宮城県大崎市鳴子温泉にて江戸末期から代々こけしを作り続けている櫻井家。現在は五代目の櫻井 昭寛さん、六代目の尚道さんが親子二代で製作・販売をされています。今回は「こけし」という文化の継承やネットショップの運営について、こけし工人の櫻井 尚道さん、ネットショップご担当の小林 仁美さん、児玉 紗也加さんにお話を伺いました。
江戸末期から代々続くこけし店
桜井こけし店について教えてください。
小林さん(以下/小):櫻井家は宮城県大崎市鳴子温泉に江戸末期から代々続く、木地師の家系です。現在は五代目の櫻井昭寛と、六代目の尚道が親子二人でこけし作りをしています。櫻井家は鳴子系こけし工人の中でも古い家柄のひとつとして知られており、戦前から多くの名工を輩出しています。
とても歴史のあるお店なんですね。
櫻井さん(以下/櫻):脈々と受け継がれる伝統こけしを作りながら、一方で、生活様式の変化に合わせた創作こけしや、木地雛「ひいな」・干支・鏡餅など四季を感じる日本文化にあわせた季節飾りなども製作しています。
古いものを古い技術で作り続けるのではなく、先代たちの想い、精神、技術を受け継ぎ、「自分らしさ」を表現して、東北の鳴子温泉を、そして桜井こけしらしさを感じてもらえるものづくりを大切にしています。
2017年に株式会社こしきを設立されたのはなぜですか?
櫻:2014年に櫻井家を継ぐために鳴子へ戻ってきたのですが、街の人々の高齢化などに伴い、これまで鳴子温泉を形作っていたお店が次々と閉店して更地になっていったんです。子どものころから見慣れていた鳴子温泉の景色がどんどん変わっていくのを目の当たりにして、自分ができることは何かを考えました。
鳴子温泉の魅力、古くからの習慣や文化を受け継いで守りながら、それらを時代に合わせた形で伝えていきたいという想いで会社を設立しました。
「こしき」という名前には、轂(こしき)=ハブの中心として、鳴子温泉という地がもともとそうであったように、鳴子温泉内外の人、もの、ことをつなぐような活動をしたいという意味を込めました。
こけし作りに留まらず、地域に根ざした事業をされている会社なんですね。
櫻:そうですね。鳴子らしい習慣・文化・生活を人々とともに作り、つなげ、伝える活動をしています。
これまでに、こけしの販売・開発のほか、海外展開や鳴子観光プログラムの提供、ギャラリー・カフェの運営、植林活動を行ってきました。
実店舗は桜井こけし店1店舗だけでしたが、2016年に祖父の櫻井昭二から譲り受けた「こけし堂」をリニューアルオープンしました。そして、昨年の秋に3店舗目となる「こけし堂 峡-kyo-」というカフェをオープンしました。ここは、スタッフたちの家としても活用するほか、移住促進事業の一環として利用していきます。
児玉さんと小林さんが株式会社こしきに入社されたきっかけは何ですか?
児玉さん(以下/児):もともとこけしが好きで、学生時代に「こけし堂カフェ」をお手伝いしたのがきっかけでした。そこで櫻井親子の想いに惹かれ、大学卒業後に入社することを決めました。
小:私は北海道出身でこけしに馴染みはなかったのですが、桜井こけし店を訪れたことがきっかけでこけしの奥深さを知り、桜井こけし店と鳴子温泉に魅了されました。昭寛さん、尚道さん親子から、こけしや鳴子温泉に対する想い、これからのこけし屋さんのあり方などを聞いているうちに、自分も協力したいと思い、鳴子温泉に移住して株式会社こしきで働き始めました。
こけしにはそれだけ人を惹きつける魅力がありますよね。
次の世代へつなげていくためのネットショップ
現在のおもな販路はどこですか?
児:実店舗と卸販売、自社のネットショップです。
昨年はコロナウイルスで生活が一変しました。
実店舗とネットショップにも影響はありましたか?
