よむよむカラーミー
ECサイト開設・運営のヒントが見つかるWebメディア

“バズり”に頼らず、地道に想いを届ける。日用品ブランド「家事問屋」が挑んだEC×コンテンツ制作の裏側

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
金属加工の街として知られる新潟県燕市で、キッチン用品・生活雑貨の卸販売を手がける会社が立ち上げたオリジナルブランド。有名セレクトショップなどでの取扱実績も多く、ユーザーに寄り添ったアイテムが支持されています。
今回は、同ブランドの統括を務める久保寺 公一さん、コンテンツ制作に携わる松本 亜沙美さんに、これまでの歩みやECサイト立ち上げの経緯、コンテンツ作りのこだわりなどについて詳しく伺います。

ブランド設立から10年で100アイテム以上を開発

まずは会社について詳しく教えてください。

久保寺さん
私たち下村企販は、主にキッチン用品・家庭用品の企画・販売を手がける地域問屋として生まれた会社です。
もともとは、ステンレス製の刃物類を製造する下村工業というグループ会社にルーツがあり、生活協同組合さんなどをはじめとした特定の顧客に向けて自社商品を販売するための一部署でした。

お取引先の方々から「せっかくなら燕三条の他の商品も提案してほしい」とご要望をいただくことが徐々に増えて、自社以外の燕三条の商品もご紹介するようになり、その比率が高まっていったのを契機に別会社として設立されました。

現在の販売比率はどれくらいでしょうか?

久保寺さん
現在は下村工業の商品が約2割、燕三条にあるその他の工場で作られた商品が約8割ですね。

オリジナルブランド「家事問屋」を立ち上げたのはいつですか?

久保寺さん
2015年に立ち上げ、まもなく10周年を迎えるところです。
ブランド設立前の販路としては、生活協同組合さんや通販会社さんなどの会員向け情報誌やカタログなどが中心で、比較的クローズドに展開していましたが、全国の問屋さんを通じて、より広い顧客層へと商品をお届けするためにオリジナルブランドを立ち上げました。

燕三条には昔から、使い勝手に優れたキッチン用品・生活雑貨を作り続けているメーカーさんがたくさんあるので、目新しいものを無理に作る必要はないと僕は考えています。
もちろん時代によってニーズは変わっていくので、清掃性や収納性、耐久性などの面はメーカーさんと相談して現代のライフスタイルに合わせ、より洗いやすく、しまいやすく、長く使える形に改良して世に送り出しています。

新商品はどれくらいのスパンで生まれていますか?

年1回は新商品を販売しようと堅く心に決めています(笑)。
企画開発には短いもので半年、長いものでは3~4年ほどかけながら、ブランド立ち上げ当初から100アイテム以上は増やし、現在は180アイテムほどを取り揃えています。

機能・サポート面の充実したカラーミーショップでECサイト開設

商品の販売方針について教えてください。

松本さん
私たちは一見ありきたりなアイテムを取り扱っているからこそ、お客さまに対する伝え方をとても大切にしています。
ありきたり、なのに使いやすい」というブランドの特性を理解して、きちんと商品の魅力を伝えてくださる問屋さん・取扱店さんを通じた販売を最優先にしています。

家事問屋の商品は100%燕三条製で、10~15人程度の小さな工場(こうば)の職人さんたちが一つひとつ手作業で作っているものばかりです。生産数が限られているので、今後も直接お客さまに商品を伝え、届けてくださる取扱店さんを通じての販売を大事にしていきたいです。

そんな中で、自社ECサイトを立ち上げた経緯についてお伺いしたいです。

松本さん
ブランド立ち上げから数年が経ち、アイテム数がだんだん増えてきた頃から、取扱店さんが全商品を扱うことが難しくなってきました。お客さまが欲しいと思った商品をうまくお届けできないこともあったので、幅広いニーズにお応えするためにECサイトを開設しました。

お客さまが求める商品を確実に届けるために販売チャネルを増やしたのですね。

松本さん
実はもう一つ理由がありまして、私たち家事問屋のコンセプトとして「長く使っていただく」という点をすごく大事にしているんです。

たとえばこのシリコンスパチュラという商品、持ち手のステンレス部分は頑丈ですが、シリコン部分は長く使ううちにどうしても多少の劣化が見えたり、色や匂い移りが気になってくる方がいらっしゃいます。そんなときは部品を交換すれば、丸ごと買い替えなくても長く使っていただけることをご提案したくて。ECサイトを立ち上げたのは、部品の販売を始める目的でもあったんです。

なるほど、アフターフォローの提案の場としてもECサイトを活用なさっているんですね。確かによく見ると、通常販売している180アイテム以外にも細かなパーツがたくさん販売されています。

松本さん
そうなんです。ぜひ長く使っていただきたいので、部品のみご購入いただいた場合は送料無料でお届けしています。お客さまにはすごく喜んでいただけるので、ECサイトを立ち上げてよかったなと思う瞬間が多いです。

お客さまからすれば至れり尽くせり、安心して使い続けられそうですね。
ECサイトを開設するにあたり、カラーミーショップを選んだ理由は何でしたか?

