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販売開始わずか1分で完売。和歌山「善兵衛農園」がネットショップ&SNSから広げる有田みかんの未来

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
和歌山県中部西岸に位置する湯浅町で200年続くみかん農園。国内屈指の「みかん栽培に適した土地」で、温州みかんや越冬紅をはじめとした柑橘類を生産しています。今回は7代目園主の井上 信太郎さんに、みかんを取り巻くライフスタイルの変化やネットショップでの販売状況などについてお話を伺いました。

29歳で7代目園主に。Uターン就職で見えた地元のおもしろさと課題

善兵衛農園さんが始まったのは今から200年以上も前だそうですね。

はい。江戸時代の後期から続くみかん農園で、僕で7代目になります。
ここ湯浅町はいわゆる「有田みかん」の産地の中にあり、うちではみかん以外にもレモンやオレンジ、柑橘以外ではびわも生産しています。

若くして園主となった井上さんですが、小さい頃から家を継ぐことは意識していたのでしょうか?

そうですね。僕らの地域はかなり田舎で、周りもほとんどがみかん農家なんです。小学校の同級生は僕を含め7人いて、そのうち6人がみかん農家、残りの1人はみかんを運ぶ運送会社の子(笑)。これが当たり前の環境でしたし、有田みかんというブランドもあるおかげで他の地域に比べれば農家を継ぎやすい環境なんですよね。なので、いずれは僕もみかん農家をやるだろうなと思っていました。

とはいえ僕としては農業を始める前に外の世界も見てみたかったので、高校卒業後はいちど地元を出て大学で観光を学びました。《観光》を通じて農村や音楽、宇宙などあらゆる分野について広く浅く知れる機会を得たことで、自分の故郷を客観的に見たとき「地元っておもしろいな」と再確認できました。

大学を卒業してからはすぐに実家で農業を?

いえ、卒業後は県内にある「秋津野ガルテン」という施設で2年ほど農業研修をしていました。
そこでは使われなくなった木造校舎をリノベーションし、農家レストランや宿泊施設など農村観光の拠点となるような取り組みが行われていまして。僕は事務局のメンバーとして農家さんとの連絡業務を行いながら、現場で必要となる農業技術のノウハウも学ばせてもらいました。

2年間の研修を終えて地元に戻ってみて、新しく見えてきた課題はありましたか。

僕らのいる湯浅町って、みかんだけでなくシラスも名物だったり、実は日本の醤油発祥の地だったりと、いろんな見どころやコンテンツがあるんです。でも一つ一つが「点」でしかなく、「面」として繋がっていない印象があって。
研修で過ごした田辺市にはそれらをうまく横展開できるような取り組みがありましたが、僕らの地元にはまだそれがありません。すごくいいモノが集まっている町なのでもっと多くの人に知ってもらいたいし、地域の外にも湯浅町のファンを作らなきゃなと感じました。

これから数十年先のことを考えると、地域のファン作りは必須ですよね。

受注開始をあえて出荷ギリギリ直前にしている理由

ネットショップを開設したのは井上さんが地元に戻ってからですか。

カラーミーショップではなかったのですが、実はうちの父も一度ネットショップ運営に挑戦したことがありました。ただ父はネットが得意ではなかったうえ、他の業務との兼ね合いで継続が難しくなってしまいやむなく閉店したという経緯がありまして……。その後、帰ってきた僕が「ネットで販売したい」と言い出したのが、今のショップを作ることになったきっかけですね。

井上さんがネットショップを始めたいと思ったのはなぜですか。

さっき僕の同級生はみんなみかん農家だと話しましたが、大学はみかんと関係のない学部だったので、周囲の友人からしたらみかん農家の知り合いが僕しかいなかったんですよ。なので「みかん食べたい」って思ったら絶対僕のところに連絡が来るわけです。友人の家族が買ってくれたり、職場でも広めてくれたりといった形でお客さんが増えていき、最初のうちはLINEやDMでやりとりしてたんですけど、管理がめっちゃ大変になってきたので、きちんと窓口を設けようと思いました。

自分でも一度ホームページビルダーを使ってホームページやショッピングカートを作ってみたんですけど、すごく使いづらかったんですよね。「善兵衛農園」という名前をネットショップとして出すからにはしっかりした形で見せたかったので、いろんな人が使ってるサービスの中でも、うちが使いやすいカラーミーショップに落ち着きました。

