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ネットショップから始めて16年。札幌の石けん専門店「サボンデシエスタ」が振り返る、ブランド立ち上げとECの変化

いつも画面越しに見ているネットショップのむこうには、想いのつまった“モノ”とそれを届ける“”たちがいます。このコーナーでは、知られざる商品開発ストーリーやお店の裏側に迫る現場レポートをお届けします。
今回ご紹介するショップ
北海道札幌市にある手作り石鹸の工房。厳選された自然素材を使い、昔ながらの製法で石けんやスキンケアアイテムなどを製造、販売しています。創業と同時にネットショップを開業し、今年で17年目を迎えた同ブランド。今回は創業者の附柴 彩子さんに、16年間の歴史とECの変化を振り返っていただきました。

SNSもない時代からのネットショップ運営

まずは「サボンデシエスタ」創業のきっかけを教えてください。

私自身がもともと肌が弱く、学生時代から趣味で石けんを作っており、これをブランドとして事業化したい思いが芽生えて16年前にお店を始めました。
敏感肌の方が使いやすいような石けんを中心としたスキンケアアイテムをご提案しつつ、製品の中に地元北海道の自然素材を使うことで、北海道の魅力を伝えられればという思いで立ち上げたブランドです。

自宅でも石けんは作れるんですね。

うちの石けんはコールドプロセスという昔ながらの製法で、自宅で作ることも可能です。
ただ、製品として品質を高めるには厳密な温度管理が必要だったり、原料を入れるタイミングも大事だったりと職人技的な工程もけっこう多いんですよね。機械だけには頼れない細かなポイントもあるので、工房では人の手によるチェックを入れながら製造しています。

附柴さんは今も製造に入られているのでしょうか?

以前は作っていましたけど、近頃は製品の処方を考えたり品質チェックをする役割がメインになってます。製造スタッフたちも10年以上のベテランばかりなので、むしろ私より上手かもしれません。みんないつも「自分の子どもをお嫁に出すような気持ちで作っている」と言ってますね。

すごく愛情を持って作られているんですね…! 創業当時、ネットショップでの販売を始めたのはなぜだったのでしょうか?

当時は作るのも売るのも私一人でしたから、むしろこうして今のように実店舗を持つことは全然考えてなかったんですよね。学生時代に自分でホームページを作っていて、そこでいろんな人とやりとりを重ねるうちにオンラインの可能性を肌で感じることができていたのも大きな理由です。これからの時代はオンラインを使ったほうが、より広く発信できると思ったのがきっかけです。

実はカラーミーショップのサービス開始も同じ2005年なので、サボンデシエスタさんとは今日まで一緒に成長してこれたような……なんだか嬉しい気持ちです。

あのころは今のようにネットショップ作成サービスも多くはなかったですよね。
当時から私がやりたかったのは大手モールでの勝負ではなく、やりたいことを自由に表現できる独自のネットショップでした。カラーミーはショップデザインの自由度も高いですし、サービス内容もすごくよさそうで。私が始めた頃は登録店舗数もまだ3ケタくらいだった気がしますけど…どんどん利用者数が増えていったのがおもしろかったです、共に歩んでいるみたいで。

ありがとうございます。開設当初はSNSもなかったですが、集客面での苦労はありませんでしたか。

ちょうどブログブームが始まった時期だったんですよね。今までのホームページとは違い、タグ打ちも不要で気軽に情報発信できるようになっていったので、むしろすごく楽しかったです。ネットショップをやってる人が多くなかったので、見つけてもらいやすい時期だったと思います。

ネットショップが軌道に乗ったと感じたのはいつ頃からでしたか。

1年くらい経ってからですね。新聞やテレビで紹介していただいたことでシエスタを知ってくださる方が増えてきて。その方たちがネットショップを見に来てくださったように思います。

最初の頃は「47都道府県すべてにお客さまを作りたい!」と思って、新しい県の方から注文があるたびに都道府県リストを塗りつぶしてたんですよ。最後の県のお客さまから注文をいただいたときはすごく嬉しかったです。「全都道府県コンプリートしました!」ってお礼のメールを送ったのを覚えてます。

全国にお客さまができるのは嬉しいですね! 16年間のネットショップ運営で特に大きかった変化は何でしょうか。

開店後の数年間はPCからのご注文が多かったのですが、スマホが普及してからはスマホからのご注文が圧倒的に増えてきました。

スマホの普及はEC業界を大きく変えましたよね。今日に至るまでに、ネットショップで取り組み続けていることはありますか。

日々コツコツと情報発信を続けることですね。たとえば季節のお肌や気持ちに寄り添いながら、商品をブログで丁寧に紹介したりとか……とにかくコツコツっていう感じです。

パッケージまで徹底してこだわる「季節の限定商品」

たくさんの商品を展開している中、附柴さんが特に思い入れのある商品はどれですか。

どれか1つのアイテムというより、毎月出している季節の限定商品にすごく思い入れがあります。

月替りの商品は、開発にどれくらいの時間を要するのでしょうか?

石けんはできあがるのに30~40日ほどかかるので、試作を何度か繰り返したり社内で検討を重ねたりしながらじっくりといいものを作るには、だいたい1年くらい必要になります。
たとえば、北海道は少しずつ秋が深まってきて、この時期は少しメンタルが弱まったりするんです。そんなときに気持ちの支えになる香りはどんなものかとか、パッケージはどんな色味がいいだろうとか、1年後の季節や空気感を思い浮かべながら作っています。

パッケージ、どれも上品でおしゃれですよね。

毎回デザイナーさんに入っていただきながら、すごくこだわって作っています。
ある日、ネットショップのお客さまからとってもかわいいお礼のハガキが届いたんですけど、よく見ると限定石けんのパッケージを丁寧にコラージュしてくださってたんです。

それは嬉しいですね!

