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生まれ育った福岡のために働きたい。元IT企業のエンジニアが糸島の塩屋さんをDX化!「新三郎商店 またいちの塩オンラインショップ」

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
福岡県糸島市で製塩所「工房とったん」を営む新三郎商店株式会社のネットショップ。看板商品「またいちの塩」を始め、人気商品の「しおをかけてたべるプリン」やスタッフおすすめの器、雑貨などを販売しています。
今回はシステム管理部の万野 潤二さんに、中小企業のDX化についてお話を伺いました。

「またいちの塩」って?

ショップのお名前にも入っている「またいちの塩」、またいちの由来は何ですか?

ショップ名が新三郎商店で、またいちの塩というのは作っている塩の商品名になります。またいちは代表のお父さんの名前「又一」からとったものです。

万野 潤二さん

他にも、新三郎は父方のお祖父さんの名前、運営している飲食店「ゴハンヤ イタル」 、「sumi cafe」もそれぞれ母方のお祖父さん、お祖母さんの名前が由来。すべて代表の家族の名前がつけられています。

印象に残るネーミングの秘密がお名前だったとは!
またいちの塩を作っている「工房とったん」は糸島市にありますが、糸島は製塩に向いているんですか?

糸島市は福岡市のすぐ西隣、空港から都市高速で40分もあれば着くわりには、風光明媚で海の景色も非常にきれいなところです。玄界灘のなかでも糸島半島はちょっと飛び出ていて、潮の流れがいいんですよね。

製塩所は糸島半島の突端にあるので「工房とったん」という名前です。突端の方は海流と川の水がぶつかり合って、海と山からの豊富なミネラルがいい形で混ざり合うんです。
それで、20年ほど前にここで塩を作ろうとなったそうです。

本当に突端ですね! ホームページで製塩方法を拝見しましたが、天候に左右される工程も多く時間のかかる作業で驚きました。1度の製塩でどのくらいの量がとれるんでしょうか?

わかりやすく説明すると、1Lの海水から1gの塩がとれます。

非常に少ない……!

そうなんです。1パッケージ100gの商品だと、100Lの海水を必要とします。製造工程が多い上に、最後の炒りの作業とパッケージに詰める作業はすべて手作業。大量生産のお塩より若干値が張るのは、そういった理由からです。

まさに、手塩にかけて作られているんですね。

IT企業から塩屋さんに転職した理由

万野さんは昨年の4月に入社されたそうですが、その経緯を教えていただけますか?

もともとは、エンジニアとしていくつかのIT企業でサービスを作っていて、いつかは生まれ育った福岡のために働きたいという思いがありました。
糸島はそれほど大きな街ではないので中小企業が多く、ITを使いこなしたい会社や導入したいけどうまくいかない会社がたくさんあります。自分がそのような会社に入れば、スピード感をもってIT化が進められるし、周りの企業にも広げられるのではないかと新三郎商店に入社しました。

入社して一番最初にしたことは何ですか?

ITが得意な人がほぼいない、むしろ嫌いという状況で、一番最初にSlackを導入しました。

社内で反発はありませんでしたか?

「LINEと一緒です、それでやりとりしてもらったらいいので!」って、少し嘘をついて敷居を下げました(笑)。

身近なものに置き換えて説明するのは大事ですね。

伝え方はすごく大事ですね。
今では、定年退職後に駐車場管理をされているスタッフにも使ってもらって、毎朝Slackでシフトを連絡するようになっています。シフトが流れてきたら「りょ(了解の意)」って返してくれます。

ご年配の方からの「りょ」は和みます(笑)。

意外と新しいものを使ってくれるし、楽しんでくれるんですよね。

コミュニケーションの敷居もぐっと下がりますね。

下がりましたね。うちは製塩所と飲食店とオフィスでそれぞれがバラバラに働いているのもあって、Slackが全社的なコミュニケーションにも非常にプラスになっていると思います。

わかる人が増えていくと、「こういうことはできないの?」という観点ももてるようになりますよね。

おっしゃる通りで、去年はこちらから提案していましたが、最近はスタッフ側から「こういうことはできませんか?」とか「こういうことができるんじゃないですか?」という声が上がっています。
僕は製塩所や飲食店の現場にいないので、どうしても見えないところが多かったんです。自発的に要望が上がり始めて、今は本当にいいムードになっています。

