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手に入れたい生活のための仕事、喜んでもらいたい誰かのための商品『SAC about cookies』の商いのヒント

いつも画面越しに見ているオンラインショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
ギフトにぴったりなかわいいクッキーを販売する『SAC about cookies(サク アバウトクッキーズ)』。今回は、オーナーの桜林直子さん(@sac_ring)に、開業にいたった経緯や経営にまつわるお話を伺いました。

こだわりは、ない

渋谷区富ヶ谷にある実店舗へやってきました

桜林さんの書かれているnoteの記事で、お店は自宅のすぐそばにあると書かれていましたね。

そうそう。3年前に引っ越ししたんだけど、当時の家までここから歩いて30秒くらいかな。開業の構想段階でメインの販路はオンラインショップと決めていたので、必要最低限の面積と家賃の物件がないか、近所の不動産屋さんに相談したら薦めてくれたんです。

『SAC about cookies』はいつ開店されたんですか。

2011年の秋ですね。実店舗とオンラインショップを同時にオープンしました。

『SAC about cookies』 オーナーの桜林直子さん

オンラインショップを始めるにあたり、カラーミーショップを選んだきっかけは?

ホームページからオンラインショップへわざわざ飛ぶかたちにしたくなくて「1枚のページですぐに買える状態、だけどしっかりホームページっぽさも出せる」という条件で、選んだのを覚えています。

今でこそホームページのようなデザインのオンラインショップも多いですけど、当時はまだ少なかったですよね。

そうなんです。それで近所のWebデザイナーさんへ相談したら、いつのまにか彼が作ってくれることになって(笑) 彼はそのとき初めてのオンラインショップ作成だったんですけど「ゼロイチじゃないから、すぐできるよ!」って、パパッと作ってくれたんです。その後、あの『わざわざ』のオンラインショップも、彼が作っていて……。

あれ、その彼ってもしかして……ジョニイさん

そうそうそう! うちのお店でカスタマイズをいろいろ試して「僕、オンラインショップも作れます」って言うようになって、他のお仕事につながったみたい。(笑) そういえば、先日『わざわざ』の平田さんと飲みに行きました。平田さん、パワフルですごい人だった。

左がジョニイさん、右が平田さん。わたしたちも過去にお会いしていました

桜林さんのアウトプットにも、同じパワフルさを感じます。

あー、そのときも「すごく似てるところと全く違うところがあるね」って話したんです。

全く違うところですか?

平田さんは、パンとかソックスとか何かを作ることにこだわりがある。わたしは真逆ですね。

桜林さんの「これだけは譲れない!」というこだわりは?

ないですね。こだわりは、ないです。

取材で「こだわりない」と言い切られたのは初めてです。

夢を壊すようなことかもしれないんですけど。(笑) このお店はこだわりのなさでできています。

クッキーである理由

お店を始めるまでは、個人経営のお菓子屋さんで会社員として12年間勤めていたんですけど、わたしは「作る」と「売る」以外のあらゆる仕事を担当していました。誰かに頼まれたわけでもなく、必要だから経理も広報も人事も企画も製造管理も全部やるみたいな。

全部ですか。

そう、だから「作る人」と「売る人」がいてくれたらお店ならできる。がんばるとかやってみたいじゃなくて、できるという確証があった。 「独立したい!」みたいな考えからではなく、時間とお金を手に入れるために、手段として開業を選んだんです。

時間とお金。開業に踏み切るきっかけが、何かあったのですか?

半分の時間で、2倍稼ぐためです。

半分の時間ですか…?

わたしはシングルマザーなので、お金もだけど時間が必要と感じていて。子どもが小学校に入ったあと、毎日毎日暇そうにしていたんですよ。夏休みなんか40日もあって、この生活が6年も続くのは、子どものために良くないなって思って。そういうわけで、わたしが夏休みを長くとれて、しっかり稼げる方法ということで「半分の時間で、2倍稼ぐ」を目指すことにしました。

なるほど。開業にあたりクッキーを選んだ理由は何かあったんですか。

クッキーも、特にこだわりはない。(笑) 「ギフト」という軸は決めていたけど、正直なんでもよかった。ただ自分が唯一わかるのが菓子業界だったので、その中で商材を絞っていって。

クッキーに、こだわりがあったわけではない。

そう。チョコレートはバレンタインに向けた博打的な売り方と少量生産の品質管理のむずかしさがあったし、ケーキは材料代が高いうえに保存にスペースをとるから家賃もかかる、そのうえ残ったら捨てなくちゃいけない。そういったあらゆる方向から販売するお菓子のトーナメント戦をした結果、クッキーに。

ちょっとしたプレゼントにぴったりのかわいいクッキー

強みを考えていった末に、クッキーにたどり着いたんですね。

そうそう。「やりたいからクッキー」じゃなくて「クッキーが勝ち抜いた」という感じ。もちろん「箱をあけたときに笑顔になるようなクッキーがあったらすてき!」というきれいな理由もあるんだけど、現実的な理由がたくさんあった。クッキーは焼く前はシート状だから、設備も場所も少なくて大丈夫で家賃が安く済んだり。焼いたあとは常温で長期保存できるからロスが少なかったり。ギフトとしての見た目と費用的な効率が、ぴったりだった。

