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自社ブランドでニットの可能性をもっと広げる。新潟のニット工場「サイフク」がECサイト運営で得た効果と学び

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
日本一のニット産地、新潟県五泉市(ごせんし)のニットメーカーが運営するECサイト。自社ブランド「mino(みの)」と「226(つつむ)」のヒットにより、好調に売上を伸ばしています。2023年の「カラーミーショップ大賞」では、丁寧なショップ作りや成長率の高さに評価が集まり、優秀賞を受賞しました。
今回は、自社ブランドやECサイトの立ち上げに携わった常務取締役・斉藤 佳奈子さんに、ブランド立ち上げの背景やEC運営のこだわりなどについて伺いました。

OEM中心のニットメーカーが自社ブランドを立ち上げた経緯

はじめに、サイフクさんについて教えてください。

私たち有限会社サイフクは、新潟県五泉市(ごせんし)に拠点を置くニットメーカーです。アパレルOEMを主軸にしながら、2つの自社ブランド「mino(みの)」と「226(つつむ)」 を展開しています。

「mino」と「226」は、どんなブランドですか?

「mino」は、雪国の防寒着「蓑(みの)」から着想を得た新潟発のポンチョブランドで、季節に合わせたニットポンチョをお届けしています。

一方の「226」は、いろいろなものをニットで「つつむ」ことをテーマにしたブランドです。頭・手足・おなかといった身体の大事な一部から、インテリアや雑貨など生活を彩るアイテムまで、楽しく工夫のきいたニットアイテムでつつみ込むことを提案しています。

OEMを事業の柱としてきた中で、なぜ自社ブランドを立ち上げたのでしょうか。

ブランドの立ち上げを決めたのは、自分たちで収益を上げる手段を確保するためです。

約15年前のリーマンショックの影響で、主なお取引先のアパレルメーカーさんやその先の百貨店の売上が落ち込み、OEMの受注が減ったことが大きなきっかけとなりました。また、閑散期と繁忙期の差が激しいことも解決すべき課題の一つでした。

ブランドの立ち上げにあたっては、中川政七商店さんにコンサルを依頼されたそうですね。

私たちは長年OEMを主軸にしてきたメーカーなので、作るのは得意でも小売の経験はありません。
中川政七商店さんにコンサルを依頼したのは、未経験のまま新事業を立ち上げても軌道に乗せるのが難しいと判断したことが大きな理由です。新たな収益源としてのビジネスを成功させるため、立ち上げから1年半ほど支援していただきました。

そこではどんなアドバイスを受けたのですか?

当初は卸が中心だったので、展示会でどうしたらバイヤーさんに仕入れてもらえるかが大きな課題でした。まずは売るためのノウハウとして、商品のカラー展開やディスプレイ方法などについてアドバイスをいただき、「大日本市」や「インテリア ライフスタイル」、「ギフト・ショー」などの展示会に出ることで経験を積んでいきました。

中川政七商店さんは、いわゆる流通の「出口」にあたる店舗を自社でたくさん運営されているので、店頭に「mino」の商品を並べてもらえたことで、一般の方やバイヤーさんから一定の認知を得られたのは大きなメリットでした。

「mino」に次いで誕生した「226」は、どのような経緯で立ち上げたのでしょうか。

「mino」で展開しているニットポンチョは、製造の難易度でいうと極めて簡単な部類に入ります。基本的にはどれもシンプルな四角形からできあがっているものなので、展示会のブースに飾っても結局は「大判の布」なわけで……興味がないバイヤーさんにはスルーされがちだったんですよね。
そこで、より目を引く商品ラインナップでニットの可能性を広げられるブランドがあったらいいなと思い、衣料品やインテリア、雑貨などを総合的に扱う「226」を立ち上げました。

なるほど。自分たちの可能性をさらに広げるために生まれたブランドだったんですね。

まるで浮いているような商品写真の秘密

「カラーミーショップ」はどういった経緯で使い始めたのでしょうか?

当初導入していた、簡易的なECサイトに不便さを感じるようになり、いろいろと相談していく中でカラーミーショップを紹介していただきました。サイト制作の深い知識がなくても一通り作れて便利ですし、画像を直感的に組み込める機能も気に入っています。

ありがとうございます。サイフクさんのECサイトは画像やデザインの高いクオリティが魅力ですが、外部の制作会社さんに依頼しているのでしょうか?

