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作り手の生活のために今できることを。「FAIR TRADE LIFE STORE」がコロナ禍でのネットショップ運営にかけた思い

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
1999年に京都で創業したフェアトレードの会社「シサム工房」が運営するネットショップ。創業以来、インドやネパールなどの途上国に暮らす人々とオリジナル商品の開発を行い、フェアトレードの仕組みで自立を支援しています。今回は、ネットショップ運営を担当する谷 初花さんに、普段のコンテンツ制作やコロナ禍での施策、今後の目標について伺いました。

ECの時代に合わせてショップリニューアル

「FAIR TRADE LIFE STORE」を運営するシサム工房さんは、現在何名くらいのスタッフさんが在籍しているのでしょうか。

今は約50名のスタッフで全国8つの実店舗とネットショップを運営し、卸販売も行っています。

創業は1999年とのことですが、ネットショップはいつごろからオープンされましたか。

昔からいるスタッフに聞いてみたのですが、今から約10年ほど前だそうです。
今よりずっと少人数だった頃、フェアトレードを広めるために何かやれることはないかと模索して、スタッフ1人が手探りしながらネットショップを立ち上げたようです。そこから徐々に売上を伸ばしていって。

カラーミーショップは2018年頃からご利用いただいていますね。それまでは別のサービスで運営を?

はい。ちょうどサービスを引っ越すタイミングで私も入社しました。
やはりこれからはどんどんECの時代になっていくので、オンラインならではの可能性をより広げるためにも、ショップの利便性やデザインを一から見直してブラッシュアップしようと。リニューアルを依頼した外部のデザイナーさんからの勧めもあり、カラーミーショップさんに移転しました。

FAIR TRADE LIFE STOREさんといえば、コラムやスタッフコーディネートなど独自のコンテンツが印象的です。以前のネットショップでも今のようなコンテンツ発信はされていましたか?

いえ、コンテンツはほとんどありませんでしたね。今は商品ページ上でもかなり細かく商品紹介文を記載しているのですが、リニューアル以前はそれも数行程度で、かなりシンプルなショップ構成だったと思います。

今、ネットショップ運営に携わっているのは何名くらいですか?

私のほかにもう1名スタッフがいて、商品紹介やコラムの執筆、写真撮影は主に私が担当しています。
うちではワンシーズンに約150アイテムくらい新しく入荷するので、そのキャッチコピーを全部考えて記事にするのは大変ですが、なるべく商品それぞれの個性が出るように工夫しています。

商品数が多いうえ、執筆や撮影もとなるとかなり大変そうですね……!

フェアトレードならではの楽しみ方を伝える

コンテンツ制作にあたって心がけていることはありますか?

大前提として伝えたいテーマは「フェアトレード商品のある暮らしの楽しさ」なんですけど、フェアトレードの概念自体、まだまだ背伸びしたものだと感じてしまう方が多いと思っていて。なのでいかに自分たちらしく、日常的な視点でユニークに伝えられるかを常に意識しています。

写真の一枚一枚からも非常にこだわりが伝わってきます。

私たちが伝えたいのは細かい手仕事の編み模様や生地感など、直接触ってみないとなかなか伝わらない部分なんですよね。写真でそれを伝えるのはすごく難しいので、ただ高画質にこだわるのではなくシーンや切り取り方、ちょっとした風が吹く瞬間とか、そういった要素から伝えられないかといつも試行錯誤しています。

商品ページの商品説明文とコラムは、いつもどんなふうに書き分けていますか?

それが難しいところなんですよね。
コラムなら自分の観点をある程度自由に入れられるじゃないですか。あえてちょっと普通と違った表現を使うこともできますけど、商品説明はひたすら事実をベースに。手に取るように商品のことがわかるくらい、読み手が欲しい情報をしっかりと伝える必要があるなと思います。かといって単調な説明文にしすぎると私たちらしさが薄れてしまうので、バランスも大事にしています。

ふむふむ。ところで、現地の方との商品づくりはどんなふうに進めているのでしょうか。

インドやネパールなど各国にフェアトレードのNGO団体があって、現地の作り手さんと私たちの間に入ってもらっています。うちの商品開発スタッフがNGOの方と何度もやりとりをして、こちらで作ったデザインをもとに少しずつすり合わせをしていく流れです。ちょうど今(2020年12月取材時点)も翌年の秋冬物がサンプルとして届いていて、1商品に1年以上かけて作ってもらってるんですよ。

そう聞くと商品をより大事にしたくなりますね……! 現地から届いた完成品の写真を撮って、ネットショップにアップしていくという流れですか?

そうです。でも商品ページに出ている写真はかなり早い段階で撮影しています。うちは卸販売もやっていて、卸の販売時期はネットショップよりさらに早いので、来年の秋冬物を今年の秋冬に撮るくらいのスケジュール感ですね。

来年の商品の掲載準備をしながら、今出ている商品のコラムを書くわけですね。

もう訳わからなくなりそうですよ(笑)。

手作り品、輸入品ならではの苦労はありますか?

