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お店や商品の魅力を伝える!ブランディングコピーの話を長井さんに聞いてみた。

「いい商品なのに、伝え方が難しい」と感じたことはありませんか?

言葉ひとつで、ブランドの印象は大きく変わります。

今回は、キャッチコピーや企業理念の制作を手がけるコピーライター「ことばやさん」こと長井謙(ながい けん)さんに、“伝わる言葉”のつくり方を伺いました。コピー初心者の方にも、すぐに役立つ実践的な内容です。

長井謙さん
ことばやさん 代表
新聞社でコンテンツ制作、広告制作、記事配信の経験を経て、フリーライターとして独立。「ことばやさん」の代表。商品の魅力を分かりやすく1行で伝えるキャッチコピーを得意とし、記事見出しやホームページ、商品パッケージや店舗看板など様々な媒体でコピーライティングの実績あり。宣伝会議賞やコピーコンテストにおいて多数の受賞経験あり。SBSラジオCMコンテスト 最優秀賞 他多数
ことばやさん:https://kotobayasan.com/
X:@hihiuma_copy

長井さんの自己紹介をおねがいします

長井さんのご経歴について教えてください。コピーライターになったきっかけは?

もともとはスポーツ新聞社で、ネット配信用の記事に見出しをつける仕事をしていました。広告や販促ツール、動画の制作にも携わるなかで、自然と「短い言葉で伝えること」に惹かれていったんです。

その後、コピーライター養成講座に通いながら実績を積み、独立。沖縄へ移住してフリーランスとして活動するなかで、オリオンビールさんの広告代理店の方と出会い、広告コピーの仕事を任せていただいたのが、大きな転機になりました。

独立後のご経歴や受賞歴について教えてください。

『宣伝会議賞』をはじめ、ラジオやテレビのCMコンテストで複数の賞をいただいています。特に独立当初は、コピーだけでなくシナリオや映像表現にも取り組んでいて、表現の幅を広げる良い経験になりました。

現在のメインのお仕事について教えてください。

今はキャッチコピーの制作が中心です。ホームページや名刺、パンフレットなどのキャッチコピーに加えて、最近は企業理念の制作のご相談も増えています。

企業理念というと、具体的には?

ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)ですね。企業の合併や社長交代、事業転換のタイミングで『コンセプトを見直したい』という依頼が多いです。

コピーライターさんにMVVの相談がくるのは少し意外でした!最近は起業されるかたも多いですし、社員が増えるタイミングや経営者が変わるタイミング、また事業成長に合わせMVVを制定したり見直す企業が見受けられますね。

そうですね。以前より確実に相談件数が増えていると感じます。

コピーライティングで大切なことは「お客様の視点」

コピーを考える際、長井さんがとくに大切にしていることはありますか?

もっとも大切にしているのは、ターゲットを明確にすることです。つい「どう伝えるか」に意識が向きがちですが、それよりも「誰に向けての言葉か」を定めるのが先です。

その商品のお客様は誰で、その方が買うのはギフトのためか、自分へのご褒美のためかと、必要とするシーンを想像する。そうすることで、おのずとターゲットに伝えるべき言葉やトーンが見えてきます。

「誰に、なにを、どう届けたいか」という視点から考えるのが大切なんですね。

万人に広く伝えようとすると、言葉の輪郭がぼやけてしまって、結果的に誰の心にも刺さらなくなってしまいます。

ただ、ターゲットを絞ることに抵抗を感じる方もいて、「市場が狭くなるのでは」と心配されるんですね。もし、どうしても絞れない場合は、複数のターゲットごとに別のコピーを用意してもいいと思います。

EC事業者さんがコピーライティングのトレーニングをするなら、なにから始めるのがいいですか?

まずは日常の中で言葉に敏感になることです。競合のコピーを見ることはもちろん、街中の広告やスーパーのPOPなど、「売る言葉」に意識を向けてみる。最初は真似でもいいので、観察と実践を繰り返すことが大切です。

では、ブランドのファンを増やすため、ブランドの「らしさ」を言葉にしたい場合、なにから始めればいいですか?

競合と比較したときの、自社ならではの強みを見つけることが出発点です。その際、自分たちが思う強みだけでなく、お客様の声や売れ筋商品の傾向など、外から見た評価も参考にします。自社の伸ばしていくべきところを明確にしてから、ブランドの特徴や価値を言葉に落とし込んでいくといいと思います。

EC事業者さんが自分でコピーを考えようとすると、「自分が言いたいこと」に偏ってしまうこともありそうです。お客様視点に切り替えるコツはありますか?

