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日本の園芸文化を守りたい。オリジナル盆栽ブランド「石木花」の小さな器に込めた大きな想い

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
自然の強さや美しさを表現した手のひらサイズの盆栽ブランド「石木花」。すべて手仕事の一点物という作品へのこだわりはネットショップにも投影され、「カラーミーショップ大賞2019」ではベストデザイン賞を受賞されました。今回は、石木花のなりたちやブランディング、ネットショップ運営について伺います。

小学4年生で盆栽! 石木花が生まれるまで

石木花という会社ができた経緯を教えてください。

取締役の後藤卓也さんにお話を伺います

創業者は僕の父になります。もともと父の実家は寺社仏閣の宮建築業を営んでいまして、そこで働きながらいつか独立したいと考えていたようです。
後にいくつかの事業を立ち上げたんですけど、どれも本腰を入れるには至らなくて。何か本気になれるものはないかと模索したとき、自然の素晴らしさを伝える仕事がしたいという想いを抱いたそうです。父は幼少期から本当に自然や植物が好きで、おばあちゃんに教えてもらって小学3、4年生のころから盆栽を始めたらしいです。

小4で盆栽ですか!

なかなかすごいですよね。今も自宅にその何十年物の盆栽があるんです。
このような植物好きのバックボーンと宮建築の伝統文化がミックスされて、オリジナル盆栽の事業を立ち上げたというのが経緯になります。

「石木花」というお名前の由来は何ですか?

石と木と花、すべて自然の中にあるもので、自然そのものを表現しています。

三文字の中に壮大な自然が込められた、商品にぴったりのお名前ですね。
創業当初から植物だけでなく鉢も自社で作られていたんですか?

最初はいろいろな窯元さんに、共同開発という形で作っていただいてました。
ですが、共同で開発したとしてもその窯元さんの色になってしまったり、イメージとちょっと違うものもあったりしたので、途中から窯を導入して自分たちで作り始めました。まったくの素人からのスタートで、一から勉強して窯元さんからも教えていただいて、思うような色、デザインが形になるまでに7、8年かかりました。

かなりの年月を費やして今の石木花が生まれたんですね。

 

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運命を変えたターニングポイント

創業当初から卸売販売を主軸にされていたんですか?

当時はどちらかというとイベント型、企画型の販売がメインでした。例えば、カタログ販売だとか企画のノベルティで使っていただいたりだとか。そういったところがすごく多かった中で、会社にとって大きなターニングポイントがありました。
創業から数年が経ったある日、明光商会の社長で世界一の盆栽コレクターである高木禮二さんという方から電話がかかってきたんです。高木さんはコレクションだけで時価総額何十億円という盆栽を持っていらっしゃった方です。

なんと!

だいぶ前に亡くなられたんですが、ご存命だったときにうちの商品を見つけていただいて。「きみ、今から渋谷に来れるかい?」と言われたそうです。

急にお呼びがかかったんですね。

そうなんです。有名な方なので、父はこれも何かの縁だろうと向かったそうです。
お会いしたら最初に「あなたたちの作っているものは、私の持っている樹齢何百年のものに匹敵する価値があるんだよ」と褒めていただいて。「始まりではあるんだけど、これが到達点でもあるんだ」というような言い方をしていただいたそうです。
さらに「あなたたちは行商がしたいのか、それともビジネスがしたいのか」と聞かれまして、「できればビジネスをしていきたい」と答えたところから、レクチャーを受けて仕事が変わっていきました。

運命の出会いだったんですね。

そうですね。独自性をもたないといけないとか、安定した方法で販売しないといけないとか、ビジネスの視点をもって事業を行うようになりました。

高木さんが亡くなるまでお付き合いは続いたんですか?

そうです。ただ、出会ってから1年経たないうちに亡くなってしまわれたんです。
父は「僕の最後の弟子だから」と言っていただいて、普通なら繋がれないような盆栽園の何代目というような方とも一緒にお仕事をしてきました。

もしも会いに行かなかったら、会社の形が変わっていた可能性も…。

あるかもしれないですね。独自性という面でブランディングを大切にしてきたんですけども、自分たちで鉢を作り始めて思うような形になってから、世の中で認めていただくことが増えたとすごく感じます。

