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コロナ禍でのネット通販に注文殺到。花と鳥のテーマパーク「掛川花鳥園」が開拓した顧客コミュニケーションの新境地

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
静岡県掛川市にあるテーマパーク。園内では約100種類の鳥、約2,000品種の花とのふれあいを楽しむことができ、中でもエサやり体験やバードショーなどが人気です。今回は、飼育管理部門を統括しながら広報や通販部門にも携わる北條 龍哉さんに、コロナ禍でのネットショップ開店や商品企画、今後の展開について伺いました。

ネットショップ開店のきっかけは「お菓子の賞味期限」

掛川花鳥園さんでは現在どれくらいの人数が働いていますか?

全体としてはだいたい76名で、そのうち24人が鳥の飼育やパフォーマンスを担当しています。

最初にご連絡したとき、北條さんの肩書の多さに驚きました。鳥の飼育管理だけでなく広報や通販部門も兼任しているんですね。

ごちゃごちゃしてるってよく言われます(笑)。
何年か前に広報担当のスタッフが退職した際、その後任を決める必要がありまして。うちはメディアさんからご取材をいただくとなると基本的には鳥と一緒に出演することが多いので、実際の取材対応のほとんどは私をはじめとした飼育管理部門のスタッフで回していたんですよね。それならやることは今までとあまり変わらないね、ということで私が受け継ぎました。

なるほど、そういった経緯が。

昨年の夏にネットショップ立ち上げに参画したのも、前任の広報担当からSNSやホームページ管理を引き継いでいた流れです。もともと物販にはほとんど関わっていなかったんですけどね。

ネットショップの立ち上げはやはりコロナ禍の影響でしょうか?

そうですね。うちは1回目の緊急事態宣言に合わせて2020年4月半ばから5月末まで休園しました。

1カ月以上休園が続く間に、売店の責任者から「お菓子の賞味期限が迫ってきている」と声が上がりました。営業再開後にそのまま販売するのは難しいので、最初のうちは近所の学校や保育園などに寄付していましたが、小さなお子さんの出入りする場で期限の迫った商品を配り続けるわけにもいかないですよね。いろいろ話し合いを重ねる中で「ホームページを利用して販売する」という方法に至りました。

ホームページにお知らせを出して、メールなどで受注するということですか?

はい。受注はメールとFAXのみという非常にアナログな手段でしたが、人気のぬいぐるみを期限の迫ったお菓子と合わせて割引価格で販売したところ、かなりの反響がありました。

他の動物園さんはクラウドファンディングなどで休園時の寄付を募っていたのですが、うちはそういうことを一切していなかったぶん、常連さんからすれば何かしてあげたいのにその手段がなかったんでしょうね。購入時のメールにも「もっといろいろ売ってください、必ず買うので!」といった声が非常に多く、私たちとしても「こんな状況で皆さんのご厚意に甘えるだけではいけない」と今後について考えるきっかけになりました。
園の運営や鳥たちのことを心配してくださる方がいて、もし支援の気持ちで私たちの商品を買っていただけるなら、期限の迫ったお菓子などではなくきちんとしたものを適正価格で楽しんでもらいたい。そんな思いからネットショップを立ち上げて、今に至ります。

最初のきっかけはお菓子の賞味期限だったんですね。

実はそうなんです(笑)

当初メールやFAXで受注していたということは、発送管理や送り状作成も人力で?

送り状も配送伝票も手書きでしたし、ピッキング・梱包もなかなか大変でしたが、あのときはなんとかマンパワーだけで乗り切りましたね。アナログでは入金確認が難しいので代引き一本で。

ほとんど人力で乗り切ったんですね。大変そうです……!

オリジナルグッズの企画力はスタッフの愛情ならでは

本格的なネットショップ展開にカラーミーショップを選んだのはどういった理由でしたか?

