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グッドデザイン賞を受賞した「和ろうそく」って?滋賀・大與(だいよ)の次世代へつながる関係づくりの話

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
滋賀県高島市にある「和ろうそく 大與」さん。琵琶湖の近くで100年以上にわたり続くお店ですが、近年は現代の生活に寄り添う新商品を開発し、グッドデザイン賞も獲得されています。今回は、4代目社長の大西巧(さとし)さんに革新的な商品へ込められた想いをくわしく伺いました。

京都駅から琵琶湖線に揺られること一時間

大與さんのある近江今津駅にやってきました

5分ほど歩いて、工房兼直売所に到着!

店内で大與の4代目社長・大西巧(さとし)さんに話を伺います

そもそも「和ろうそく」って何?

ろうそくに「和」と「洋」なんて違いがあるんですか。

あります。全然ちがいます。このろうそく見ててなんか気づくことないですか?

うーん。

先に答え言っちゃうと…これ、ろうが垂れてへんでしょ。

言われてみれば。

お誕生日ケーキに使われてるのはいわゆる「西洋ろうそく」なんですけど、早く火を消さないとろうがケーキに垂れて焦ることありますやん? 「和ろうそく」は垂れにくいのが特長なんです。

へ〜。なんで垂れないんですか?

いい質問ですねー。図解しますわ。

ろうそくって、火を点けると火に近いろうから、その熱で溶けていくでしょ。それを芯が吸い上げて燃え続けるっていう仕組みになってます。
ただ「西洋ろうそく」は、胴体の直径に対して芯が細いので吸い上げたろうを燃焼しきる前にどんどん溶けていく。だから行き場を失った溶けたろうが外側にあふれて垂れてしまうんですよね。

その点、和ろうそくは胴体の直径と芯の太さが、溶けた分を全て吸い上げるっていうバランスで成り立ってるから、垂れへんのですよ。

なるほど。作り方が違うんですか?

それも違うんですけど、一番の違いは原料
一般的に「和ろうそく」は櫨(はぜ)っていう木の実からつくる植物の油を、「西洋ろうそく」はパラフィンっていう石油成分をベースにしてます。

和ろうそくの原料になる櫨の実

植物由来と化学由来。

はい。植物由来だから、煙と煤(すす)がほとんど出ないし、部屋も汚さない。

へ〜〜。

ちなみに江戸時代初期から櫨は使われていて、昭和中期にはいろんな植物の中にある油分を抽出する技術ができたんです。うちの商品も全部が櫨じゃなくて、この「色ろうそく」なんかは米ぬかの油分からろう分を抽出して作ってます。

人気商品のひとつ「色ろうそく・春夏秋冬シリーズ

クレヨンみたい…! とってもかわいいですね。

ありがとうございます。でもこういう商品を作り始めたのは、僕の代からなんですよ。

グッドデザイン賞を受賞した「お米のろうそく」

もともとはどんなろうそくを作ってきたんですか?

大與は、1914年から曽祖父・祖父・父親・僕と4代続く和ろうそく屋なんですけど、創業当時から今までお寺や仏壇用の商品をメインに作ってきてるんです。

先ほどのクレヨンみたいな「色ろうそく」は、宗教用ではなさそうですが。

特に、「○○専用」というわけではなくて、お仏壇にも使っていただいてもいいと思います。祈りの形は多様化していますから。もちろん、生活の道具として、使っていただいても。使い方は使い手に任せています。

なぜこのような商品を作ることに?

各地のお寺さんを支えている人は地域の人たちなんだけど、地方からどんどん人が少なくなってくるでしょ? すると、お寺さんにお金が集まらなくなる。そしたら、お寺さんはちょっと値の張る和ろうそくは経済的に使いにくくなってきますやん?
そんな事情もあって、市場開拓していかないと厳しいと判断したんです。

なるほど。さっきの色ろうそくの他にも新しいろうそくはありますか?