なるほど、そういった経緯があったんですね。以前ご自身で作られていたショッピングカートとの違いは、どういった点で感じましたか。

当たり前かもしれないし非常に細かいところですけど、過去に買ってくれたお客さまが次回購入画面に進みやすくなっていたり、メルマガを出せる機能があったりとかですね。
僕ら、最初はメルマガ機能を知らなくて、かなりの数のお客さまが「メールを受け取る」設定をしてくれてることに開設2年目くらいで気付いたんです(笑)これ使わん手はないなと思って、今では便利に使わせてもらってます。

メルマガでの販促は効果的ですか。

ショップによって違うかもしれないですけど、うちはめちゃめちゃ効果ありますね。
僕らみたいに年に一度の季節ものを販売してるショップは、そのシーズンが来たら思い出してもらうことが大事。みかんは特に寒くなってきたら思い出されるので、そのタイミングでメールが届くようにしています。日記感覚で配信してるショップもあるとは思いますが、そこまでマメじゃないし、多すぎてもメールボックスの中で流されてしまいそうなので、うちは販売開始の前だけ使ってます。

発売の前に「季節のおたより」のような形で告知を?

そうですね。うちは販売ページを開けるタイミングを必ず毎年同じ日の21時に設定しているので、だいたい1週間前くらいにメールを送るようにしてます。毎年12月1日に売り出している「越冬紅」というみかんは数量限定品なので、販売開始から1分足らずで全部売り切れちゃう。事前告知ですべて説明しておかないとトラブルの元になってしまうので。

1分で完売はすごいですね! 皆さん販売開始の瞬間を待ち構えているんでしょうか。

ブラウザの更新ボタン押しながら待機してるんだと思います。販売ページを開ける側としても毎回めっちゃ緊張しますよ。開けた直後にカラーミーのアプリ通知がスマホいっぱいにバババッと届くんで。

販売開始とほぼ同時に、井上さんのスマホには受注通知が殺到する

なんだかちょっとワクワクしますね。別の農家さんでお話を伺っていると、お客さま側が注文したのを忘れてしまい、受取を拒否されてしまうといったトラブルも稀にあるようですが。

うちは現状そういったトラブルはないですが、農家さんによってはあるのかもしれません。今どきポチれば何でもすぐに届くじゃないですか。「欲しい」と思ってから届くまでのタイムラグが長くなるほど喜びが薄れちゃうんですよね。

みかん農家は、12月に送る商品であっても早いところでは7~8月に注文を受けているんですが、うちはあえて11月に受けるようにしています。他の農家が早い時期から受注しているのを見ると内心ちょっと焦りますけど、届くまでのタイムラグをなるべく短くしたいので、そこは我慢ですね。

届いたときの喜びを大きくするために、あえて受注開始を遅らせているんですね。

「みかん農家がいないコミュニティ」に飛び込んでいく

善兵衛農園さんのSNSは写真がどれも綺麗です。すべてご自身で撮っているのでしょうか?

写真にはこだわりたかったので、ちょうど1年くらい前にSONYの「α7」を買いました。でも普段はiPhoneで撮ることも多いですよ。商品写真は信頼のおけるデザイナーさんに実物をお送りして撮ってもらうこともありますが、畑の写真は自分しか撮れないので、こまめに撮るようにしています。

SNSでの発信で心がけていることはありますか。

SNSは、うちのみかんについて少しでも深く知り、想像してもらうためのツールとして捉えています。「今年この人はこういう作り方をしていて、こんな天候の中でみかんが育ったんだ」というプロセスを楽しんでもらう。ただ買って食べるよりもワンランク深い体験をして“ちょっと好き”から“もっと好き”になってもらうための、プロダクトにおけるエンタメ的役割を果たす存在として発信を行っています。

あとは、やっぱりいろんな人とつながれるのもSNSのいいところですよね。
最近は料理人さんや、同世代でおもしろいアパレルブランドを立ち上げてる人とかとつながって、何か一緒にできることを考えたりしています。業界全体で見てもみかんは消費量・生産量ともにどんどん落ちてきているので、今までのやり方で作って売るだけでは将来的にみかんが食べられなくなってしまうかもしれません。食べてもらえるきっかけを増やすのはみかん農家だけではできないことなので、異業種の人とのコラボを通じてみかんへの興味を持ってもらう。そうすることで僕らの子どもたちの世代も安心してみかんを作れるんじゃないかと思っています。

たとえばSNSで見て「おもしろそう」と思った方にお声掛けをするのでしょうか?