入社したばかりのころ、あるスタッフに「見た目は超アナログな塩作りの会社だけど、裏側ではめちゃくちゃIT化してて、自動化してたらおもしろいよね」と言われたんです。冗談まじりでしたが、僕はそれを100%鵜呑みにして、裏側をバリバリにIT化しようと思っています。

実はもう、裏側を実験的に自動化し始めているんです。機械学習を用いて、気候や気温がどういう状況だとプリンの売れ行きが上がる、下がる、これぐらいの在庫があれば足りる、足りないというのを出しています。
製造予想は人がある程度やっているので、まだ触りだけなんですけど、すべて自動化できたらおもしろいですよね。

おもしろいです! 廃棄も減らせますね。

ロスも減るし、売り切れて買えないという残念なこともなくなればいいなと。やれるところまでやっちゃおうと思っています。

ちなみに、地域に対しての活動も何かされていますか?

転職した時期からコロナ禍が続いており、あまりアクティブなことはできていないです。
ただ、現在の取り組みに対して糸島市役所の方が興味をもってくれて、先日ヒアリングに来てくれました。デジタル化なり中小企業の支援なり、何かしら一緒にできないかと話しました。

市役所の方にも、しっかり万野さんの活動が届いているんですね。

新三郎商店が何かおもしろいことをやっているなというのは、認知が少しづつ広がっていますね。

2日で1,000件の注文が入ったネットショップ

ネットショップも入社してすぐに、万野さんが始められたのでしょうか?

そうです。入社した3週間後にはネットショップをオープンしました。
実は、新三郎商店に入社する前にウェブディレクターをやっていた時代があって、新三郎商店株式会社のコーポレートサイトを担当したんです。そのときにスタッフから、月に100件ほど電話やメール、FAXで注文を受けていると聞いて、入社したらまずは絶対にネットショップを始めようと決めていました。

100件を人力でさばくのは大変ですよね。支払い方法も多くないのでは?

銀行振込と商品代引だけですね。受注後のやりとりは電話で、担当者への伝言は口頭か付箋という非効率な運用で、ミスも怖かったです。

また、去年の4月と5月はコロナ禍で売上が7〜8割落ちて、先行きが見えなかったことも後押しとなりました。

ネットショップを始めたときの反響はいかがでしたか?

コーポレートサイトとInstagramでの告知と、少し後に実店舗でチラシを配るというわりと地味なことをしただけでしたので、最初は1日5,6件の注文が入る程度でした。

でも、最初から注文が入るってすごいことです。

電話してでも欲しいお客さまがいらっしゃったので、もともと需要があったんでしょうね。

電話注文の方たちも、ネットショップに移行されましたか?

年配の方もいらっしゃるので、変わらず電話でも対応はしています。新規のお客さまは、ほぼネットショップを使ってくれています。

実際にネットショップを始めて、業務は効率化されましたか?

そうですね。ネットショップを始めてから、プリンが全国放送のテレビ番組で紹介されたことがあって、2日で1,000件の注文がきました。この数はネットショップがなかったら受けられなかったです。

ネットショップがあっても大変な受注数です…! お客さまの層はどのような感じですか?

6割以上が女性で、20代の方もいれば、50代、60代の方もいらっしゃいます。9割がモバイルユーザーですね。
福岡からの注文が多く、次に東京、大阪の順です。東京、大阪は飲食店さんがお塩を注文されていることが多いです。

県内での知名度が高いということですね。
ネットショップには「Amazon Pay」や「PayPay」といったID決済も導入されていますが、ユーザー層に合わせて導入されたんですか?

お客さまが注文しやすいようにと、運営側の負担を減らすためです。
銀行振込はキャンセルが発生するし入金確認も大変なんです。商品代引もまれに受取拒否をされる方がいるんですね。その代わりとして、クレジット決済に加えて、Amazon PayとPayPayを入れました。将来的に手間のかかる決済は減らしていきたいと思っています。

余談ですが、決済手段で参考にしているのは「わざわざ」さんです。わざわざさんは潔くて、クレジット決済とAmazon Payと商品代引しかないんですよ。3択にしてスタッフの負担を減らしているんだなと、勝手にイメージしています。

普通は3つに絞ってしまうのに躊躇しますが、しっかりユーザー層を研究されての選択なんでしょうね。ID決済のご利用は多いですか?