いろいろありますけど、いちおしは「お米のろうそく」ですね。これは和ろうそくが植物由来であることを、一般の消費者に向けて初めて明文化した商品なんです。

それまでの和ろうそくは、原料が植物であることを消費者にわざわざ伝えていなかったんですか?

はい。アピールはしてこなかったですね。でも僕は一般の人たちへ和ろうそくに興味を持ってもらうきっかけを作りたくて、あえて原料が「お米」であることを伝えたんです。「原料は何?」とか「どうやって作られてるの?」って言われるような現代ですし。

これは2010年に販売を始めて、2011年のグッドデザイン賞を受賞しました。しかも中小企業がつくった物の中で一番良いとされる中小企業庁長官賞っていう賞をいただけたんです。

2011年のグッドデザイン賞で「中小企業庁長官賞」を受賞

どんなところが評価につながったんですか。

当時は関東東北大震災の直後で、世間がエネルギーやデザインについて見つめ直した時期でした。
生成されるのにウン千年もかかる石油じゃなくて、自然のサイクルで手に入る植物でつくられる「持続可能なプロダクト」ってところが評価されたんだと思います。


持続可能性。

和ろうそくがこれからの社会に必要であることを確信できたし、今までの考えやこれから進んでいく方向は間違ってなかったんだって思えましたね。

デザインしてもらったもの、売るのは誰なん?

デザインといえば、商品はもちろん店舗もとてもすてきですね。

ありがとうございます。2014年くらいから「次の100年をしっかりブランディングしていこう」と決めて、デザイン面で大きくリニューアルをしたんです。

次の100年?

1914年に創業して、おかげさまで丸100年やってこれました。でも「次の100年どうやったら生き残れるんやろう?」って思ったんですね。それで2014年に「hitohito」っていうブランドを立ち上げました。

どなたにおねがいしたんですか?

「中川政七商店」さんの店舗とかを手がけているgrafっていう大阪のクリエイティブユニットに携わってもらいました。

もともとお知り合いだったんですか。

いえ、「このデザイン良いなぁ」って思って、調べて声かけさせてもらったんです。さっきの色ろうそくの箱のイラストも、同じようにしてイラストレーターさんにお願いしています。

すごく積極的ですね!

はい。とにかくまずは友だちになります。仲良くなったら「実は、こういう仕事頼みたいんですけど…」って言うようにしてます。(笑)

まずは友だちになる。

これってすごく大事なことで、親しい関係じゃないと、ズケズケ言えないじゃないですか。デザイナーさん相手だと特にそうで、「プロが良いって言ってるんやから…。」って萎縮して言えなくなったりすることありますやん? それが、仲良くなると言いやすくなるんですよね。

”まるごとお任せ”にはしないんですね。

それは絶対だめです。だって「デザインしてもらったもの、売るのは誰なん?」って話ですよ。例えば商品の細かな部分を「なんでこうしたか」って説明できるかどうか。説明できひんものだったら、愛を持って人に勧められませんやん。……というか説明できないもの作ったらあかんと思いますよ。悪やわ、そんなもん。お金の無駄!

きちんと説明できる商品になるまで、大西さんもぐいぐい入っていって。

そうですね。それで結果として商品がめっちゃ売れたら、そのデザイナーさんもめっちゃ喜びますやん? みんな幸せになる。

デザイナーさんのことまで考えてる。

はい。やっぱり仲良くなったデザイナーさんには、ずっと仕事をやり続けていってほしいですし。だから「大與さんのデザイン、どなたに頼まれたんですか?」 って聞かれるとめっちゃ嬉しいです。よろこんで教えますもん。「この人をまわりに教えたい!広めたい!」僕らもそう思ってもらえるようなろうそく屋にならなあかんと思います。

……お!もうこんな時間。工房見ます?ろうそくの作り方を教えますよ。

ありがとうございます!

ろうそくづくりの現場に潜入! レポートは後日公開します。