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ものづくりの現場から品質を伝える。革財布の老舗「山藤」のショップリニューアル秘話

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
1899年の創業以来、東京で革小物の製造・販売を行う老舗。元浅草にある本店のほか人形町や神楽坂にも店舗をかまえ、ワークショップも定期開催しています。今回はネットショップのリニューアルに至った経緯や、独自のブランディング、今後の展望などについて詳しく伺います。

元浅草にある工房兼本店にやってきました


「山藤」広報の小金丸 明子さんにお話を伺います

山藤さんは2018年、2019年と2年連続で「カラーミーショップ大賞」を受賞されましたね。改めましておめでとうございます!

ありがとうございます。
2017年にネットショップをリニューアルして、少しずつ売上が上がってきた矢先での受賞だったので、あのときは社内のみんなで本当に喜びました!

カラーミーショップはリニューアル前から使っていただいていますが、以前はどんなショップだったんでしょうか?

カラーや雰囲気など、実店舗との統一感がなかったので「本当に同じお店なの?」と思われる感じでしたね。今はロゴに山藤の屋号を使っていますが以前はそれもなくて…おしゃれな感じもなく、なんとなく親しみにくい雰囲気でした。

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ショップの全面リニューアルにあたって小金丸さんが入社されたそうですが、準備の際はどんな点にこだわりましたか?

採用面接を受けるとき人形町の店舗に足を運んだのですが、お店のカウンターにかかっていたネイビーの暖簾がすごく印象的だったんですよね。一人のお客さん目線で見ていて非常にいいなと思ったので、それをそのままサイトデザインに生かしました。

ひとつの大きなテーマとして「実店舗との統一」があったんでしょうか?

そうですね。ネットショップを見た方にまずは好印象を持っていただいて、実店舗に行ったらサイトのカラーとリンクするような暖簾がかかっている…オンラインとオフラインの間できちんと「つながり」を感じられるようにしたかったんです。
逆に、実店舗に来てくれた方がネットショップでも「いい感じじゃん」と思ってもらって、また足を運んでいただければなと。

オンとオフがしっかり統一されていると、お客さまの安心感も違いますよね。

はい。でも、あまりスタイリッシュになりすぎないようにも心がけました。
実店舗は気軽に商品に触っていただけるような雰囲気にしているので、美術館みたいにスッキリしすぎたカッコいいお店というよりは、親しみやすいショップデザインにしたくて。

白背景にスタイリッシュな写真を置いて、説明も一言だけっていうショップさんもたくさんあるじゃないですか。でも山藤はそういう感じではないなと思ったし、変わったものを作っているぶん他のお店とどう違うのか言葉でしっかり説明しなきゃいけないので。

静かでカッコいいお店というよりは、もう少しカジュアルな印象に。

そうですね。リニューアル当時はターゲット層がちょっと上の世代だったので、今より落ち着いた雰囲気だったんです。でも今は若い職人が入ってきて、スマホで見る方や女性のお客さまも増えたので、ショップの見せ方も少しずつ変わってきましたね。

「商品をしっかり説明する」とのことでしたが、山藤さんの商品紹介文はとてもスッキリしてて読みやすいですよね。

うちのお客さまの7割くらいはスマホで見てるので、サーッと流し見で把握できる程度のボリュームにしています。私自身もそうですが、1スクロールで読めないと飽きちゃいますし。

山藤さんの商品紹介文の一部

上のほうを読んでるとき、もう次の見出しが下に見えてれば「たくさん読まなくていいんだ」って少し安心するじゃないですか。私だけかもしれないけど(笑)

すごくわかります。他にもスマホからの訪問を意識したポイントはありますか?

少しでも動作を軽くするために画像サイズを最適化したのと、スマホ用のメニューを自作した点ですかね。デザインだけでなく、サイト自体の利便性を高められるよう意識しています。

スマホでのメニュー表示

カラーミーショップはHTMLやCSSを全部いじれるので、テンプレートを使っててもスマホのメニューはこんなふうに変えてみようとか、かなり自由がきくので助かってます。

ありがとうございます!


Instagramで、ものづくりの現場感を伝える

スマホといえば、Instagramの撮影も小金丸さんがされているんですか?