児:実店舗は温泉街のなかにあるので、観光客が減ったことで売上が落ちました。
ネットショップは外出できないぶん、ご覧いただいて購入してくださる方が増えたように感じます。
コロナ禍でもネットショップの売上は伸びたということですね。
ネットショップを開設しようと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
櫻:当初は実店舗のみでの販売でしたが、年々、鳴子温泉の観光客が減少している現状のなか、この地でこけし業を続け、次の世代へつなげていくために新たな販路を模索する取り組みを行っておりました。その一つとして、ネットショップでの販売を始めることにしました。
その際、カラーミーショップをお選びいただいた理由を教えてください。
櫻:テンプレートのデザインが豊富だったからです。テンプレートをもとに自分でアレンジできるので、株式会社こしきのブランディングや伝えたいことを表現するのに一番合っていました。
ありがとうございます。シンプルでこけしのかわいらしさを際立たせるデザインですよね。お写真もきれいですが、制作会社に依頼されたのでしょうか?
小:ありがとうございます! 自社で制作しています。櫻井が内容やデザインの方向性を決めています。写真はプロのカメラマンやスタッフで撮っています。
お客さまの層は実店舗とネットショップで違いますか?
児:実店舗は温泉街にあるので、観光客の方が多いです。
ネットショップはこけし好きの方だけでなく、一般の方からも初めてのこけしとしてご購入いただいております。リピーターが多く、よくお見かけする名前があると嬉しくなります。
また、「ひいな」や干支などの季節飾りは、インテリアとして季節のアイテムを暮らしに取り入れたい方や、日本の文化、四季を感じたい方からのご購入も多く、ネットショップは客層の幅が広がっています。
小:「ひいな」をご購入のお客さまは、初節句の雛人形としてご購入いただく場合も多いです。思い入れも強く、ご注文後に何度もメールでやりとりをしていたお客さまが、翌年1歳になった娘さんを連れて実店舗に来てくださったことがありました。娘さんやご家族に「ここのおひなさまを買ったんだよ〜」と説明していて、遠くから足を運んでくださったことにも驚きましたし、大切にしてくださっていることが伝わってとても嬉しくなりました。
心温まるエピソードです。それほど愛情をもたれる商品というのは、発送作業でも気を使いますよね。
児:作り手がひとつひとつ丁寧に想いを込めて作ったものなので、その想いを受け継いで大切に包んでいます。
以前、食器をネットショップで購入した際に、とても美しく丁寧に包まれていてとても感動しましたし、作り手の想いが梱包からも伝わってきました。自分たちが届けるものもそうでありたいと思っています。常に自分がお客さまの立場だったらどう感じるかを考えながら発送しています。
伝統工芸品をネットショップで販売するのは難しいイメージがあります。櫻井こけし店ではどのような工夫をされていますか?
小:一つ目は写真の撮り方です。「こけし」と聞いて一般的に抱かれるイメージを払拭したいと思っています。現代の生活空間やインテリアにも合うことを知っていただけるように、飾り方のイメージが湧くような写真を撮っています。
二つ目はSNSの活用です。Instagramでこけしの特徴や魅力を発信して購入につながることも多いので、SNSで検索されている方の多さを実感します。
Instagramの投稿で工夫をしていることはありますか?
小:桜井こけし店のものづくりや桜井こけし店らしさ、鳴子温泉の自然を感じてもらえるような投稿を意識しています。
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「こけし」という文化を世界の人々に伝える
モダンなこけしや海外に向けた商品も作られていますが、そういった商品を開発するきっかけは何だったのでしょうか?
小:六代目の櫻井尚道が帰ってきたことです。櫻井が「こけし」という文化を世界の人々に知ってもらいたいという想いから開発を始めました。
櫻:鳴子こけし工人の先達は新幹線もない時代に鉄道を使い、鳴子こけしを東京の方々に知ってもらう活動を行っておりました。その活動のおかげで今の鳴子こけしがあります。現代の私たちが飛行機で海外に行くよりも大変なことだったと思います。
そして今、私たちの時代でさらに「こけし」という文化を世界の人々に伝えていくことが必要だと考えました。日本が好きな外国人だけでなく、デザインやインテリアが好きな世界の人々にも伝えるという想いで、ヨーロッパのデザインショップ、ミュージアムショップをターゲットにフランスで市場調査を行いました。その結果、「Hagoromo」「Kaguya」「Cozchi」を開発し、今は「Reflections」というラインになって発展しています。
特にどの国からの注文が多いですか?
児:以前にフランス・パリのデザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展したこともあり、ヨーロッパからのご注文が多いです。
海外で人気の商品はありますか?
