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町の小さなパン屋さんが、有機ドライフルーツ・ナッツを販売するまで。
鍋嶋さん: ノヴァ担当のウェブデザイナーさんに、「よむよむカラメル」さんが取材に来る、って言ったら「ついに声がかかりましたね!」って喜んでました。(笑)すごく楽しみにしていたんです。
本当ですか!ありがとうございます。ではまずこのお店についてお聞かせください。
鍋嶋さん: 「ノヴァセレクト」は母体であるオーガニックドライフルーツ・ナッツの輸入卸売業「株式会社NOVA(ノヴァ)」の直営店舗になります。位置づけとしては、わたしたちノヴァのオーガニックドライフルーツ・ナッツのおいしさを個人のお客さまに知っていただくための場所ですね。おいしい食べ方やシチュエーション、ギフト提案やレシピなどもご紹介しています。
ブッシュさん: ドライフルーツに合うものということでハム、チーズ、ワインもあります。あとは食卓に合うものということでバターケースなんかも置いてます。
来られる方はご近所の方が多いんですか?
ブッシュさん: そうですね。あとは都内から来られるお客さまも多いです。わたしたちの商品の直営店はここしかないですし、ここに来ていただければ、すべての商品を手に取って見て頂けるので。試食という形で実際に味も試せますしね。
この直営店ができたのはいつころですか?
ブッシュさん: 約2年半前の2013年の10月です。もともとわたしたちは業務用にドライフルーツやナッツを卸すことを仕事にしてまして。
ノヴァさんはいつできたんでしょう。
ブッシュさん: 創業31年になりました。
すごく長いですね!
鍋嶋さん: もともとノヴァは、ここ北本で天然酵母のパン屋として創業したんです。パン屋を始めたのはブッシュの父、先代のピエール氏なんですけれども、当時、おいしくて安全なパンの原料(ドライフルーツやナッツ)が日本になかったんですね。それで自ら、原料を求めて世界中の生産地を訪れたというのが現在の業務に繋がるきっかけです。
最初はパン屋さんだったんですね!
鍋嶋さん: そうなんです。当時、天然酵母のパン屋というのが少なかったので、ピエールは天然酵母を日本で広めた人として、パン職人さんたちに慕われていたそうです。やがて彼のお弟子さんたちが日本全国に散らばり、彼らがパン屋を開業するにあたって「同じ原料を分けてほしい」という声があがって。それで世界中から集めたノヴァの原料が全国のパン屋さんに広がり、ノヴァはパン屋から今のような卸売業メインの業務形態に変わって行きました。
世界中の生産者さんへ直接訪問! 信頼関係を築くための惜しみない努力。
ここにはどれくらいの商品があるんですか?
鍋嶋さん: 26種類あります。有機のドライフルーツや有機ナッツだけでこれだけの品揃えのある小売店さんは、なかなかないかなと思っています。いずれも、「有機JAS認証」または同等レベルの有機認証を持っている生産者さんからしか輸入していません。
生産者さん…?
鍋嶋さん: わたしたちの商品の特長としてひとつひとつの商品の背景に、顔の見える生産者さんがいるんです。しかも20年とか30年の付き合いの長い生産者さんばかりなので「ラスさんのくるみ」といった具合に、親しみと敬意をこめて、誰々さんのなになに、って呼ぶことが多いです。そのほうがノヴァでは話が通じやすかったりするんですよ。
生産者さんとどうやって長い信頼関係を築いているんですか。
ブッシュさん: わたしたちはみなさんに直接会いに行くんです。
日本のお客さまは、食の安全に対して厳格なところがあります。海外なら、いちじくに虫が入っていても「オーガニックだからしかたない」「自然農産物だから当たり前」と思ってもらえても、日本はそうじゃない。たとえ自然農産物であっても、商品としての「品質」を求められるんです。
たしかに…。
ブッシュさん: フルーツを天日干しする工程で付着する小石や、干しぶどうについている穂軸(実の先に付いている枝)も、きちんと取り除かなければならない。そういった文化の違い、日本ならではの基準をわかってもらわないといけないのですが、なかなか一筋縄ではいきません。相手にもその国の文化や考え方があるし、こちらのやり方ばかり押し付けても絶対にうまくはいかない。
そこで、現地へ足を運ぶのです。足繁く通うと「こいつ毎年来るな、仕方ないな、やってやるか!」とだんだん対応も変わっていくんですね。
最近お会いした方で、印象深い生産者さんはいらっしゃいましたか?
