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特別な日の口元を華やかに。江戸時代から続く最後の紅屋「伊勢半本店」が100年200年先へ紅を残すためのEC運営とは

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
江戸時代に日本橋で紅屋として創業した総合化粧品メーカー伊勢半の紅事業を担うと共に、紅ミュージアムの運営も行う。カラーミーショップ大賞2020では新人賞を受賞。今回は、同社の紅への想いや魅力、ECの運営方法などについて伊勢半本店 本紅事業部の島田美季さんにお話を伺いました。

江戸時代から続く最後の「紅屋」になった理由

まず、伊勢半本店さまについて教えてください。

私どもの伊勢半本店は今から196年前の1825年、文政8年の江戸時代に日本橋で創業した「紅屋」です。

紅屋というのは紅花の花びらにわずか1%ほど含まれる赤色色素を取り出してお化粧や浮世絵の絵の具、布や食べ物の染料となる「紅」を作って販売するお店のことです。

江戸時代にはたくさんの紅屋があったのですが、明治時代以降安くて色持ちの良い化学染料が外国から入ってきて、需要が置き換わり、紅屋はどんどん減ってしまいました。

そして唯一当社が江戸時代から続く最後の紅屋として残り、今も昔ながらの紅づくりの製法を守っております。

明治時代の伊勢半の店舗。『東京商工博覧絵』国立国会図書館蔵

また紅の製造や販売だけでなく、紅を後世に伝えて残すため、紅づくりの技や日本の化粧の歴史が学べる「紅ミュージアム」という施設を運営しています。

紅はそのミュージアムショップとECサイトの両方で販売しています。

すごい歴史を背負ってらっしゃるんですね。ちなみに、伊勢半さまは「キスミー」シリーズなど一般的な化粧品も販売されていますよね?

キスミーなどプチプラのコスメを展開している株式会社伊勢半は、グループ会社になります。

本紅事業部の島田美季さん

もともと戦前は紅屋が主軸で、スティックタイプの口紅など近代化粧品の取り扱いは多くなかったのですが、戦後は一般的な化粧品に舵を切りました。

現在は、株式会社伊勢半が基幹会社として時代のニーズを敏感にキャッチして、お客さまが今楽しみたい多彩な商品を展開し、株式会社伊勢半本店が祖業の紅を守り、未来に紅を残すための活動を日々行っております。

伊勢半本店さまについて、よくわかりました。詳しくありがとうございます。

「紅」が玉虫色になる理由は謎のまま

では実際の商品である紅について教えてください。珍しい商品ですよね。

はい、皆さん初めはよくわからないと思います。当社で販売している「小町紅」は、乾いているときは玉虫色で、筆に水をつけて溶くと色が赤に変わるんです。

こちらの商品もおちょこの内側が玉虫色に輝いて見えますが、実は深紅の紅を塗って乾燥させたものになります。

乾いていると玉虫色になるなんて不思議ですね。どうして色が変わるんですか?

それが…乾くとなぜ玉虫色になるのかは、今の科学でもはっきり解明ができてないんですよね。

そうなんですか!?すごいミステリアスな商品ですね。

紅の純度が高く粒子が整っていて、初めてこのような輝きが出ますので、そこまで技を突き詰めていった江戸時代の職人の探求心のすごさですよね。

また、紅の特徴として「どんな方にも似合う」ということがあります。
紅は染料なので一般的な口紅のように唇に色を被せる、というよりも、ヴェールをかけるように、唇プラス紅の色として発色してくれるんです。

人によって唇の色はさまざまなので、サーモンピンク系に出る人もいれば、オレンジ系に出る人もいたり10人がつけたら10人が違う色で発色します。

もともとの唇を紅く染めてくれるから、内から湧き上がるような色味で誰にでも似合うんですね。原料の紅花はどこで栽培されているのですか?

山形県です。平安時代には、米と同じように税として納める作物として全国各地で作られていました。

ですが、生育に適した環境である、生産地から需要地への輸送ルートの充実、などの理由で産地が淘汰されていった結果、江戸時代に一大生産地として名を馳せたのが現在の山形県になります。
その後、明治時代に紅花の生産記録が途絶えてしまったのですが、昭和20~30年代ぐらいに復活しました。山形県は現在、紅花の生産量日本一です。

山形県で栽培されている紅花

その後、自社の工場で紅花から色素を採取して商品にされているのですね。

はい。埼玉県の川口市に工場がございまして…工場といっても職人が2人しかいないんですけれども(笑)。そこで職人が粛々と手作りをしています。

お2人だけですか?

