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旅先の中国で食べた小籠包の衝撃を届けたい! 毎日進化し続ける焼小籠包のお店「樹苞」の話

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
東京・六町にある焼小籠包と餃子のお店「樹苞(きぼう)」さん。スープがあふれ出すうまみたっぷりな焼小籠包の秘密と、店主・石黒貴士さんのお店と料理に対する情熱について詳しく迫ります。

屋台から実店舗へ、六町の住宅街で営む焼小籠包のお店。

樹苞さんを訪ねて六町にやってきました。

お店の名前「樹苞(きぼう)」見慣れない漢字ですが、どんな意味があるんでしょう?

僕が木が好きなので「」っていう漢字を入れたいなっていうのと、包むに草冠の「」っていう漢字には「贈り物」っていう意味があって、字画も良かったのでこの店名にしました。

変わった名前なので、頭にすごく残りやすいです!

お話を伺ったのは店主・石黒貴士さん。

お店をここ、六町で開店された理由はありますか。

ここは当時、北千住での焼小籠包屋台販売時の仕込み場所として使っていて、契約の問題で屋台販売ができなくなったことを機にお店にしたんです。

もともとは、屋台で販売されていたんですか。

はい! 今は餃子もメニューにあるんですけど、当時のメニューは焼小籠包だけだったので、屋台で一本勝負もできるかなと。それに最初は「大掛かりにお金をかけず、とにかく小さくスタートしよう!」ということで実店舗ではなく屋台からスタートしたんです。

そうだったんですね。当時大変だったことや印象深いことはありますか?

冷蔵設備がないので、クーラーボックスにたくさん保冷剤を入れて冷蔵庫代わりにしていたんです。焼小龍包のスープの風味は温度にデリケートなので管理がすごく大変でしたね。
味が変わらないようにいろいろ試行錯誤していました。

屋台営業時代の樹苞さん。

夏は暑くて大変そうですね…! 当時は何人で営業されていたんですか?

屋台のころは僕を含めて3人でやっていました。

今は何人で営業されているんですか?

今は女性2人、男性3人の同世代の仲間たちと一緒に作っています。実は、そのうちの一人は僕の弟なんです。

弟さんですか!弟さんは、もともと料理のお仕事を…?

いえ(笑)もとは施工の仕事をしていたんですけど。

弟の石黒裕士さん。とてもいい笑顔です。

あれ!(笑)

屋台をやめて2015年に実店舗を起ちあげたとき、想像以上にたくさんお客さんが来てくださったうえ、そのタイミングで僕たちに子供も生まれて。あまりにも大忙しで、ちょっとパニックになったんです。(笑)

ほうほう。

「さすがに子どもを背負いながらやるのはやっぱり大変だわー」ってとっさに弟に電話して「手伝ってくんない?」って声かけてから今にいたります。(笑)

弟さん、巻き込まれて今に至っているんですね!(笑)

世界半周旅の最後に訪れた衝撃、焼小籠包との出会い。

石黒さんご自身は開店前、どんなお仕事をされていたんですか?

僕はデザインの学校を出たあとデザインの仕事を少しやっていたんです。

おお。ではあの看板のイラスト、あれは石黒さんが描かれたのですか…?

いえいえ(笑)あれはですね、友達に作ってもらいました。

とってもかわいい焼小籠包のキャラクター。

そうなんですね。デザインのお仕事のあとはどうなさったんですか?

その仕事は1年半ほどでやめて、そのあと半年ぐらい世界半周旅行をしたんです。

世界半周旅行!

だいたい10年前かな、僕が20歳ぐらいの時です。ヨーロッパからタイ、ラオス…旅の最後、中国で泊まっていた安宿の近くに小籠包屋さんがあって、僕はそこで初めて小龍包を食べたんです。

旅行時、ラオスのメコン川での1枚。

本場中国で初めて小籠包を食べたんですね。

そうなんです。それまで「小籠包」って名前ぐらいは聞いたことあったんですけど「シュウマイとか餃子的なものかな〜」と思っていたんですね。
でも、実際に食べたら自分の好きな要素が詰まってて、めちゃくちゃおいしかったんです。

2007年、旅先の上海。

めちゃくちゃですか。

小籠包って中に肉汁が入っているじゃないですか。あれがやっぱり衝撃的で。
「ウッワ!!ウンマーーー!」みたいな。単純なんですけど(笑)

小籠包を初めて食べた時を思い出して笑顔になる石黒さん。

食べた後すぐに「あ…自分これでお店やりたいな」って思い立って、それから修行の道に入って、ずーっと焼小籠包と一緒です(笑)

それまで料理店をやるつもりは…

全然なかったですね。でも食べた瞬間、心動かされました。

世界半周もしていたら、他国でもおいしいものをたくさん食べてこられたと思うのですが…?

そうですね。ただ当時そんなに高い料理を食べるお金がなかったので、貧乏旅行の僕にも食べられるおいしい屋台料理が小籠包だったんですね。

あとはやっぱり運もよかったです。中国って醤油を使う文化があって、料理を口にした瞬間「あっ、懐かしい!」って感じたんです。
旅の最後っていうタイミングと料理自体の懐かしいおいしさが重なって、衝撃になったんでしょうね。

旅の最後にたどりついた「馴染み深い味」が石黒さんの心を動かしたんですね。

「三成製作、七成加温」仕込み3割、火の入れ方で7割決まる。

「焼小籠包でお店を始めたい!」と決めてからはどうされたんですか?

日本に戻ってから、自分の出身地・名古屋の小籠包屋さんで半年ぐらい働いたんですけど、すぐに学べることの限界がきました。

限界というと…?

