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災害、脱サラ、Uターン。老舗アイス店の4代目店主がネットショップを開店するまで
田中さんは70年以上つづくアイスキャンディー屋さんの4代目だそうですね。家業には早いうちから加わっていたのでしょうか?
いえ、大学卒業後はとあるアパレル系企業に就職しました。
メンズファッションを中心に扱っていたのですが、結婚をきっかけに家業を継ぐため26才で退職願を出しました。でも…その直後に阪神・淡路大震災が起こってしまって。
職場がつぶれて困っている人が大勢いた中、自分だけがそこから離れて帰るわけにはいかないと思い、話し合いの結果しばらく会社に残ることになりました。実家の両親はカンカンでしたけどね…。
ところがその数年後、今度はその会社が経営破綻に追い込まれてしまいました。
ええっ!
店長経験や新店舗の立ち上げ、果ては民事再生法の手続…。サラリーマン時代にそういう経験ができたのは ある意味いい思い出です(笑)それに、会社で学んだことは今でも非常に役に立っているので、あのとき残留を決めたことは正解だったと思います。
まあ、そんなわけで退社の翌月から実家へ戻ることになりまして。
波乱万丈ですね…。ご実家に戻られてみて、仕事は忙しくなりましたか。
それが、最初の年は驚くほど暇だったんです。
奇しくもその年は冷夏で、アイスが全く売れなかった。大決断をして実家へ戻った身としてはショックでしたよ。そのころは両親ともケンカばかりしていました。
さぞ苦しい時期だったかと思います。
そんなこんなで、既存の販路だけでは将来性に不安を感じ、新たな商圏を見出すためにネットショップを立ち上げることに決めたんですよね。
なるほど。ネットショップの開店にはそんな経緯があったんですね!
顧客の目を留めさせるコツは、シズル感あふれる商品写真
ネットショップの立ち上げは田中さんがお一人で?
最初は僕一人でした。
ですが先立つ知識が何もなかったので まずは自分でホームページ作成の通信講座に申し込んで…もちろん、ショップの立ち上げはそう簡単じゃありませんでしたけど。
そうこうしている間にも世の中は目まぐるしく進化していくので、僕がちまちま勉強したところで非効率的だと気付いて。それで最終的にプロの方におまかせして作ったのが、現在のネットショップです。
そうだったんですね。立ち上げ後はどんな点に注力しましたか?
やはり一番は商品写真です。
何千、何万とあるネットショップの中で目を留めてもらうためにはどうしたらいいのか考えて、生産者にも負けないぐらい おいしそうな画像をお届けしよう、と。
なので、うちの盛りつけ写真はどれも作り置きやダミーではなく一点一点手作業で仕上げた自慢の作品です。
田中さんがご自分でスタイリングされたんですか…! すごいシズル感です。
真冬のムッチャ寒い部屋で防寒具を着て盛りつけるんですよ、僕が。
当然撮影よりもスタイリングのほうがはるかに時間がかかる。横ではカメラマンとアシスタントの方が寒そうに待機しているので、ものすごく気を使いましたね(笑)
商品の見せ方で特にこだわったのはどんな点ですか?
写真を見ただけでフレーバーが理解でき、なおかつおいしさを連想できることですね。
せっかく生産者の方々が丹精を込めたとびきりのアイスですから、商品のこだわりやストーリーなど、そこにある背景をすべて知ってから購入を決めてもらいたいと思いました。
でも他のアイス屋さんを見ていると、意外と商品画像って軽視されているんですよね。
僕のやり方が果たして正しいのか今はまだわかりませんが、僕は価格の安さやスピードなどの情報よりも、商品価値をしっかり伝えることを重視しようと思っています。
積極的な「いいね!」とハッシュタグの活用で、SNSフォロワーを獲得
やまざと.comさんといえば、SNSの更新が非常にこまめな印象があります。開店当初からSNSには力を入れていましたか?
そうですね。当時から今も変わらずFacebookをメインにやっています。
最初はFacebookの仕組みもよくわかっていませんでしたが…アイスクリーム好きが集まるグループに招待されたので、徐々にそこのメンバーと交流を深めていきました。仲間意識が強いグループだったので「いいね!」やコメントがたくさんつくのが嬉しかったんですよね。彼らがうちのFacebookページのフォロワーになってくれたことは、効果として非常に大きかったと感じます。
Facebookにアップする写真もこだわっていますか?
もちろん! ミラーレス一眼で撮ったものをPhotoshopなどで加工してから上げています。
写真といえば、Instagramには一時期ムッチャハマりましたね。
だって投稿した写真の向こう側に全世界の人たちがいるんですよ。言葉なんて全くいらない、画像だけで繋がれちゃう。現代のどこでもドアかと思いました。
たしかに、今までになかったコミュニケーション手段ですよね。フォロワーはどのように増やしましたか?
