは今後の展望や目標はありますか?
梶原さん:お手伝いした当初から比べると、今は売上が10倍になりました。生産能力的にはさらに何倍かにできるので、それを達成するまではお手伝いしようと思っています。
これからは、どこででも買えると、だんだんつまらなく、お客さまとしても希少価値がなくなってしまうので、どこまで顧客ロイヤリティを保ちながら販路を伸ばすかがテーマになります。ブランド価値を保ちながら売上を伸ばすのは難しいですが、やれることにはどんどん手を尽くそうと思います。
また、森田さんには海苔のソムリエとしての価値もあると思っています。販売者の海苔ソムリエという方はいらっしゃいますが、漁師を経験している海苔ソムリエはあまりいないので、ぜひ活躍していただきたいです。
そうですよね。小学2年生から海に出られていたというのは、他にないことですよね。
森田さん:いや〜、小学生がイヤイヤながら海に行かされるこの思い! 嫌ですよそんなのもう(苦笑)。
梶原さん:例えば、有明海の海苔の歴史を小学生のときから見てきたというバックボーンから、おいしい海苔について語ってもらうとおもしろいですよね。
有明海は「奇跡の海」と言われていて、干満差が6mあるんですね。満潮のときに海苔は海で栄養分を生み出して、干潮で海から出たら太陽の光を浴びて栄養を閉じ込める。太陽が沈んでいるあいだと、浮いてるあいだの差が6mあるというのは、すごく漁場に適したところなんです。そこで育ってきて、育った土地で海苔のよさを広げるコミュニケーターをすることはすごく価値があると思いますよ。
江の浦さんは海苔もおいしいけど、森田さんもおもしろい方なので、このキャラクターを売っていきたいですね。YouTuberとかいいんじゃないですか?
森田さん:海苔Tuberでやっていきます(笑)。
始動した際は、チャンネル登録させていただきます! 本日はありがとうございました。
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