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どん底の不景気から年商を約2.5倍に! 三代目が家業を継いだ九谷焼専門店「陶らいふ」のネットショップ運営術

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
石川県能美市の九谷陶芸村に昭和51年から実店舗を構える九谷焼専門商社「北野陶寿堂」のネットショップ。伝統的な絵柄から、カジュアルなデザインの九谷焼まで、約4,500点もの商品を販売しています。

2009年、祖父の代に創業した九谷焼の専門商社を父から継いだ北野 広記さん。新卒で東京の広告代理店に就職し、当時は家業を継ぐ予定がまったくなかったそうです。
今回はそんな北野さんに、衰退しつつあった九谷焼業界で、家業の収益を軌道にのせることができたネットショップ運営やそこからの海外展開、新商品の開発とSNSでのプロモーションについて伺いました。

家業を継いで始めたネットショップ

家業を継がれたきっかけを教えてください。

前職で家業についてお客さまに話すと「九谷焼、好きなんだよ」とか「九谷焼は僕も使っていてね」と思いがけず言われることが多くて、みんなが知っている九谷焼というものに可能性を感じ始めたとき、父に誘われたというのが一つです。

代表の北野 広記さん

もう一つは、仕事が楽しいと感じるにはどれだけ自分に裁量が与えられているかが重要だと思うんです。社会人1年目で言われたことをこなす立場と、社会人3、4年目に自分で考えて働けるようになったときを比較すると、後者の方が圧倒的に楽しいんですよね。自分で事業をやればもっと裁量をもって楽しく働けるし、楽しんで働いた方がパフォーマンスを発揮できます。前職も楽しかったのですが、将来のビジョンを考え家業を継ぐことにしました。

ネットショップを始めたのはいつですか?

継いだ最初の年です。半年ぐらい会社に携わってみて、こう言ってはなんですが、全然儲からないなと思って(笑)。夢もないしこれは問題だ、いろんなことにチャレンジしていかなければだめだということで、まずはネットショップを始めました。

新しい試みとしてネットショップを選ばれたのはなぜですか?

当時、九谷焼業界はどん底の不景気で、周りの人たちも「よくこんな業界にきたね」と言うほどでした。人気も1990年を境に右肩下がりで、生産規模が落ちて廃業が相次ぎました。倒産理由で多かったのが、特定の取引先に依存していたせいで取引先の業績悪化や倒産の煽りを受けて共倒れするというケースで、まさに当社も売上の90%を卸販売が占めていて、売上比率も数社の取引先に偏っていました。このままではまずい、より多くの販売チャネルをもたないと先はないということで、卸事業だけでなく小売事業も柱にしていくためにネットショップを選びました。

そこでカラーミーショップをお選びいただいた理由は何だったんでしょうか。

コスト面です。あまり知識がなくてもネットショップを作れて、独自ドメインの契約料を合わせても5,000円未満と、まったくリスクがありませんでした。また、カラーミーショップは大手のサービスだと知っていたので、サポート面もしっかりしているという安心材料になりました。

ありがとうございます。
現在の販路は卸と実店舗、独自のネットショップとオンラインモールへの出店もされていますが、売上の割合はどのように変わりましたか?

90%が国内卸の状態から、現在は国内の卸が30%、海外への輸出が30%、オンラインで35%ぐらいです。カラーミーショップだけでも10%、他のモールなどをすべて合わせて25%です。あとは実店舗の販売が少しあります。

オンラインモールと自社サイトで何か違いはありますか?

自社サイトの方が九谷焼自体に興味をもってこられる方が多いです。検索流入が多いので、作家さんのファンの方が名前を検索してこられたりとか、「九谷焼」のワードで検索してこられる方とか。ですので、モール内でいろいろ商品を探してたどり着いた方とは客層がちょっと違いまして、自社サイトの方はよりこだわった商品や、高単価な商品が売れています。

なるほど、商品の探し方で買うものが変わるんですね。
ネットショップを始めたことで全体の売上も伸びましたか?

おかげさまで、継いでから11年以上、毎年右肩上がりに伸び続けて、年商も約2.5倍になりました。

もともと、ネットショップでは小売事業を強化するだけでなく、卸事業との相乗効果も図りたいと思っていたんです。それまでの卸事業は、新商品が出るとエクセルにまとめたり紙面のカタログにしてお客さまに見せていました。お問い合わせがきても数日間待っていただいて紙面カタログを送っていたんですけど、その代わりにネットショップがウェブカタログとして機能するんじゃないかと思いました。
取引を希望される会社さまには、まずネットショップで当社の取扱商品を見ていただくようにしました。注文も商品も写真もリアルタイムで見れますし、価格も調べられるので。その結果、卸販売の売上もかなり伸びました。
当社のネットショップの取扱商品数を見ていただければ、幅広く九谷焼を取り扱い、多種多様な商品を仕入れられることが伝わるので、卸販売の新規のお問い合わせもネットショップ経由で毎週のようにいただいています。

約7,000種類の商品管理

さまざまな販売チャネルがあるなかで、商品管理はどのようにされていますか?