Amazon Payは思いのほか多かったですね。その前にPayPayも入れていたのですが、ID決済を入れるごとに銀行振込が減ります。クレジット決済は安定して50%以上の方が使っています。残りの割合が少しずつ、Amazon PayとPayPayに移っていますね。狙い通りの結果です。

カラーミーショップ活用術

カラーミーショップをお選びいただいた理由を教えてください。

オンラインモールに出店するのではなく、自社でネットショップをもちたかったことと、月額料金が定額であることです。販売手数料型はコストが大きくなるので。
また、ウェブディレクター時代にカラーミーショップを採用していたため、安心感もありました。

ありがとうございます。「カラーミーショップを使ってよかった」というエピソードはありますか?

遠方のお客さまにリピーターになっていただけたり、プレゼントで塩やプリンをもらった方が自分用に注文してくださったりするのが、ありがたいですね。

機能面で言うと「卸販売アプリ」は、待ってました!という感じでした。チャネルや掛け率が設定できて絶妙ですよね。卸販売アプリは商品パッケージのリニューアルに合わせて導入予定です。

スマレジ在庫連携アプリ」も、店頭とネットの在庫をスマレジで一元管理できて、非常に役立っています。

すでに2つ名前が挙がりましたが、やはりアプリストアのご活用は多いですか?

アプリストアはかなり使っていますね。
アプリ以外だと「カラーミーショップAPI」も使っています。APIを使って、Slackにデイリーやマンスリーの売上通知がくるように設定しているんです。通販部のチャンネルには、前日の受注数や未入金の注文数と経過日数なども通知しています。
APIでこういったことができるってあまり知られていなかったり、使い方がわからなかったりするので、使い方を広げていけたらと思います。

ありがとうございます。ネットショップのオープンで、トータルの注文数は増えたかと思いますが、通販業務は以前と同じ人数で対応できていますか?

そうですね。すべて3人で対応できています。
ネットショップ以外にも、電話やFAX、先方のシステムを使った卸業者さんとのやり取りと、ふるさと納税用の商品販売などもしています。また、不定期ですがイベント事や催事で注文が増えたりと、いろいろな通販動線があるんです。それでも、人を増やさずに注文数だけ伸ばすことができているので、ネットショップのメリットは大きいです。

今後の展望

これからの新三郎商店さまとネットショップが目指すところを教えてください。

直近だと、塩を入れているパッケージがプラスチック製なので、紙にリニューアルするための開発を行っています。

SDGsですね。

そうです。持続可能な塩づくりができる環境を目指して、今期からOKRでまずは20%の脱プラという目標を設定して取り組んでいます。海が汚染されていくと僕らも仕事ができなくなってしまうので、海洋プラスチック、マイクロプラスチックの問題は塩屋に直結しているんですよね。

ネットショップは実店舗の新三郎商店のネットショップという立ち位置ですが、双方の繋がりが弱いという課題があります。実店舗で見た商品が後から気になっても、ネットショップにそれがないとか。実店舗のイベントをネットショップで告知するというような関係性ができていないので、コンテンツを強化していきたいです。

あとは、ネットショップを始めてまだ1年ちょいなので、もっと認知を拡大しないといけない。ネットの広告費は一切かけていないので、これから取り組んでいった方がいいのかなと考えています。

できたばかりのネットショップで、まだ手が回っていない部分もありますよね。さらなるDX化に期待しています!

DXは行き着くとこまで進めます(笑)。

おまけ:万野さんのおすすめ

最後に、万野さんのおすすめの商品を教えていただきたいです。

塩ジンジャー」です。
この季節に工房とったんでよく売れている、またいちの塩が入ったちょっと強めのジンジャーエールです。お客さまは海を見ながら飲まれています。

夏にぴったりのおすすめをありがとうございました!

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