鍋嶋さん: 去年はたまたま7カ国くらい回ったんですけど…そうですね、たとえばくるみの生産者さん。ラスさんという25年くらいの付き合いになるすばらしい生産者さんがいらっしゃるんですけど。ノヴァとのお付き合いが始まったきっかけがユニークなんですね。
鍋嶋さん: ラスさんがくるみを育て始めた当時、まだ小さかった娘のジェニーさんが「家族の仕事を手伝う」という宿題を学校で出されたんだそうです。そこで彼女は、日本大使館に問い合わせて、オーガニックのくるみを輸入している会社を教えてもらい、「わたしのお父さんはくるみを作っています。よかったらサンプルいかがでしょうか。」と営業のお手紙を送ったんだそうです。25年前、そのお手紙を受け取ったのが先代のピエール。ピエールが返事を書き、そこからお付き合いが始まり、現在に至る、というわけです。
ブッシュさん: 最初のころは、ほんのちょっとのくるみをやりとりしていたのが、今ではラスさんの会社はアメリカを代表するくるみの会社に成長されています。しかも生産量や出荷量が大きく伸びる一方で、くるみの殻を燃料として再利用し、工場の電源をまかなうなど、地球環境に配慮した取り組みにも非常に力を注いでいます。ラスさんは、自分だけが豊かになるのではなく、農業や、地球に還元したいという信念を持っている。まさに理想的な生産者さんなんです。
ほかに印象深い場所や生産者さんはいらっしゃいますか?
ブッシュさん: 最近行ったところだと、イタリアのシチリア。アーモンドやヘーゼルナッツの産地です。すごくいいところでね。これ、全部ヘーゼルナッツ畑なんです。
えっ、この山全部!? スケールが日本とは違います。
ブッシュさん: こっちは収穫の様子ですね。現地の人たちは「1年で一番幸せな時期だ!」って言ってました。成熟したナッツの実を振動機で木から振り落とし、こうやって大きなバキュームで吸い取って収穫するんです。まるで大地に掃除機をかけているみたいでしょう。
これは確か幸せな時期ですね!他にはどんなところへ行かれるんですか?
ブッシュさん: トルコやスリランカにもよく行きますよ。トルコはあんずやいちじく、スリランカはパイナップルやカシューナッツなど、たくさんの高品質なドライフルーツ、ナッツが採れるところです。
鍋嶋さん: 生産者さんと20年以上もお付き合いをしていますと、昔は規模も小さく知名度もない、素朴な生産者さんだったのが今では世界有数の会社になっていたりするんですよ。
世界のトップレベル…!
鍋嶋さん: そんな生産者さんに今から新規で買い付けをしたいと申し出ても、まず原料は分けてもらえないと思うのですが、わたしたちは長年育んできた信頼関係のおかげで、最高品質の希少品を、ここ北本に揃えることができるというわけです。(笑)
ブッシュさん: わたしは輸入販売者という立場ではありますが、気持ちは常に生産者に寄り添っていたいと考えています。高品質な商品を生み出すためにはこちらからの要望も伝えますが、彼らの話をよく聞くことを大切にしているんです。
生産者に寄り添った、輸入販売者。
ブッシュさん: わたしは彼らと、日本のマーケットへどうやって生産者の想いと商品を育てていくかを一緒になって考えます。生産者さんとやりとりをするときは、彼らとの文化の違いや、できるできないを汲むことは非常に重要です。長年通うことによってお互いの文化や気持ちを理解して、できる範囲で提案をする。そうすることで相手は心を開いてくれますし、相手の話を聞いて初めて、目には見えない、しかし決して消えない信頼関係が育っていくと信じています。
什器もバターケースも全部手作り!? 社長ブッシュさんのすごすぎるクラフトレベル
店舗の棚を作ったののはブッシュさんですか。というか店の棚は手作りなんですか!
ブッシュさん: そうです。わたし、木工が得意なんですよ。最近は、小売店さんの什器なんかも作ってますよ。
ブッシュさんが作ったもの、まさかほかにも?
ブッシュさん: 主役であるドライフルーツの色が基本的にアースカラーなので、人工的なものは合わないかなと。天然の木材を使って、ドライフルーツたちが映えるように演出しています。
えーーー!!
ブッシュさん: いろんな生産者さんにお会いすると、わたしが生産者さんたちの代表のような気持ちになるんですよ。
だからいかにドライフルーツたちの魅力を引き出せるか、彼らに代わって、常に、そして真剣に考えているんです。木を切り出して、削るところから全部やりました。
なるほど。什器のほかに、商品にも木工製品がありますが、まさかこのバターケースも?
ブッシュさん: かなりお得意ですよ!(笑)あとは、このバターケースも。
えっ、これ手作りなんですか。商品じゃないですか!