他社のカートサービスともいくつか比較してみて、まず利用料金の安さが魅力的でした。
うちは通販のノウハウが一切なかったので、気軽に始めてみてうまくいかなかった場合の撤退しやすさも視野に入れて決めた側面も正直ありました。カラーミーさんは無料のお試し期間がしっかり30日間あったので、安心して手を動かせたように思います。それと、うちと付き合いのある制作代理店さんからも「通販始めるならカラーミーがいいですよ」と背中を押されたのも大きな理由です。

ネットショップの構築も制作代理店さんが?

初めのデザインの部分だけは、私の作業が追いつかなかったので代理店さんにおまかせしましたが、それ以外はすべて私が構築しました。マニュアルやYouTube『カラーミーショップCh.』をいつもフル活用させてもらってます。

現在の商品数はどれくらいですか?

通常アップしている商品は300種類くらいです。ちょうど今(取材当時)は「オンラインことり万博」というイベントをやっていまして、それを含めると500を超えますね。

かなりの商品数ですね。「オンラインことり万博」とはどういった企画でしょうか?

「ことり万博」自体はうちのオリジナル企画ではないんです。
鳥をモチーフにしたいろんな作品やグッズを作られてる方が全国にたくさんいるので、その作家さんが一堂に会する展示即売イベントとして、とある作家さんが立ち上げたイベントなんですよね。ありがたいことに、うちも鳥専門のテーマパークとして徐々に知名度が上がってきていたので、5年くらい前にお声掛けいただいて以来、年に2回「ことり万博 in 掛川花鳥園」としてイベントを開催しています。

ただ、今年はコロナの影響でリアルイベントの開催が難しくなってしまって……うちの鳥たちをモチーフにしてわざわざ限定グッズを作ってくれた作家さんも多いので、なんとか販売の場を設けたいということで、今回はうちのネットショップで出させていただくことにしました。

そうだったんですね。中には掛川花鳥園の飼育員さんの作品もあって驚きました。

「自称グラフィックデザイナー」の飼育員・多賀さんの作品。
飼育エリアに落ちている本物の羽根を使ったアートはわずか3日で完売したのだそう…!

ああ、彼は飼育管理専門のスタッフですよ(笑)。
うちの飼育スタッフはいわゆるオタク気質がけっこう多くて、趣味が高じて自分で絵を描いたりデザインしたりするのがやたらうまい子が何人もいるんです。缶バッジも自分たちで描いたのを自社の機械で1個ずつ生産してますからね。

そこまで手作りを!

どこかのメーカーさんに依頼してうちのデザインで作ってもらう「オリジナル」と、スタッフが1個1個手作りした一点ものの「オリジナル」の両方を提供できるのは、うちのショップならではの強みですね。

“塩対応”ふたばちゃんの「塩ラーメン」もユニークな発想ですよね。

これは園内売店のスタッフのアイデアですね。売店スタッフも流行のリサーチ力がすごいですよ! 飼育以外の部署にも鳥好きのスタッフが多いので、「私が欲しいからこういうの作ってください」って言われたりするんです。みんな自分が欲しいからってデザインから文字の配置まで自由に口出ししてくる(笑)。財布を握ってる上司もデザインはほとんど現場に任せてくれるので、制約なしで思い切った商品を楽しんで作ることができています。

商品企画の時点で皆さんの愛情がかなり深いんですね!

ネットショップはファンとスタッフをつなぐツール

掛川花鳥園ファンの方々のSNSやブログを拝見しましたが、鳥だけでなく飼育員さんのファンも大勢いるようにお見受けしました。

うちは一般的な動物園と違い、鳥が放し飼いになっている空間の中に人間が入っていく形態なので、飼育員が人前に出ることが多いんですよね。
エサやり体験やイベントを通じてお客さまとお話しする機会も非常に多いので、口コミで少しずつ評判が広まっていきました。掛川花鳥園に行けば鳥のことを親切に教えてもらえるという認識が皆さんの中にあるので、そういった意味では「この人に会いに来た」という方も一定数いらっしゃいます。

言われてみれば、他の動物園では飼育員さんとお話できる機会なんてあまりないですね。

うちは普通の会話も毎日してますよ(笑)。
私自身、他の動物園や水族館にただのお客さんとして足を運ぶこともありますが、うちの飼育員とお客さまの距離感の近さは、やっぱり特別だなと思いますね。

YouTubeの視聴回数も非常に多いですよね。特にコロナ禍になってからは動画でさらにファンが増えたのではないでしょうか?

