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リサーチってどうやるの?ネットショップ運営を成功に導く”リサーチ術”を菅原さんに聞いてみた。

ネットショップ運営において、価格や販促計画など、なにかを決断しなければならないシーンがたくさんあります。そんなビジネス上の判断が必要なときに役立つのがマーケティングリサーチです。データに基づいて判断を下せば、ショップ運営を効率的に進められます。とはいえ、調査方法がたくさんあって、どんなリサーチを実施すればいいかわからないと悩むネットショップオーナー様も多いかもしれません。

そこで今回は、リサーチャーとして活躍している菅原大介さんに、ネットショップ運営に役立つリサーチの種類やコツについてお話を伺いました。今日から始められるリサーチ方法も必見です。

リサーチャー 菅原大介さん
上智大学文学部新聞学科卒業後、株式会社学研を経て、株式会社マクロミルで月間500問以上の定量調査業務に従事。現在は国内通信最大手のグループ企業にて、リサーチ業務を中心に中期経営計画・マーケティング戦略・UXデザインなどを担当。個人でも「リサーチハック」をキーワードに執筆・講演活動を積極的に展開している。noteでは「リサーチハック」と題して、アンケートやインタビュー、Research Opsのノウハウ・トレンドを発信中。著書:『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』『新・箇条書き思考』(ともに明日香出版社)、『ウェブ担当者のためのサイトユーザー図鑑』(マイナビ出版)ほか。
Twitter:@diisuket

菅原さんについて教えてください

本日はよろしくおねがいいたします。まず、菅原さんについておしえていただけますか?


総合ECサイトを運営する会社で、リサーチ業務を中心に中期経営計画やマーケティング戦略、UXデザインなどの企画を担当しています。また個人でもリサーチャーとして、noteやTwitterでの情報発信や本の執筆、メディアへの寄稿、講演会やセミナーに登壇するなど、「リサーチハック」をキーワードにリサーチの魅力やノウハウを普及させるための活動を続けています。

菅原さんがリサーチについて興味を持ったきっかけは?


リサーチに興味を持ったのは大学で統計学を専攻していたからではなく、新卒で入社した出版社の学研からマーケティングリサーチ会社のマクロミルに転職したことがきっかけでした。

もともとトレンド分析が好きなこともあって、大学ではジャーナリズム論の研究に励み、マスメディアをフィールドにエンターテインメントで日本を豊かにする仕事がしたいと志望していました。それが、転職活動を機に調査データを使って事業や社会に貢献できる道があることを知り、より進みたい道が明確になって、マクロミルでリサーチの世界を深く追求していく一歩を踏み出しました。

私が前職のマクロミルに入社した当時は、会社の歴史ではまだ初期の頃に当たる従業員200名くらいの組織でしたが、マーケティングリサーチのリーディングカンパニーとして成長著しい企業で、月間500問を超えるアンケート運用をはじめ定量調査業務を一通り経験できたことは、リサーチャーとしての道を究めるうえで大きな糧になったと思っています。

リサーチはなぜするの?目的や重要性は?

リサーチって「調べる」ってことですよね。そもそもなぜ「調べる」のでしょうか。


リサーチの目的は実施する立場によって変わりますが、どのケースにも共通しているのは、リサーチはビジネスにおける意思決定やサービス、プロダクトの提供価値を定義するときに重要な役割を果たすという点です。ユーザーリサーチや市場調査を実施することで、自分たちのお客様の行動特性やニーズ、世の中のトレンドの傾向がわかり、商品企画のアイディアや施策のヒントを掴めます。

リサーチってどんな種類があるの?おすすめのリサーチ方法は?