納得しているものを販売する強さのようなものが、買われる方にも伝わるんですかね。

そうですね。鉢も作っているというとよく驚かれるんですけど、植物だけでも鉢だけでもなく、すべてを自分たちで作ることにはこだわりたいです。

実は私も作陶の経験がありまして、一番思い通りにならないのが陶器だと感じています。素焼きでできあがってくるのって形だけで、その後に釉薬をかけて焼くと想像と違ったりするじゃないですか。

本当に違いますよね。

同じものは2つ作れないですし、自分で納得行くものが作れるようになるっていうのも時間がかかりますよね。

そうですよね。

植物も人間の思い通りには作れないものですし、コントロールができないもの同士をミックスして作品として生み続けてるっていうのはすごいことだと感じます。

本当に、どちらも生き物なんですよね。釉薬はおっしゃるように火の加減やガスの圧の調整で変わるので奥が深いです。土も湿度でぜんぜん違ったり、粘土の質も毎回変わりします。極めるにはまだまだ時間がかかると思うんですけど、そういった作家性のある部分がうちの特徴なのかなと。
また一方で、ある程度の規模感をもって生産できるということも大切にしています。作家的な部分とメーカー的な要素を併せもっていることが、安定供給という意味でも強みだと考えています。

すべての始まりは一粒の種から

コロナウイルスの影響で休業した卸先もあったかと思いますが、そちらで販売していた石木花はどうしていますか?

いったん全部引き上げさせていただいて、うちの園内で管理しています。少しづつ、回復してきた店舗にお送りしている状況です。

本当に優しい商品ですよね。園内ではどれくらいの植物が栽培されているんですか?

ポットの苗を含めて常時約15万鉢を栽培管理しています。種類は販売しているもので約100種、保有している樹種はその3倍ほどあり、年々増えています。

育成エリアの一部

すごいです。15万鉢もあると圧巻ですよね。中でもイチオシの品種はありますか?

石木花では特に「和もの」と呼ばれる日本の原種や園芸品種を多く取り扱っています。和ものは園芸業界の中でも特に消費量・生産量ともに減少している状況なんです。さらに、和ものへの知識や技術のある生産者の高齢化、後継者不足問題も追い打ちをかけ、樹種自体が急速に失われつつあります。

そんなに生産量が減っているなんて知りませんでした。

今売れるものを作るというのは必然ですから、仕方のないことではありますが、人気のあるものは残り、栽培効率の悪いものは市場から消える危機に瀕していると感じています。そのため、石木花では数年前から「種の保存」という観点に重きを置くようになりました。

木の栽培というのはどのような状態からスタートするんですか?

種や挿し木から栽培しています。なので、商品化まで3~5年ほどかかり、長いものでは10年選手もいます。立派な木も、すべての始まりは一粒の種です。

挿し木後、3年経過した苗

剪定したり植え替えしたりして、少しずつ樹形をつくって育てます。無理に姿を整えるのではなく、その木の個性を活かせるように。よく観察し、植物の声を聞けるよう意識しています。基本的に「ありのままの自然」が最も美しいと思っています。

ありのままを活かす、簡単なようで難しいですよね。

実際、木を育てる中で、葉っぱが日焼けしたり、虫に食べられたり、良いことばかりではなく色々なことがあります。お客さまからもそうした相談を受ける機会が多いのですが、最善の対処をお伝えするとともに、「完全を求めすぎずに今の自然の姿を楽しむというのも盆栽の心得として、ひとつ大切なことかもしれません」とお伝えしています。多少のあばたもえくぼというニュアンスで。そうすると、安心される方が多いです。

実験的に栽培している樹種。これも市場からは消えつつある品種だそう

はじめて育てる木の性格は3年くらいで大体分かりますが、しっかり分かるまでは5年ほどかかります。長く付き合ううちに自然といろいろなタイミングやクセが分かるようになります。

ネットショップ運営、統一された世界観へのこだわり

ネットショップを始めたきっかけを教えてください。

もともとは卸売販売をやってたんですけど、取扱店のない地域のお客さまから問い合わせがくるようになったんです。そういった声を踏まえて、遠方の方にも販売できる体制を作ろうと始めたのがきっかけです。

それだけ商品が魅力的だということですよね。
数あるネットショップ作成サービスからカラーミーショップをお選びいただいた理由は何ですか?

ウェブサイトを立ち上げる際、制作会社さんにおすすめいただいたというのが大きなところです。いくつか候補はありましたが、ランニングコストが他よりも良かったのと、単価的には安いけど将来本腰を入れて取り組むことになっても機能が豊富で大丈夫そうだなという印象を受けて使わせていただいてます。

ありがとうございます。オンラインモールでの販売もお考えですか?

