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醤油を使い分けると、食はもっと楽しくなる。波佐見焼の三口醤油皿を提案する「醤3」プロジェクトの商品開発物語

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
飲食店や家庭で使われる醤油皿を三口にすることで、自然と醤油の使い分けが楽しめる、料理をもっとおいしく味わえる。三口醤油皿を通して「醤油の使い分け」を提案するプロジェクトです。今回は、プロジェクトメンバーである「職人醤油」の高橋 万太郎さんと「aiyu(アイユー)」の小柳 勇司さんに、お2人の出会いや三口醤油皿の開発について伺いました。

「醤3(ショウスリー)」とは?

カラーミーショップをご利用いただいている「職人醤油」の高橋さんと「aiyu」の小柳さんが新しい取り組みを進めていると伺いました。一体、何が始まったのでしょうか?

高橋さん:僕が醤油皿を作りたくて、小柳さんにお声がけをしました。

日本で生活していると醤油を口にする機会はかなり多いですが、醤油に興味関心をもっている方というのは少ないですよね。以前から言葉でどんなに醤油の魅力を伝えても、興味のない人には届かないなと感じていました。

一方で、職人醤油のお客さまからは「醤油ってこんなに違うんだ!」という感想をよくいただきます。お店には100アイテム以上の醤油があるので、それぞれの違いがわかりやすいんですね。それなら、日常に醤油を使い分けるシチュエーションをつくれば、より多くの人に醤油の魅力が広がるのではないかと思ったんです。
そこで、飲食店で醤油のイメージを一気に変える経験が提供できないだろうかと考えました。

「職人醤油」 代表の高橋 万太郎さん

食のブームや文化は飲食店から始まる事が多いですよね。例えば、ウイスキーは昔とイメージがずいぶん変わりました。飲食店のメニューにハイボールを入れてもらって、CMに女優さんを起用してイメージを一気に変えることで、若い方も「ちょっと飲んでみようかな」となります。同じように、飲食店でお刺身を注文したら、3種類の醤油が出てきて使い比べられたらおもしろそうだなと。そういったことができる三口の醤油皿が作りたくて立ち上げたのが「醤3」です。

きっかけはカラーミーショップ大賞

小柳さんにお声がけされたのはなぜですか?

高橋さん:ふと、江戸時代は醤油の輸出に波佐見焼の容器が使われていたことを思い出したんです。
そういえば、カラーミーショップ大賞2019の授賞式で隣の席だった小柳さんも波佐見焼を作られていたなと思って、「そちらに伺ってもいいですか?」と連絡をしました。

カラーミーショップ大賞2019でのお2人

きっかけはカラーミーショップ大賞だったんですね! 小柳さんは連絡を受けてどうでしたか?

小柳さん:授賞式のことは私も印象に残っていて、すぐに「あの方だ!」と思い浮かびました。

偶然、うちも醤油皿として使える「重宝皿」という商品を作っていましたので、機能性や収納性など、弊社の商品開発の強みが活かせるのではないか思いました。
また、最近はメールや電話でのやり取りが多いなかで、直接波佐見に来ていただいたことも大きかったですね。

私も先ほど高橋さんがおっしゃった、醤油について深く考えたことのない人間でしたが、醤油を使い分けてみると楽しくて、今ではすっかりその術中にはまっています(笑)。

「aiyu」 代表の小柳 勇司さん

プロジェクトが具体的に動き出したのはいつですか?

高橋さん:昨年の5月に博報堂の若手メンバーと作った「大好物醤油」という商品のプロジェクトが一段落したので、同じメンバーで動き出しました。
大好物醤油の取り組みをしているときに、二口醤油皿のアイデアはすでにあったんです。

お店では、お客さまから「刺し身に合う醤油はどれ?」と聞かれることが非常に多いのですが、一口に刺し身と言っても、赤身の魚と白身の魚で相性のいい醤油は違います。白ワインと赤ワインで相性のいい食べ物が違うように、醤油も食材によって合う種類が違うんですね。白醤油や薄口醤油は白ワイン系、濃厚な再仕込醤油や溜醤油は赤ワイン系、それに万能系の濃口醤油という3つの括りで説明をすると、お客さまはすんなりと理解してくれます。であれば、醤油皿は三口がいいよね、とアイデアを詰めていきました。

また、コロナの影響というのもあります。昨年はみんな家に引きこもっていましたよね。僕自身、地方の醤油蔵を訪れる生活から群馬県に引きこもる生活になって、やっぱりいろいろと考えるところがありました。醤油皿のプロジェクトは動き出したら絶対におもしろくなる自信があったので、コロナを機に最速で動き出しました。

なるほど、昨年はコロナでライフスタイルがガラッと変わりましたよね。
波佐見に行かれたのはいつごろですか?