なるほど。リサーチは物事を決定する「判断軸」となるのですね。リサーチと一概に言っても様々な種類があるようですが、ネットショップ運営をしている方におすすめのリサーチ方法があれば教えていただきたいです。


ネットショップオーナーさまにおすすめのリサーチはアンケートやインタビューなどの「アスキング型調査」や、POSデータなどを分析する「データ分析調査」、エスノグラフィーと呼ばれる「行動観察調査」が挙げられます。それぞれの特徴やメリットを順番に紹介します。

①アンケート

アンケート調査のなかでも低コストで、比較的手軽に実施できるのがインターネット上でおこなうユーザーアンケートです。会場や郵送などで用紙に記入してもらう方法もありますが、近年はWebアンケートが一般的になっています。調査対象(母集団)は、ネットショップの会員や商品購入者、メルマガ会員など、自社のユーザーとなり、メールやSNSなどでアンケートフォームを送信して回答を集めます。

自社のユーザーから統計的に必要なサンプル数を獲得できない場合は、外部調査会社が抱えるモニター・パネルのなかのカテゴリユーザーにアンケートを実施する方法を取ります。自社で進めるよりも費用はかかりますが、商品・サービスの導入前や、既存の商品でも購入者数が少ない場合などに有効で、カテゴリユーザーの特性から世間一般的なトレンドを知ることができます。

アンケートを実施するメリットは、ユーザーの意識や行動を可視化できることです。ユーザーアンケートと、外部のカテゴリユーザーに対するアンケート、それぞれの結果をうまく組み合わせることで、よりお客様や商品・サービスについての理解を深めることができます。

②インタビュー

インタビューは、商品やサービスに対する意見や感想を調査対象者から直接聞き出す調査手法で、オフラインまたはオンラインでおこないます。コロナ渦以前はオフラインが主流でしたが、今はZOOMなどのコミュニケーションツールを使ってオンラインで実施することが多くなっています。

オフラインでは、4人から最大8人くらいのグループインタビュー(座談会)形式で実施するのが一般的です。それに対してオンラインでは、調査対象者が複数人いると運用が難しくなることもあり、一人のユーザーのインサイトを掘り下げる「デプスインタビュー」という形式でおこなうことが増えてきています。

インタビューのメリットは、ユーザーの購入体験や意見を深掘りすることにより、課題改善のヒントや新商品のアイディアなどを得られることです。事前に「こうしたら課題が解消されるのではないか」「新しい企画につながるのではないか」といった仮説を作っておいて、それを検証する形でインタビューを進めれば、より回答の精度を高めることができます。

③POSデータの分析

POSとは「Points of sales」の略で「商品が販売された時点」の事です。 例えば実店舗でレジで会計した情報はすべてデータとして記録され蓄積されています。それがPOSデータです。

POSデータを分析するメリットは、正確な数値で売上やユーザーの購買行動を把握できることです。とくに「どのくらいの価格で売り出そうか」といった価格戦略を検討するときに役立ちます。また、キャンペーンやクーポン発行などの販促戦略を立てるときにも有効活用できます。

④エスノグラフィー

エスノグラフィーとは、生活スタイルや文化、行動をありのままに見て分析する観察型の調査手法のことで、具体的には店頭調査などが挙げられます。

店頭調査のメリットは、季節商材の日別の動向を把握しやすい点です。リアル店舗では、基本的に店頭に旬の商品や今売り出したい商品を並べますが、消費者の消費行動は気温や天候の影響を受けやすいので、「雨が降ってきたから店頭に傘を出す」といった具合で、迅速に商材を入れ替えることがあると思います。

そういった日々の動きを日報につけておくことで、あとから日報を振り返って、「この時期にこういう商品が売れていたのか。それなら今年はこの時期から仕掛けていけばいいよね」という判断につながり、日単位でのMDを組みやすくなります。このデータはネットショップにも活かせると思います。
実店舗を持っていないネットショップオーナー様でも、日々の売上を見ながら日報などにひとこと書いておけば、翌年度の商戦に役立てられるはずです。

菅原さん直伝!アンケート・インタビューの具体的な流れやポイント

リサーチにはたくさんの種類があるのですね。ネットショップオーナーさんがリサーチをするとして、例えば実店舗が無い方でもアンケートやインタビューは実施が可能だと思いますが、具体的にどのように進めるのが良いでしょうか。

ネットショップオーナーさんがアンケートやインタビューでリサーチを実施する場合は、大きく「ユーザー行動」と「商品・施策」に分けて調査をします。それぞれで方法が異なるので、おもなポイントを紹介していきます。インタビューの場合も似たような考え方で進められるため、ここではアンケートのケースをメインにお話を進めていきます。

