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EC運営経験ゼロから商品数8,000種類以上へ成長!布の通販サイト「nunocoto」が業界の掟を破る理由

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
スタイやパンツなど、ベビー・キッズアイテムの初心者向け手作りキットを販売するネットショップ。現在はデザイナーズファブリック(布)のお店「nunocoto fabric」の運営も行っています。今回は両ショップの立ち上げと運営に携わる小宮 薫さんに、サービス立ち上げの経緯やビジネスモデル、コロナ禍で受けた影響などについてお話を伺いました。

「手作りって楽しい」の入口的な存在でありたい

「nunocoto」の事業を始めたきっかけを教えてください。

私が産休に入っているとき、社内のディレクターから声をかけてもらったのが始まりです。そのディレクターも同じくママだったこともあり「ベビーとその親御さんに向けた何か新しいサービスを一緒にやろう」と。

産後すぐの親御さんって、毎日毎日子育てをしているうちに自己肯定感がだんだん薄れてきて「私は今日なにを残せたんだろう?」とむなしくなってしまうこともあると思うんです。もちろん、赤ちゃんが元気でいてくれることが一番の成果ではあるんですけど、それでも“昨日から一歩進んだ”っていう目に見える励ましの材料が欲しくなる時期。そんなとき、何かをつくるという体験ができると、心の持ちようがまったく違ってくるんですよね。

この時期の親御さんにとって「手作りをする」って非常にいい体験だな、と私も実感していたので、子育ての負担にならない程度に手作りを後押しできるものを作れないかと考えました。個人的にも素材としての布が好きだったこともあって、布での手作りキットを販売してみようと。そんな流れで自然とサービス内容が決まっていきました。

運営母体である株式会社アイ・ビー・アイさんは、もともとWebコンテンツを提供している会社ですよね。そのアイデアを提案したときの社内の反応はいかがでしたか。

おっしゃるとおり事業としては未知数でした。ECサイト運営も初めてだったのでかなり挑戦的だったと思います。ただ、うちは社員のやりたい気持ちを優先する会社なので「やりたいなら、やってみて」という声に後押しされ、最小限の規模からではありましたが、勢いで立ち上げることができました。

nunocotoさんのキットは、届いた瞬間から手作りを始められるのが本当に魅力的ですよね。自分で一から材料を揃えるとなると、使わないものまで買ってしまったりするので。

子育てで忙しい親御さんにとっては、届いてすぐに作れることが一番ストレスフリーなんです。自分で材料を買ったはいいけど分量が多すぎて困っちゃうこともよくありますからね。

正直、うちとしては最初の1回だけキットを買っていただければそれでよくて。nunocotoのキットで味わえる「自分にも作れた!手作りって楽しい!」というポジティブな感覚をお土産にして、今度は別の生地屋さんを覗いていただくのもいいですし。とにかく手作りを好きになってもらえるのが一番嬉しいことなので、nunocotoはその入口的な存在でありたいです。

手作り好きの人が増えれば業界も自然と盛り上がりますよね。ところで「カラーミーショップ」でネットショップを始めたのはどういった理由でしょうか?

当時ネットショップの準備を進めていたディレクターが「北欧、暮らしの道具店」(※)の方とたまたま知り合いだったんですよ。北欧さんはまさにスタートアップみたいな規模感で、当時からとても楽しいショップを運営されていたので、彼らを参考に「ちょっと今度どこのショッピングカート使ってるか聞いてみる」っていう感じだったと聞いています。

実際使ってみると受注発送のオペレーションも快適ですし、デザインも応用を効かせやすいのが嬉しかったです。うちは当初からWordPressを使って運営する予定だったので、WordPressとの相性のよさも確認した上でカラーミーさんを選びました。

※ 「カラーミーショップ大賞」初代大賞ショップ。北欧雑貨やオリジナル商品ブランドのアイテムが揃う人気店。

ありがとうございます。ネットショップを運営されていて嬉しい瞬間はどんなときでしょうか?

たくさんありすぎて絞るのが難しいんですが、一つ挙げるなら、たくさんの方にショップを知ってもらえることです。実店舗をされている方たちも今はSNSで積極的に発信されていますが、SNSで見つけた商品をそのままネットで購入できるというのは大きいなと感じます。「欲しい!」と思ったその温度感のまま購入の喜びまで提供できるのは、ネットショップならではの強みですよね。

生地業界の慣習にメスを。ネットベンチャーならではの挑戦

今は自社で布をプリントされているそうですが、立ち上げ当初はどのようにしてキットを作っていたのでしょうか?