はい、いつも店内で撮影してます。
商品写真は、外部のカメラマンさんを呼んで撮ってもらうこともあるんですけど。

ネットでは扱っていない商品も掲載してるんですね。

そうなんです。実店舗限定の商品とかもちょこちょこ入れたりしてて。
あんまりきれいに撮りすぎるとデパートに入ってるブランドさんみたいになっちゃうので、ものづくりの現場からお届けする雰囲気を大事にしてますね。

商品紹介ばかりに偏らないよう、工場の様子や、現場で使う機械もこうしてご紹介しています。
時々お客さまから「自分の使っているアイテムもここで作られてるのかなって考えちゃいました」なんて声をいただくことがあって。商品とお客さまとのつながりだけでなく、お店や山藤のものづくりまで含めてコンテンツとして楽しんでもらえてるのかなって嬉しくなりますね。

こういう発信は工房が併設されているからこその強みですよね。……あらっ!

うちの店長、バレンシアちゃんです。
人形町と神楽坂の店舗にもそれぞれ「店長」がいるんですよ。

特製バッグを背負って超ごきげん!

かわいい! Instagramのストーリーにもよく登場してますよね。

たまにこうして出社するんですけど、完全にスタッフがこの子たちを好きすぎるんです(笑)


 

工房の中もちょこっと覗かせていただきました

「山藤」5代目社長の山本 浩司さん

おじゃまします。今はどんな作業をされているんですか?

山本さん:
これはお財布の仕上げ段階。作りたてだとコバ(切り口)がまだザラザラの状態なので、しっかりと磨いて色も入れて、中の芯が見えないようにしていきます。お店に並んでるのと比べてみたらわかると思うよ。

左側が仕上げ前、右側は完成後のお財布

本当だ。右側はしっかりと色が入ってツヤツヤしてますね。

小金丸さん:
大量生産品だと顔料やゴムのようなもので仕上げることが多いですが、時間が経つと割れてきてしまうんですよ。このお財布は「本磨き」と呼ばれる技で、艶が出るまで職人が手で磨いています。これだと割れないので長く使うことができます。
少量生産、完全国内生産のメーカーでないとなかなかここまでこだわることはできないと思います。さらにそれをメーカーがそのままお客様に売っているのでお値段も抑えられるんです。

こんなふうに昔ながらの製法にこだわっているんですけど、2,000円のお財布と比べて何が違うのかってところが一般の方には伝わりにくいんですよね。

他社との違いを伝えるために、文章や写真以外にもいろいろな取り組みをされていますよね。神楽坂のお店でのワークショップとか。

はい。神楽坂店は昨年のオープンだったのですが、店舗をレイアウトする時点でワークショップのためのスペースを作っちゃいました。

あとは店内のいたるところにミシンや刻印機などを置いたりしてます。
お客さまもなんとなく「あそこにミシンがあった」と思うだけかもしれないですけど、頭の端っこで実直なものづくりを意識していただけるようなお店を作りたいですし、それがネットショップにもうまく反映できればと思いますね。小売のお店にはできないことだと思うので。

一種の刷り込みというか。

そうですね。SNS用の写真を撮るときにも、ちょっと道具を一緒に映してみたりなんかして。

参考にしているネットショップやサイトはありますか?

同じカラーミーを使ってるお店…… 特にカラーミーショップ大賞を受賞されたところはよく見てますよ。商材は違いますが、同じメーカーさんとして KIHARA online store さんとか、今年ベストデザイン賞を受賞された 石木花 さんとか。
ああいう最新のデザインが出てくると、うちも頑張らないとなって気合いが入りますね。

もちろん、同業の国内メーカーさんもいろいろ見てます。でも、有名ブランドは撮影スタジオやカメラマンさんを自社で抱えていたりと、うちとは全く違う環境。なので、彼らができないことでうちにできることは何だろうって常に考えてます。
 

100%OEMの老舗が立ち上げた自社ブランド

山藤さんは創業120年と歴史ある会社ですが、変化を恐れずオープンな印象があります。

革新的な取り組みが好きな社長なので、彼の考えかたが反映されてるんだと思います。
若い職人たちも新しく入ってきてますし、頑なに伝統を守ろうとするよりは、自分たちの持ち味を生かしながら新しいものをどんどん作っていこうっていう社風なんですよね。

以前は100%OEMだったそうですが、自社ブランドを立ち上げたのはなぜですか?