松本さん
カートサービスは何社か比較検討した上で、機能面・サポート面で最も充実していたカラーミーショップを選びました。
家事問屋の取扱店さんがちょうどカラーミーショップを利用していて、私自身もそこで購入したことがあるのですが、カート画面が操作しやすかったのが好印象でした。

また、私たちとしては既存のブランドサイトを長く育てていきたかったので、新たにECサイトを設けるのではなくブランドサイトにカート機能を加えられるのが理想でした。なのでカラーミーショップの独自機能「どこでもカラーミー(※)」もサービス選びの決め手になりましたね。

※ どこでもカラーミー: JavaScriptを利用して、Webサイトやブログに購入ボタンを貼り付けられる機能

そうだったんですね! ありがとうございます。

松本さん
ECサイトの立ち上げは会社として初めてのことだったので、機能面に関して質問しておきたい部分が多かったのですが、カラーミーショップのサポート担当の方からは迅速な返信で細やかにアドバイスしていただけたので、非常に心強かったですね。

「ただ売るだけ」のECサイトにはしたくなかった

サイト制作を行うにあたり、特にこだわったポイントは何でしょうか?

松本さん
先ほどお話ししたように、家事問屋のアイテムは一見ありきたりな商品ですから、他社商品や海外製の商品との差別化を図るには、商品の魅力を丁寧に伝える必要があります。
実店舗での販売とは異なり、画面を通してだと私たちのこだわりや想いが伝わりづらくなるのが懸念点だったので、ECサイトの開設と同時に読みものコンテンツも展開することにしました。

家事問屋のアイテムは、燕三条にある約30~40社の小さな工場で作られています。そこで働く方々の想いをコンテンツとしてお届けすることで、「ただ売るだけ」ではなく、職人さんや私たちのこだわりをきちんと伝えられるサイトにしたいという点は、制作会社の方とも綿密にすり合わせを行いましたね。

今では「作り手」の職人さんだけでなく、取扱店さんやユーザーさんに焦点を当てたコンテンツも充実していますね。

松本さん
私たちがメーカー目線で商品をあれこれおすすめするよりも、「伝え手」である取扱店さんや、「使い手」であるユーザーさんが第三者の目線からお話ししてくださるほうが、コンテンツを読む側からしてもきっと説得力が増すと思うんです。

工場で働く職人さんだけでなく、取扱店さんへのインタビュー取材を始めたり、Instagramで発信してくださっているユーザーさんと関係を構築して一緒に発信をさせていただいたりと、あらゆる施策を2年半ほど続けてみて、徐々にさまざまな角度から情報を発信できるようになってきたのを感じます。
メーカーの私たちとしても多くの気付きが得られるので、読みものコンテンツは発信して正解だったと思います。

どの写真もすごくきれいですよね。

松本さん
社内にスタジオがあるので、カメラマンと連携しながら企画を立てて撮影に臨んでいます。
撮影時は背景や空間づくりにもこだわっていて、同じ画角に映る食器やエプロン、布巾など一つひとつがブランドにふさわしいか、ペルソナに合っているか、常に意識して選ぶようにしています。

撮影の頻度はけっこう高くて、新製品の発売当初は3~4枚程度しか写真がないこともあるのですが、レシピ撮影を日々重ねる中で少しずついろんな写真が増えていくんです。
「この商品はこんなときにも使えます」「こんなシーンに便利ですよ」とわかりやすくご提案できるよう、あらゆる場面に合う商品を常に想像しながら、あくまで商品を主役に引き立てるような発信を心がけています。

コンテンツ制作は何名体制で行っていますか?

松本さん
社内では私含めて3名のスタッフのほか、外部のライターさんにもお力添えいただいています。
当初は毎月2記事くらいのペースから始めましたが、現在はInstagramやYouTubeとも連動させながら、月に4記事は更新できる体制になっています。

コンテンツの雰囲気やトンマナを統一するために工夫している点や、表現で気をつけているポイントなどはありますか?