自社で布を作るようになったのは立ち上げ後しばらく経ってからです。立ち上げ当初は日暮里(※)の生地屋さんに出向いて、一枚一枚触りながら気に入った布を仕入れてキット化していました。

※ 東京都荒川区にある日本有数の繊維街。生地問屋をはじめ手芸材料を扱う店が軒を連ねる。

立ち上げ当時のキット

一から布を探すとなるとかなり手間がかかりそうですね。

はい。しかもワンシーズン前の布ってすぐ廃盤になってしまうんですよ、それがいわゆる業界のスタンダードとされているらしくて。せっかく選んだ布から作ったキットも、メーカーさんが「もう作りません」と言えば商品としての寿命がそこで終わってしまう。それってすごく切ないですし、かけた工数に見合わないうえ粗利も少ないという問題があったので、ここをクリアするために「オリジナルの布をデザインする」という発想に至りました。

なるほど、そういう経緯が……。たしかに、お気に入りの布って必ずまた買いたくなるときが来ますもんね。

そうなんです。せっかくうちは生地業界では新入りなので、慣習にとらわれず、やったことのないことをやろうという気概は常にありますね。

オリジナルの布を作り始めたのはサービス開始の翌年ごろからですが、当初プリントはすべて外注していました。ただ、それだとやはりコストがかかって販売価格を上げざるを得ないという問題があったので、その後自社プリントへと体制を切り替えて、今に至ります。

現在は手作りキットのお店「nunocoto」のほか、オリジナル布や型紙のお店「nunocoto fabric」も運営されていますね。2つ目のショップを立ち上げたのはなぜですか?

自社プリントに切り替えるタイミングと、ターゲット層を広げるタイミングがたまたま一致したのがきっかけです。
立ち上げ当初のnunocotoは、マタニティ期~3歳くらいまでの子どもの親御さんがターゲット。その後入園・入学グッズも徐々に増やして今は6歳くらいまで対応していますが、これ以上はなかなか広げられないので、子育て世代以外にもターゲットを広げる目的でnunocoto fabricを立ち上げました。

nunocotoを数年間運営してみて、世の中には想像以上に手作り好きな人が多いことを知り、デザインのいい布を出せば売れるという手応えが感じられたことも理由としては大きいですね。

新たに立ち上げたショップ「nunocoto fabric」

現在は何種類くらいの商品を扱っていますか?

nunocotoのほうはメインのキットが200点、商品点数としては309点。nunocoto fabricは日々新しいデザインを追加していて、今は約1,600デザインです。さらに各柄を5種類の生地から選べるので、選択肢としては8,000種類くらいでしょうか。

すごい……自社プリントでなければ管理しきれないほどの商品数ですね。2つのショップの棲み分け、コンセプトを教えてください。

nunocotoはわかりやすく初心者向けに、簡単で楽しいキットであることを前面に打ち出しています。初めてのソーイングは出産・子育てのタイミングが多いと思うので、「時間に余裕はないけど子どもに何か作ってあげたい」という新しく芽生えた気持ちに温かく応えられるショップであることを目指しています。

fabricのほうはそれよりもターゲット層が広いので、布全般の楽しさを広めたいという思いで運営しています。洋服はもちろんインテリアや布小物など、布で作ったものに囲まれる毎日の喜び、ワクワク感が伝えられればと考えています。

掟破りのスタンス「商用利用OK」を決めた理由

現在扱っているオリジナル布のデザイナーさんはどのように集めているのでしょうか?

「この人に頼みたい」と感じたプロのテキスタイルデザイナーさんやイラストレーターさんに決め打ちでアプローチして、うちのコンセプトにご賛同いただけたら参加してもらう、という流れです。

デザイン報酬は完全マージン制にしています。月ごとに売れたぶんがそのままデザイナーさんの収入になる仕組み。そうすることで皆さんすごくモチベーションがアップして、毎月売上報告をお届けするたびに「こういう布が売れるんですね」「じゃあ次はこんな柄を作ってみます」と次のデザインへの意欲も高まってもらえるのかなと。一緒になってチャレンジしている感覚だから、発売してすぐに売れ行きが伸びると「この柄めちゃくちゃ人気ですよ!やりましたね」と報告しながら一緒になって盛大に喜びます(笑)この瞬間が最高に楽しいです。

売上以外にもデザイナーさんに還元できる情報があるのがいいですね!