オンラインモールのお話をいただいたこともあるんですけど、どちらかというと利益だけを求めるより、自分たちの想いやこだわりをしっかり伝えられる形で販売したいんです。植物が商品になるまでには5年、10年、それ以上にかかる場合もあります。そういったものをより良い形でお客さまにお届けできる販売方法を考えると、オンラインモールというのはちょっと違うのかなと。利益を追求するより、自分たちの想いをちゃんと受け取ってもらえることが大切だと考えています。

今回、コロナウイルスの影響を受けて、ネットショップの方は変化がありましたか?

自宅で過ごす方がたくさんいらっしゃるということで、アクセス数自体が増えましたし、Instagramに対する反響もぐんと増えました。売上も実店舗の方はほぼ0だったんですけど、それをカバーできるくらい出ています。

おうち時間を彩ってくれる商品ならではですね。植物と陶器ってどちらもネットショップで販売するにはハードルが高いと感じるのですが、発送で工夫されていることはありますか?

正直、最初はしっかり梱包したつもりでも届いたら割れていたということが何件かありました。普通の箱で送ると中身がわからないのでひっくり返されちゃたりするんです。せっかく買っていただいたのにそういうことが起きるのは申し訳なくて、専用のギフトボックスを開発しました。

縦長の箱に取っ手をつけて確実に天地がわかるようにしています。また、植物が入っているとわかることがすごく大事なので、中身が少し見えるように穴を開けました。あとは中の梱包もその都度やり方を工夫することで、ここ一年間くらい事故は起きていないです。

この方法行き着くまでも大変だったと思いますが、ネットショップを始めた中で一番苦労されたことってなんでしょうか。

ありがたいことに注文がドンと入ることがあると、オペレーションがパンクしてお届け日に間に合わないことが何度もありました。卸売販売が本業としてある中にECが新しく入ってきたので、それが一番大変でした。
そういった経験を踏まえて、植物を管理している部門、作陶部門、あとはショップなどの運営部門のだいたい3つに分かれてはいますが、いざというときはまったくEC業務に関わっていないスタッフも応援に入ってこれるよう、フレキシブルに持ち場を回しながら担当している感じです。

現在は9名体制

今、抱えている課題はありますか?

やはりオペレーション部分の最適化、効率化が一番の課題です。物の置き方1つでも作業スピードは変わるので、そういった細かい改善を日々繰り返しています。すごい話なんですが、最初のころはお客さま全員に便箋で手書きのメッセージを書いていました。手書きの文章を送ると、今度はお客さまから手紙が届いたりして、それがすごく嬉しかったんです。しかし、注文が何十件も入るとかなり大変でやめてしまいました。今はメッセージカードを作って添えています。

お客さまからのお手紙と添えているメッセージカード

カードが1つ入っているだけでもぜんぜん違いますよね。ネットショップで買った物の向こうにちゃんと人がいて、自分で買ったんですけど自分にプレゼントが届いたような感覚になるというか。

そうですよね。そういった温かみはなんとか残したくて。

ただ便箋は…今までいろんな方とお話しましたが、聞いたことのない分量です(笑)

箱を開けたときに感動していただきたいんですよね。安全に梱包するだけじゃなくて、開けた瞬間に植物がきれいに見えるようにとか、メッセージカードや物の入れ方も意識して梱包しています。

我が子じゃないですけど、一つ一つ大切に育てたものをお届けしているんですもんね。

そうですね、何年も手をかけてきたものがお客さまの元に行く、そこでまたずっと生き続けるものなので、そういった想いは込もっているかなと思います。

では、ネットショップを運営する中で、いちばん嬉しかったことは何ですか?

弊社のお客さまはリピーターの方がすごく多いんです。ヘビーなリピーターさんもたくさんいらっしゃって、たまにお手紙やお写真をいただくんですけど、20〜30個の石木花が自宅にざーっと並んでるお写真を送っていただいたことがあって。あんなにたくさん飾っていただいてるんだってびっくりしたのと、植物がすごく生き生きしてたので大切にしていただいてるんだなあと感じて嬉しかったですね。
逆に、ご新規のお客さまからお手紙やメールをいただくこともあって、「今まで植物を育てたことがなかったけど、石木花さんの商品に一目惚れして初めて育て始めました」というメッセージをいただくのも嬉しいです。僕たちが入り口になって、新しい価値観を受け取ってくれたんだなと。

送り先で生き続けて、何年後かにこうなりましたっていうやり取りが生まれる商品って素敵です。

消費する物とはまた違いますよね。

昨年はカラーミーショップ大賞でデザイン賞を受賞されましたが、受賞を聞いたときはどんなお気持ちでしたか?