今はピンポイントで営業活動をしに行くというよりは、誰かからの紹介が多いですね。
たとえば地元の生産者仲間でシラスを扱っている先輩から「ここのお店がいい柑橘を探してるそうだけど、どう?」って教えていただいて、それをきっかけに交流が広がったりとか。大学時代と同じように、あえてみかん農家がいないコミュニティに入っていくんです。そこでのみかんの話は全部自分に来るんで、条件の合う方とご一緒するっていう形です。

もともと新しい場所に行って人と話しながら知らないことを知るのがすごく好きなんですよね。SNSで連絡を取り合って「東京に行くときぜひ会いましょう」と約束して、実際にお会いするのを大事にしています。

そういった交流の中から生まれたものはありますか?

たくさんありますね。最近は、東京で食のクリエイティブディレクターとして活動されている料理人さんと出会いました。その方は食材の魅力を引き出す加工品作りのプロで、うちの柑橘を使ったドレッシングやシロップが生まれました。
僕自身、これまでにも柑橘の加工品を考えたことは何度かありますが、餅は餅屋というか、自分の得意分野はあくまで農作物をつくることなんですよね。加工には加工のプロがいるので、いつかそんな方と柑橘の加工品が作れればと以前から思い描いていて。最近はいろいろな人とのつながりでこうした貴重な経験ができるので、とても運がいいなと思います。

消費の変化と向き合いながら、地元の誇りとなる農園を目指す

ところで、先ほど少し話題に上がりましたが、日本でみかんの消費量が減っているのはなぜなのでしょうか。

要因はいろいろあると思いますが、中でもやっぱり核家族化が大きいのかなと思います。
みかんだけでなくりんごや梨など、いま日本で流通している青果物の多くは消費量が減り続けています。逆に増えているのはジュースやゼリーといった加工品。僕らのライバルっていろいろありますけど、コンビニスイーツもその一つなんです。

なるほど……!

最近のコンビニスイーツってめちゃめちゃおいしいじゃないですか。僕らもよく買ってますし。でも、昔はみかんがそのポジションにあったはずなんですよ。

確かに、実家にいた幼い頃は「みかん=箱買い」が毎年当たり前の光景でした。実家を出てからはフルーツを食べる機会が減ってしまったような……。

そうなんです。保育園や小学校で時々みかんの授業をさせてもらうんですけど、子どもたちってみんなフルーツ大好き。なのに食べる機会はなぜか少ないみたいで。親世代がフルーツをあまり買わなくなったのが影響として大きいんだと思います。

市場に流通するみかんも箱のサイズがどんどん小さくなっています。昔は15kg箱が主流だったのが10年前で10kg、近年は5kgにまで減りましたし、うちのネットショップでよく売れるのは2.8kg箱。なので商品展開を考える上で「買いやすい値段・食べきれる量」のバランスを考えて販売しています。昔はこたつの上にみかんのカゴを置いて食べる文化があったけど、今どきの家庭はテーブルに暖房が主流。それだとみかんは傷みやすいので、昨年はみかんを保存するためのカゴを作り、みかんと一緒にお届けするような企画をやったりしました。

今のライフスタイルに合った販売方法を考えているんですね! 最後に、今後の農園としての目標を教えてください。

これからは地域の人に頼られ、誇りに思ってもらえるような農園を目指したいと思っていて。地域のコミュニティから声をかけてもらったら全力でコミットさせてもらいます。この地域で初代から大切にしてきたみかん作りからは逸脱せず、新しい技術を取り入れながら、異業種とのコラボにも挑戦していきたいですね。
ネットショップのほうは、ホームページと世界観を統一することが目下の課題です。まったく別のサイトに飛んだと思われないように、来年にはリニューアルしてカッコよくしたいなと思っています。

地元和歌山ではどういった存在でありたいですか。

地元にはすごい先輩がたくさんいるので、恐れ多いですね(笑)。僕は自分にしかできない部分を伸ばしていきたくて、そういった意味での強みのひとつは「発信」かなと思っています。善兵衛農園の運営を通じて、僕らの地域…和歌山や有田、湯浅町のフックになれるよう頑張っていきたいです。

今後のご活躍に期待しています。ありがとうございました!