はい。しかも一度デザインを納品いただけば、ショップが続く限り、毎月報酬が発生することになりますので。おこがましいですけど、デザイナーさんがデザインに専念できるよう、そのための安定した収入源になってもらえたらいいなと思っています。

新商品はデザイナーさんの好きなタイミングで作られるんですか? それとも「毎月何商品作ってください」といった契約を?

納品数に関してはほとんどデザイナーさんにおまかせですね。スローペースな方もいれば、毎月10点くらい納品してくれる方もいらっしゃいます。そこらへんもそれぞれその方にお任せという感じです。

なるほど。お客さまからは見えない裏側でも、すごくおもしろいビジネスの仕組みができあがっているんですね。

そうなんです。素敵なデザインの布が生まれることで、お客さまは今までにない生地や商品を手に入れられてハッピー。私たちは売上が上がってハッピー。デザイナーさんは収入が増えてハッピー。こうして三者それぞれがハッピーになれるのが一番いいことなので、“対お客さま”と“対デザイナーさん”をなんとかうまく繋げられないか?といつも考えています。

いわゆる「売れ線」を教えることで、デザイナーさんとの間に改善のサイクルが生まれているのも素敵です。

最近は、nunocoto fabricにデザイナーとして参加していることが、デザイナーさんにとっても嬉しいこと、あるいは経歴の一つになってくれているのかなと感じます。今後さらにそれが大きくなってくれたら私たちとしてもありがたいですし、「nunocotoさんでデザインしていたら他の仕事にも繋がった」っていう声もしばしばいただきます。そういうのは嬉しいですね、やっぱり。

nunocoto fabricの布は商用利用もOKだそうですが、業界では珍しいスタイルですよね。

「この事業をやるなら商用利用はOKにする」とは最初から決めていました。
たとえばお孫さんにお洋服をいっぱい作ってあげるおばあちゃんたちは多いと思うんですが、手作りをする人たちは、きっと「作ること」自体が楽しいから、できればたくさん手を動かしたいのだろうなあと。でも作ったものを自分の身の回りだけで消費するのには限りがあるじゃないですか。

そうですね。

せっかく作ったものを使ってくれる人がいないのは、作り手にとってもきれいに仕上がった服にとっても寂しい話ですよね。それなら「販売して誰かの手に届く」という出口があったほうが絶対にいいんです。でも販売したいけど布のデザインの権利がガチガチに厳しくて難しい……という声が今の世の中はすごく多いですよね。なのでどうせゼロから事業を立ち上げるならそこはOKにしてしまおうと思いました。デザイナーさんにも、参加していただく条件としてあらかじめその点はお伝えしています。

いわゆる有名ブランドさんはほとんどが布の商用利用NGなんですよね。

そうなんです。なので賛同してくださるデザイナーさんがいるのかどうかは挑戦でもありましたが、ポジティブなお返事をくださる方がほとんどでした。それどころか多くのデザイナーさんは「私もそうしたほうがいいと思っていました」とまで言ってくださるので、今のところこの方向で間違ってないのかなと思います。

今はハンドメイドの販路も多いので、商用利用がOKならどんどん作って販売できますね。

これまでは「かわいい布=商用利用NG」が暗黙の了解でしたからね。
見てくれた人の「かわいい!」っていう反応が皆さんにとっては一番のモチベーションアップだと思うんですけど、そこにプラスして収入も得られればもっともっと嬉しいはず。なのでどんどん作ってどんどん売ることで、嬉しい気持ちをさらに高めてほしいです。

私自身、ハンドメイドサイトなどで「これって商用利用不可でしたよね?ダメなのに販売してるんですか?」みたいなユーザー同士のやりとりを時々目にして切ない気持ちになっていた一人なので、nunocoto fabricの布ならOKだからどんどん売っていいんだよ!と作り手の皆さんに伝えていきたいです。

商品写真は“作られた感”と“リアルさ”の半々で

コロナ禍での影響はいかがでしたか?