ポイントは、主語を「自分たち」ではなく「お客様」にすることです。代表的な例を挙げると、ニトリさんの『お、ねだん以上。』は、お客様が商品を使って感じた驚きが「お」に表現されています。

JR東海さんの『そうだ 京都、行こう。』もまさにそうで、「そうだ」はお客様の気持ちを代弁したものです。名作コピーの多くが、お客様視点で考えられているんですね。

自分たちが売る立場ではなく、買う立場になって考えるということですね。

実際に商品を手にしたとき、お客様がどう感じるかを想像しながら言葉を選ぶと、より伝わるコピーになります。

その意味では、初めて商品に触れた人の反応を観察するのも、いいヒントになりそうですね。

それ、すごくいいと思います。実際に使った人がどんな言葉を口にしたか。そのリアルな声が、伝わるコピーの誕生につながることはよくあります。

長井さんご自身は、どのように感性を磨いていますか?

実践しながら、毎日街中の広告をチェックしたり、言葉の使い方を観察したりしています。

それと同時に、実際に書いてみることも重要です。とくに意識しているのは、企業が言いたいことではなく、消費者目線で考えることです。コピーライターは、消費者の代弁者であることを意識していますね。

お客様の視点に立つことで、本当に伝わる言葉が生まれるんですね。

企業の強みを伝えるだけでなく、お客様にとってどう価値があるのかを意識すること。それが、効果的なコピーを生み出す鍵だと思います。

ブランディングコピーの事例

コピーによってブランドの印象が変わった事例はありますか?

『エミエイト』という炭酸ナノバブルケアのブランドがあります。当初は機能面を押し出していたのですが、それだけでは魅力が伝わりにくい状態でした。そこで、ロゴの印象から、『思わず、この表情』というブランディングコピーを提案しました。

「この商品を使ったときにどうなるか」に焦点を当て、嬉しい瞬間を感覚的に伝えることを意識しつつロゴに意味を持たせたんです。そこから世界観が広がり、ブランドの印象が大きく変わりました。

ロゴとの関係性も考慮されていたんですね。

そうですね。ロゴや商品名がすでに決まっていたので、それらの意味を踏まえて、より魅力を引き出すコピーを考えました。

先ほどMVVのお話しもでましたが、長井さんが手がけた企業理念で、社内やお客様の反応が変わった事例があれば教えてください。

株式会社エイプリルナイツという、もともとeスポーツのイベント運営をしていた企業があります。事業内容をゲーマーのエンジニア派遣に転換した際、強みが伝わりづらくなってしまったため、企業理念を再構築しました。

どのような理念を提案されたのでしょうか?

ミッションとして『ゲーマーを、社会に欠かせない存在へ。』と、ビジョンとして『「クリアしたい」を、すべての仕事で。』を提案しました。

コピーを考える際に重視したのは、こちらが一方的につくるのではなくて、社員の皆さんと一緒に考えること。言葉づくりのプロセスそのものが、社員の皆さんにとって、会社の価値を再認識し、一体感を深める機会になったのではないかと感じています。

社員さんへのヒアリングもされるんですか?

そうです。人数が多い場合はアンケートを実施し、集まった言葉をもとに全体の方向性を見出します。

ECサイトでも、運営者だけでなく購入者の声を聞くことが大切そうですね。

まさにそのとおりです。お客様の声には、企業側が気づかなかった強みや魅力が詰まっています。コピーを考えるうえで、とても貴重なヒントになります。

では、長井さんがEC事業者さんから、「もっと売りたい」「ブランドを知ってもらいたい」と相談された場合、まずなにからヒアリングされますか?

まずは、その方が「本当に伝えたいことはなにか」を、一緒に掘り下げていきます。コピーライターに依頼するということは、言いたいことがあるはずなんですね。それをしっかりヒアリングして、「誰に向けて伝えたいのか」も明確にしたうえで、言葉にしていきます。

品のブランディングコピーを考える際のポイントは?実践ノウハウ

EC事業者さんが、「売れ筋商品の売上が落ちてきたからコピーを見直したい」と思ったとき、まずなにから始めるべきでしょうか?

まずは、お客様の声を集めることが大切です。レビューやコメント、アンケートなどを参考に、購入者がなにを感じているのかを整理します。それから、伝わっている「価値」や「印象」を分析し、それをもとに新しい言葉に落とし込んでいきます。

やはり、お客様の声が、コピーづくりのヒントになるんですね。

リアルな感想こそ、心に響くコピーの素材になります。

コピーを作る際に、ありがちなNGパターンなどはありますか?