本来であれば大きなシステムを入れて一元管理したいところですが、そこは課題になっています。実店舗にあるものは当然ネットショップでも販売していますので、売れたものはしっかりと報告を受けて在庫を更新する在庫管理のフローはあります。

取り扱い商品数は全体で何商品ぐらいあるんですか?

ネットショップには4,500ぐらい掲載しています。1つの商品ページで30種類くらい載っているものもあるので、種類で言うと5,000を超えます。
ネットショップに載せられていないものも含むと、6,000から7,000種類ぐらいを取り扱ってます。

その数をどうやって覚えていらっしゃるんですか?

そこは本当に大変で、入社して3年間ずっと商品の管理をしている人でも、ようやく半分ぐらい覚えているかなというレベルです。

その管理が人力となると経験がものを言う世界ですね。

そうなんです。作家さんの商品は廃盤になったり作れなくなったりで入れ替わりも激しくて、毎月のように何十減って何十増えてというのを繰り返すので、システムで管理するのも非常に難しいんです。

一つ一つの数が多いというわけではなく、ただ本当に種類が多いんですもんね。

そうです。一点物もたくさんありますので。

一つの商品が同時に別々のところで売れてしまうようなことはないんですか?

まれに起こるので、一点物が売れたら最速で更新をしています。仕事を終えて自宅にいても、すぐにスマホでサイトを立ち上げて在庫を0にしています。

コロナでも伸びたネットショップと海外需要

今年はコロナウイルスの影響についてはどうですか?

もちろん、当社も実店舗は影響が大きいです。国内の卸販売も、九谷焼は観光地に卸販売することも多いので、いまだに目も当てられない状況です。当社に関して言えば、実店舗販売と国内の卸販売の減少を補う以上にネットショップと海外への輸出が伸びました。その需要で、おかげさまであまり影響はなかったです。ネットショップは昨対で7割ほど伸びました。

すごいですね。実店舗は閉められていたんですか?

そうですね。4月、5月は閉めました。

実店舗の様子

ちなみに、実店舗に来るお客さまは1日に平均何人ぐらいですか?

土日は20名程で、平日は5人ぐらいです(笑)。あまりアクセスがよくなくて、観光客の方が来るような場所ではないので。

Google マップで拝見したのですが、九谷焼のお土産屋さんが並んでいるような場所なんですか?

そうですね。九谷陶芸村といって、九谷焼に関する店舗や関連施設が15、6店舗ずらっと並んでいる、九谷焼業界で一番大きいショッピングモールのような場所です。敷地内に九谷焼美術館や陶芸館、あとは全国から陶芸家を志望する方が来られて九谷焼を勉強する研修所などもあります。

九谷陶芸村にあるモニュメント

なるほど、そういったところなんですね。実店舗は平日5人の来店で、ネットショップの1日の購入数は何件ぐらいですか?

50件ぐらいですね。

かなりの数ですね! ネットショップを始めた当初のお父さまや周りの方の反応はいかがでしたか?

父は大賛成でした。当時はネットというものが業界で騒がれ始めて、ネットで売っていかないと将来はないと言われていたのに取り組めていなかったので。父は何かが変わるかもしれないという期待をすごくしてくれていました。

実際に売上がどんどん上がり始めて、お父さまはどんなご様子でしたか?

本当に、しきりに自慢していましたね。もう「ネットがすごいんや! ネットかすごいんや!」って。

なんともかわいらしいお話です。先陣を切ってネットショップを始めて、海外とも取引が始まって、お父さまからすると本当に自慢なことですよね。

ネットショップの導入を喜んでくれたお父さまと

SNSでのプロモーションが大ヒット! オリジナル商品「ハレクタニ」

ネットショップを立ち上げる前は、どのように取引先を新規開拓されていたんですか?

都市部で開催される生活雑貨の見本市に新商品を持って行って対面でプロモーションするというのが、何十年も業界のベースになっていた新規開拓の方法です。当社も出店してはいますが、その重要性は下がってきていると感じています。
今はインターネットでプロモーションを展開すると一番問い合わせが多いです。

インターネットでのプロモーションというお話が出ましたが、具体的にはどういったことをされているんでしょうか?