売り方についても最初から計画的に考えていましたか。

売り方も決めていました。大手メーカーみたいなブランドとしての知名度はないし、どんなに作ったものがおいしくても食べないと分からないから、いきなり買いづらい。ブランドや味だけで勝負できないなら、全国のかわいいものが好きな人たちに選んでもらえるクッキーを売ろうと決めました。

手段はオンラインショップで、ターゲットは全国のかわいいものが好きな人たち。

そうです。オンラインショップとなると、写真ひとつで全国の人に買ってもらわなくちゃいけないから、まず発信したのは、ただのクッキーじゃなくてアイシングクッキー。アイシングクッキーを取り扱うお店は、当時はメーカーか個人の両極端しかなかったから、その隙間が空いていることに気がついて「おいしくてかわいい気軽な値段のアイシングクッキー」に狙いを定めました。

なるほど。市場の「ちょうどいい隙間」が空いていたのは、なぜでしょう。

アイシングクッキー業界でいうと、いい意味でデザインを諦めきれる人が、少ないんだと思う。作品としてのこだわりを捨てられない。わたし自身が職人ではなかったので、安定して生産できてお客さんが喜ぶ価格の商品にするために、作品としてのこだわりに諦めをつけられたのが、よかったのかなと。

購入する人の需要に応えるための諦めは、商売のうえでとても大切ですね。

目があう人にしか売らない

実際に売り始めた当初、反応はどうでしたか?

最初は受注生産も含めて「なんでもやります!」というかんじ。練習になるから全部とりあえず引き受けて。(笑) そのうちお客さんが写真を撮って、SNSにアップしてくれるようになって、徐々にお店の認知が広がっていきました。

写真と口コミで広がっていったんですね。開業以降、戦略を変えたことは?

商品もお店もそんなに変えてないけど、あえていうなら3年くらい前から、お客さんを集めるよりも既にお客さんが集まっているところに商品を持って行こうと決めて、コーヒーショップを中心にクッキーを卸しているかな。『ONIBUS COFFEE(オニバス コーヒー)』さんとか。

おお! 以前に取材しました。

あ、記事読みました! オーナーの篤史くん、友だちなんです。オニバスに限らず、コーヒーショップって、ちょっとした甘いものを置くのに困っているお店が多いんです。自分たちでは作れないし、卸しで探すと値段が高い。そういうお店に、うちのクッキーを置いてもらって、そこのお客さんに買ってもらうと、お互い幸せな関係というか。

過去に取材したの記事を見返してみると、記事中に『SAC about cookies』さんのクッキーが!

なるほど。コーヒーショップ以外にも卸しをしていますか?

最近は全国の雑貨店にも卸しています。雑貨店がライフスタイルの文脈で食品を置き始めたときに、バイヤーさんが「どうやって選んだらいいか分からない」って悩んでいるのを聞いて。それで去年の秋に小さな展示会に出て、それに合わせて新たにクッキーを作ったんです。雑貨店の場合、味はもちろんですけど陳列したときの見た目を重視して選んでくれるので、その場ですぐに仕入れを決めてくれる人もいました。

こちらが展示会に合わせて作られたレモンクッキー

コーヒーショップや雑貨店など卸しの販路を増やして、お店の認知を広めていったんですね。

そうですね。でも、無理やりがんばってお客さんを増やすことはしたくなくて、やっぱり自分たちとちゃんと目が合っていて、お互いが望みあう同士で売買をしたい。こっちから大きく宣伝して、誰が来るか分からないような売り方はやりたくない。

たとえ生産能力があがって、大型モールに声をかけられても?

うん、相手が望むならいいんですけど、そもそも大きいところとは、あまり目があう気がしないな。(笑)

作ったら売れるなんてミラクルはない

オリジナルブランドで、なかなか売れない人に共通していることって何だと思いますか?

そうだなー「作りたい」「売りたい」の想いが強すぎるのかもしれない誰が喜ぶかが見えていない状態で作ったものを売るとなると、しんどい

誰のための商品か見えないまま売るのは、やめたほうがよい。

そう。前の会社にいたときも、そういうこと考えることがあった。入社したての職人さんが、最初から「将来お店をやりたいです!」って言うんだけど、「お菓子を作るのとお店をやるのは、全く違うことだけど、大丈夫?」って思ってた。(笑)

厳しいですね。

うん。でもそういう人たちのほとんどが「おいしいものを作れたら売れる」と思ってたから。一番大事な「誰が売るの?」「誰が買うの?」がすっぽり抜けてる。実際は、作り続けるだけで何年後かにお店が出せるみたいなミラクルなんてないから。お店をやりたいなら、作ること以外にも、やらなくちゃいけないこと、見なくちゃいけないことが山ほどある。それなのに、その仕事は他の誰かがやってくれると期待してる。

