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ネットショップは場所が変わっても継続できる。北海道洞爺で「道具」を作るデザイナーユニット『drop around』の20年と、コロナ禍での新たな試み

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
北海道の洞爺湖町を拠点に、デザイン事務所・プロダクトレーベルとして活動している『drop around』は、青山 剛士さん、吏枝さんご夫妻によるデザイナーユニット。ネットショップでは「つくる・はたらく」ための紙もの・布もののアイテムを販売しています。今回はお二人に、約20年にわたるユニットとしての活動やコロナ禍を機に立ち上げたオンラインモール『FROM TOYA』の運営について伺いました。

はじまりは、旅費を稼ぐための路上販売

お二人の出会いと、ユニットを組んで活動を始めたきっかけを教えてください。

吏枝さん:北海道出身の二人が東京に進学して、夏休みの帰省中に、たまたま地元で知り合ったんです。
いろんなところに旅がしたくて、旅費を稼ぐためにオリジナルの商品を路上販売したのが『drop around』のはじまりです。公園や閉店後の商店街で、隣には太鼓を叩く人がいたり似顔絵を描く人がいるなか、Tシャツやポストカードを売っていました。その売上で旅に出て、旅先で撮った写真や好きな文字組のような旅の断片からまた商品を作って売る、そんな暮らしをしていた時期が1年ほどありました。最初からプロになりたいとか、ブランドを作りたいというわけではなかったですね。

青山 吏枝さん

当時から『drop around』というユニット名で活躍されていたんですか?

吏枝さん:最初はブランド名もなくて、ただオリジナル商品を売っていました。周りから「何か屋号はないのか?」とよく聞かれて、辞書をパラパラとめくって見つけた言葉が「drop around」でした。「ちょっと立ち寄る」という意味で、なんとなくつけて結局そのまま20年ぐらい使っています。

「お気軽にお立ち寄りください」という感じがしてぴったりですね。
では、2011年に東京から北海道に移転されたのは、地元に帰ったということなんですね。

吏枝さん:そうですね。もともと私は、東京で4〜5年お店をやったら北海道に帰ろうと決めていました。里帰り出産のつもりで帰って、そのまま戻ったという感じです。

20年ほどご夫婦でお仕事をされていますが、上手くやるコツってありますか?

吏枝さん:それは、私たちが聞きたいぐらいです(笑)。

やはり、意見の食い違いがあったり……?

吏枝さん:そうですね。お互いの性質やできることが正反対なんですよ。家族であり仕事のパートナーでもあると、容赦がないというか。他にも社員さんがいる会社だったら聞くに堪えないと思います。「ダサい」とか「何を言っているか分からない」とか、わりと辛辣なので(笑)。

本音で言い合えるからこそ、よりよいものが生まれるということもありますよね(笑)。
できることが正反対ということですが、役割分担はどのようにされているんですか?

剛士さん:僕がデジタルで、妻がアナログ。僕の方が受注した仕事を担当して、妻はオリジナルの商品を作っています。

青山 剛士さん

吏枝さん:主人は理系の大学に通っていたこともあって、テクニカルなことには強いんですけど、文章は一切書けなくて。私は激情型で、あれこれ文章で伝えたくなるんです。でも、すごいアナログ人間で、いまだにphotoshop以外は使えません(笑)。
二人揃ってやっと一人前以下。ご夫婦で一緒にしっかりやっていらっしゃる方たちを見ると、すごいなと思うばかりですね。

ネットショップは場所が変わってもずっと継続できる

ネットショップを始めたきっかけを教えてください。

吏枝さん:東京でお店をやっていたときから、ホームページはあったんです。当時はSNSがなくて、ブログや写真を見にくる方が多かったんですけど、お店に来たくても来れない人が一定数いると感じていました。ちょうど、店舗の移転を控えていたので、どこにいてもできるネットショップを始めることにしたんです。

剛士さん:最初は自分たちで作った商品がほとんどなくて、ネットショップはあまり動かせていませんでした。オリジナルの商品を作ったときに、本腰を入れて運営を始めた記憶があります。

吏枝さん:最初は海外で買い付けた雑貨とか、インテリアグッズを販売していたんです。ただ、アンティークとか雑貨って、一回売れたらそれきりなんですよね。特定の人しか手に入れられないというのはなんだかなぁという気持ちがあって、自分たちで商品を作り始めました。