ブッシュさん: そうですよ。私がデザインと試作をやりました。これ桜の木なんですね。バターを入れておくと経年変化で木がいい色に変わっていくんです。実際にノヴァの食堂で使ってますが5年経っても歪みません。付属のバターナイフがうまく収まるまでに試作品をたくさん作りました。
ブッシュさん: 私は現場が好きなんです。オープンして2年が経ちますがノヴァセレクトも実は今もちょこちょこ変えていますよ。スタッフがギフトラッピングしやすいよう資材を置く棚を作ったり、場所を作ったりね。
営業担当は「商品」そのもの。営業部がなくてもお客さまが増える理由
ブッシュさん: 実はうちの会社、営業がいないんですね。ゼロなんです。
なぜかというと、営業は商品そのものなんです。わたしたちは、現地で生産者さんと直接対話し、まず大粒で味のいい、最高品質のものを分けてもらいます。しかしモノがいいだけではダメです。
といいますと?
ブッシュさん: 加工つまり、フルーツを乾燥してドライフルーツ(商品)になるまで、納得がいくまで、時間と根気を持って現地とやりとりをします。
ものすごい労力のかかる作業ですよね。
ブッシュさん: 高品質な商品、とひと口に言ってもいろいろなポイントがあります。異物が入っていないとか、大きさや甘さなど規格の満たない商品を決して混ぜないとか。お客さまがノヴァの商品を手にして当たり前に「おいしい!」と言っていただくには、そういった一つひとつの積み重ねが大切なんです。オーガニックは高い、と言われることがありますが、おいしければお客さまはまた買ってくださいます。「商品」そのものが営業、というのはそういう理由です。
鍋嶋さん: わたしたちはオーガニックであることを大事にしていますが、さらに大事にしていることが「おいしさ」。どんなに安心・安全と言っても、おいしくないと食べ続けてもらえないので、その年に収穫した最高のものを輸入するようにしているんです。
それにしても、なんでこんなすごいお店が北本に。
鍋嶋さん: 確かに「東京にお店を出したら?」ってよく言われるんですよ。(笑) でも、北本のパン屋さんから始まり世界中の生産者さんの想いを担うノヴァにとって、直営店舗の「ノヴァセレクト」がここにあるというのはとても意味のあることなんです。
どんな意味があるんですか?
鍋嶋さん: 社長であるブッシュ本人や地元のノヴァのスタッフたちが、地に足の着いたこの場所でドライフルーツの良さを伝える工夫を考え形にしていく。店舗のディスプレイや試食もそうですが、撮影をしたりスタイリングやコーディネートを考えたり、季節ごとに企画を立案したり…。ここはウェブで情報を発信していくためのプレゼンテーションの場でもあるんです。だからわたしたちは、ノヴァセレクトを「ショールーム」とも呼んでいます。
ショールーム、すてきな響きです。
鍋嶋さん: 実際、ノヴァを訪ねてこられたお客さまをご案内する機会も多いんですよ。小さなお店ですが、スタッフたちはネットショップやウェブサイト、SNSに関するさまざまな作業をこなしていますし、ここから重要な情報をたくさん発信しています。
ブッシュさん: あとは、目の届く範囲じゃないと、お店だけが独り歩きしてしまうので、わたしはやっぱり、目の届く範囲で商売をしたいんですよ。わたしは什器ひとつ取っても、工夫するのが好きなので、こうやってちょこちょこ足を運んで、手をかけていきたいんです。
ブッシュさんの熱い想いが伝わります…!
ブッシュさん: わたしは現場が好きなんです。社長ですが、実際に自ら動いていろいろやりますよ。(笑)
ドライフルーツでつくるサスティナビリティという未来へのかたち
鍋嶋さん: 最後に、もうひとつわたしたちが大切にしているのが「サスティナビリティ(=持続可能性)」です。ノヴァの企業としての責任、というか重要なテーマですね。わたしたちが信頼できる生産者さんから商品を輸入し続けていくこと、適正な価格でお客さまに商品を届け続けること。その先に、世界中に豊かな畑が広がっていって、次の世代に豊かな自然を残せたらと考えています。ウェブショップでの販売もまた、そこに繋がるひとつと捉えています。
今はそれをノヴァ自身でも実践しようということで農業法人をはじめました。まだひよっこではありますが鳥取の八頭(やず)というところで、農作放棄地で過疎化が進んでいた山の中の土地を一部借り受け、ブッシュと現地スタッフ2名で、オーガニックのラズベリーなんかを少しずつ植えています。
ブッシュさん: 次の世代に豊かな自然を残す、というのを実践してみようと、わたしたち自身も少しずつ活動を始めています。
鍋嶋さん: オーガニック業界って、海外ではすでに大きな商社さんがどんどん参入してきているんですね。わたしたちのような小さな会社は、規模の面ではかなわないかもしれませんが、そんなときにも、生産者さんとのつながりですとか、次世代への想いですとか、わたしたちにしかできないことを、ノヴァセレクトやウェブショップ、サイトなどを通じて、きちんと伝えていければいいなと思っています。
すてきなお店、おいしいナッツやドライフルーツの背景を知ることができてとても楽しかったです。ありがとうございました!
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