いえ、写真撮影はカメラマンさんに依頼していますが、制作は自社で手がけています。

初めてショップを見たとき、商品写真にも驚きました。着画も物撮りも、ふわっと空気を含んでいるかのような独特の軽やかさがあって。

商品撮影は、開設当時からトライアンドエラーを重ねながら一貫して力を入れているポイントです。一着だけ撮ってカラバリは加工で変えることもできますが、うちでは一着ごとに差し替えていて。「商品画像にここまでこだわってるのはサイフクさんくらいだよ」と言われることもあります。

物撮り写真は、商品の下からサーキュレーターで風を入れたり、上から吊るしてテグスで引っ張ったりといろいろ工夫しながら撮っています。実店舗や展示会ならハンガーにかけるだけでいいけど、物撮りならそれくらいはしないとなかなか画にならないんですよね。

あの商品写真にはすごい工夫が詰まっていたんですね……!
商品ページにも、顧客が知りたい情報やメリットが細かく記載されていて、「隙のなさ」を感じます。今のようなページに至ったのはなぜでしょうか。

立ち上げ当初に比べて、広告費をかけるようになったころからですね。売上を伸ばすためにも魅力あるサイトを目指し、少しずつ手直しを進めて今のような形に整えました。

私自身もネットでお買い物するとき、「こういう情報があったらいいのに」って思うことが多いんです。たとえばピアスは、ネットで写真を見るだけでは重さや厚みがよくわからないじゃないですか。いざ届いた実物はすごく重くてガッカリしたりして。

とてもわかります。

私たちのニットも、「届いてみたら意外と重かった」となってしまわないよう、商品ページに重さを記載したり厚みがわかる写真を載せたりと、気付き次第少しずつ情報を足していくことが多いです。

オーガニックコットンで仕上げた「見せるハラマキ

それから、実際にいただいたお客さまの声を反映することも大切にしています。
当社では工場見学会を開催しているのですが、お洗濯のしかたや毛玉の対処法、引っかけて穴を開けたらどうしたらいいか?といったご相談をよく受けるんです。それらはニットを買う上での心のハードルにもなりうる部分だと思うので、きちんと受け止めて商品ページづくりに活かしています。

複数シーズンの準備を同時並行で進める苦労

ECサイトは何名体制で運営していますか?

現在はメルマガ作成・画像加工などの担当者、企画担当者の2名がほぼ専任で私をサポートしてくれています。そのほか、事務・出荷・企画・編み立て(あみたて)などを担う兼任のメンバー5名を合わせて、計8名で運営しています。

商品ができあがってから商品ページが完成するまでにかかる時間はどれくらいですか?

だいたい5ヶ月程度ですね。SS(春夏商品)の場合、10月ごろに撮影してECサイトへ載せるのは2~3月ごろ。その間、カメラマンさんが撮った写真の選定・加工を行い、1月半ばくらいまでにはパンフレットを完成させます。それから商品ページづくりに取りかかり、2月末からの発売開始に備えています。

かなり時間をかけているのですね。では、ECサイト運営で特に労力が要るのはどんな業務ですか?

アパレル業界では、直近のシーズンに向けて準備をしながら、1年先の商品企画も並行して進めなければなりません。パンフレットやECサイト用に撮影した画像は膨大な量で、選定にも加工にも時間がかかります。それに加えて、現行商品の在庫を見て追加生産なども必要ですし、複数シーズンの準備が常に並行で進行するので、非常に労力を要しますね。

少人数だとなおさら大変そうですね。

特に最初のころは膨大な作業のほとんどを私1人でこなしていたので、本当に大変でした。出荷作業はもともとそういう部門があったのでよかったですが、当時は基本的に私と専務の2名体制。あとは伝票出しなどの事務や企画を手伝ってくれる兼任のスタッフがいるだけだったので。

既存顧客のロイヤリティを生み出すメルマガ施策

SNSや動画、noteなどさまざまな施策を行っている中、特に重視しているツールはありますか?

既存会員向けのメルマガには特に注力しています。
以前は週1回の配信でしたが、今は専任の担当者を置いて週2回の配信を基本としています。もちろん、新規獲得のためにLINEなども活用していますが、ブランドのファンであるリピーターの方を何より大切にしたいので、最新情報やお得な情報はメルマガでいち早くお知らせするようにしています。

メルマガで反響が大きかったのはどんな内容ですか?