国外でも人気のオリジナル商品『fusen』

私たちは、これまでに大きな移転を3回くらいしていて、今は札幌から2時間ほど離れた洞爺湖町というところに移転したんですけど、ネットショップは場所が変わってもずっと継続できるのが利点ですね。
うちの商品はほとんどが定番商品で、流行に関係がない「道具」を販売しているので、10年以上同じ人が同じ物を買い続けてくれています。使い続けている道具が必ず買える場所としても、ネットショップはお客さまに頼りにしていただいてます。

ちなみに、そのお客さまは10年間、何を買われているのですか?

吏枝さん領収書です(笑)。ネットショップを立ち上げた2009年に、「紙の道具」というシリーズ名で、まず事務用品をリリースしたんです。一番最初にシリーズものとしてリリースした伝票類が、ありがたいことに今もずっと売れ続けています。

ロングセラーの『横長領収書01』

なぜ伝票を作ろうと思われたのでしょうか?

吏枝さん:2009年なので10何年以上前の話なんですが、当時は使いたい伝票や事務用品が本当に見当たらなくて、文房具屋さんで物が選べなくて呆然としてしまったんです。自分たちが売っているのは海外から買い付けてきたすごく気に入っている物なのに、渡す伝票がこれか……って。畳まないと財布に入らないし、貰っても特に嬉しくない領収書を使わないといけないのがストレスでした。

なるほど。

吏枝さん:海外では普通に、とってもすてきなレシートや領収書が売られているんですよね。おそらく、現地の方たちはそれをすてきだと思って使っているわけではないんですけど、異国から来た私たちにはすごくきれいなものに見えました。
日本の町工場の職人さんも素晴らしい印刷技術をもっているのに、なんでこういうところに使っていないんだろうと思って、岡山の雑貨メーカーさんに相談して一緒に伝票シリーズを作り始めたんです。

領収書がこんなに売れるなんて、買ってくれる方はお客さまがたくさんいらっしゃる、いいお店をされているんだろうなと、注文を通して感じています。

確かにそうですね!

吏枝さん:カラーミーショップには、請求書とか納品書をプリントアウトできる機能がありますよね。大量注文のときや作家さんに送るときは、そちらを使わせてもらうんですけど、その他の注文には、このデジタルのご時世ですが、手書きの伝票をつけて送っているんです。自分たちが作っている物を使うことが一番の宣伝になると思うので。実際に、伝票を買ったらそのシリーズの領収書が付いてきたのをおもしろがって、違う品番の商品を注文してくださる方もいます。

カラーミーショップはデザインカスタマイズが分かりやすい

カラーミーショップをお選びいただいた理由を教えてください。

剛士さん:ホームページをロリポップとムームードメインで作ったので、同じ会社のサービスということで選びました。
ホームページを立ち上げようと思ったときに、当時はサーバー代って結構高いイメージがあったのに、ロリポップが何百円とかで出てきて本当にびっくりしました。おかげでホームページを始められたというのはありますね。

吏枝さん:忖度じゃないですよ(笑)。

とても嬉しいです。弊社のサービスをずっとお使いいただいてるんですね。

剛士さん:自分たちのホームページ・ネットショップもですし、ウェブ制作の仕事を受注したときも、ロリポップとカラーミーショップで作ることが多いです。

吏枝さん:クライアントさんと言えば、よむよむカラーミーに出ているSAVON de SIESTA(サボンデシエスタ)さんも、長い間、うちのクライアントさんなんです。

サボンデシエスタさんのサイトもデザインされたんですか!