手仕事といっても、日本で販売するにはどうしても高い品質を求められるんですよね。たとえば欧米では、少しの傷やいびつさも「手仕事の証」として喜ばれたりするらしいんですが、日本ではそれが不良品になってしまう。いびつさをどこまで許容していくのかの線引きが難しいなと。
フェアトレードは現地の作り手さん全員が作れないといけないものなんです。あまり高いレベルを求めすぎても持続的な取り組みにならないですからね。日本の方に喜ばれて現地の方も作りやすい、絶妙なバランスをとっていく必要があって。1年以上かけて商品作りをするのには、そういう目的があるんだと思います。

たとえばこの、ネパールで作られたリスのマスコット見てください。
もともとは、茶色いフェルトのリスがいろんな色のプレゼントを抱えているっていうデザインだったんですけど、いざ日本に届いたものを見たら、リス自体がいろんな色になっちゃっていて。箱を開けた瞬間、スタッフみんなで「えーっ!」って叫びました(笑)。

作り手さんがよかれと思ってアレンジを加えちゃったんですね!(笑)

でもそれが人の手で作られたものの愛しさでもあるんですよ。こうなったら私たちも、このおもしろさをいかに伝えていくか、「グッドミステイク」にしていくかを考えます。それがフェアトレードの魅力でもあり、販売者としては大変なところでもありますね。

コロナ禍で変化したモノの買い方・考え方

2020年はコロナの影響がかなりあったと思いますが、実店舗の営業はいかがでしたか?

一番大変だったのは4~5月ごろでした。完全に全店舗を閉めていた時期があって、実店舗のスタッフは自宅でできる作業をするしかないっていう感じで。会社としても厳しい状況でしたし、会社だけでなく作り手の生活にも関わってくる問題なので、もうどうしたらいいんだろうって。ネットショップ担当としては何かできることはないかとずっと考えていました。

実店舗のお客さまの中には、スタッフに親しみを持って会いに来てくださる方がたくさんいらっしゃるのですが、実店舗を閉鎖している状況ではそれも叶わないので、どうにかオンラインで繋がれないかと。そこで、お客さまがいつも利用している店舗を購入時に記入してくれた場合、各店舗のスタッフからのメッセージを、私たち本社にいるスタッフが代筆して送るっていう企画を始めました。

ネットで買った商品が届くとき、なじみのお店のスタッフさんから手書きのメッセージが届くんですね。

そうです。手書きといっても私たちの代筆ですけど……何か少しでもちゃんと思いが伝わればなと。
購入時の備考欄にすごく熱いメッセージを残してくださる方も多くて嬉しかったですね。うちのスタッフや作り手さんのことを心配する声や、「またお店が開いたら絶対会いに行きます」「お元気でいてください」とか。温かいメッセージをたくさんいただきました。

心温まりますね……! コンテンツ発信においては、普段と違うことを意識されましたか?

もちろん商品を売らなきゃという思いもあったんですが、今はそういう状況ではないのかもしれないと考えました。私たちの強みとして今活かせるものは何だろうか?と。

うちの会社って個性的でおもしろいスタッフが多くて、それぞれが暮らしを工夫して楽しんでるんです。コロナ禍の中でこれはきっと強みになると思ったので、その時期だけ頭を切り替えて、各スタッフの家での過ごし方をインタビューしてました。たとえば保存食の作り方や、愛読書とか。私も木版画の作り方を紹介しました。
こういうのって商品とは全然関係ないんですけど(笑)、お客さまとの繋がり方の一つとしてアリなんじゃないかと思って、1~2カ月くらいずっとそのコラムを書いてました。

社内の反応はいかがでしたか。

みんなすごく楽しんでました(笑)。
何をして過ごせばいいかわからない時期、何かしたくてもできることが限られている状況で、お客さまにとってもスタッフにとっても自分たちの暮らしを見直せるいい機会だったんじゃないかなと思います。

すごくポジティブな過ごし方ですね。ところで、各地の作り手さんはコロナ禍をどのように過ごされていたんでしょうか。

国によって情勢はそれぞれですが、ネパールやインドでは都市がロックダウンされた影響で一切生産ができなくなっていました。交通も制限されていたので仕事の受け渡しができず、NGOのスタッフはなんとか作り手さんの各家庭に素材を届けたり、完成品を日本に届けるために、40℃を超える暑さの中、仕事場まで自転車で3日かけて駆けつけてくれたり、いろんな方の前向きな努力があって。

私たちの感覚では、3日かけて会社に行くようなものですよね……。

そう。それでも現地の方からしたら収入源だから命がけなんです。
日本にいる私たちができることとしては、彼らに現金収入を先にお渡しすること。そこで「未来チケット」というクラウドファンディング企画を通じた支援施策を行いました。お店に行きたくても行けないお客さまに、オンラインで1万円分や3,000円分などのチケットを買っていただき、店舗が再開したらこのチケットを持ってお買い物に来てくださいっていう。明けるのを待つんじゃなくて、先に未来を買う仕組みですね。これをきっかけにネットショップに気付いてくれた方も多く、急激にお客さまが増えました。

外出自粛期間中、ネットショップの売上は伸びましたか?