サイトのデザインから商品のひとつひとつに至るまで世界観にこだわって制作してきたので、そこをちゃんと認めていただけた気がして嬉しかったです。自信もつきました。正直な話、ECにはそこまで本腰でなかったんですけども、力を入れていこうと考えるきっかけにもなりました。

ウェブサイトは制作会社さんに依頼されたということですが、写真はどなたが撮影しているんですか?

立ち上げ時はカメラマンさんに入っていただいたんですけど、以降の撮影はおもに僕がしています。

本当に格好いい写真です。撮影はどこかで学ばれたんでしょうか?

ありがとうございます。やりながら覚えていったような感じです。撮っていると、この木はこんなふうにすると格好いいかなとか、その木のチャームポイントや魅力的なところがどんどん見えてくるようになって、その辺りから少し写真は上手くなったかなと思います。

被写体を好きな人が撮っているって伝わる写真ですよね。何で撮られてますか?

一眼レフです。最初はスマホを使っていたんですけど、なかなか表現しきれなくて。実物のほうが格好いいのになっていう写真ばかりだったので、一眼レフで勉強しながら撮影しています。

商品写真はもちろん、ネットショップ自体もすごくデザイン性が高いですが、コンセプトはありますか?

私たちの商品のは植物や自然をミニマルな形でお客さまにお届けするものですので、鉢もネットショップもできるだけ植物が引き立つよう、無駄を排したデザインにしています。ロゴもすごくシンプルに、だけど温かみも感じられるようこだわりました。

ウェブサイトの文章にも、温かみのある優しい表現が使われているように感じます。

ありがとうございます。それも僕が書いています。

クスクスっと笑えて安心して買っていいんだなと思わせてくれる文章で、私はすごく好きです。言葉選びで大切にしていることってありますか?

石木花は大きく捉えると「盆栽」です。盆栽というと、一方では堅苦しいとか難しそうというネガティブなイメージをもたれるかもしれません。そういった部分をポジティブに変換したい、初めて見る人や知らない人にも自然体で楽しんで欲しいという気持ちで書いています。
盆栽をやってる方に見せると「ここは切らなきゃだめだよ」とか「だめな枝なんだよ」と言われるような、植物がちょっと伸びすぎちゃったり不格好になっているところも愛嬌だと思うんですよね。いろんな方がいらっしゃるとは思うんですけど、そういうことを決めつけずに自然のまま楽しんで欲しいという想いが文章にも出ているのかなと思いますね。

盆栽って本来そういうきまりのないものなんですか?

盆栽という観点で捉えると、もともとはきまりはなかったんです。盆栽の起こりはそれこそ3千年前とかの話になってくるんですけど、中国の壁画にお盆の上に植物をのせた人が描かれてるんですね。それは単純に野山にあるものをお盆にのせて景色を楽しむ「盆景」というものなんですが、鎌倉時代に盆栽という形で日本に入ってきて、禅の文化などと融合して日本独自の盆栽へと進化していったらしいです。原点まで遡れば、野山のものをぽんともってきて、そこに植えたものを楽しんでいたんですよね。石木花はどちらかというと原点のプリミティブな価値観に近い気がします。

心のままに楽しんで良いものなんですね。

日本の園芸文化を守り、受け継いでゆく

最後に、今後のネットショップに期待していることと、石木花の展望をお伺いしてよろしいでしょうか。

今回、コロナウイルスの影響をすごく受けてメインの卸売販売の売上がガクンと落ちました。卸先の実店舗さんが休業したりショッピングモール自体が閉鎖してしまうことが相次いだ中、ネットショップはリスクヘッジの観点からも非常に大切だと感じました。これからは収益の柱を何本も持つことが大事だと考えているので、ネットショップはその一本の柱を担うという意味でも伸ばしていきたいところです。

これまでは盆栽という日本文化をフラットな視点で見つめ、私たちの解釈で作品を作り、販売してきましたが、それだけではなく脈々と受け継がれてきた日本の園芸文化を守り、受け継いでゆく必要もあると感じています。
石木花は今後そうした役目を担うという意識をもって、活動を続けていきたいと思っています。

植物を取り扱っていく中での覚悟を感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。