吏枝さん:もう納品しているので、今はシエスタさんの方で更新されていますが、リニューアルのときは全部作りました。実は、石鹸を持っている写真の手も私の手なんです(笑)。

意外なショップさん同士が繋がっていて驚きました。

吏枝さん:京都の人気店の歩粉さんとも20年近くのお付き合いで、名前を決めるとか、それこそパソコンの電源を入れるところから一緒に歩んできました。

そうだったんですね。歩粉さんは「あの人気店がカラーミーショップを!」と社内でも話題になりました。

吏枝さん:もう、売れ売れですよね! 欲しくても関係者だろうとズルができないくらい(笑)。

剛士さん:歩粉さんも最初はホームページだけ作ったんです。通販も始めはメールで受けていました。そこから実店舗をもって、お店がすごい人気になって。今回、コロナもあって、カートを導入したいということで作らせてもらいました。

吏枝さんカラーミーショップは、パソコンの電源の入れ方から教わるアナログ人間でも使いこなせます(笑)。

そこは太字にさせていただきます。
制作側としても販売者側としてもカラーミーショップをお使いいただいていますが、使い勝手はいかがですか?

剛士さんデザインのカスタマイズがとても分かりやすくて、ホームページとネットショップを分けなくていいと言いますか、ある程度一つのサイトとして作れるのはとてもありがたいです。
あとは、新しいカートになって買い物の流れがわかりやすくなったというのもあって、買う方からしても便利だろうなと思います。

複数のショップが出品している『FROM TOYA』の運営方法

吏枝さん:そういえば、コロナ禍に入って急遽『FROM TOYA』というオンラインモール的なショップを立ち上げたんです。私たちが住んでいる洞爺湖町は、観光地ではあるんですけど、本当に小さな田舎町なんですよ。お客さまが動けなくなったら、実店舗だけでやっている近隣の飲食店さんの売上はドンと落ちてしまうので、「ネットショップはうちが作るから」ということで、賛同してくれるお店に声をかけました。

FROM TOYA

それぞれでネットショップを立ち上げずに、オンラインモールにしたのはなぜですか?

吏枝さん:やっぱり、送料のことがありました。北海道内に物を送るならそれほどでもないのですが、関東以南の方たちが一店舗ずつで買うと、すごく負担がかかります。配送会社さんの負担を減らしたいということもあったので、それなら同じショップで合わせ買いができるようにして、みんなで洞爺の空気を届けられたらいいねということになりました。

複数の店舗の商品を取り扱う場合、発送はどのようにされているんでしょうか?

吏枝さん:窓口を一本化して、発送はラムヤートというパン屋さんでやってもらっています。手間賃として商品の1割を渡すという約束をして、単価的に合わないときはそのときだけのセットを作って、出品する人も負担にならないような工夫をしています。

なるほど。商品が売れたら、それぞれがパン屋さんに持って行くんですか?

剛士さん:そうですね。全部が徒歩圏内のお店なので。

カラーミーショップをオンラインモールとして使いたいというお話を伺うことがあるのですが、すべての商品を一ヵ所に置いておくのが難しかったりと、みなさん発送の部分で悩まれています。

吏枝さん:そうですよね。あとは食品もあるので、6月を過ぎたらパンと一緒にうちの服や紙ものも全部クール便で送ることになるんです。「冷えた服が届きます。それも込みで楽しんでください」とインフォメーションをしたら、みんな楽しんでくれました。「めちゃくちゃコーヒーの匂いがするパンツ、受け取りました!」とか。

モールとして運営する際の困りごとも、伝え方次第でプラスに変わるんですね(笑)。

吏枝さん:あとは、オンラインモールにしたことで「自分たちはこれしか作れないんだけど、友だちがすごくいいものを作ってるから一緒に買ってね」と言えたのもよかったです。コロナがなかったら、それぞれ問題なくやれる、本当に実力のあるお店ばかりなんですよ。日々、対面でお客さまと絆を築いてきたのに、お店を開けられないことでだんだんと疎遠になっていくのが寂しく感じていらっしゃったので、一回カムバックしてもらえる機会を作ることができて嬉しかったですね。

複数のお店が集まると、ブランディングにズレが生じることはなかったですか? その辺りはどのようにされたのでしょうか。

吏枝さん:普通に話し合いをしました。それで、一ヵ所だけに負荷がかからないようにするとか、「食品は表示ラベルが必要になるから、代わりに作るね」とか。わりと地道にそういった問題はクリアしていった感じですね。

では、商品登録や説明文の入力もそれぞれのお店でされたんですね。

吏枝さん:そうですね。参加店の全員が商品登録をできるようにして、自分が売るものに関しては自分で責任をもつようにしました。カラーミーショップは操作がシンプルなので「こうしたらいいよ」とか「とりあえず、写真は4枚まで。一番いいのをトップに上げてください」と、分かりやすい言葉で使い方を共有できました。

そのなかで、撮影がみんなと同じようにうまくできないということなら一部を代行して、手間賃はおいしいお菓子で貰ったりと、村の物々交換のような感じで成り立っています。お互いにそれがめっちゃ嬉しいという関係だけでできて、よかったです。

素敵なお話ですね。FROM TOYAはお二人が発起人ですか?

