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越境ECを始めるときの鉄則とは?売り上げを伸ばすために重要なポイントを徳田さんに聞いてみた。

市場規模が急拡大している「越境EC」。越境ECとは、インターネットを介して日本国内から海外のお客様に商品を販売する電子商取引のことを指します。

これから挑戦してみたいな、と考えているショップオーナーさまも多いのではないでしょうか。

今回は、海外Webマーケティング専門のコンサルティング事業を展開している、世界へボカン株式会社・代表取締役の徳田祐希(とくだゆうき)さんに、越境ECのトレンドから売上を伸ばすコツを伺いました。

世界へボカン株式会社 代表取締役
徳田祐希さん
イギリス留学を経て、海外向けWebマーケティングを行う会社に入社。外国人マーケターとともに海外Webマーケティングチームを牽引後、2014年に世界へボカン株式会社を設立。海外Webコンサルティングで、アフリカ向け中古車輸出企業の売上を30億円から500億円に導くなど、実績多数。

徳田さんについて教えてください(自己紹介)

徳田さんご自身について、起業の経緯を含めて教えていただけますか?

世界へボカン株式会社を経営しております徳田祐希と申します。私たちの会社は、英語圏の越境ECに特化した海外Webマーケティング事業を展開しており、「日本の魅力を世界へ伝える」というミッションを果たすべく、日本企業の海外進出や販路拡大における幅広い支援サービスを提供しています。

私自身は、インターン時代から越境ECや海外マーケティングに携わってきて約15年になります。じつは、海外マーケティング一筋で国内向けのマーケティングは意識的にやらないようにしているため、少し特殊な経歴かもしれません。

日本の魅力を世界へ伝えたいと志望するようになったのは、イギリス留学時に、日本のよさが海外の人にあまり伝わっていないと感じたことがきっかけでした。帰国後、日本の魅力発信に関わるためにマーケティング会社に入社し、外国人マーケターとともに海外Webマーケティングチームを約8年間牽引したのち、2014年8月に事業部を買収(MBO)して、世界へボカン株式会社を立ち上げました。

印象的な社名ですが、由来を教えていただけますか?

「世界へボカン」は、前職の会社が保有していたサイト名です。ただ、単純にそのまま引き継いで社名にしたわけではありません。

「海外向けアウトバウンドマーケティングに特化する」と決めていましたが、前職の会社では海外向けだけでなく国内インバウンド向けマーケティング事業も展開していたため、事業目的に差異がありました。そのため、当初はそのまま社名にすることにはためらいがあり、もうひとつの社名候補との間で揺れ動いていました。

「世界へボカン」とともに候補に挙がっていたのは「Blue Corner(ブルーコーナー)」という名前です。ボクシングで挑戦者は青コーナーに割り当てられますよね。海外で挑戦するという意味でも、ブルーコーナーはカッコいい名前だなと思っていました。

とはいえ、「世界へボカン」は「世界」を冠した名前なので、気軽に国内向けマーケティングには手を出しにくいともいえます。最終的に、「自分たちがやることは海外マーケティングだけ」と退路を断つ意味と、「海外マーケティングビジネスで成長していく」という想いを込めて、世界へボカン株式会社に決定しました。

一度聞いたら覚えてもらえる名前で、素敵ですね。

越境ECのトレンドは?

新型コロナウイルスの影響もあって、EC化に前向きな事業者様が増えています。越境ECをめざす事業者様に向けて、トレンドを教えていただけますか?

取扱商品のトレンドでいうと、この15年ほどの間にずいぶん変わってきたなという印象を持っています。

私が越境ECに関わり始めて間もないころは、「普遍的な価値を持つ商品=売れる」という定石があり、中古車や中古のブランドものの時計など、海外で売れることが確定しているもので越境ECに挑戦する事業者様がほとんどでした。それが、近年は、D2C(Direct to Consumer)ブランドや、世の中にほとんど認知されていない商品もプラットフォームに乗ってきています。

また、越境ECへの挑戦の仕方がより多様化しているなと感じています。国内向けのECサイトだけしか持っていない事業者様でも、株式会社ジグザグ様が提供している越境EC支援サービス「WorldShopping BIZ」などを利用して、海外販売に参入しているケースをよく見かけます。

越境ECでいちばん注目度の高い国、需要のある国はどこですか?