特にnunocoto fabricのほうは、マスク不足の時期にかなり売上が伸びました。あのときは他の生地屋さんでも「発送は1カ月待ちです」とか「売れすぎて在庫がないのでネットショップを一時的にクローズします」っていうお知らせをよく見かけました。
実際うちもネットショップの受付時間を泣く泣く制限せざるを得ませんでした。もし24時間オープンしたままだったら、布の製造・発送が追いつかず大変なことになっていたと思います。

発送作業やお問い合わせ対応も大変だったのでは……。

そうですね。ちょうどテレワークに切り替えたタイミングでもあったので、出社できる人には全員手伝ってもらう形でみんなで発送作業をしてました。

お問い合わせ対応といえば、あの時期はマスクの型紙に関する質問が本当に多かったです。
公民館や保育園、接骨院、美容室とか、少しでも人が集まる場所からのお問い合わせが特に殺到しましたね。「この型紙で作ったマスク、販売していいんですか?」「本当にいいんですか?」っていう控えめな文体のメールがとにかくたくさん(笑)。お問い合わせも不要ですからどんどん作って売ってください!っていう文言を型紙配布ページにも載せたくらいです。

他のショップでは「うちの型紙から作ったアイテムは配布・販売NG」が当たり前になっていますもんね。最近は落ち着いてきましたか?

そうですね。ベースの売上は2019年より断然上がりましたが、今はもうマスクも十分流通しているのでああいう猛烈な売れ方はしてないですね。
Instagramを見ていると、特にハンドメイド作家さんたちの間でマスクをきっかけにうちを知ってくださった方が多いようで、その方々がリピートしてくださることで継続的な売上アップに繋がっているのかなと思います。うちは自社プリントのおかげで品切れがないので、今後ハンドメイド作家の皆さんにも「ここならいつでも布が買える」と信頼していただけたら嬉しいです。

ちなみに、先ほど同業者さんのお話が少し出ましたが、日頃運営の参考にしているショップはありますか?

同業者さんのネットショップもたまに見るんですけど、「参考にする」っていう視点ではあまり見てないですね。運営の参考にするのは、むしろ暮らし全般に関するアイテムを扱うショップさんが多いです。たとえばうつわ屋さんとか、キッチン道具のお店とか。
うちは素材としての布を売ってはいますが、最終的には「布で作ったものに囲まれる暮らし」をイメージできるお店でありたいので、そういった意味でも暮らしのアイテムを扱っているショップさんのほうが参考になるなと思います。

ショップに掲載されている商品写真を見ていても、どこか「暮らし」を連想させるような風景が多いですよね。

ネットショップにとって写真はもっとも大切です。実物のサイズ感や柄の大きさ、生地の質感がわかるようにしつつ、使うシーンが想像できるようなスタイリングをして撮ることが多いです。

おうちの中での写真も多いですが、これはスタッフさんのご自宅で?

そうですね。布の撮影はオフィスで毎日撮影していますが、作り方コンテンツは、スタッフの自宅で撮影することが多いです。モデルもスタッフ同士で撮り合ったり、身近な家族だったり。
布で作られたものって、身にまとったり持ち歩いたりすることが多いものなので、なるべくそのイメージに近いロケーションで撮るのが大事だと思ってて。“作られた感”と“リアルさ”がちょうど半々くらいで1枚の写真に収まるようには意識しています。

ショップを見ているだけで、理想の暮らしへの憧れをかきたてられる理由がわかった気がします。最後に、nunocoto・nunocoto fabricの今後の目標を教えていただけますか?

「生地を買うならnunocoto fabric」、そんなふうに浸透してもらえたら嬉しいですが、知名度ではどうしてもブランドさんには勝てないので、それよりは初めて手作りをする人に「おしゃれな生地がたくさんあるし、気軽に買えそうだからここがいいかな」と最初に選んでいただけるようなお店になれたらと思っています。ターゲット層はあえて絞らず、購入ハードルの低いショップとして、手芸好きの方が日本一多く集まる場所にしていきたいです。nunocotoのほうも常に新陳代謝を繰り返しながら、マタニティの方や乳幼児の親御さんが最初に見るようなサイトにしていければと思っています。

布にはもっとたくさんの可能性があるはずなので、素材自体のよさとオリジナルプリントの技術を組み合わせて、今後もどんどん新しいことを仕掛けていきたいですね。2021年はこれまでやってこなかった新企画をいろいろ出す予定なので、ぜひ楽しみにしていてほしいです。

今日はありがとうございました!

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