ネットショップって、実店舗のように直接のやりとりがないように思えても、こうして目に見える形でお手紙をくださる方もいるんですよね。パッケージを捨てずに取っておいて、最終的にハガキにして見せてくれたんだと思うと、なおさら嬉しかったです。

なりたかったのは石けん屋ではなく、楽しい暮らしを届ける仕事

もともと附柴さんは製薬会社に勤めていたそうですが、趣味の石けん作りのブランド化・起業を決意されたのはなぜですか?

学生時代、自宅で石けんを作りながら「こんなにいいものがあるんだから、いろんな人に届けたい」と思ったのが起業の最初の一歩でした。自分で会社をおこしたい!というよりは、作ったものを広く届ける手段を考えたかったんですよね。

起業にあたってはどのような準備を?

石けんをはじめとした化粧品の製造・販売には「薬機法(※)」という法律が関わってくるのですが、当時はどうすればいいのか全然わからなくて。なので大学院を出たら化粧品メーカーか製薬会社に就職したいと思ったんですよね。
その後、製薬会社でいろんな法律の勉強をしていくうちに、起業にあたりクリアすべきポイントが見えてきました。結婚をきっかけに会社をやめた頃には主人が起業していたので、私も会社を作ってみようかな? とりあえずやってみよう!という感じで始めました。

※「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」。

「とりあえず」で始めた事業を成長させ、ここまで続けられた要因や秘訣は何でしょうか。

続けられる理由か……。ずっと一人で続けていたら途中で疲れちゃってたかもしれませんね。お客さまがいて、一緒にお仕事をしているスタッフがいて、皆さんに支えられてこそ今まで続けてこれたのかなと。

それから、やりたいことを言葉にするのはすごく大事にしています。
ただやりたいなぁと思っているだけでは人にはあまり伝わらなくて。学生時代も就職後も「石けん屋さんになりたい」と口に出してはきたけれど、周りの人の反応は「どうしちゃったの?」って感じだった(笑)。でも言い続けてるうちに応援してくれる人が増えてきて、自分の考えもだんだん整理されていきました。結果として私がなりたかったのは石けん屋じゃなくて、誰かの暮らしが楽しくなる時間を届ける仕事だったんですけど……そんなふうに、やりたいことを言語化し続けてこれたことは一つの秘訣だと思います。

言葉にするって大事ですよね。

笑われちゃうかな?って思うことでも案外みんな聞いてくれたりするんですよね。
昔やっていたホームページは写真日記のようなものだったんですが、そこで「起業しようと思う」とか、やりたいことや思ったことを書いていたら、BBS(掲示板)にコメントを入れてくれる方が増えてきて。ネットショップを始めたときも最初に注文してくださったのはその方たちなんです。それがなかったら最初の集客にはすごく苦労していたかもしれません。

当時のホームページはご自身でHTMLを書いて作っていたんですか?

書いてました。全然知識もなかったけど一生懸命タグを組んで、配置がズレちゃって「あれ?」みたいな(笑)。そういう経験があるので、私たぶんインターネットが楽しいんでしょうね。ネットでのコミュニケーションは昔からやってきていたから、ここまで長く続けてこれたんだと思います。

「やりたいことをやっていいんだ」と伝えられるブランドへ

現在では石けんやスキンケアアイテムのほか、アパレルや雑貨も取り扱っていますね。

そうなんです。石けんを使って肌がきれいになると生活がすごく楽しいじゃないですか。私自身もそうですが、ちょっとおしゃれも楽しみたくなってくる。そんなとき、私たちがいいなと思うものづくりをされている方々をご紹介したい気持ちがあったんですよね。今は1カ月に1回、作家さんやブランドを決めて、そのブランドの背景やコンセプトをしっかり伝えてお客さまにご提案する取り組みをしています。

お洋服や靴のときもありますし、他にもうつわや食品のイベントもやったり……石けんがきっかけではありますが、それを中心に暮らしが楽しくなるようなご提案をできたらと思っています。

サボンデシエスタというブランドを今後どのようにしていきたいですか。

目標は2つあって、1つは今使ってくださってる方たちの暮らしがより楽しくなるものづくりを今後も続けていくこと。もう1つは、次の世代に何ができるかを考えることですね。たとえば、私が見てきたインターネットの歴史を振り返るだけでも、ここ十数年でかなり変化してきたじゃないですか。これからの時代、暮らしかたも物の考えかたもまた大きく変わっていくはずなんですよね。そんなときに自分で考える力を身につけるお手伝いができればと思ってるんです。

ふむふむ。

私自身もやりたいことが見つからなくて、大学院を休学してカフェやギャラリーでアルバイトした経験があって。そこでものづくりをする方たちとのたくさんの出会いがあり、世の中にはいろんな仕事のやり方があるんだと知れました。そんなふうに「やりたいことをやっていいんだよ」と言ってあげられるブランドになりたいなと。たとえば子どもたちが石けん作りの工程を見学に来たり、将来的には畑とかもやりたいねって話もしてるのですが、何か“ものづくり”と“学び”が一緒になった場を作れたらと考えています。またそれをインターネットで発信していけたら、きっとおもしろいことになるんじゃないかなって。

すごく楽しみです……! では最後に、次の世代の子どもたちを含め、これから何かにチャレンジしようとしている人にアドバイスをお願いします。

やりたいことがあったら、口に出してどんどんチャレンジするのがいいと思います。結局「失敗」なんてないんですよね。「この方法だとうまくいかないから、別の方法を考えよう」って切り替えればいいだけだと思うので、どんどんチャレンジをしてみてほしいです。今はネットショップにも挑戦しやすい時代ですからね。

今日はすてきなお話をありがとうございました!