児:現代のライフスタイルに合わせてこけしの新しい在り方を提案した「Reflections」は、デザインやファッション関連のお店で取り扱っていただいて、こけしに馴染みがない海外の方にも飾りやすいと人気です。
一方で、日本のものを扱うショップなどでは先代や師から受け継ぎ、作り手自身の個性が現れる「伝統こけし」が日本のものづくりらしくてよいと人気があります。
個人のお客さまからもよくお問い合わせをいただきますが、伝統こけしもモダンなこけしもどちらも人気があります。
カラーミーショップでは海外に向けて販売ができる機能もありますが、越境ECにチャレンジするご予定はありますか?
児:ぜひともチャレンジしたいと思っています。海外在住のこけしを集めている方々から、「この状況下で日本に来ることができないので、ネットショップでこけしを購入したい」というお問い合わせを最近はよく受けます。
ちょっと変わったところでは、ムンク展とコラボレーションした創作こけしも印象的でした。これは、どのようなきっかけで作られたのでしょうか?
児:東京で開催されている「ててて見本市」へ出展した際に、担当の方がブースへお越しいただきましてご依頼を受けました。
これからについて
今後はネットショップをどのように広げていきたいですか?
小:現在、季節飾り以外は不定期で販売しているので、一年を通して定期的な販売を行っていきたいです。
また、木地雛の「ひいな」がネットショップで一番の人気となっております。「ひいな」の歴史は、櫻井家三代目の櫻井昭二がこけしで初めてお雛様を作ったことから始まっています。それを受け継いで発展させている「ひいな」なので、たくさんの方に知っていただけるようにブランドを強化していきたいと考えています。
おまけ:おすすめのこけし
児玉さんと小林さんがお気に入りのこけしを教えてください!
児玉さん:伝統こけし「櫻井昭寛作 深澤要コレクション 岩蔵型」
児:「こけしの蒐集は鳴子に始まり、鳴子に終る」と書き、こけしと鳴子温泉を愛した、深澤要さんというこけし研究家がいます。まだ交通機関もしっかりと整っていない戦前から、こけし工人やこけしを求めて、東京から東北のこけしの産地を訪ねました。このこけしは深澤さんが、そんな旅のおともに、胸元のポケットに忍ばせていたこけしをもとに、五代目の櫻井昭寛が製作したものです。
深澤さんのこけしへの愛と、ちょっとお茶目な一面に惹かれ、入社後初めて桜井こけし店で購入したこけしです。
こけし作りは、四季の移ろいを色濃く感じながら、自然の中で木と向き合うところから始まります。そして、筆を入れると、作り手の人柄やものづくりへの姿勢が個性となって作品に滲みでます。まるで一人の画家の作品を見ているようで、知れば知るほど、こけしの奥深さに魅了されています。
小林さん:季節飾り「櫻井尚道作 鏡餅」
小:2020年にネットショップでの販売を開始した「桜井こけし店のかがみもち」。白い肌のミズキの木をろくろで挽いて生み出されるやわらかな形をした、木のぬくもりが溢れる鏡餅です。櫻井の作る鏡餅は、本物のお餅よりもお餅らしいらしいような、ふっくらとしたおいしそうな形をしています。
一年の終わりに、箱から取り出して飾るのが楽しみになるような鏡餅です。
こちらを昨年買ってくださった東京の方から、これまで「鏡餅を飾る習慣がなかったが、これなら毎年飾れそう。子どもにも日本の文化を伝えることができた」という声をいただきました。
ネットショップでの販売前にパッケージや商品カードなどもすべて櫻井と一から考えて製作したので思い入れもあります。
今年もネットショップでの販売を予定しています。
こけし作りは、暮らしそのものです。こしきで働き始めてから、櫻井家の日常に触れているとそのことを強く感じます。生活していくために必要な薪の準備や雪かきなどの作業、こけしを作るための木の仕入れ、皮むき、乾燥などの作業、他にも日々の暮らしや仕事にまつわる作業や食べるもの目にするものはすべてこけし作りにつながっているように感じます。櫻井家にとっては、こけし作りは生きることと同じで、生き方がこけしにも現れていると思います。そこが私にとってはとてもおもしろく、魅力的に感じています。ものづくりが好きな方や自然が好きな方のなかにはきっと同じように思う方も多いのではと思うので、興味があればぜひ鳴子温泉にいらしていただきたいなと思います。
こけしへの愛情溢れるお話をありがとうございました!
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