そうなんです。
作り方は秘伝のため詳しくは知らないのですが、作るにはいくつもの技が求められます。

例えば、紅を玉虫色に光らせるにはある程度の厚みが必要なのですが、厚く塗りすぎると器から剥がれてしまうので、ちゃんと職人の手でムラがないように均一に塗らなければならないですとか。

いろいろと解明されてないだけに、作るのも至難の業ですね。

実は、塗るための器を見つけるのも一苦労なんです。
器の素材によっては塗っても弾いて剥がれてしまったり、相性が悪いと一晩で玉虫色が真っ赤に変わってしまったりすることもあるので、何でも器にはできないんですよね。

製造は職人の方による手作業

なので新しい商品を考えようとなると器の素材を検討して、変色しないかなどをテストするので、開発に平均で2年ほどかかります。

2年もですか!でも面白いですね。解明されていないのが魅力的な部分でもありますよね。

そうですね、真相を知りたい気持ちもありますが、解明されていない少しミステリアスな商品であることも面白いので、2つの心がせめぎ合っています。

製造工程も普通の化粧品に比べると手間がかかりますが、それも魅力だと感じています。

そもそも紅を点す行為自体も、普通の口紅に比べれば手間ですよね。お水と筆を用意して、わざわざ溶いてつけてって。
でもステックの口紅と比べて、紅を点す場合はその所作全て含めてピシッと背筋が伸びるような感じになるんです。

もともと紅を含めた赤色には昔から魔除けの意味があったようなので、気合を入れたいときやここぞというときの勝負紅として使われる方もいらっしゃいます。

紅の魅力は普通の口紅にはない特別感

実際に使われている方のお話が出ましたが、購入されるのはどういう方ですか?

舞妓さんや歌舞伎役者さんかな?とイメージされると思うのですが、意外にも使ってくださっているのは本当にごく一般の方々です。

最近はSNSがきっかけでお求めいただく方も多いですね。

なるべく自然の素材を使っている口紅を探した結果、たどり着いたという方も多いです。アレルギーをお持ちの方もそれぞれ合うものを探されていらっしゃるので。

あとは茶道をたしなむ方ですね。茶道では、お茶碗を汚さないよう口紅には配慮が必要なのですが、紅を軽く塗る程度なら唇も色づきますしお茶碗は汚れないということで重宝されています。

さまざまな理由で購入されるんですね。プレゼントで送る方もいらっしゃいますか?

多いですね。日本人は昔から人生の節目節目に何らかの形で必ず紅を使ってたんです。なぜ節目の行事で使うかというと、赤色が災いを除けてくれるといういわれが古からあり、元気に育ってほしい・幸せになってほしいなどの想いからのようです。

想いを込めて昔から使われているものなので、お母さまの還暦祝いや、結婚の際に新郎のお母さまが新婦さんへなど、皆さま記念日にプレゼントされていますね。

紅の持つストーリー性に、さまざまな想いを重ねて皆さまプレゼントしてくださってるのかな?と思うとありがたいです。

特に店頭で接客しているとご来館の皆さまがいろいろなエピソードを教えてくださり、お客さまの素敵な時間を作るお手伝いが少しでもできていると感じられると、非常に嬉しくなります。

一番人気の雪月花

コロナ禍ではありがたかったECの存在

店頭での接客についてですが、コロナ禍ではどうされていましたか?

緊急事態宣言に伴い長い間ミュージアムを閉めていたときは、店頭で全く売ることができなかったので、ECサイトがあったのは非常に大きかったですね。

ECでの販売がなければ、この紅を届ける手段がなくなってしまっていたので。

2019年にカラーミーショップにお引越されましたが、きっかけは何だったのでしょうか?

2019年に紅ミュージアムのリニューアルに合わせ、Webサイト、商品、ECサイトをリニューアルしようとなり、それまでのサイトからカラーミーショップさんへ引っ越ししました。

ECの売上が多くはないので、固定ではなく売上に応じた手数料設定になっていたことは、非常にありがたかったです。

また、Web制作に関する知識のない私たちでもある程度カスタマイズできそうだったのも選ぶポイントでした。

ありがとうございます。実際にコロナ禍で売上は上がりましたか?