OEMだけでは技術がどんどん失われてしまうし、どうしても海外との価格競争になってしまうので……。そういうところから脱却して、自分たちにしか生み出せないようなブランドを作っていこう、というのがきっかけでした。
昔は受注先に言われたものを作るだけだったのが、実店舗やネットショップからお客さまの声が直接聞こえるようになったことで、ものづくりへの姿勢も大きく変わったと思います。

作り手とお客さまの距離が縮まったんですね。

そうですね。直接いただいた声をもとに「じゃあここ変えようよ」って判断をすぐに下せるようになりました。OEMだとそうはいかないですよね。受注先の変更指示に従うなり許可をもらうなりしないと。1つの変更にも数カ月かかってたのを、今なら次の日から変えられるので。

自社ブランドならではの利点ですね。ご近所さんにも革新的だと言われますか?

言われますねえ。このあたりは昔から高級ブランドのOEMをやってる会社が多いんですが、そういうところの多くは入り口が「すりガラス」なんです。外から中が覗けないようになっていて。

そういえばここに来るとき、山藤さんのお店は遠くからでもすぐにわかりました。

きっとうちぐらいですね、こんなにオープンにお店をやってるのは。
革の問屋さんも近所にあるのでいつもたくさん持ってきてもらうんですけど、うちの社長は革選びにもうるさくて…「この革はキレイすぎるから持って帰って」なんて言うんですよ。

キレイな革ではダメなんですか?

「こんなキレイな革はデパートで売ればいい。うちにはもっと味のある革を持ってきて」って。問屋さんからしてみればそんな注文には慣れてないんですよ。万人に喜ばれるキレイな革をたくさん持ってきて納めるのを仕事にしてきた人たちですからね。

うちではものづくりの根本的な技術を大切にしながらも、他とはちょっと違うこだわりを込めたくて。革らしさとか革の個性とか、手で作るからこそ生まれる味わいとか、そういうところにこだわりながら売ってますね。
 

たくさんのブランドの中から「山藤」を選んでもらうために

山藤のカモフラージュ・ツリーシリーズ。独自の技術で革に樹木模様をプレスで表現している

個性的な革を使っていると、同じ商品でも一点一点異なってきますよね。

そうそう、全然違うんですよ。革本来のシワも自然な味としてぜひ楽しんでいただきたいんですけどね。実店舗のお客さまのように対面でお話したり、実物を見せながらの説明だったら簡単なんですが…ネットショップはそこが難しいところで。

革製品の特性だけでなく、お財布という商材ならではの壁や課題もあると思います。

誰かにお財布をプレゼントしようと思ったら、まず相手が嫌わないものを買いますよね。
そういうときはデパートに行って相手が知ってるブランドのものを買うのが一番ラクなんです。品質も高いからそれで十分なのに、なぜ山藤という会社からお財布を買うのか?という意味づけをこちらから積極的に与えないといけないんですよね。

なるほど。

カバンは季節や用途に合わせて変えたりしますけど、お財布ってそう何個も買わないじゃないですか。一度買ったら3年くらいは替えないものなので、皆さん絶対に失敗したくないっていう気持ちがあるんですよね。じっくり悩んで買う方が多いし、価格も安くないぶん比較検討も慎重にする。そんな中で山藤の製品を選んでもらうにはどうしたらいいのか?っていうところは、常に課題だと感じています。

これからはネットショップ上でも商品に関すること以外のコンテンツを増やしていって、山藤という会社やブランドの性格をより深く知ってもらうことがすごく重要だなと思っています。

今の目標はコンテンツ作りですか。

そうですね、コンテンツを通じて山藤を知ってもらうことですかね。
ネットを見て実店舗に来てくれるという形でも全然いいんです。ネットショップだけの売上を上げるというよりは、実店舗とネットとものづくりを重ね合わせることですべてを相乗的に高めていきたいですね。

今日はありがとうございました!