例えば、当社で2017年に「ハレクタニ」というオリジナルブランドを立ち上げたときは、インフルエンサーさんたちに商品を提供して、アンバサダーとしてInstagramで発信してもらいました。スピード感のあるプロモーションができて、国内のみならず海外の方からもお問い合わせがありました。

インフルエンサーマーケティングは広告代理店での経験があるからこそ生まれた発想なんでしょうか?

そうですね。前職の経験は本当に大きかったです。前職は求人広告で、求職者に対して会社の価値やメッセージを伝えるということをしていましたが、それは商品であっても同じで、顧客に対してその商品に込められた技術的価値や作家さんの思いを伝えるという点で共通しています。あとは、前職でもITの業界を専門に担当していたので、効率的なやり方を吸収できたのが非常に勉強になりました。

従来の九谷焼とずいぶん雰囲気が違いますが、ハレクタニを作ろうと思ったきっかけは何ですか?

九谷焼の伝統的なテイストが似合わない小売店が増えてきて、カタログを見てもらっても「九谷焼は全般的に取り扱いが難しい」と言われることが多くなったんです。そういった北欧風やカジュアルなテイストの雑貨店さんに向けた商品の必要性を感じて、立ち上げたブランドがハレクタニになります。

若い世代をターゲットにした商品なんですね。ハレクタニだけのネットショップも作られていますが、最初から陶らいふと分けることは決めていたんですか?

そうですね。ハレクタニはしっかりと世界観を作らなければいけないので、独立したブランドとして見せると決めていました。

周りにたくさん作家さんがいる環境で、問屋さんが商品を作ることって滅多にないのかなと思うのですが、どういった手順で生産していったんですか?

実は、問屋といっても商品を仕入れるだけではなくて、もう一つの仕事は商品のプロデュースなんです。作家さんには売り場の情報がなかなか入らないので売れ筋商品のトレンドを伝えたり、市場の動向から「こういうデザインを描いて欲しい」とお願いしたり。そういった商品プロデュースの経験を活かして、もともと自分たちでオリジナル商品を作るという考えはありました。

作家さんがフリーハンドで絵付けした商品というのは本当に素晴らしい物なんですが、よい商品であればあるほど、作れる数が限られているんです。作家さんもいろいろな会社と取引しているので、当社分で月に10個の製作が限界だったりして、卸先に「そんなに生産数が少ないと導入できない」と言われることがよくありました。
その点でいうと、ハレクタニは転写という技術を活用して、オリジナルの形状にグラフィックデザインをプリントした商品ですので、生産の幅が広がったぶん機会損失がなくなりました。

手描きの商品に比べてお値段的にも買いやすい価格帯になるのかなと思いますが、ハレクタニが軌道にのるまで、どのぐらいかかりましたか?

販売して半年ぐらいは半信半疑で「大丈夫かな」という不安があったんですけど、半年が過ぎて手応えを感じ始めて、1年後にはかなり大きな結果が出ました。それから3年、売上は上がり続けていて、当社にとって非常に大きなプロダクト事業になっています。

ネットショップではフードコーディネーターの方ともコラボレーションをされていますが、こういったプロモーションはハレクタニを立ち上げてすぐに始めたんですか?

ハレクタニだけではなくて、九谷焼自体の日用シーンをもっと発信しようということで、ハレクタニを商品化したタイミングで始めています。

では、ハレクタニが人気になって、従来の九谷焼にも相乗効果は生まれましたか?

そうですね。伝統的な柄からカジュアルな柄まで九谷焼の幅が広がって、どんなお客さまにも提案ができるようになりました。

そうですよね。九谷焼はちょっと敷居が高いイメージだったのが家庭に取り入れやすくなったのかなと感じます。

おっしゃる通り、敷居の高さを感じるというのが九谷焼にはあったので、ハレクタニのブランドコンセプトにも「九谷焼を身近な生活で気軽に使って欲しい」という思いがあります。今後も、九谷焼の和絵具の色絵の美しさや光沢感を生かしつつ、カジュアルで身近な商品ラインアップを増やしていくつもりです。

九谷焼の色絵の美しさ

ネットショップが繋いだ海外販路

海外への販売もされていますが、こちらのプロモーションはどのようにされたんですか?

これもネットショップがきっかけです。私がネットショップを立ち上げるまでは、海外取引なんて1社もないぐらいの状況でしたが、ネットショップを始めてから徐々に問い合わせをいただけるようになりました。ここ近年は毎月のように必ず海外の取引先が増えています。
一つのショップに九谷焼がこれだけたくさん集まっているというのは、海外の方から見ても問い合わせに繋がるきっかけになっているのかなと思っています。

現在、海外の取引先って何件ぐらいあるんですか?

