祖父が始めた水なす栽培
水なすって、長なすよりもずっと大きくて丸いんですね。
他の品種とどう違うんですか?
種…?
この農場はお二人で管理されてるんですか?
昔から漬物を作られてたんですか?
そうなんですね! 詳しく聞かせてください。
素材も製法もとことんこだわった「水なす漬」
そもそもそれまで、この地域は「木なすび」っていう品種の栽培が主流だったんですけど、突然おじいちゃんが水なすを作り始めたんです。
しかも、それが高値で売れる。それでまわりのみんなに「作れ!売れるぞ!」って広め始めた。
一人で利益を独占しなかったんですね。
はい。おじいちゃんは、なんでも惜しまず教えるタイプやったんですよ。それから90年代から一気に水なすが売れるようになって。僕ら業界の中では「水なすの第一次ブーム」って言ってるんですけど。
第一次ブーム?
宅急便が流行しだしたタイミングで全国に出荷されるようになったんです。
全国へ発送できるようになったことで、可能性もぐんと広がったんですね。
そう、そこで漬物の話が出てくる。
兄貴が3代目として農園を継いだのが10年くらい前。僕も一緒に農業を始めたんだけど、せっかくのブームのなか新しいことにチャレンジしたくて「水なす漬」を作ってみたんです。
漬物、それまで作ったことは?
ないです。見よう見まねです。直売所もなかったから運動会のときに使うようなテントで売り始めて。そのときに「中出農園」って屋号を決めたんですよ。
ここで屋号ができたんですね。
うん。最初のうちは、近所の人らがおもしろがって買いに来てくれた。そのとき「おいしかったわ!」って言われたのがきっかけで一気にハマって。
とはいえ、クレームも言われるんですよ「酸っぱかった」「辛かった」とか。これはもっと真剣にやらなあかんと思った。
そこから漬物のクオリティを上げていくために、どんな努力を?
んー。おいしいもの作りたいけど、修行とかいくのは嫌やったんですよ。大阪には漬物屋さんが1,000件以上あるんですけど、有名どころのもの食べても、うちのじいちゃんが作った水なす漬が一番おいしいと思ってたし。
他のお店の漬物をおいしく感じたことはないんですか。
はい。みんなコストを下げたいから素材とか製法にコストをかけないんですよね。それはビジネスとして悪いことではないんですけど、どうしても味の質が落ちます。
素材にも製法にもコストをかけない。
そう。良い素材を使わないっていうのは、水なすってA〜D品・外品までランクがあるんですけど、だいたいの漬物屋さんはD品とか外品を使うんです。
まわりに比べると、うちの「水なす漬」は業界でも高値なんです。だけど、素材はA品とB品しか使わないし、1年熟成発酵させたぬかを使ってる。価格の分だけ手間をかけてる。
素材にも製法にもたっぷり手をかけているんですね。
どっちかだけをがんばってもダメなんでしょうね。農家は「素材がいいから、料理がおいしくなるねん」って言うし、シェフは「腕がいいから、料理がおいしくなるねん」って言います。どっちの立場でもある僕から言わせると、一流だったら、どっちも手を抜かないんですよ。
どちらにも手を抜かないから、おいしい。
そう。いい素材はあるから、とにかく製法のほうでトライ&エラーをくり返しました。始めたころは僕も栽培を手伝っていたから、朝4時に収穫へ行って暗くなるまで仕事して、終わったらご飯食べて、そのあと夜中の2時くらいまで「水なす漬」を作ってたなぁ。
百貨店とかにも卸しするようになって。そうなってくると、メーカーさんから「商品を共同開発しませんか?」って声がかかるんです。カレーとかね。
製品化! すごいですね。
でも提案されるのが、外品の水なすに添加物を入れて味をごまかしたようなものなんですよ。この提案どおり製品作ったら、お客さんは絶対気づくんです。「うわっ、中出農園変わったな」って。だから手抜きだけは絶対したらダメだって意識してますね。
手抜きですか。
ごまかした味で「おいしい」って言ってもらってもうれしくないじゃないですか。なすって子どもが嫌いな野菜ランキングに絶対入ってくるんですね。ぬか漬けも苦手っていう人が多い。僕は中出農園の味で、そのネガティブなイメージを覆す使命感があるんです。
食べてもらうための「プロモーション戦略」
とはいえ食べて「おいしい!」って言ってもらうためには、まず知ってもらわないと話にならない。だからプロモーション戦略にもこだわってます。
4,5年くらい前に、初めてテレビ取材が来たんですよ。反響がすごくて。FAXがダラダラ流れてきてやばいなって思ったのと同時に、もう大変だったんですよね。電話も追いつかないし。
これってインターネットで通販したらもっと楽に集客できるんやないかと思って。別にこれは僕の中でイノベーションが起きたわけではなくて、当たり前に「これは通販やるべきや」って思いました。
ネットショップを始めるきっかけはテレビ取材だったんですね。
はい。そのとき、とにかく自分の力で売ることに重きを置いていたので、モールでは売らないぞって決めました。絶対に独自ドメインで作るぞって。でも、自分はプログラミングもできない。そこで知り合いの制作会社に頼んで、その時にカラーミーショップを使ったんです。
作った一年目は、3月にオープンして5月までひと月5万円くらいしか売上はなかったです。水ナスのシーズン外の時期だから。たまたま、そのとき運良く「鉄腕ダッシュ」の取材が来たんですね。
あの有名番組に!