昨夏から始めた福袋の反響はものすごく大きいですね。「何時から売り出します」と事前にメルマガで告知すると、発売と同時にバーッと一気に売れていきます。今年のお正月も福袋企画を実施したのですが、改めて「本当に待っていてくださったんだな」とありがたく実感しましたね。

他社との差別化をするための取り組みはありますか?

商品に添えるお手紙と一緒に、小さくカットした編み地を同梱する取り組みを長く続けています。
以前山形の農家さんからリンゴを購入した際、同じように手紙が添えられていて、このリンゴの先には確かに人がいるんだと感じられたのがすごく印象的な体験でした。私たちがお届けするニットにもそれを作る職人がいて、ニット工場があることを、小さな編み地から感じてもらえたらいいなと。

もちろんそれなりの手間はかかりますが、お客さまからの反応は上々ですし、セレクトショップではできないメーカーならではの取り組みなので、うまく差別化を図れていると思います。

理想を追求できる自社ブランドならではの利点と悩み

OEMと自社ECサイトの違いで苦労した点はありますか?

OEMはやはりアパレルメーカーが相手なので出荷単位が非常に大きいですが、ECは個人のお客さまが相手ですので、出荷単位が小さいぶん発送作業の多さに戸惑いました。個別のお問い合わせも多いので、対応にも時間がかかります。

卸とは単位が違うので、価格が変わりますし、値付けも悩ましいですよね。

市場に受け入れられる商品価格はいくらなのか、いい糸を使った価値あるニットを届けたいけれど、手頃な価格で販売するにはどうしたらいいのかとか、正解がない中で悩むことも多いですね。

商品づくりにも苦労が多そうです。

そうですね。OEMではアパレルメーカーさんと二人三脚で商品を作り上げていきますが、カラー展開や値付けなどの最終ジャッジは当然ながら先方が下します。一方、自社商品はすべて自分たちで決定しなければならないので、ブランドを立ち上げたばかりのころは判断基準がなく苦労しました。

商品一つ一つへの向き合い方についてはどうですか?

OEMでの商品づくりは依頼主がOKと言えばそこで終わりですが、自社商品には際限がなく、完成度へのこだわりが一段上がる感覚があります。自分たちで描いた仕様書どおりに仕上がってはいても、「もっと細部まで詰めよう」「ここはもっとこうしたいよね」という意見がたくさん出てくるので、納得ゆくまで理想形を追求しています。


その試行錯誤が品質の高さにつながっているんですね。ちなみに、商品開発をする上で重視されていることはありますか?

近年は「自宅で洗える」ことを重視していますね。手洗いができて、可能なら洗濯機でも洗えるニットの開発を企画段階から検討しています。それと、季節問わず通年で使える商品開発にも取り組んでいます。日本はだんだん季節が曖昧になっているので、そのほうがお客さまの利便性につながることもあると思います。

サイト上でもお手入れの方法を丁寧に記載

自社ブランドでの経験がOEM事業にも好影響を及ぼした

自社ブランド商品の開発・販売経験が、主軸事業のOEMに与えた影響はありますか?

大きな展示会に出るようになってからは、商品の見せ方により気を配るようになりました。
展示会での見せ方も回を重ねるごとに進化していますし、毎回学びがあります。アパレルメーカーのデザイナーさんにプレゼンするときや、自社で展示会を開くときにも、こうした経験の積み重ねが活かされているのを感じます。

ほかにも、いい効果はありましたか?

人材採用の面でもいい波及効果が表れていると思います。やはりOEMだけだと、なかなか何をしている会社なのか理解されにくいのですが、自社ブランドを作ったことで親近感を持たれやすくなり、ブランドを入口に応募してくれる方が増えましたね。

最後に、今後のECサイトの展望や目標について教えてください。

アパレルのOEMは業界全体が厳しい状況にありますが、これからはECサイトを通じて、minoや226の商品をさらに知っていただき、売上を拡大させていくことが一つの目標です。
そのためにもまずは社内のチームをより強化して、しっかりとした販売体制を整えていければと思っています。専門メーカーならではのニットの魅力を、もっと発信できるように頑張ります!

今日は素敵なお話をありがとうございました!