日本の小籠包屋さんの多くは、上海から来た点心師っていう職人さんに小籠包を作ってもらうことが多いんです。
でも、その方に「作りかたを教えてください」って言っても、なかなか教えてもらえないものなので。

料理人にとってレシピは企業秘密のようなものですもんね…。

そうなんです。 ただレシピは教えてもらえないけれど、勤めていたお店の点心師さんが中国へ帰るときに同行して、その人の務める中国のお店で修行することにしたんです。

なるほど。日本で学べることの限界があるなら、本場へ行ってしまえ!と。

はい。そこでの修行体験や日本で数店舗経た経験が、今のベースになっています。

そうして習得したレシピ、どれくらいの時間をかけて作ってるんでしょう。

販売まで3日かかります。

3日もかかるんですか!

そうなんです。1日目がスープを作る日で、豚皮を4時間ぐらい煮込みます。これを冷蔵庫で1日寝かすと、ゼラチン質のスープがプヨプヨのゼリー状になるんです。それをミンチにして、次の日に餡を作るんですね。

3日かけて作った餡を優しい手つきで包む。

2日目でようやく中身ができあがるんですね。

いえ、ここでひき肉とスープを混ぜて、さらに1晩寝かせます。
3日目に完成した餡を練って薄く伸ばした皮で包んだらできあがりです。

ちなみに皮はどんなこだわりがあるんですか?

皮は、天気とか湿度で全然変わってきちゃうんですよね。だからその都度、ここ(冷蔵庫)に書いてあるんですけど…

6月22日(取材日)の時の分量も細かく設定されていました。

日ごとに数グラム単位で違うんですね。

そうですね。例えば今は6月なので、去年の6月のレシピを参考にして…

記録をとっていたりしてるんですか?

記録はずっととっています。

使用する粉の分量を記録しているノート。とても細かい。

小籠包は最後に皮を集めるんですよ。なので粉の量を調節せずに厚くなると食べたときに、モサッとしてダマっぽくなっちゃうので、薄いけど破れないようにしなくちゃいけないんです。

絶妙なバランスなんですね!

包み終わったら、ようやく焼けるようになると。この鍋で焼くんですか?

そうです、この焼小籠包用の鍋で焼きます。上海の鍋はこれよりずっと大きくて80個くらい一度に焼けてしまうので、特注して作ってもらいました。これに40個ほど並べて焼きます。

上海の焼小籠包と同じように焼くことができる特注の鍋。

40個も!それでも小さい鍋なんですね。

はい。餃子鍋も特徴的で、底がかなり厚くなっています。
ステーキ屋さんやお好み焼き屋さんが分厚い鉄板でおいしく調理しているのと同じで、ふつうの鉄板より6mmくらい厚くしています。

調理道具にもこだわりがあるんですね。焼き方は何か工夫されていますか?

少し特殊な方法で焼いています。油の中に小籠包を並べたあと、少しだけ水を入れてすぐ蓋をするんです。
こうすると下がカリッ、上がモチッとした独特な食感が生まれるんです。

胡麻とねぎを乗せて完成!アツアツでおいしそうです。

 

焼小籠包だけじゃない!こだわりの2種類の餃子。

餃子はどういった理由で始めたんですか?

屋台で焼小籠包を売っていた時に「餃子はないの?」という声があって。
たしかに、焼小籠包はメインが肉なのに対して、餃子なら野菜がメインで栄養の面でもいいなあと思って。それで作り始めました。

メニューは大きく3種類。

『お城餃子』と『下町餃子』2種類の違いはあるんですか。

はい。これはですね、皮も餡も全然違います。

焼小籠包とお城餃子。

『お城餃子』は、皮がもちっとしていて、ほおばるだけでスープが溢れ出てくる餃子です。
ただし小籠包と違って中のスープは「野菜の絞り汁」なんです。

え~!絞り汁!?

そうなんですよ。それがスープになるんです。
もう一つの『下町餃子』は6種類の国産野菜を使っていて、少し小ぶり。にんにく入りとにんにく少なめが選べます。

下町餃子はさっぱりした味で何個でも食べられます!

今後、メニューを増やす予定はありますか?

いえ、しばらくはこの3種類でやっていこうかなと。メニューを増やすことより今あるメニューをレベルアップしていきたいなって思ってます。

レベルアップですか!

はい。日々進化する焼小籠包と餃子でありたいなと思っています。
日々少しずつ材料の配合を変えたり改良を続けて、さらなる「おいしい黄金比率」に向かっていきたい。それをたくさんの人に食べてもらいたいなと。

「レシピは日々進化しています」と書かれたお店のチラシ。

毎日ベストを尽くしているけれど、まだまだ現状に満足はしていない…ということですよね。ストイックです…!

日々の成長は、本当の「おいしさ」につながる。

ストイックに改良を重ねていくなかで、石黒さんが「これだけは譲れない!」ということはありますか?

最近強く思っていることが、心から「あ~おいしい」って思ってもらえるもののために身体が「おいしい」と感じる素材を信じて提供すること。

そういう願いをこめて「身体をつくる、美味しい点心を」っていうコンセプトで焼小籠包や餃子を作り続けています。

今後やっていきたいことや目標はありますか?

どんな料理でもできたてが最高においしいじゃないですか。
今はお持ち帰りがメインなんですけど、いつかレストランみたいに、その場でみんなに食べてもらえて食べた瞬間の笑顔が見られるお店にしていきたいですね。

現在は外のドラム缶の上でできたてをいただくことができます。

わたしたちも、もっと多くの方にジューシーな焼小籠包と餃子を味わっていただきたくなりました。今日は 焼小籠包のスープに負けないくらい熱い思いをお聞かせいただき、ありがとうございました!