BtoB(企業と企業)の取引では、BtoC(企業と消費者)の売買とは異なる慣習がさまざまありますが、その1つが「掛け売り」という支払い方法です。企業間の取引では日常的に使われています。今回は、掛け売りの身近な事例も取り上げながら、仕組みやメリット・デメリットなどを詳しく紹介します。
掛け売りって言葉は何となく聞いたことがあるけれど、どういう意味なのかはよくわからないな。
請求書払いなど、実は掛け売りは日常的にもよく使われているんですよ。掛け売りについてわかりやすく説明していきますね。
目次
掛け売りとは?意味や仕組み、売掛・後払いとの違い
商品を購入する際は、代金の支払いと引き換えに商品を受け取るのが一般的ですよね。
一方で掛け売りとは、先に商品やサービスを提供してもらい、月末などにまとめて代金を支払う仕組みです。
主に、卸販売(卸売り)などの企業と企業の間の取引で利用される、後払い方法の一種になります。
似た用語の「売掛」や通常の「後払い」との違いも見ていきましょう。
売掛もほぼ同じ意味で使われる
掛け売りに関連する言葉に、「売掛」があります。
売掛も商品代金を後で回収する約束の下に販売することなので、掛け売りとほとんど同じような意味です。
ですが、「掛け売り」という言葉は商談の場で、「売掛」という言葉は会計上の用語として用いられることが多いため、同じような意味ですが使われる場面が少し異なるということを覚えておきましょう。
また、関連用語に「売掛金」がありますが、掛け売りや売掛とは意味が異なります。
掛け売りや売掛は単に売上代金を回収する仕組み(支払方法)を表現した言葉ですが、売掛金というと売掛債権(将来、売上対価を受け取れる権利)の意味があるのです。
掛け売りや売掛は代金の支払い方法、売掛金は金額を受け取る権利という違いがあります。
後払いは主に個人消費者向けの購入方法
先ほど、掛け売りは後払いの一種とお伝えしたように少しだけ違いがあります。
そもそも後払いとは、先に商品やサービスの提供を行い、後から代金を回収する支払方法を指します。
そのため、掛け売りも後払いに含まれます。
ですが後払いの場合は、主にBtoC(企業と消費者)で利用され、「商品受取日から2週間以内」など商品を購入するたびに請求をします。
一方で掛け売りは、その月に購入した分はすべて月末請求など、まとめて支払う点で後払いとは異なります。
後払いは個人の消費者向け、掛け売りは企業向けと覚えておきましょう。
掛け売りの事例とは?日常でもよく使われている
企業間で使われる掛け売りは、日常的にもよく使われています。
その事例として代表的なのが請求書払いやクレジットカード払いです。
仕事で行われる請求書払い(卸売り)
請求書払いは、企業間取引でよく行われる掛け売りの方法です。
もし企業に勤めていたら、自然と利用している人も多いでしょう。
自社と取引先であらかじめ期日を決めておき、取り決めた期日に購入者である取引先宛てに請求書を発行しその後、代金を支払ってもらう流れです。
「月末締め翌月末払い」のように1ヵ月ごとに請求し、代金は自社の銀行口座に振り込んでもらう形で支払われるのが一般的です。
クレジットカード払い
日常的に用いられるクレジットカード払いも、掛け売りの事例の1つです。
クレジットカード払いは、クレジットカード会社が代金を一時的に立て替え、利用者が月1回決められた期日などにクレジットカード会社に利用代金をまとめて支払う仕組みです。
掛け売りはBtoBでの後払いの仕組みと説明しましたが、クレジットカード払いに関してはBtoCで広く活用されています。
BtoBでもクレジットカード払いは行われていますが、クレジットカードには利用限度額が設けられていて大規模な取引に向かないことから、請求書払いほどメジャーではありません。
掛け売りを行う企業側のメリット
では、掛け売りを取り入れることでどのようなメリットがあるのでしょうか。
掛け売りを行う企業の3つのメリットを取り上げます。
支払いに関する業務が効率的になる
まず1つ目のメリットは、業務の効率化が図れることです。
掛け売りをしない場合、取引の度に請求を行い、代金の回収をしなければなりません。
すると当然、取引数に比例して請求業務や代金回収後の処理業務も増えるので、関連する業務にかかる時間や負担が増えます。
その点、掛け売りであれば月に1度など一定期間分の取引をまとめて請求できるので、請求業務も回収にかかる業務もまとめて1回で済みます。
取引ごとではなく、まとまった1回分の請求書の内容を確認すれば良くなるため、請求や回収に関わる業務をスマートにできるでしょう。
取引数が多い会社や取引が頻繁な会社との取引は、掛け売りにしたほうが効率的といえます。
掛け売りで代金を支払う側の企業も請求額をまとめて支払えば良いため、掛け売りを行う側・支払う側、双方にとって業務効率面でメリットがあります。
大口の取引につながりやすい
掛け売りは、請求書記載の支払期日までに代金を支払えば良い仕組みです。
つまり取引時は手元に代金がなくても支払い時までに用意すれば、取引ができるということです。
そのため、設備投資時期などで取引時に資金が十分にない取引先、または将来的には支払えるものの手元資金の用意がない取引先なども、取引しやすくなるというメリットがあります。
また、掛け売りは融通できる範囲で取引額を拡大できることから、大口の取引にもつながりやすいでしょう。