松本さん
ライターさんとは常々、ブランドのコンセプトや大切にしたい価値観について共有しています。
また、「〇〇で大人気!」といったような流行りのキーワードは極力使わず、あくまで商品の普遍的な魅力にだけフォーカスし、丁寧に伝えることを意識してコンテンツ制作を行っています。

バズりやすいキャッチーなキーワードには、あえて乗らないんですね。

松本さん
はい。日々新しいキーワードは出てきますが、家事問屋は暮らしにきちんと寄り添い、家事のひと手間を助ける存在でありたいので、常に読み手目線で表現を選ぶようにしています。

久保寺さん
はじめから料理を「手抜きしたい」と思っている人はいないですよね。できれば皆さん毎日おいしい料理を食べたい、食べてもらいたい。だけどなかなか時間や余裕がないという中で、家事問屋は「少しでも手間をかけられる」「手間をかけることが億劫にならない」暮らしやレシピを中心に発信しています。

流行りの「時短」とか「家事ラク」というよりは、むしろひと手間かけたい工程を手助けしたり、少しでもハードルを下げたり、そんなところを意識しながら。

家事問屋さんの読みものに安心感がある理由が、ちょっぴりわかった気がします。

産地の未来をつなぎ、「地域の代表選手」を担いたい

最近はInstagramでの生配信にもチャレンジされていますね。

松本さん
そうなんです。取扱店さんとのコラボという形で、先日初めて久保寺がインスタライブに登場しまして。

久保寺さんが初挑戦したインスタライブの様子はこちら

Instagramを始めてから2年間、私たちとしてもインスタライブにはいずれトライしてみたい気持ちはありましたが、実際に姿を見せてお話ししたり、一発勝負の中で伝えたいことを伝えるというのはどうしてもハードルが高くて。
そんな中、偶然イベントに招待してくださった取扱店さんが普段から頻繁に生配信をされていたので、ぜひ私たちにお力添えいただけませんか?とお声掛けしたのが始まりでした。

生配信の反響はいかがでしたか?

松本さん
私たちは直営の実店舗を持っていないので、ユーザーさんの声はSNSやレビューを通してでしか出会う機会がないのですが、生配信ではたくさんの嬉しいコメントをいただけました。「ステンレス商品は一見冷たさがあるけれど、家事問屋の商品にはなぜか温かみを感じる」とか。他にも、商品の思いがけない使い方や収納方法を教えていただけたりと、むしろ私たちのほうが気付きをたくさん得られるいい機会になりました。

生配信を行ったのはまだ数回だけですが、回を重ねるごとに反応も増えていますし、やり続けることに意味があるのでぜひ継続していきたいと思っています。

今後、どのようにSNSやコンテンツを展開していきたいですか。

松本さん
Instagramの運用当初はフォロワー数をKPIとして設定していましたが、今は一つひとつのコンテンツに満足していただくことを目標にしています。
“バズり”を意識した投稿を続ければ効率的にフォロワーは増やせますが、私たちはあえてそこに流されずに運用を続けてきました。世間の流行に乗るのではなく、あくまで商品の魅力を分かりやすく伝えることで、長期的な信頼を獲得していきたかったからです。

おかげさまでこの2年間でじわじわとファンが増えていて、今ではECサイトのアクセス数も開設当初の2倍ほどまで伸ばすことができています。今後も、新規のフォロワーをどんどん増やすというよりは、毎日見に来てくださる方の数を増やしたいですし、コンテンツの充実にもいっそう注力していきたいなと考えています。

地に足のついた発信の姿勢には共感する方も多そうです。2025年で10周年を迎える家事問屋さんの、今後のブランド戦略についても教えてください。

久保寺さん
これまでの10年は認知度向上をメインに戦略を立てて、ブランドサイトやSNSで作り手さんの想いを発信したり、あるいは私たちの想いを伝えてくださる取扱店さんを増やし、広く浅く認知を広げることに注力してきました。

おかげさまで、ブランド設立当初の「10年続くブランドにする」という計画は達成し、まもなく10周年を迎えることができます。次なる10年は、取扱店の皆さんに家事問屋のことをより深く知っていただき、実店舗やECサイトを通じてコアなファンをさらに増やすための活動に取り組んでいきたいです。

ありがとうございます。燕三条というものづくりの町で、これから家事問屋をどのような存在にしていきたいですか?

久保寺さん
燕三条のものづくりの中核を担うのは小規模な工場ですから、むやみに生産数や売上を増やすことにこだわるのではなく、堅実に長く売り続けることが大切だと考えています。

私たちの商品を作ってくださっている工場の職人さんとともに質のよい商品を作り、取扱店さんとともに長く販売し、ECサイトを通じてアフターフォローもしっかりと行うことで、次の10年、20年後にも工場の皆さんがずっとものづくりを続けられる環境が残せるんじゃないかなと僕は思っています。
地域と製品のよさを未来へつなげることも見据えながら、ゆくゆくは家事問屋を「地域の代表選手」のように感じてもらえるブランドへと育て上げたいですね。

家事問屋さんの次の10年が楽しみです。今日は素敵なお話をありがとうございました!