そうですね。2~3月ごろは少し落ちたのですが4~5月は売上が数倍に伸びて、今でも前年の2倍くらいの忙しさになってます。実店舗が再開したらそのぶんネットの売上は減るかと思ったんですけど、意外にそんなこともなくて。たくさんの方にネットショップを知っていただけたのが一つの要因なんでしょうね。

私自身もそうですが、今こうして世の中が変わっていく中で、モノの買い方・考え方も変化しているのかもしれません。何を選んで買うのか、自分は世の中とどう繋がっていくのか、皆さんそれぞれがじっくり向き合うようになってきているのかなって。一つ一つを丁寧に選択する社会になってきたことが、売上として現れているんだと思います。

売上が数倍になったということは梱包の業務量もかなり多いのでは……?

うちの場合、梱包専門のスタッフさんが3名いてくれるので、そこはチームプレーで頑張っています。
以前は商品一つ一つを透明袋に入れて発送していましたが、最近はプラゴミをなくす取り組みとして簡易包装に切り替えたんです。箱や紙袋を開けるとそのまま商品が出てくるんですけど、それだけだと届いたときテンションが上がらないですよね。商品はしっかりと保護しながらも箱の中に仕掛けを作ったりと、自分たちらしさを考えてくれる梱包スタッフのアイディア力にはいつも助けられています。その頼もしさが、うちのネットショップの機動力になっていますね。

さらに、2021年2月からは「ワンプ袋プロジェクト」もスタートします。
これは京都の印刷会社・修美社さん、そしてかしの木学園(就労支援)の方々と一緒に、本来なら廃棄される“ワンプ”という大きな包装紙に配送袋としてもう一度命を吹き込む取り組みです。「包む」「届ける」という毎日の動きのなかにも、私たちのメッセージを込めたいという想いが、これからようやく形になっていきそうです。

次の週末は実店舗にお邪魔したいと思ってましたが、やっぱりネットショップで注文しますね。

自分でハードルを上げてしまった……(笑)。でも嬉しいです、ありがとうございます。

軸はブレさせず、より広い視点で

会社として、近い将来どうなっていたいといったビジョンを教えていただけますか?

たとえば今までなら来年、再来年に向かって目標を数値化できましたが、日々状況が変化するコロナ禍の中で、数値目標を立てるのは非常に難しくなりました。それでも「フェアトレードを広めたい」という私たちの思い、目指す社会のあり方はこれからも変わりません。

最近は日本でも「SDGs」の考え方が広まってきていますけど、これって私たちが事業としているフェアトレードとも密接に関わってくる概念なんです。単にこれを知識として社会に伝えるのではなく、お買い物をする皆さんにとって選択肢の一つとなるような魅力的な発信をしていきたいですね。
そのために必要なのは発信力の強化。ネットショップだけでなく実店舗や卸販売でも伝える力をさらに強めつつ、作り手さんとは商品力・開発力をこれからも一緒に高めていければと考えています。

ありがとうございます。ネットショップとしての目標はいかがでしょうか?

もちろん物を買ってもらう場であることは大前提ですが、私たちのコンセプトは「モノの背景が見えるお店」です。ネットショップに来て買い物をしなかったとしても、コラムや商品ページを読んでもらうことでその人の日常の視点に奥行きが生まれたり、毎日がちょっと豊かになったり、そんな出会いを作る場でもありたいと思っています。

今後、新たにやっていきたいことはありますか?

さまざまな人や場とコラボしていきたいですね。たとえばフェアトレードを仕事にしている方は日本全国にたくさんいるので、皆さんと何か一つのことを企画したり、同じ京都の人たちと一緒に何か始めたりするのも楽しそうです。

「カラーミーショップ大賞2020」授賞式での一枚

「カラーミーショップ大賞2020」の授賞式では、全国のショップオーナーさんと繋がる機会があったので、オンラインで頑張っている事業者さんたちと一緒に何かアクションを起こすのもいいですね。それが結果的にもっと多くのお客さまとの出会いや、フェアトレードがさらに広がる未来へも繋がっていくはずなので。自分たちの軸はブレさせず大事にしながらも、より広い視点で新しいやり方を探していければと思います。

今後の展開がとっても楽しみになりました。今日は素敵なお話をありがとうございました!

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