高橋さん:最初に行ったのは2020年の2月ですね。

かなり早い段階で行かれていたんですね。

高橋さん:醤油蔵を周るときも現地の雰囲気や職人さんとの相性をとても大事にしているので、僕のなかで現地に行くのは当たり前のことでした。

小柳さんは高橋さんの行動力にやられた感じでしょうか?

高橋さん:そんなことはないですよ(笑)。

小柳さん:いやいや、それは一理あります。
弊社はOEMも受けていますが、ものを作るときは現場に足を運んでいただくのが一番なんです。現場を見て話を進めないと、いろいろな壁が出て速度が遅くなったり、全然違う方向にいったりということがあるので。そういう意味でも、波佐見に来て相談していただけたのは大きかったです。

高橋さん
そういえば、波佐見に着いたら小柳さんが「波佐見には3つの【ない】ものがある」っておっしゃったんですよ。

3つの【ない】ものですか?

小柳さん:1つ目は海。長崎県には海のイメージがあると思うのですが、 唯一、波佐見には海がないんです。2つ目は国道が通ってないんです。3つ目は電車がない。駅がないんですよ。

海がなくて国道がなくて駅もない、陸の孤島みたいなところなので(笑)。よく来ていただいたなと。

ええっ、それは意外でした。みなさん、どうやって移動されてるんですか?

小柳さん:高速道路の波佐見有田インターチェンジがあるので、車やバスです。

高橋さん:醤油蔵を周る感覚で行ったら「よく来ましたね!」って言っていただけました(笑)。

そのときに波佐見の街をぷらぷらと歩いてみたら、すごくよかったんですよ。

波佐見の町並み

小柳さんとも1時間くらいお話してしっくりきたので、「これはもう波佐見焼で決定だな! 」と。博報堂のメンバーに波佐見で作りたいことを伝えて、プロダクトデザイナーさんの選定に入りました。

試作は30回以上

そうしてデザイナーさんからあがってきた三口醤油皿のデザインですが、初めて見たとき、小柳さんはどのような印象をもたれましたか?

小柳さん:作るのが難しそうだな、一筋縄ではいかないだろうなと思いました。でも、そう感じるほどこだわりのあるデザインだったので、形にできたら注目度が高いものになると感じました。

高橋さん、こだわりのポイントを教えていただけますか?

お刺身などに使う一般的な醤油皿は、使い切らずに捨てる醤油の量が多いですよね。三口醤油皿は醤油を最小の量で使い切れるように底の部分が曲線になっていて、少量でもお刺身などにしっかりつけられます。
また、曲線は2段階になっていて、縁の部分で余分な醤油を切ることもできます。
縁に近い部分の醤油は色が鮮やかに見えるようになっていて、色の違いを楽しむことができるのもポイントです。

確かに、お刺身を食べるときの醤油って残りがちですよね。小柳さんが一筋縄ではいかないだろうとおっしゃっていた通り、形にするのは大変だったのではないでしょうか?

大きさを決めるところから何度も試作をして、実際に使って形を突き詰めていきました。
それでも、実際に窯元で焼いてみると、設計通りに焼きあがらなくて、今度は焼かれる過程でどのような変化が加わるかを考えながらデザインを微調整しました。それを繰り返して、トータルで30回以上の試作を経ていると思います。

分業制で作られる波佐見焼の生産工程

デザインができたら、次はいよいよ波佐見での生産ですね。

高橋さん:波佐見焼はきれいな分業制で作られているので、窯元や型屋さん、生地屋さんなど、産地に精通していてコーディネートができる小柳さんのような方を探すのがとても難しいんです。カラーミーショップ大賞がなかったら、苦労しただろうなと思います。

そう言っていただけると私たちも嬉しいです。分業制というのは具体的にどのようなものですか?

小柳さん:全国に焼き物の産地はたくさんありますが、分業制の産地は肥前地区といって、有田、伊万里、佐世保の三川内と波佐見だけですね。

波佐見焼は磁器といって陶石からできています。もともと波佐見で陶石が採れたから始まったわけですが、今は採れないので熊本県天草市の天草陶石を使っています。天草陶石は磁器のなかでもっとも良質だと言われているクオリティの高い陶石です。
採石した陶石は粉砕して佐賀県塩田町の陶土屋さんで土にします。ちなみに、この土は有田焼や伊万里焼にも使われているんです。陶土屋さんは塩田町にある6軒ほどが全部で、この6軒がなくなったら土が作れなくなるのが現状です。
できあがった陶土は波佐見の生地屋さんにいきます。