①【ユーザー行動の調査】流入~回遊~商品~購入~問合せの5つのフェーズに分けてみよう

ユーザー行動の調査は、基本的に商品購入者やショップ会員、メルマガ会員などをパネルとして、インターネット上でアンケートフォームに回答してもらう方法で実施します。アンケートを設計する際は、大きく5つのフェーズ(トピックス)に分けて質問項目を作るのがおすすめです。一つのアンケートですべてのトピックスを尋ねてカスタマージャーニーを作ることもできますし、一つのトピックスを集中的に掘り下げて企画や改善に役立てる方法もあります。いずれの場合も質問数は20問くらいを上限に目安にするとよいでしょう。

【トピック1】どこから流入しているのか?サイトの集客について

広告やSEO、アプリによるプッシュ通知、SNSでの情報発信など、自社がおこなっているユーザーとのコミュニケーション施策がどのように効いているか、ユーザーがネットショップにたどり着くまでの流入部分についての質問項目を用意します。

【トピック2】ショップ内での回遊性について

ネットショップに訪れたユーザーが商品を探したくなるような回遊性の高いサイトになっているか、商品購入まできちんと誘導できているかを質問します。また商品購入に至った理由が、商品特集なのか、販促キャンペーンなのか、または別の要素が関係しているのかといったことも質問項目に含めます。

【トピック3】商品の画像、テキスト情報について

実際の商品ページを見せて、商品画像やテキスト情報がユーザーに商品を選びたいと思わせる内容になっているか、ほかの商品と比較したいというユーザーの要望を叶えるものになっているかを質問で探ります。

【トピック4】購入決裁(情報入力・配送)について

個人情報等の入力はしやすいか、決済方法や決済の種類、配送方法はユーザーが満足のいくものになっているかなど、購入決済に向けて問題なく無理なくアクションができているかを質問で確かめます。

【トピック5】アフターフォロー(問い合わせ・FAQ)について

商品やサービスについて不明点がある場合など、ユーザーがショップとコミュニケーションを取りたいときに、しっかり応えられるコンテンツを用意できているかどうかを確認します。

ユーザーの行動を調べる際には、Googleアナリティクスなどでログデータを分析されているショップさんが多いと思いますが、ログ分析でわかるのは離脱率やページ滞在時間などの数値的な事実のみです。アンケートでは、「なぜそういう行動を取ったのか」「なぜそこでページを移ったのか」といった問いを直接ユーザーに投げかけることができ、ユーザーには過去を振り返って、そのときの感情に基づいて回答してもらえます。そうして集めた生の声から、数値には表れないユーザー心理や行動理由を把握できるのがアンケートの強みで、当然ながらインタビューでも同じことがいえます。

さらにWebアンケートでは、ユーザーの画面操作状況を確認することで、「ここで迷っていたな」「何分見ていたな」といった情報を間接的に集められるのもメリットといえるでしょう。

②【商品・施策の調査】MD、キャンペーン・特集・イベントなど、テーマを個別に絞って調査してみよう

商品や施策についての調査は、①のユーザー行動調査とは別に、個別で実施するのをおすすめします。いち商品またはいち施策毎に調査テーマを絞ることで、より掘り下げて質問できるため、実りのある回答を得ることができます。

調査対象、調査方法は①と同じです。質問項目については、自社のMDがどれだけ認識されていて、価値あるものとして理解されているか、どんなMDを組んだらユーザーにマッチするか、どんな販促をしたらより買ってもらえるか、どんな特集やイベントを実施したら喜ばれるかといったことを切り口に設計します。こちらの場合も、トピックは5つで設問は4問ずつ、計20問くらいがおすすめです。

ネットショップでは、商品ラインナップやそれぞれの商品自体の魅力、販促企画などの重要度が極めて高く、これらはユーザーがショップを訪れる理由、商品を購入する理由になり得ます。ユーザーのニーズをアンケートやインタビューでしっかり探ることで、ユーザーに響く戦略的なショップ運営につなげられるでしょう。

上手なリサーチのコツは「目的を明確にし、調査テーマと聞く人をマッチさせ回答の精度を上げること」

アンケートやインタビュー調査を実施する場合、ユーザーにどのようにアプローチしたらいいですか?