剛士さん:そうですね。自分たちが立ち上げようと思ったタイミングで、ちょうどパン屋さんともタイミングが合って、すぐにスタートを切りました。

吏枝さん:自分たちの生活は自分たちで支え合って照らさないと、だめになるんじゃないかっていう焦りみたいなものがあったんですよね。普段、何もなければ大人気のお店ばかりなのに、これでつまずいて事業がストップしたらどうしようと、少し切迫した気持ちになったんです。
カラーミーショップを使い慣れていたおかげで、ネットショップをすぐに立ち上げることができました。

人と人とが手を繋ぐ機会をもつように

ネットショップを立ち上げた後の集客については、何か工夫されましたか?

吏枝さん:地元ではすでに有名なお店ばかりなので、「ついにオンラインで買えるようになったよ!」とSNSで発信したり、友だちに声をかけたりはしましたね。

ちなみに、一番相性のいいSNSはどれですか?

吏枝さん:一番使っているのはInstagramですが、意外と購入してくださるのはFacebookが多いかもしれないです。

ありがとうございます。ネットショップを開いたけど、お客さまが来ないと悩まれている方は多いんですよね。

吏枝さん:私たちも自分たちの商品をおすすめするのは下手なんですよ(笑)。でも、作ったサイトや関わったクライアントさんのいいところは、かなり入れ込んで仕事をするので、本人たち以上に知っているという自負があります。だから、わりと全力で推します。
そうすると、あの投稿を見て買ってくれたとか、自分たちの商品と一緒に置いてある写真を見て買ってくれたとか、そういったことを言ってもらえますね。
でも、ネットショップの運営ではあるんですけど、ただ受け身で待っているだけでは限界があって。みなさんそれぞれ、イベントに出店されたり、自分たちでSNSの告知を頑張ったり、何かしら動いて人と人とが手を繋ぐ機会をもつようにしていると思います。「いい!」って思った気持ちをランダムにでも発していると、変なところで繋がったりするなっていうのはありますね。

発信を続けるということが大事なんですね。

吏枝さん:そうですね。やっぱり運営者も人間だから、どれだけルーティーンにしたって、やっぱり波はあるじゃないですか、何もしたくないとか(笑)。
でも、過去の自分に助けられることも結構あるんです。半年前の告知やお知らせから買いに来てくれたり、争奪戦で買えなかった物を覚えていて、落ち着いてから買いに来てくれたと聞くと、お知らせは頑張って一つも損はないんだなと思います。

とても参考になるお話です。逆に、普段から参考にしているショップはありますか?

吏枝さん:コンテンツが充実していて素晴らしいなと、思わず買ってしまうのは『北欧暮らしの道具店』さんです。コンテンツのボリュームや更新頻度からも運営側の熱量を感じて、本当にすごいなと思います。

私も北欧暮らしの道具店さんはよく見ているのですが、更新頻度にびっくりします。

吏枝さん:メールマガジンも全然、手を抜いてないし。淡々とやられていますが、私たちは裏側も掛け持っている職種なので、そこにどれだけのパワーが必要かがわかってなおのことすごいなと思いますね。

最後に、お二人の今後の展望について教えてください。

剛士さん:やっぱり、洞爺に実店舗をもつことですね。模索はしているんですけど、なかなか難しくて。

吏枝さん:今、山に住んでいるんです。洞爺湖のほとりなんですけど、集落のどん詰まりを少し小高い方に行ったところにぽつねんと住んでいるので、この土地や場所を活用しておもしろいことをやっていけたらいいなと思っています。

実店舗が叶ったタイミングで、ぜひ、またお話を伺わせてください!

吏枝さん:そうですね。山の中でもオンラインショップは運営できるというテーマで(笑)。

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