英語のECサイトでいうと、アメリカがトップです。人口も日本の倍以上ありますし、可処分所得も高い。当社のお客様で売上が一番高い相手国も、やはりアメリカです。次いでイギリス、オーストラリア、香港、シンガポールといった国が続きます。

D2Cブランドを販売する事業者様が増えてきていると伺いましたが、取扱商品にはどんなものが多いですか?

化粧品やサプリメント、置物などの雑貨類、伝統工芸品などが多いです。なかでも、伝統工芸品の生産者様が、越境ECに挑戦するパターンが近年目立つようになってきたと感じています。

日本には、岩手県の南部鉄器(なんぶてっき)や広島県の熊野筆(くまのふで)、高知県の土佐打刃物(とさうちはもの)、群馬県桐生市の桐生織(きりゅうおり)など、全国各地に匠の技で生み出された伝統工芸品があります。海外には、日本文化や日本の職人の高い技術力に魅了される人が多く、注目度も需要も高まっています。これを受けて、生産者様が積極的に海外発信するようになってきているようです。

海外の人が日本の商品を知るきっかけは、やはりSNSが多いですか?

商品特性によります。アパレル関連商品や包丁などの調理器具はビジュアル重視の傾向が強いので、SNSでハッシュタグ検索して知られることが多いです。一方で、メーカーの型番商品や時計、車などは、Googleなどで検索して、検索結果から認知されることが多いですね。

越境ECを始めるときの鉄則は「市場調査」と「顧客解像度を高めること」

越境ECサイトを立ち上げるまでに知っておきたいこと

事業者さんが海外に向けて商品を販売しようと考えたとき、何から手をつけて、どう進めたらいいですか?

市場調査と顧客解像度を高めることから始めるのが鉄則です。それから、目標設定と目標を達成するためのスケジュールを立てて、計画通りに進めていくという流れになります。

カラーミーショップさんを利用されている事業者様の場合、Googleアナリティクスなどのデータで海外からのアクセスがあることが見えていて、ビジネスチャンスがありそうだというときは、まずサイト訪問者がお客様になってくれそうかどうかを検証します。

参考までに、当社の場合は、市場調査と同時並行で3~5名ほどの見込み客にインタビューやアンケートを必ず行って、なぜその商品を購入したのか、どのように使っているのか、なぜこのお店を選んだのかといった購買決定要因を探っています。

顧客像が明確になってきたら、前述のジグザグさんのWorldShoppingBIZを導入して、海外のお客様が商品を買えるようにします。ニーズがあって商品を購入できる状態になっていれば、海外の人にも買ってもらえるはずです。この方法は、あくまで越境ECの手段のひとつにすぎませんが、サイトを訪れたことがある人に対して購入を促す形になるので、コスト面ではもっともリーズナブルな集客方法だといえます。

越境ECと、国内向けECはどんなところが違うのですか?

越境ECが国内向けと大きく違う点は「為替、コンテンツ、配送(配送料)」の3つです。

為替に関しては、ドルやユーロなどいろいろな通貨があるので、各国の通貨に合わせて為替レートを設定したり、為替変動のリスクが少ない日本円建ての決済方法の導入を検討したり、国ごとに最適な決済サービスを用意したりと、国内向けサイトには必要のない準備が発生します。

コンテンツについては、前提となる商品理解が日本と海外では異なるので、海外のお客様向けにカスタマイズしたページを準備しておく必要があります。どんな人がターゲットなのか、商品に対する理解度はどのくらいか、抱えている課題や悩み、願望は何か、新商品へどう誘導するかなどを逆算して考え、コンテンツに反映させるとよいかもしれません。

宮城県仙台市発世界の着物を使用したシャツを取り扱うブランドでは、着物を再利用したシャツとして販売されていました。しかし、よくよく聞いてみると文様一つひとつに意味があることが分かりました。たとえば、松竹梅の松の文様は、「長寿」の意味があります。

「大切なお父さんへの父の日ギフトで「長寿」の願いを込めて、松の文様のシャツをプレゼントしてみてはいかがでしょうか?」と添えるだけで、作り手の想いと買い手の想いが重なる共感ポイントを紡ぐことができます。

配送料でいうと、日本国内であれば北海道や沖縄、離島などを除いてサイズにもよりますが600円くらいで配送できます。しかし海外の場合、配送料は数千円から1万円近くかかかることもあります。4000円のTシャツを買って配送料も4000円であれば、購入へのハードルは高くなります。配送料は物流手段によって異なるので、どれを選ぶかを慎重に考えるとともに、物流コストを含めて価格を表示するなど、配送料の見せ方、伝え方を工夫することも大事です。

市場調査の方法

海外の市場調査を自分たちで行う場合、どのように進めたらいいですか?