ユーザーアンケートを実施する際は、基本的には通常の営業活動・事業活動のなかでショップ会員数やメルマガ登録数、LINE登録数などを増やし、ユーザーとコミュニケーションを取れる環境を作ったうえで対象者にアンケートを発信するという方法がもっとも進めやすいのではないかと思います。

インタビューは、インタビューイーを見つける必要があるので少しハードルが高いと思われるかもしれませんが、比較的協力を得やすいアプローチ方法を2つ紹介しておきます。

ひとつはアンケートを利用して、不特定多数のユーザーのなかから協力者を見つける方法です。アンケートの最後のほうの設問で「このテーマについて詳しくお話をお聞きできる方を探しています。ご協力いただけませんか?」とお伺いを立て、そこで承諾を得られたユーザーに対してアプローチすれば、スムーズに協力者を集められると思います。

もうひとつ、SNSで積極的に情報発信しているショップさんであれば、SNSを通してアプローチする方法も有効です。自社の投稿に好反応を示している人や、商品写真や好意的なコメントを投稿している人など、なにかしらのアクションをしてくれているユーザーに対して、「ぜひその状況についてお話を伺わせていただけませんか?」とDMなどで連絡して協力を仰ぎます。ただしこれは、商品を気に入って購入してくれている人や自社のファンであると明確にわかっている場合に使える方法です。


アンケートやインタビューはどのようなタイミングでおこなうのがベターですか?


おすすめしたいのは、周年のタイミングです。ショップ開設1周年、LINEアカウント開設3周年、商品を取扱い始めて5周年のような、自分たちから切り出しやすい節目のタイミングで、「この機会にぜひアンケートにご協力ください」とお願いすれば、お祝いムードから協力したいと思わせる雰囲気を作り出せます。

その際アンケートだけを送るのではなく、「周年記念キャンペーンのお知らせ」などの販促施策と合わせてユーザーアンケートを実施していることを告知することで、よりコミュニケーションを取りやすくなると思います。

その他にも何かリサーチをする上で大事なポイントやコツがあれば教えてください。


調査テーマをしっかり設定して、アンケートタイトルなどに明示することが大事です。先ほど商品や施策については個別にリサーチしてくださいとお話ししましたが、まさにそれがポイントです。とくにユーザーアンケートでは、「好きで買った商品に関するアンケートなら回答協力したい」という人が結構います。

なので、具体的に「この商品について意見をください」と投げかければ、商品に対する想いを届けたいというユーザーから協力を得られるはずです。
まとめると、調査の目的を明確にして、調査テーマと調査対象者をマッチさせ、回答・回収の精度を高める、というのが上手なリサーチのコツになります。

ネットショップオーナーが今日からできるSNSリサーチ

このインタビューをお読みになった方が、「よし!ぜひリサーチをしてみよう!」と思い立った時に、すぐに実践できるリサーチはありますか?


SNSリサーチはすぐにできます。文字通りTwitter、Instagram、FacebookなどSNS上の投稿内容をカテゴリ単位で調べるというもので、メーカーなどではデスクリサーチの一環で日常的におこなわれています。ネットショップオーナーさまにもぜひこれをおすすめしたいです。


どのように実施するのでしょうか。


SNSリサーチをするときは、例えば「キャンプ飯」のようなハッシュタグをキーワードにして検索します。エゴサーチをされている方も多いかと思いますが、一般的には、自社名や自社の商品名で検索するよりも、カテゴリ名で検索したほうがヒットする情報量が多くなるので、トレンドを掴むのに適しています。
SNSリサーチの大きなメリットは、いわゆる口コミにあたるものを無料で収集できること。コメントや写真、動画などの情報をリアルタイムにチェックできるだけでなく、過去に遡って相当量の情報を見られるのもよい点です。リアルなライフログを参照できる公開ビッグデータはほかにはないので、さっそく今日から、自社の領域に関するカテゴリをリサーチしていただきたいなと思います。

SNSリサーチはスマホが手元にあればすぐに始めることができますね!菅原さん本日はありがとうございました。