大分上がりましたね。コロナ禍の前は、ミュージアムショップでの売上が圧倒的でしたので。店頭での売上がそのままECに移動したとは言い難い状況なんですけれども。

でも、リピーターではなく新規の方がSNSの発信によって増えたというところはありますね。

店頭で売れない分どうしようかと考えて、InstagramTwitterなどのSNSで施策を行ったところ、やはり拡散力は非常に大きかったです。

今まで届かなかった方にも知っていただくことができたのかなと感じています。
特にInstagramは相性が良かったみたいで、当初3桁だったフォロワーが少しずつ増えてきていてECと連携した形で、今大きな存在になっています。

商品を理解してもらうため動画のプロモーションも

SNSごとのコンセプトや発信する内容を使い分けされていますか?

はい。ユーザーさんのすみ分けがはっきりしているので、使い分けています。

Instagramはこの玉虫色の魅力や器の綺麗さなど、商品の美しさを表現することを主軸に置いて発信しています。

一方、Twitterは専門的な知識に対しての反応がいいので、商品の紹介よりも紅ミュージアムの収蔵品や紅の歴史などに重きを置いて発信しています。

紅ミュージアムの収蔵品

SNSやホームページなどで動画を用いたプロモーションも多くされてらっしゃいますよね。

静止画ではどうしても商品が理解できないんですよね。紅ではなく「内側がメタリックグリーンの器なのかな?」というふうに思われてしまうこともあるので(笑)。
商品を端的に伝えるために、動画というのは私たちにとって非常に重要なものになっています。

特に最近、動画が気軽に誰でも投稿でき、増えてきているので、商品だけでなく施設の案内に関しても動画で魅力を伝えていこうと思っているところです。

SNSや動画での発信に力を入れていると海外からのお問い合わせもありそうですね。

実際に海外からメールやSNSのDMでお問い合わせはいただきますが、今は海外への発送はしていません。

なぜなら、海外で化粧品を販売するには、使用されている配合成分がその国で化粧品として許可されている必要があるのですが、紅花の赤色色素が登録されている国はすごく少ないんです。
EUやアメリカなどには、今は残念ながら輸出できません。

原料の紅花も大量生産されているわけではなく、職人も2人だけですので、海外から大量に注文が来てもお応えできないという事情もありまして…。

そのいろんな制限を逆手に取って、日本に来ないと手に入らない希少価値の高い商品ということで、しばらくは貫き通そうかなと思っています。

たしかに今の時代、なかなか手に入らない物のほうが手に取ったときの喜びも大きいですね。

今後100年、200年先も紅屋を続けるために

最後に、今後のネットショップやミュージアムの実店舗の展望を教えてください。

まだまだ私どもの商品も施設も知名度がなかなかないので、皆さんに知っていただくためにSNSを中心とした発信は地道にやっていきたいと思います。

また、ECとは別立てにしている会社のWebサイトに載ってるような商品の魅力や約200年続く紅づくりの歴史等の情報もECサイトに入れていきたいですね。
動画などをうまく使いながらより魅力を伝えられるような形にして、初めてECサイトに訪れた方にもちゃんと全体がわかるような作りにしたいね、ということを今話しています。

また実店舗とECの共存ということに関しては、やはりまずは実店舗で実感していただきたいという気持ちが強いです。

紅の歴史や文化、そして商品の魅力などさまざまなことを理解しないと購入に踏み切るのは難しい価格帯のため、やはり実店舗が主軸になるということは変わらないかなと思います。

紅ミュージアム

ただ、このコロナ禍でECでの販売が当たり前の世の中になってきているので、ECサイトももう少し育てていく必要性は感じております。

社長からも「100年200年先にこの紅を残すために何をしたらいいか、という観点で考えて行動しなさい」と言われているんです。

先代の6代目の社長は、紅花の入手困難により戦時中に一度途絶えた紅の製造を戦後復活させました。そこには、並々ならぬ紅にする想いがあったのだと感じています。
後世に紅をつなげていかなければという想いが強かったのでしょう。

ですので、私たちも短期的な観点ではなく長期的に見て、ちゃんとこの「紅」という存在を後世に残していくため、どうしたらいいのかということを常に考えながら今後も行動していこうと思います。

とても興味深いお話を、ありがとうございました!

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