そうですね。以前はシンプルで短めの動画を上げることが多かったのですが、コロナ禍に入ってからは少しでも収入を得るために動画広告をつけ始めたんです。
いくら鳥のかわいらしい姿でもわずか30秒の動画に広告をつけるのは憚られたので、それを機にきちんと編集した5~10分の動画を作りはじめたところ、登録者数が半年で6,000~7,000人ほど増えました。

すごいですね。

正直、私も驚きました(笑)。
中でも「ふたば」の人気は特に高くて、一般のお客さまでもご自身のブログやYouTubeに写真・動画を載せている方が多いのですが、飼育員でなければ見られないような姿や距離の近さを前面に打ち出してみたところ、再生回数やコメント数がかなり伸びました。他の鳥たちとは注目度が明らかに違うのを感じます。

うちはInstagramやTwitterをやっていないので、ネットショップを始めた際もFacebook・YouTube・ホームページ・ブログでしか告知していません。当然この状況では広告宣伝費もかけられないので、この4つだけが自社としてできる限界でした。いつも応援してくれる常連の方たちがインフルエンサーとして自発的に取り上げてくださったのには、非常に助けられましたね。

実際にネットショップを利用されるのも、園の常連さんやリピーターさんが多いですか?

そうですね。「ことり万博」の期間中は各作家さんのファンの方がけっこう購入してくださるので初めての方が多いですが、ほかの時期は以前から何度も利用してくださってる方が目立ちます。リピーターさんは通販限定のグッズを一通り揃えていかれる傾向があります。

園内売店ではキーホルダーやお菓子といった定番商品が人気ですが、コロナ禍に入ってからはTシャツやパーカーといった比較的うちの中でも高価格帯のものがよく売れています。なかなか鳥に会えなくなったぶん、皆さんこういったグッズで欲望を満たしているのかなと。

すごく根強いファンがたくさんいらっしゃるんですね。

おかげさまで商品へのご要望もたくさん届きます。「なんでハシビロコウのぬいぐるみはあるのに他の子のは作らないんですか?」みたいな(笑)。特にうちはマニアックな鳥が多いので、ペンギンやフクロウと違って他の動物園で探しても見つからないんですよ。それで「LLサイズはないんですか?」とか「これもキーホルダーにしてください」っていう細かい要望がたくさん……購入時の備考欄とかに一言添えてくださる方も多いですね。

頼れるのは掛川花鳥園さんしかいない、と。

商品を企画する私たちとしても、要望がいくつか届いたら「10個作れば少なくとも4個は売れるぞ」と参考にできるので(笑)、ご意見をいただけるのはとてもありがたいです。

今後、ネットショップをどのような立ち位置にしていきたいですか?

ツールとしては欠かせない存在になりましたが、私たちのスタンスとしては、通販をメインの事業にしていくつもりはありません。やはり「掛川花鳥園」という施設があってこその通販なので、まずは園に来ていただいた皆さんに楽しく遊んで帰っていただくことが大前提です。
とはいえネットショップの開設以降、商品や販売への細かなご要望をいただけるようになり、逆に今までそういった声を拾えていなかったことがハッキリとわかりました。今後のネットショップは、お客さまと私たちをつなぐツール、さらにご要望に耳を傾けるためのツールとして活用していきたいと考えています。

今日はありがとうございました!

2021年3月で展示を卒業するアフリカオオコノハズク「ポポちゃん」と一緒に