なるほど。これからお店を始められる人にアドバイスするとしたら、どんなことがありますか。

たいていの人は何かを始めることを目標にしちゃうけど、始めること自体にはそんなに意味がなくて、お金を払えば誰でもできることだと思う。一番大事なのは、その先の生活のことで、「毎日、朝起きてから寝るまで、誰とどんな時間を過ごしたいか?」。それをするために何をするかを考えないと、開業してから「こんなに大変だと思わなかった!」ってなると思う。

これは、小さいお店の開業あるあるなんですけど、2年くらいして体を壊して閉じてしまうパターン。キャパやコストのせいで、自分が寝ないで働くか、常に売り切れ状態になるかの2択で、無理して続けた結果、すぐに閉じてしまう。でもそれって、全く幸せじゃないよね。

開店しても、その先続かないなら幸せと言い切れないですよね。

うん。自分がこれからどういう生活をしたいか、それをかなえるために何を目指せばいいかわかっていないなら、開店しないほうがいいこともある。これから始める人に関しては、できるだけ始める前にしっかり考えてほしい。後から直すのは大変だから

きっかけを投げかける

桜林さんのnote、かなり話題になっていますね。

noteを書き出したときは人を集める意図はなくて。むしろ、誰だかバレないようにお店の名前も出さずに書いてたんだけど……。

始めたきっかけは?

最初は「前の会社で自分が何をしていたか分からない」っていうモヤモヤと向き合うために「何をしてどう役に立ってきたのか」を、なんなら捨てる気持ちで書き始めた。

誰かに読んでもらいたい、よりも自分の整理のために書いている?

本当にそう。自分の書いたものを読み返すことでわかることが多かったから、悪くないなーって。見られなくても見られていても、書くことはいいなって思った。

言われてみればオンラインショップには、桜林さんの名前やnoteのアカウントは特に表に出していないんですね。

そうそう。お店の宣伝とかSNSには、出ないようにしてる。noteに書いている内容も、あまり関係ないので。でも逆にnoteから『SAC about cookies』にたどりつく人は、一定数いて。クッキーやお店のことを書いていなくても、記事を書いたあとに少しだけ売上が上がったり。わたしの場合は読みものの先にお店があるから、オンラインショップでの購入が、ひとつの応援の仕方なのかもしれない。ごく一部だけど、わたしに興味を持って応援してくれている人がいるんだなっていうのは、最近実感しています。

もともと文章を書くのは好きだったんですか?

いや、全く書いたことない。エッセイとかコラムとか記事とか、差が分からないというか。今も自分の書いているものが何なのかわかってない。(笑) 誰も見ていないと思ってるし、誰にも頼まれず勝手に書いて出しているから、そんなに自分の文に対して責任も有益な価値もあまり感じてない。(笑)

なるほど。

そもそも最近まで、編集って仕事のこと知らなくて、編集の仕事をされている方と偶然お話したときに、失礼だとも思わず「編集って何?」って聞いたら「サクちゃん、もうやっているよね?」って教えてくれて。(笑) たしかによく考えてみたら、お店屋さんは編集でしかなくて。

お店屋さんは編集と同じ。

うん。どんな場所で何を誰にどれくらい売るか、どういう見た目にするか考えて……本や雑誌も同じと思うと「なるほど、もうやってたわー」って思った。(笑) さらに言うと、子育てもまさに編集だなって。子どものいいところをどうやって生かしてあげたらいいか考えたり。たとえば、絵を描く才能だったら、教室に行ったりコンクールに出て競い合うのは向いてないだろうなと思ったとき「こっちのほうがいいんじゃない?」って場所を提案してみる。

娘さんのあーちんは『ほぼ日』でずっと連載をされてきましたね。

そうそう。幸せなことに『ほぼ日』さんと目があって。子育てにおいて、才能自体は彼女自身のものだけど、「どこで、どうやって生かして、形にするか?」みたいなこと考えて編集するのは、得意だったかもしれないなって思った。

編集が得意。桜林さんが、今興味あることはありますか?

何かに夢中になるっていうことも、ないんですよね。何に興味があるかなあ……。(笑) あ、こないだ書いた「夢組と叶え組」の記事の反響がまさにそうなんですけど、ヒントを投げて、みんながちょっと考えて、自分のことがなんとなくちょっとわかるのが、テンションあがるかも。(笑)

今後挑戦してみたいことは?

うーん。自分自身が何か新しくできるようになりたいみたいな気持ちは全くないかな。

挑戦に対して、そこまで興味がない。

うん。今のところは『SAC about cookies』を続けるのがいいんですけど、いつでも辞めたいという気持ちもある。「ずっとやりたい!」と「明日辞めたい!」が半々みたいな。(笑) わたしよりやりたい人がいたらやってほしいけど、今のところはわたしが一番うまくできるからやっているだけ。それもあって「将来もっとこうしたい!ああしたい!」っていうのは全然ないです。

今が最初に描いた理想と近いからこその回答ですね……! 今日はお話をありがとうございました。

今回ご紹介したショップ
SAC about cookies
「笑うように、踊るように、旅するように」をコンセプトに、ギフトにぴったりなアイシングクッキーを販売するお店。
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