実を言うと、これも戦略でした。最初にテレビ取材がきた時、メディアに取り上げてもらう重要性をすごく感じたんです。それで何ができるかめっちゃ勉強しました。
いろいろ考えた結果、テレビのディレクターが「おもしろそうだな」と思ってくれるネタを積極的に出していこうと思った。1年目のネットショップは検索では勝たれへんとなったときに、サブキーワードでなら上位取れそうということで、まず打ち出していったのが「兄弟」と「自家農園」なんです。
「兄弟」という切り口はたしかに斬新です…!
めっちゃ嫌やったですけどね。自分の顔出すのとか。当時はまだインターネットで顔出す人なんてほとんどいなかった。それから、自分たちで生産から加工販売までやるっていう今で言う「六次産業」の姿勢。当時はそんな言葉もなかったんですけど。それを武器と感じて、できるだけ読み物なんかで伝えるようにした。
プロモーションとしては最先端をいっていますね。
こういうところをサボらずにコンテンツにしたら、誰かが必ず気づいてくれると思った。で、みごとにそれがハマりました。取材のあと『鉄腕ダッシュ』のディレクターさんに聞いてみたら、やっぱり「サイト見た。他とも迷ったけど兄弟で農家なんておもしろそうやったから」って言われたんです。
狙いが的中したんですね。
はい。毎年コンスタントに5件くらい取材依頼がくるんですけど、今年はすでに8件きてます。
おかげさまで全国から注文が入るようになって、ようやくスタートラインに立てたかんじです。
惜しまずGIVEする姿勢で、次なる高みを目指す
うれしかったエピソードなどありますか。
もう2年前かな。思い出すだけで泣きそうになるんですけど…常に二週間待ちの繁忙期に、とあるお客さんからメッセージをもらったんですよ。「母が胃の病気で、もうすぐ手術をする。しばらく食事ができなくなるから最後に何が食べたいか聞いたら、中出農園の水なす漬を食べたいと。忙しいのは承知なんですが少し早めに送っていただけたら…」って。
顔も知らない県外のお客さんなんですけど、大慌てで手紙を入れて送ったんですよ。で今年の7月くらい、久しぶりにその人から注文がきたんです。「あのときはありがとうございました。母がようやく食べれるようになりました!」ってメッセージが書かれていて…もうみんなで泣いて。
言葉に言い表せないですね…とても素敵なお客様です。
そのときあらためて通販っておもしろいなあと思った。常連さんとかになると名前も覚えてくるじゃないですか。沖縄から毎年手紙くれる人もいるんですよ。顔も見たこともないけど、日本中の人と、心と心でつながることができるって、お客さんから教えてもらったんです。
今後やっていきたいことはありますか?
ネットショップ店長さん向けのセミナーとかに、講師としてどんどん出てみたいです。自分の知識とかやってきたことをアウトプットする場が欲しくて…最終的には本を出したいんです。
どんな本ですか?
農業界の通販とかプロモーションのノウハウをまとめた本を、出してみたい。僕だったら絶対買いますもん。どちらかというと、自分が苦労して手に入れたことって、守りたがりますよね? 僕も昔はそうだったんですよ。でもふと、みんなにタダで水なす栽培のノウハウを教えていたおじいちゃんのことを思い出したんです。あの姿勢は見習わなあかんと思って。だからGIVE&TAKEじゃなくて、とにかくGIVEしてみようかなと。
とにかくGIVE…!
とことんGIVEしていく。すぐに返ってこなかったとしても、絶対に成功に繋がると信じてます。見返りは求めない。…まあ何やっても基本失敗スタートっていう気持ちで、精神的なフィジカルを強くしたうえでの話なんですけど。(笑)
知識やノウハウのアウトプットを惜しまない姿勢、とてもかっこいいです! 今日は農業とビジネスにまつわる熱い話をありがとうございました。