波佐見ではデザインを元に型屋さんが型を作って、その型から生地屋さんが生地を量産します。

型を何段にも重ねて、陶土を流し込む

量産した生の状態の生地を窯元さんに持っていき、一度、800度ぐらいで素焼きをすることで生地が焼き締まります。

窯元さんの様子

下絵を入れたりスタンプで柄をつけたりという細工はこの段階でします。その上に釉薬をかけて、本窯に入れたら完成です。

その他、できあがったものに転写紙を貼って焼き上げる転写屋さんや、メーカーやブランドの名判を入れるはんこを彫る職人さんもいます。弊社は完成品を集荷して、いろいろなところに卸す商社の仕事をしています。

1つの器に本当に多くの方が携わっているんですね。

型屋さんからの「これはいいよ。絶対、売れる」

お話を伺って、型作りが重要な工程の一つだと感じました。
型屋さんはどのように決めるんですか?

小柳さん:波佐見焼では作りたい商品の形状やデザインによって、適切な人にお願いします。今回は醤油皿ということで、先ほどお話した弊社の重宝皿をお願いした型師の岩永 喜久美さんにお願いしました。
もう一つ考慮しないといけないのは、型屋さんと窯元さんの関係性です。この窯元さんとは取引しているけど、この窯元さんとは取引してないということがあるんです。お願いしたい型屋さんと窯元さんが取引していないと、引き受けていただけないことがあります。ですので、まず型屋さんを決めて、予定している生産量と納期のキャパシティから窯元さんを選定しました。

高橋さん:こういったことは、産地にいないとわからないことなんですよね。

なるほど、なるほど。

小柳さん:岩永さんは探究心が強い方なので、普通なら妥協するようなところもしっかり時間をかけて、細かいところまでこだわり抜いてくれるんです。

最初に3Dプリンターで出力したプロトタイプを持っていったときに、ぱっと形を見て「これはいいよ。絶対、売れる」と言われました。そういった気持ちが入ると徹底的にやってくれる方なので、試作も通常は1カ月ほどかかるところを、ありえない早さで出してくれました。

▼こちらのこちらの動画で岩永さんのお話がご覧いただけます▼

高橋さん:本当に職人肌の方で、通常だと小柳さんが発注した人を紹介しても一言、二言でコミュニケーションが終わっちゃうそうなんですが、今回は全然違って。
期待していただけているのかなと感じています。

今後の展望について

高橋さん:今は何度も試作を繰り返しています。小柳さんもかなり動いてくれて、大元の陶土の質から検討してくれています。とにかく、まだ完成していません!

小柳さん:長辺の側面ををまっすぐ取るということが、いかに難しいのかを実感しています(笑)。いろいろなところに足を運んでみて、こういう形状で側面を取れているものはないかをかなり見たんですけど、やっぱりないんですよね。それぐらい難しい挑戦をしています。

かなりのご苦労が伝わってきます。プロジェクトの今後の展望を教えていただけますか?

高橋さん:今年は三口醤油皿ができあがるので、来年以降は醤油を使い分ける文化を広めていきたいと思っています。
職人醤油だけで広めようとしても影響力は小さいので、大手メーカーさんや小さい蔵元さんを含めた全国の醤油メーカーさんにご協力いただいて、各地元の飲食店さんに「この醤油皿で醤油の使い分けをしませんか?」と提案していただく形にしたいと考えています。

あとは、三口醤油皿を全国のインテリアショップや食器屋さん、雑貨屋さんで取り扱っていただきたくて、その部分は小柳さんにお任せしたいです。

小柳さん:波佐見焼と言えば、日用食器に特化したものですので、食器屋さん、雑貨屋さんにはもちろん卸していきたいですし、そこから派生して、既存の卸先とは異なるところにも出会える商品だと思っています。
シリーズ化して別の形状を作ることができたら、より楽しくなるのかなと思います。

最後に、醤3には高橋さんを中心としてさまざまな人が携わっていますが、ものづくりで気をつけていることはありますか?

高橋さん:「僕は口を出さない」ということをテーマにしています。
ものづくりにおいて人の意見を取り入れることは大切でもあるのですが、いろいろな意見を聞きすぎると中途半端でつまらないものになるということも感じるんです。僕もものづくりが好きなので、ああしたい、こうしたいと言いたくなる部分をぐっと抑える。デザイナーさんにお願いして波佐見で作るということは、デザイナーさんや波佐見にいらっしゃるプロフェッショナルの方々に託すのが正解だと思ってお任せしています。

そんな高橋さんだからこそ、ブレない商品ができあがるんですね。10月の完成が楽しみです!

クラウドファンディングがスタートしました!

年末の一般販売に先駆けて、10月1日(金)「醤油の日」に、クラウドファンディングでサポーターの募集が始まりました。
全国100社以上の醤油メーカーが参加している醤3プロジェクト、ぜひご覧ください。

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