一概に海外の取引先と言っても、海外と直接取引する場合だけでなくて、海外の方が商品を見て日本の貿易会社に依頼をして貿易会社さんから問い合わせをいただくこともあります。すべて含めて100件ぐらいになるかなと思います。

海外から直接お問い合わせがくる商品はどういったものが多いですか? やはりハレクタニでしょうか?

海外でもハレクタニは非常に人気ですが、日本ではぜんぜん売れないような商品も海外で人気が沸騰し、ここ最近は、海外需要だけで成り立っている商品もあります。

廃盤になったかもしれない商品の販路が広がったというのは素晴らしいですね。
ちなみに、どういった国からの問い合わせが多いですか?

圧倒的に多いのは中国、次いでアメリカです。あとは、韓国、台湾、オーストラリアとかシンガポール、ヨーロッパもありますね。

全世界に九谷焼が売られているんですね。

キャラクターコラボ商品の誕生秘話

さまざまなキャラクターとのコラボ商品も展開されていますが、始まりは何だったんでしょうか?

私の記憶では2010年のウルトラマンがコラボ商品の先駆けです。組合としての事業で私が担当しました。なぜウルトラマンなのかというと、ウルトラマンシリーズの脚本の一部を手がけた佐々木守さんが九谷焼の産地である能美市出身だからなんです。能美市は全国で唯一のウルトラマンのテーマパーク「ウルトラマンスタジアム」があるほどウルトラマンの観光事業に力を入れていて、市からの要望でウルトラマンと九谷焼をコラボさせたマグカップや豆皿を作りました。それが大ヒットしたのをきっかけとして、キャラクタービジネスを手がけるいろいろな会社さんからお声がけもいただけるようになったんです。
それまでは、九谷焼とキャラクターのコラボ商品というのは、ほとんどありませんでした。他の伝統工芸品ではたくさんあったんですけど、九谷焼は何かそういったものは作っちゃだめというようなイメージをもたれていて。でも、反響が大きかったことで九谷焼の伝統とキャラクターのコラボのおもしろさが伝わって、今はコラボしていないキャラクターの方が少ないぐらいたくさんやっています。

確かに、九谷焼はこういったことに参入しないイメージがあったので、そこやっちゃうんだ!? という驚きと嬉しさがあります。

ここ10年ぐらい九谷焼業界がいい意味で統率がなくなってきたと感じます。キャラクターコラボだけじゃなく、個人の作家さんたちが「これも九谷焼なんだ!」と驚かれるような斬新なものを作るようになってきました。

時代が変わってきたと感じますよね。

今後の展望について

北野さまのように、家業を継いでネットショップを始めようと思っている方にアドバイスをいただけますか?

失敗しても会社が傾くようなリスクのあることではないので、とにかく始めてみることだと思います。まずは、ネットショップをしっかりと運営して、1個でもお客さまに販売したという実績を作ることが大事です。

実は、今年で112回を迎える陶器市「九谷茶碗まつり」がコロナウイルスの関係で中止になったんです。毎年、ゴールデンウィークに当社がある九谷陶芸村内で開催されて、17、8万人が集まる大きなイベントでしたが、今年は実店舗開催はやめて、12月に初めてオンラインで開催されることになりました。九谷焼業界は2/3ほどのお店がネットショップをもっていないので、今回、ネット販売に初挑戦する会社さんがたくさんあります。
私がオンラインでの茶碗まつりの担当者として全体の統括に携わり、地元の銀行さんにプラットフォームをサポートしていただいて、商品の撮影や登録も一緒にしてネットで売るということをまず経験してもらう予定です。その経験から、各社でネットショップを運営していくということに繋がればいいなと思っています。ちょっと話がそれてしまいましたが。

とんでもないです。身近なところでもそういった動きが起きているんですね。
では、今後の展望やネットショップに期待することはありますか?

情報発信の強化に取り組まなければいけないと思いまして、12月にオウンドメディア(※)を立ち上げる予定です。九谷焼業界には今までオウンドメディアがなかったので、作家さんや窯元さんの現場の情報とか九谷焼の歴史、あとは九谷焼のうんちくから都市伝説のようなものまで発信して、商品のみでなく九谷焼の背景や作り手の思いにも共感していただけるようなファン作りをしていきたいです。
(※)取材後に産地発信の九谷焼総合メディア「九谷焼MAG」がスタートしました!

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