抽象的な言葉を多用してしまうことは避けたいですね。なんとなくよさそうな言葉では、印象に残りません。ブランディングコピーでは、その企業や商品の「色」をはっきり打ち出すことが大切です。

できるだけ尖った言葉で、強みを明確にすることが結果として差別化につながります。

ECサイトの場合、商品ごとにコピーをつけるのと、ショップの冠となるコピーをひとつ設けるのと、どちらがよいと思いますか?

共通の軸があるほうがブランドは強くなります。一例ですが、ロッテさんの『お口の恋人』のように、1本のスローガンがあれば、そこから多様な商品を展開していけます。そのほうが、ブランドの統一感が出て、印象にも残りやすいと思います。

ECサイトのブランディングコピーを作る場合と、各商品にブランディングコピーを考える場合で、進め方に違いはありますか?

基本的な進め方は同じですが、視点とスケール感が違ってきます。

ECサイトのコピーでは、「社会全体にどういう価値を提供するか」「業界の中でどう差別化するか」など、大きな視点で考える必要があります。一方で、商品のコピーでは、「そのジャンルでどんな価値を与えたいか」という視点で言葉をつくります。

つまり、前者では理念や方向性を示し、後者では商品をお客様が選びたくなる言葉に具体化していく、というイメージです。

売上を重視するECでは、つい商品の機能や品質にフォーカスしたコピーばかりになりがちですよね。

そうですね。「高品質」「こだわり」といった言葉を使いがちですが、これは企業側の目線です。「お客様の視点でどう感じるか」を主語にすると、価値がもっと伝わりやすくなります。

「高品質の○○」より、「(品質が高いから)安心して使える○○」というふうに、お客様にとってのベネフィットが感じられる表現に、言い換えるのがポイントです。

コピーのアイデアが出てこなかったら、どうすればいいでしょう?

プロのコピーライターに相談してみるのもいいですし、AIを活用するのもひとつの手です。

ライティングとAI活用について

先ほど長井さんがAIに触れていましたが、ChatGPTやGeminiなど、AIが言葉を生み出す時代になっていると思っています。そうした変化の中で、長井さんはAI活用についてどうお考えですか?

正直、AIで文章を書くのはアリだと思っています。便利なツールなので、活用できるなら使ったほうがいい。ただ、気をつけたいのは丸投げしないことです。

AIに任せきりにすると、中身が薄い文章になりがちなので、まず自分で伝えたいことをしっかり整理して、その上で表現のアイデアを得るために使うのがおすすめです。

どのような活用方法がおすすめですか?

ECを運営されている方なら、例えばお客様の声をリストアップして、その中からどの表現がいちばん響きそうかをAIに聞いてみるのもよい使い方だと思います。

スピード感のある言葉が、今後ますます重要に

時代とともに言葉も変わってきましたが、これから先、どう進化していくと思いますか?

スピード感のある言葉が、より求められていくと思います。

かつては西武百貨店さんから出された『おいしい生活。』のような、しみじみ余韻を感じさせるコピーが好まれました。今は、直感的に理解できる表現へとシフトしています。短く、瞬時に伝わる言葉が、今後ますます重要になるでしょうね。

スマホの普及で、長文が敬遠されるようになったとも言われますね。短いコピーを作る難しさはありますか?

ありますね。短いからこそ、一語一語がとても重要になります。シンプルでありながら、ブランドの個性もしっかり伝える。そのバランスが求められます。

言葉の力で、ブランドはどう変わると思いますか?

「ブランド」というと、洗練されたビジュアルの印象が強いですよね。でも、そのデザインの背景にあるコンセプトや世界観を支えているのは、じつは言葉なんです。

コピーは、ブランドの「核」になるものです。どんなデザインや世界観をつくるにしても、土台となるのは言葉。そこからブランドの方向性や強さが決まっていきます。

ECサイトでも、トップページや商品ページ、ブログ、詳細説明など、あらゆるところに言葉が関わっています。ネットショップ運営におけるコピーの重要性について、アドバイスをいただけますか?

ECサイトは実店舗と違って、商品を実際に手に取ってもらえないので、商品の背景にある想いや価値を言葉で伝えることがより重要になります。ブランドの色が伝わるコピーがあるかどうかで、お客様の印象は大きく変わります。

言葉は、モノやサービスだけでなく、想いや価値観を届ける力を持っています。言葉選びに悩んだら、プロに相談するのもひとつの方法です。「この言葉で伝わるか?」と迷ったとき、この記事がヒントになればうれしいです。

長井さんありがとうございました!

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