一番売れているWebサイトをチェックするのが近道です。業界のトップランナーがどのくらいトラフィックを獲得しているかがわかれば、一般的なコンバージョン率はだいたい1%なので、それと客単価を掛け合わせることでおおよその売上額がつかめます。また、そこから市場規模を把握することもできます。

ちなみに当社は、シミラーウェブ(SimilarWeb)というツールを使って、対象サイトが1か月にどのくらいのトラフィックを獲得しているかを見ています。たとえば、アクセス数10万のサイトなら、コンバージョン率を1%とすると1000コンバージョンしていることになります。客単価が1万円なら月の売上は1000万円となり、年商1億2000万円の会社だと推測できます。

トップランナーの実態がわかれば、自社の売上目標が妥当かどうかを判断する際にも役立ちます。

自分たちで市場調査からサイト立ち上げまでやりきるのが難しそうだという場合は、プロに任せたほうがいいですか?

事業者様によって事情は異なるので、一概にそうとはいいきれません。

越境ECの進め方には3つの方法があると思います。

1つめは、自分たちですべて行う方法。2つめは、日本人EC担当者と新しく雇用した外国人メンバー、コンサルティング会社が協力して進める方法。3つめは、社内に日本人EC担当者を置いて、私たちのような会社に全面的に依頼する方法です。

基本的にはこの中から、自社に合う方法を選ぶことになります。

ただし、外国人メンバーを雇用する場合は、マネジメントコストが高くなりがちです。職務内容とのミスマッチで辞めてしまうという状況がしばしば見られるので、採用活動を始める前に十分に検討すべきでしょう。

越境ECを成功させる重要なポイントは「顧客接点」にあり

越境ECで、売上を伸ばせている事業者様と伸ばせていない事業者様に違いはありますか? 

売上には顧客接点のあるなしが大きく影響します。

成功している事業者様は、顧客接点を持っていて顧客解像度が高く、適切な手段で集客しています。一方、売上を出せていない事業者様は、顧客接点を持たず、顧客解像度が低い状態で広告を配信したり集客したりしていることが多いです。また、顧客接点を持っていても、自分たちの商品をどんな人が買ってくれているのかを把握せずに、越境ECサイトを作ってやみくもに広告を打っても、売上は上がりません。そのため、当社のお客様に対しては、「まずは距離の近い人からアプローチしましょう」とアドバイスしています。

顧客接点や顧客解像度が大事な理由は何ですか?

伝統工芸品のケースで説明しますね。

これまで伝統工芸品の海外販売はBtoBビジネス、つまり卸売が基本で、生産者側は直接的な顧客接点を持たず、商社やブローカー、バイヤーなどを通じた間接的なものが一般的でした。ところが生産者からすると、このスタイルでは購入者の顔がまったく見えてこない。購入者からのフィードバックを得られないだけでなく、その商品を卸した先で本当に売れているのか、海外の人に受け入れられているかどうかもわかりません。

南部鉄器の例を紹介すると、あるときから南部鉄器とそっくりな中国製や東南アジア製の格安商品が流通し始め、価格の高い日本製の本物と一緒に店頭に置かれるようになりました。海外のお客様からしたら、見た目だけでは何が違うのかわからない。同じ形のものが並んでいれば、本物でなくても安いほうを選ぶのは自然なことかもしれません。

ものだけを一人歩きさせれば、単純な価格競争になることもあります。本来の価値を知って選んでもらうには、顧客接点を持ち、商品の背景にある歴史や文化、職人の技術や想いといったストーリーを伝えることが大切です。形は真似できても、商品の背景にあるものは真似できません。独自ドメインで商品販売を始める事業者様が増えているのは、顧客接点を持つことでお客様のことを理解して、商品理解が深まるような情報を発信するためでもあります。

日本が好きで買ってくださる方も多いと思うので、商品にまつわるストーリーを英語できちんと伝えるなど、売る側の努力が必要ということですね。

そうですね。それと、日本人と海外の人では、前提となる理解度が異なるという点にも注目すべきです。たとえば包丁でいうと、日本の包丁には三徳包丁や牛刀など、用途ごとにたくさんの種類があります。それぞれ使い方やお手入れ方法が異なるので、ものだけが一人歩きして使い方が間違っていれば、使いづらくてこの包丁は全然ダメじゃないかとなることもあります。

そのような誤解やすれ違いを防ぐためにも、目的に合わせた包丁の選び方や使い方、使用後のお手入れの仕方などをまとめたコンテンツを発信することは有効だと思います。

越境ECを立ち上げたまではいいけど、なかなか軌道に乗せられない場合もあると思いますが、まずこれだけはやってみてくださいということはありますか?