取引の機会を逃さずに済む
掛け売りは、日本では商習慣として根付いていており、企業間取引では現金取引よりも掛け売りによる取引が行われることが多いです。
そのため掛け売りを取り入れれば、掛け売りを希望する企業とも取引できるようになり、ビジネスチャンスが広がります。
逆の言い方をすると、掛け売りを導入しないと販売機会を逃してしまう可能性もあるでしょう。
最近では、BtoB ECや卸売ECなど、ネットで行う企業間の取引も増えているので、そのような取引の機会を逃さないためにも、掛け売りを行うメリットはあるでしょう。
掛け売りを行う企業側のデメリット
掛け売りは、主に企業間では一般的な取引で便利な面もありますが、デメリットもあります。
主なデメリットをご紹介します。
代金が支払われないこともある(貸し倒れ)
掛け売りで真っ先に浮かぶデメリットは、提供したサービスや商品の代金が支払われないことでしょう。
これを貸し倒れといい、掛け売りによる売上債権などが回収できなくなることです。
取引先が倒産したり、経営が悪化したりすることで貸し倒れが発生しやすくなります。
貸し倒れとなった場合、回収を予定した分が赤字となってしまうため、取引金額が大きいとそれだけ自社の経営にも影響を及ぼしてしまうでしょう。
また、貸し倒れまでいかなくても、請求書の支払期日までに代金が支払われず、支払いが遅延するリスクも想定しなければなりません。
支払期日を過ぎて入金されない場合は、取引先への支払い催促の業務が発生します。
1回でスムーズに支払われればよいのですが、一向に回収ができない場合、催促・督促などの業務負担が増えるため、通常の業務にも支障が出る可能性があります。
与信管理を行わなければならない
与信管理とは、取引先の信用度を調査して管理することです。
クレジットカードを作る際には、契約者情報を元にクレジットカード会社から与信枠(利用可能限度額)を決められます。
同様に、掛け売りをして良い相手かどうかを、掛け売りを行う企業側で独自に調査し管理する必要があります。
与信管理を行わずにどの取引先に対しても掛け売りを認めてしまうと、貸し倒れや支払遅延などのリスクが起こりやすくなってしまいます。
与信管理の業務には、与信基準の設定や社内商品プロセスの確立、取引先の分析などがあり、取引先ごとに与信枠を決めて取引を進めていきます。
このように、与信管理は掛け売りをする企業にとって必要な業務ではありますが、与信管理業務の負担やコストが発生するといったデメリットもあります。
掛け売りの不安を解消する方法・注意点
掛け売りにはデメリットもありますが、企業間の取引を円滑にし、大口取引につながることを考えると、掛け売りを行うほうがメリットは大きいです。
そこで掛け売りによるデメリットはどのようにして軽減できるのか、不安を解消するための方法や注意点を3つご紹介します。
ファクタリングを利用して売掛を現金化する
掛け売りでの貸し倒れリスクを軽減する方法として、ファクタリングの活用があります。
ファクタリングとは手数料を支払えば、早く現金化したい企業から売掛債権を買い取ってくれるサービスです。
掛け売り分を買い取る買取型だけではなく、保証金を支払うことで、もし取引先から売掛金が回収できなかった場合に、ファクタリング企業が保証額を代わりに支払ってくれる保証型もあります。
企業間の債権回収で広く利用されているのが、売掛金を支払期日前に現金化できる買取型のファクタリングです。
買取型では、ファクタリング会社に債権を買い取ってもらうため、その後に回収不能になっても確実に掛け売り分の回収ができます。
支払期日よりも前に現金化できるので、資金繰りの改善にもつながります。
ですが、すべての掛け売り取引でファクタリングが利用できるわけではありません。
ファクタリング会社から取引先(請求先)の審査が行われ、審査結果によってはファクタリングを断られることもあるので、注意しましょう。
請求代行サービスを利用する
掛け売りを行うことにより増加する与信管理などの業務負担の軽減を軽減したいなら、請求に関する業務を代行してくれる請求代行サービスを利用する方法もあります。
サービスによって代行してもらえる範囲は異なりますが、請求書の作成、与信管理、代金回収、督促業務などを代行してもらえます。
取引数など状況によっては社内で業務を行ったほうがコストを抑えられる場合もあるので、本当に必要なサービスを選択して利用するのが良いでしょう。
初めは少額から取引を始める
ファクタリングや請求代行サービスを利用できなそうな場合などは、掛け売りの額を調整するのも方法の1つです。
初回の取引相手で信頼関係が構築できていないのに、いきなり高額の取引から始めるのは貸し倒れした際のリスクが大きいです。
そのため、まずは少額から取引を始めてみると良いでしょう。
取引を重ねて、お互いの信頼関係が築けていったら、金額の高い大口取引に進むことをおすすめします。
まとめ
掛け売りは、企業間取引においては商習慣上一般的に行われている取引です。
掛け売りを行う企業にとっては、業務効率化になる、大口の取引につながりやすいなどのメリットがあります。
ただし、貸し倒れや支払期日までに支払われないなどのリスクもありますので、リスクをうまく回避できる方法を取り入れながら掛け売りを行っていきましょう。
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