僕がよくやっていたのは、アイス関連のハッシュタグを検索して片っ端から「いいね!」を押す作業。Instagramも投稿写真にはこだわってきたので、少しでも見てもらえればフォローしてくれる人もいるだろうと思ったんです。
ちなみに、「いいね!」を押すのとフォローするのとでは どちらが反応がよいのか気になって何度も試しましたけど、僕なりの結論は「いいね!」です(笑)
すごい! かなり地道な作業だ。
あとね、もう一つ工夫したのはは投稿写真に入れるハッシュタグの数です。
いろいろ試したところハッシュタグは30個まで入れられることがわかったので、僕はいつも30個フルに使って投稿しています。もっとも、最近は画像のほうにこだわりすぎてしまってなかなか更新できてないんですけどね。
SNSもご自身の手で研究されているんですね! いろいろ教えてくださってありがとうございます。
訴求力は静止画の1000~1500倍!? 「動画の時代」に向けた新たな活動
ところで動画を使ってのPR活動も行っているようですが、こちらはどういったきっかけで?
2年ほど前にラッピングカーを制作したのですが、偶然その動画を撮ってFacebookに載せたところ思いのほか反応がよくて。
もともと僕自身もそういう作業が好きなんでしょうね…静止画をつなぎ合わせた動画をみんなに見てもらいたいという症状にかられたのがきっかけです(笑)
動画1本あたりの制作時間はどれぐらいですか?
今は2~4時間ぐらいです。できるだけその日のうちに完成させるようにしています。
動画ってつなぎ合わせれば意外と形になるんですよ。細かく整えようとするとついついこだわってしまって終わりが見えなくなるので、最後は妥協が肝心ですけどね。
そういえば「カラーミーショップ大賞2017」の授賞式も、現場の臨場感を伝えたくて動画を作って載せました。
反応はいかがでしたか?
たくさんの方からお祝いのコメントをいただきました! 「いいね!」の数も今までで一番じゃなかったかな。
音信不通だったアパレル時代の上司から久々に電話もらったりもして。たまたまネットを見てたら行き当たったらしく「頑張っとるな」と声をかけてくれて、あのときは嬉しかったですね。「また今度、注文するわ!」って…結局それっきりなんですけど(笑)
(笑) 動画コンテンツは今後も強化していきたいですか?
そうですね、これからは動画の時代ですから。
動画の伝える力は静止画の1,000~1,500倍にもなるとも言われているそうなので、SNSだけでなくネットショップでも動画PRを強化していきたいと思ってます。
近いうちに編集ソフトを新調する予定なので今まで以上に制作を楽しみたいですし、動画を通じてアイス屋のことを少しでも知ってもらえれば嬉しいです。
ご当地アイスの魅力を全国へ、そして世界へ!
今後、ネットショップで挑戦してみたいことがあれば教えてください。
うーん…。“これ”と言えるものはありませんが、できることは何でも柔軟に取り入れていきたいですね。
たとえば、今は「やまざと.com」のロゴマークにメッセージ性を持たせるためのモーションロゴを鋭意作成中。そして、お買い物の利便性をさらに高めるためにもネットと実店舗の間でオムニチャネル化を進めていく予定です。
今の目標は、今以上にご当地アイスを日本の隅々まで行き渡らせること。それはネットショップでもリアルでも変わりません。少しでも身近な存在にして、たくさんの人を笑顔にしたいですね。
たとえば3年後、こうなっていたいという理想像はありますか?
3年後というと… 2020年、東京オリンピックが始まる年ですね。
全世界から日本が注目を浴びるこの機会に「日本のアイス」をぜひ知ってもらいたい。なので できる限り東京に近い場所でご当地アイスのリアル店舗を展開したいと考えています!
おおっ!
その日までに、Webをフル活用してアイスと日本の底力を全世界にPRしないと。
現状 アイスの発送は国内のみですが、そのころには海外に販路を拡大できるようになっているかもしれない。日本から世界へ、アイスの魅力を発信できたら楽しそうです!
なんだか私たちまで夢がふくらむような思いです。最後になりますが… 田中さんのお子さんにも、いつかはアイス屋さんを継いでほしいと考えていますか?
うーん、実は息子にはそういうこと一度も言ったことないんですよ。
僕自身は、子どもの頃から親父に「アイス屋を継げ」と言われて育ってきたので、将来はかならず店を継ぐものだと思って生きてきました。親父たちの時代は景気もまだ上向きで、よく儲かった時代ですからね。
僕が今こうしてご当地アイスを販売できるのは、祖父や親父の代から長く引き継いできた事業の暖簾と信用があるからこそ。だから4代目の僕の使命は いつか息子に「継ぎたい! 継がなあかん!」と思ってもらえるような企業にしていくことだと思っています!
今日は素敵なお話をありがとうございました!
※ このインタビューは、2017年にカラーミーショップで公開したインタビューを再編集したものです。