越境ECを始める前に売上目標やKPIを設定して、成功の定義(=軌道に乗っているかどうかを判断する基準)を明らかにしておくことが大事です。売上目標が10万円でも100万円でも、達成していれば成功といえますし、売上目標が1億円で売上が10万円しかないなら、軌道に乗っていないという判断になります。

大事な判断基準になる売上目標を設定する際のポイントは、市場規模を把握したうえで適切に設定することです。極端な話、ニッチな商品で市場規模の上限が1億円なのに、「社長が目標を1億といったから売上1億を目指す」というのは無謀です。目標達成できずに担当者様も疲弊して、越境ECが頓挫してしまうこともあります。

海外発送やお客様対応について

商品を海外発送する際に気をつけておきたいポイントはありますか?

海外発送は、自社発送か物流会社に発送依頼するかのいずれかの方法で行いますが、自社発送は手間も時間もかかるので、なるべくなら避けたほうがいいです。成果を最大化することを考えたら、物流会社にアウトソースしたほうが効率的だと思います。

配送会社についても、たとえば日本郵便のEMS(国際スピード郵便)と、ドイツのDHL、アメリカのFedExでは配送品質やサービスがまったく異なるので事前調査が必要です。また、「荷物が届かない」といった万が一のトラブルを避けるためにも、複数の配送手段を持って、商品を確実に届けられるようにしておくことをおすすめします。

配送トラブルとして起こりやすいことはどんなことですか?

この数年は、新型コロナウイルスなど社会情勢の影響で、航空便の運航停止や出入国制限による荷物の発送停止、配送遅延などが発生していて、発送からお届けまでに時間がかかるようになっています。

また越境ECでは、国境をまたいでの取引になるため基本的には購入者に関税の支払い義務が発生しますが、事前に詳細を知らせていないと、お客様に受け取りを拒否されることもあります。そうなると、商品は現地処分、または返送となれば往復の配送料がかかって損失が生じます。

トラブルの発生を未然に防ぐためにも、関税が発生する場合は前もってアナウンスする。お客様に関税を負担させたくない場合は、関税を元払いできるFedExやDHL、日本郵便でもEMSではなくUGXを選ぶなど、きちんと対策方法を考えておくべきです。

お客様対応に関して、やっておいたほうがよいことはありますか?

国内ECと同じように、越境ECでもお問い合わせ対応の負荷が大きいので、チャット機能を活用して、よくある質問に対する回答をチャット上で提示できるように準備しておくとよいと思います。さらに、Webサイト上に、質問に対するベストアンサーをまとめたFAQ集のようなものを設けて充実させていけば、お問い合わせ件数が格段に減って、カスタマーサポートの負担軽減にもつながりますよ。

徳田さんは、4月末に『初めての越境EC海外WEBマーケティング』という書籍を発売されましたが、本を書くきっかけや概要などをご紹介いただけますか?

この本を書くきっかけを作ったのは、お客様の本棚です。

仕事で地方の包丁屋さんの店主を訪ねた際、ふと本棚に目をやると、EC関連の書籍が並んでいました。「書籍で勉強して一生懸命ECに取り組んでいるんだな」と尊敬の念を抱いたのと同時に、「自分も本棚に並べていただけるような本を書いて、越境ECをめざす方のお役に立ちたいな」という気持ちがわき上がってきました。そうして、これまでの経験をもとに書き上げたのがこの本です。

『始めての越境EC海外WEBマーケティング』には、市場調査の方法から戦略立案、サイト制作、マーケティング、法務、税務、関税、物流に至るまで、越境ECで押さえるべきポイントが網羅的にまとめてあります。越境ECは新しいビジネスで、挑戦する事業者様が増えていますが、まだまだ未知の世界に感じている方は多いかもしれません。初めて挑戦する事業者様や担当者様がこの本を手にとって、越境ECに対する理解を深めるのにお役立ていただければ幸いです。

越境ECを志すすべての皆さまに読んでいただきたいですね。

『始めての越境EC海外WEBマーケティング』はこちら